電子書籍
ぜひ紙で味わっていただきたい
2022/06/16 13:14
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投稿者:きが - この投稿者のレビュー一覧を見る
すべての話が著者の実体験をもとにされながらも、物語ごとに細部に差異があり(離婚した両親のどちらと暮らすか、兄弟の有無など)、まるでそれぞれ少しずつ異なる平行世界の出来事を切り取って語られているかのようでした。
共通してそこにあるのは、亡き母への妄念。
激しさこそないものの、まるで深い穴のうつろを覗き込んだような遣る瀬無さを覚えました。
しかしその読後感がなんとも言えず心地よくもありました。
電子書籍で購入しましたが、後日書店で紙の製品を目の当たりにし、装丁の美しさにため息が出てしまいました。
とても素敵な本。紙で買えばよかったです。
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コロナ禍でなかなか実家にかえれていない昨今。
著者遠藤周作氏の母であろう、この本にかかれている
母のような苛烈な強い母ではありませんが
もう80代のだいぶ年老いた母のことを
おもいながら読みました。
少年時代の時代背景もまったくことなりますが
なんとなく、似た風景的な感じがしました。
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母についての短編集.7編.
ただ普通に生きることのできなかった母への憧れと恐れが子供の頃から呪いのように支配して,読みながら何とも言えない気持ちになった.
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新しく発見された「影に対して」を中心に、それまでの母をめぐる作品を時系列的にまとめた短編集。
作者の私小説とも言えるこれらの作品には、「平凡が一番幸せだ」といい、安全なアスファルト道を選ぶような人生を送った父への激しい嫌悪、手綱を緩めることを知らない烈しい生き様の母への捨てきれない愛着、そんな母を見捨ててしまった弱い己への嫌悪と後悔が連綿と綴られている。
父を断罪する言葉の厳しさに対して、母を描くときのどうしようもない甘さには辟易だし、一番ダメなやつだった子供の頃の己を描く言い訳がましさにはウンザリ。
両親の不和、エキセントリックな母の行動など特別な幼少期が彼をそうさせたのかもしれないけど、マザコン男の言い訳を書き連ねたような作品は決して良い後味を残さず、それでも書かないではいられない作家というものは本当に因果な商売だなとしみじみ思った。
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1冊の本にできなかった自分のことほぼ母のことですが、それを集めて何とかラストまで持っていった感じです。作者本人に推敲してもらって、一つの小説にして欲しかった。
そう思った人が沢山いたからコレが読めたんだけどね。
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遠藤周作ファンなら是非読んでほしい。昨年発見された未発表作自体は、それ単体で文学作品として素晴らしいとは言えない。ただ編集が素晴らしい。
その他の母を巡る小説を丁寧に探して丁寧に並べた結果、最初から読むと遠藤周作の心の動きや小説が出来上がってくるのが手に取るように感じられる。
そして遠藤周作は意志の弱い人を描かせると本当に秀逸だと思う。
そういう意味でとても面白い本だった。
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2020年に発見された未発表作品「影に対して」と、既発表作品数点をまとめた一冊。
スコセッシ版「沈黙」を見て感銘を受けた人は、収録作品「母なるもの」に実際に遠藤周作が取材に行った所の話が取り上げられているので読まれた方が良いかと思います。
自分と母に対しての一つの関係性から、作品に昇華するまでの構成の工夫が伺える内容だと思いました。
自分自身が年齢を重ね、例えば親のどちらか(あるいは両方)が亡くなり、これまでとは違った視点と感情で先代について考える人生のタイミングにおいて、ああ自分だけじゃなかったんだ、あるいは、こういうケースもあるものだ、と思える内容で、手に取ることができて本当に良かったと思います。
新潮社さん、長崎市遠藤周作文学館のみなさまありがとうございました。
あとまあだいぶウェットだなと思いますね。男の人だからかな。
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遠藤周作先生の誕生日を目前に読了。
そうですか、「影に対して」が発見された原稿だったんですね。ニュースで未発表原稿が見つかったと見たときから楽しみにしてましたが、これを手に取ったときには忘れていました。
エッセイと呼んだ方が良い作品もありましたが屈託に溢れた一冊です。遠藤作品から母は切り離せない命題なんですね。若かりし頃随分読みましたが、今読むと作品の舞台となっている時代の重さと遠さにちょっととりとめない気持ちにさせられました。
書かれているように、お母さんとお兄さんの眠るその暗い穴で先生ご自身も今は安らかであることをただ祈ります。
編集部の付記が親切でした。
表紙裏の、遠藤先生の推敲の跡だらけの筆跡を装丁に加えたことも秀逸。ファンとしては新潮社さん本当にありがとうの気持ちです。
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全編、不穏な空気感の漂う小説。とういかこれは狐狸庵先生の自伝的小説なのね、
中国の大連で育ち、お父さんが東大卒の銀行マンで母親がヴァイオリン奏者、後に離婚して(母親の姉、著者にとっては叔母が入信してたとこに離婚後、同居)カトリックに入信。
で、結果、12歳の時に著者も入信したとのことだから、その作風に多大な影響を与えたことになるのね。
そこで出会ったドイツ人の宣教師(実在するペトロ・ヘルツォークがモデル)との確執(結婚が禁止されてるカトリックにおいて秘書の日本人女性との結婚)も描かれている。
母親の急死、土葬から火葬への転化(カトリックは復活の考えから土葬だったらしい)
私的には偏狭的で個性の’強いこの母親よりは、平凡が一番と考える父親に共感するんだけど、著者はどこまでも母に寄り添おうとする。
あと犬ね。犬(元は野良で雑種)が各章に登場。
どの犬もいたいけで可愛いくて泣ける。きっと狐狸庵先生は犬派だったんだろうなぁ。
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昨年発見された表題作と短編が6つ.大連ではバイオリンの練習にのめり込み、神戸ではカトリックの信仰に没頭する母の思い出が、表題作で述べられて、それをベースに他の短編が続くという巧みな構成に感心した.久しぶりに著者の文章を読んだが、緻密に展開するストーリーが必要最低限の言葉で綴られている感じがした."かくれ"に迫る「母なるもの」が、彼らの生活の一部に入り込んで、それらを正確に描写しているのが良かった.
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遠藤周作の未発表作を含む短編集。
2020.10.09放映のNHK教育番組から。亡き母への思慕と父との憎悪、葛藤、そして赦し。なぜ、キリスト教に傾倒したかわかる気がする。
表題作が未発表でかなり初期のためか表現が素朴だが、それだけに子ども期の感情のささくれがよく染みる。
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一番好きな作家は誰かと考えると、遠藤周作かもしれない。なんで好きなんだろう、なんで私にとって外れがないんだろうと思ってたその理由がわかった気がする。
遠藤周作は、偉大な作家ではあるけれど、偉大な人物ではなかった。少なくとも自分自身の持つ弱さや卑怯な部分を、嫌というほど理解している人だった。迷いや葛藤を繰り返して生きた人だった。そういう人だからこそ惹かれるのだなと。
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未発表の作品を掲載した短編集。
母について書かれている。爪痕を残していく母と平凡な生活を好む父。大連でヴァイオリンにのめり込んでいたが、日本に戻るとキリスト教にのめり込んで行く。話が時期が違うが話がリンクしていて面白い。読んでいくたびにのめり込んでしまった。
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遠藤周作氏の、未発表の原稿が発見された。
その遺稿『影に対して』を中心に、「母」をめぐって書かれた著者の作品から編集部がセレクトして一冊の本にした。
NHKの特番を観て、この作品を知った。
学芸員の方が見つけた未発表の原稿は、(1963年3月以降)秘書によって清書もされ、発表できる状態だったらしい。
なぜ、発表されなかったのか。
①まだ、母に対する自分の理解が不完全だと思ったためか
②(遠藤氏の母寄りな立ち位置ゆえに)父が悪者になってしまうような記述に、申し訳無さを感じたか
遠藤氏の心の中には、母親に対する大きすぎる思いがあったことがうかがえる。
小説として書くには、客観視ができていない、という悩み。
取材した親戚や知人が、総じて母の激しすぎる性格に(今の言葉で言えば)引いていた事への、自分の認識とのギャップ感。
また、母親の死に目に立ち会えなかった事への罪悪感は消える事はなかった。
母は、生活よりもバイオリンにのめり込んでいた。
それをやめなくてはならなかった後は信仰にのめり込んだ。
のめり込むと、徹底的に自分を追い込んだ。
息子はある意味、道連れであり、犠牲でもあった。
もちろん、息子は母から大きな影響を受けた。
氏のいくつかの作品の中に繰り返し出て来るのは、「人の心の中には、他者に決して知り得ない部分がある」という考え方。
また、「人は弱いものである」という見方も常に、作品の根底を流れていると思われる。
「弱き者への赦しの視線」などと言えば少し上から目線に感じられるが、氏の場合はそうではなく、少し後ろの肩越しから「実は私も・・・」と語りかけるような連帯感がある。
『影に対して』
主人公・勝呂有造(すぐろ ゆうぞう)
大人になっても父に嫌悪感。
烈しい母の生き方こそ崇高であり、「平凡こそ幸せ」と母への当てつけのように言い続ける父を俗物、と軽蔑してきたが、あなたはその父親ほどにも至らない人物だと妻に罵倒される。
『雑種の犬』
勝呂は、牛乳屋から雑種の仔犬をもらってきた
『6日間の旅行』
妻を連れて。
母のことを小説に書きたい、と叔父を訪ねて話を聞く。
両親の離婚後、母と暮らした場所に妻を案内して。
『影法師』
昔関わりのあった、外国人の元・司祭を見かける。
彼にまつわる思い出。それは母と関わりがある。
『母なるもの』
かくれ切支丹の取材に行く。
表向きは仏教徒を装い、踏み絵もふむ。
そして、赦しを乞うのである。
父なる神は厳しいから、母なるマリアに。
『初恋』
大連で過ごした頃の、昭和の子どもじみた恋。
『還りなん』
人に用意された「死に場所」
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ヴァイオリンにストイックにのめり込んで練習ばかり続けていた母。幼い頃からべったりとした親子関係であったわけでもないのに、母の死後もその関係が断ち切れない。そして信仰へ導かれた経緯。
遠藤周作氏が好きでもっと理解したい人向け。