紙の本
中央アジアファンタジー
2022/02/15 11:43
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者はSFものファンタジーものを得意とするようであるが、ファンタジー物の範疇に入る作品である。女の子たちが大活躍するという、やや荒唐無稽なストーリー展開であるが、読んでみるとあまり無理な展開はなく文章もこなれているせいでどんどん読みすすめることができた。とは言うものの私はこの作者のややシリアスめの作品のほうが好みである。
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深刻さと軽さ、爽快さのバランスが絶妙。面白かったです。
アラルスタンという中央アジアの架空の国で、高等教育機関「後宮」で学んでた女の子たちが、大統領が暗殺されて議員たちが国外逃亡してしまったために「しょうがないから、国家をやることにしようかなと」と国政を執り行う。
アラルスタンが割と緊張感ある情勢で、周辺国からは侵攻されてるしAIMというイスラム系の反政府組織はあるし、政治系の教育受けてきたとはいえ20代くらいの女の子たちに出来るのかと思ったけど、なかなかどうして惹き込まれました。大の大人の軍部男性が割とすぐ従うのはご愛嬌で。
命がけの場面もたくさんあってヒヤヒヤしました。でも女子高ノリでひたすら爽やか。文化祭()もそれはそれで……。
よく考えると、アラルスタンは旧ソビエトでウズベキスタン領だった自治区なのですが、油田出たから独立する!となったら欧米の協力を得たウズベキスタンが侵攻してくるの、、今の世界情勢に似たとこあると思いつつ東西逆ですよね。
アラルスタン平定したら議員たちが戻ってきて、大統領代行のアイシャの弾劾を始めるの胸糞。まさかのウズマが…となったのは胸熱でした。
ナツキとナジャフは少女漫画的でした…良きです…。。
嫌いになれないイーゴリ。皆さん、ソビエトの被害者というのもそれはそうです。映像化しても映えそうな物語でした。
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『マジすごい、宮内悠介』
解説と本の帯に書かれている辻村深月さんの言葉に、ただただ全同意。数年前『盤上の夜』や『ヨハネスブルグの天使たち』という、同著者の作品を読んだとき「新しい文学が、宮内さんの手から生まれるのではないか」みたいなことを書いたのだけど、その予感はやっぱり間違っていなかった。
中央アジアにある小国家アラルスタン。そこで起こった紛争で、両親を失った日本人の少女ナツキはその後、後宮(ハレム)と呼ばれる国の教育機関に引き取られる。
同じハレムに所属するアイシャやジャミラたちと共に、成長していったナツキだが、国の大統領が暗殺され、議員たちも逃亡。反政府組織や、周りの大国がアラルスタンを取り込もうとする中、ナツキは国を守るためアイシャが立ち上げた臨時政府に参加することになる。
これ以上ないフィクションであり、そしてエンターテインメント!
うら若い女の子たちが、軍事に国際関係に知略を巡らしつつもがむしゃらに、そしてひたむきに挑む。荒唐無稽であるとか、リアリティであるとか、そういうツッコミはもはや些細な問題にすぎないどころか、野暮ですらある。
物語の勢いとか、登場人物たちの魅力であるとか、そういったものが、話を先へ先へ引っ張る。
ただ、一見荒唐無稽な話に見えるものの、物語の詳細を詰めていくとなかなかにきっちり詰められていることが分かります。アラルスタンの歴史。民族問題や、反政府組織などの政治や思想の問題。そして隣国ウズベキスタンやカザフスタンが、資源を狙い、混乱状態にあるアラルスタンを飲み込もうとする。
そうした国際関係の描き方はもちろん、国防軍と、反政府組織の対決では、Wifiやドローンなども駆使した、近代的な戦闘も描かれる。
またハラルの女性たちはいずれも紛争や、大国の思惑で故郷や故国、両親を失っています。そうした彼女たちの複雑な生い立ちからの心理もまた読ませる。
一見荒唐無稽な話でも、そうした設定の詰め方は本当に丁寧で隙がない。物語の芯の部分、骨組みは相当にしっかりしています。だから荒唐無稽な話に違いないのに、無理は感じさせない。
国際関係や政治の複雑な部分を描きつつも、物語自体は青春小説の味わいもあります。ナツキたち若い女の子が国を成り立たせるため、一生懸命に行動し全力でぶつかる。時には切ない別れや裏切りも描かれる。また一方では、彼女たちの一体感であったり、成長や友情であったりも描かれて、それも素晴らしかった。
ナツキを中心とした物語の語り口は軽やかで、時にユーモアの部分も取り入れながら進められていく。物語の設定の硬さとそうした柔らかさの硬軟も、絶妙の一言に尽きます。
クライマックスでのテロ実行犯との対決、暗殺者が大統領に就任したアイシャを狙う劇場での大立ち回り。緊迫の場面が続く中で、時にコメディやコントのような、ズッコケそうな場面、すれ違いが生まれる。
下手すれば場面が一気に白けそうなのに、それをテンポと語り口で、最良の喜劇のように仕上げるその手腕。緊張と緩和が交互にやってきて、ページを読む手が止まらなくなる。
中心人物となるナツキやアイシャ以外のわき役もいい味を出していた。ナツキたちを敵視するハレムの最ベテラン女官のウズマを始め、反政府組織の中心人物であるナジャフや、軍部のアフマドフ大佐。そして謎の吟遊詩人で武器商人のイーゴリ。
いずれも一癖、二癖あって、徐々に第一印象とはまた違った、彼らの側面が見えてくる。
後は作品の幕間に挟まれるブロガーの、ブログも魅力的。ママチャリで世界一周を掲げアラルスタンにやってきたものの、大統領の暗殺騒動に巻き込まれ身動きができない状況に……。
このブログの文章が各章ごとの幕間に挟まれるのだけど、この文章もなかなかに壮絶で面白い。超ハード版「世界の果てまでイッテQ」。あるいは「電波少年」の今では放送できないような海外ロケを、より濃縮したような感じ。
これだけで一冊の小説になりそうだし、このブログが、アラルスタンの違った側面を端的に読者に伝えてくる。
アラルスタンというのは架空国家なのだけど、歴史や地政学的な面はもちろん、文化や服飾、食事から神話まで詳細に描かれています。著者の宮内さんは海外を旅されていたそうだけど、そうした素地が物語の中に遺憾なく発揮されているように思います。
国際謀略小説や、軍事小説、政治小説、そんなシリアスで硬い面を持ちつつも、一方で青春小説の爽やかさや、ドタバタコメディのようなユーモアと軽さも併せ持つ。
ワールドワイドな視点と物語背景、大国に運命を狂わされる小国と人間の哀しさ。そのすべてをナツキの言動を始めとした語り口の軽やかさと、時にはさまれる可笑しさ、そして物語の持つ爽快感で吹き飛ばし、大団円を迎える。
今の世界に対しての祈り。それをフィクションだからできること。エンターテインメントだからできることを詰め込んで、そして体現したのがこの『あとは野となれ大和撫子』という小説だったのだと思います。
宮内さんの作品は、ブクログから離れていた時期も読んではいたのですが、そのたびに既存の小説とは違う何かを感じました。そしてそれは、この『あとは野となれ大和撫子』でもしかり。
さらにすごいと感じたのは、『盤上の夜』『ヨハネスブルグの天使たち』は、抽象的な概念を含む、シリアスなSFだったのに対し、この『あとは野となれ大和撫子』は、先に書いたように軽さも併せ持ったエンターテインメントに仕上げられていること。宮内さんの底は、まだ見えてきそうにありません。
一作ごとに作風を変え手法を変え、小説の新しい世界を宮内悠介さんは、間違いなく開き続けています。
第49回星雲賞(日本長編部門)
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タイトルがめちゃ好き。
単行本持ってたけど、辻村深月解説につられて文庫のほうも買ってみた。
久しぶりに読んだけど、やっぱり面白かったぁ
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ありそうでなさそうな、なさそうででもこういう事も起こりそうなお話。とはいえ10代、20代の女の子に大の男(しかも軍人)がホイホイ従ってくれるかなぁ?という辺りでは大分ファンタジーですが…
現職大統領が暗殺され、権力者が逃げ出した後でその場に残った女性陣が踏ん張る、というとても現実になったらいいなぁというお話です。まぁ女性じゃなくても本気でその国の未来を憂いている人なら男性でも良いんですけどね。
面白かったんですが、個人的に主人公の一人に日本人を入れなくても良かったんじゃ…と思ったり。5歳にして両親を亡くしても取り乱さないとか、ちょっと変だし。その割に学生になったら普通の子みたいになっていて違和感を覚えました。どういう設定なんだろうか?
とはいえ日本人が居ないとファンタジー世界みたいになっちゃうかのかなぁ。大分ファンタジーではあるのだけれども。面白おかしいエンタメ作品のような、キナ臭い今の世界に起こっても不思議ではないような、その辺りの調整が上手だなぁと思いながら読み終えました。
ママチャリ君は最後までモブで終わったのでちょっとほっとしました。彼が政権の中枢なんかに入ってきたらそっと本を閉じるところでした。
それにしてもバイクの彼が運命の人だったのは設定盛り過ぎてる気もしないでもないですが…
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――
この国の名は、アラルスタン。かつて、アラル海とよばれた場所だ。
移住してきた多民族による新興国。油田とイスラム系反政府組織を内部に抱え、隣接する国々とその向こうの大国とが利権を争う小国。
独立記念日に大統領が演説中に暗殺され、議会がまるごと逃げ出した爆発物みたいなその国で、大統領直下の特殊教育機関“後宮《ハレム》”に属する少女たちは、自分たちの場所を守るために国家の運営に乗り出す。
……なにこのあらすじ(笑
この物語はフィクションです、って何処へ向けてるか解らない注意書きとはまるで違う、これぞフィクションだ! と胸を張っているかのような強度と速度。
立ち向かうものは大き過ぎて、根深過ぎて、
それでいて、いやそれだからこそ?
少女たちの物語は、軽やかに進む。
読み終わって、この物語が内包する(というか、この物語が成立するための要素であるところの)中央アジア情勢、議会政治の堕落、国家・民族間の確執、大人と子供…などなど、そのどれに方が付くわけでもないし、何か大いなる教訓が得られるわけでもない。
それでも、前を向いて考えて歩いてりゃ、悪いことばっかりじゃねぇし、悪い奴ばかりでもないんだよなぁ、という、
本当に恥ずかしいんだけど、そんな感想がいちばん大きい。
あるいは民族的、宗教的問題の中で、ナツキという日本人はある種浮いた存在に見えかねないのだけれど、
個人的にはそれもプラスの要素に感じられました。
ナツキみたいな日本人こそが、本当に旅人になれるのかもしれない。
ちょっと言い過ぎか? まぁ影響力無いからいいだろ←
そもそもナツキも日本育ちってわけじゃないしね…なんていうか、ニュートラルな存在?
国籍や民族で性格が定まるとは思わないけれど、
民族的な遺恨や禍根、してきたこと、されたこと。
そこから離れて、それを深く理解しながら、けれど問題は個人のものとして捉えられるニュートラルさ、というか。
そこにいる、ということを受け容れて、そこにあるものを繋いでいける強さ、というか。
何かが欠けている、から、そこを埋めることができるんじゃないか。
そんな、希望というにはあまりにも手前勝手な、
でも輝いて見える、何かが、あります。
あらゆるひとに、読んでほしい一冊。☆4.6
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中央アジア、干上がったアラル海に位置する小国、アラルスタンで繰り広げられた壮大な宝塚歌劇、みたいな・・・。
歴史と現状を踏まえた丁寧な舞台の設定と過酷な環境を経て各地より集まってきた少女達が葛藤しながら自らの信じるもののために向かっていく成長のドラマを、悪役が登場せず、かつ誰も死なない、安心安全なエンターテイメントに仕上げています。
ダムの決闘や劇中劇の学芸会には流石にちょっと萎えたけど、狙撃に動ぜずカリルを庇ってすっくと立つアイシャに思わずカッコいい!と萌えたのも事実です。
かなり好き。面白かった。
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沙漠の小国家、アラルスタンで大統領が暗殺された。国の中枢にいる男たちが危険を感じて国外へ逃亡する中、国家の危機に立ち上がったのは教育機関"後宮"の少女たちだった。
様々な民族が集まり、複雑なバランスで成り立っている国家の危機を少女たちが救う。なんと面白そうなストーリー…!
周辺国の圧力やテロリスト、血腥い想像をしながら読むが、あくまで筆致は軽い。その軽さが物足りなく思えて初めなかなか乗れなかったが、おかげで辛くならずに安心して読み終えることができた。
少女たちはもとから優秀であったが、責任を負ってまた更に成長する。試練を経て強くなる姿に胸が熱くなる、これこそ青春冒険譚の醍醐味…!
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架空の政治の話が絡む、現代アラビアンファンタジー。賢い女の子たちがワイワイ賑やかに集まるお話。ジャミラとアイシャがカッコいい。登場シーンからナジャフはイケメンオーラが漂っていた。イーゴリは最後までうるさくていまいち掴みきれなかった。
架空の国だけど、水の話や政治的な立ち位置など、リアルにかかれてて面白い。乙女の学友会と勢いで突っ走ってしまったけど、もう少し経験したたかなばあさん連中と政治のメンツを取りこんで、議会の内外で組み立てれば、骨太なファンタジーになったのにと思う。
ところどころで挟まれる、ママチャリで世界一周のお兄ちゃんのブログが好き。
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星雲賞だっけか?で読んだと記憶している。
舞台設定は確かにSFだけど、登場人物たちがみんなまっすぐで、さわやかな青春モノのよう。実際は結構えげつない状況なのにどことなく希望が見えてしまう。
読みやすいけど軽すぎず面白かったです。
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架空の国で大統領が暗殺されて、後宮(といっても妻としてではなく教育機関)にいた女性たちが逃げ出した政府上層部たちに変わって政治をする話。
架空の国ですが、世界情勢や宗教観は現実に沿っていました。(ただ、イスラム圏のいざこざの知識がなくてあんまり理解できてなかったですが)
「あとは野となれよ」と”ままよ”の精神で切り抜けていくのでわりとあっさりからっとしたトーンで進んでいきました。普通に面白く読めました。
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最初は深刻な話なのかと思ってじっくりと読んでいたら、途中で急に主人公がメイド服を着始めて拍子抜け。気持ちの落差のせいであまり楽しめなかった。最初から軽い気持ちで読んでいたらまた違った読み味だったのかも。
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この本の良さは、文庫版の辻村深月さんの解説に語り尽くされている気がする。以下、恐縮ながら抜粋:
「架空ーーではあるものの、その設定におけるリアリティの厚みにまずは驚愕する。」
「中央アジアのシビアな現実の緊張感と、彼女たちの関係性からいずる青春小説さながらの楽しさの緩急に、ページをめくる手が止まらなくなる。そして期待は裏切られない」
「この軽さが意図的でないはずがない。」
「…いつ沈むとも砂に呑まれるともわからないギリギリの場所で踏みとどまる彼女たちの歌劇と青春がこんなにも愛おしい。私はこれを、宮内悠介のフィクションの勝利だと思う。著者がフィクションの力を信じていなければ、この物語は絶対生まれなかった。」
「自分と同時代に宮内悠介のような作家がいて、私はとても幸せだ、と。」
フィクションをこよなく愛する人に、お薦めです。
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第70回アワヒニビブリオバトル「いちかばちか」で紹介された本です。チャンプ本。
2020.11.15
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中央アジアの架空の国アラルスタンで、利発な少女たちが自国の危機を救うために大奮闘する活劇。
巻末の主要参考文献からもわかるように舞台設定のリアルさと、ラノベ的な展開のミスマッチさが肝。
相変わらず文章は巧いし、設定もすごいし、面白いことは面白いんだけど、限りなく4に近い3にしちゃったのはなんでだろう…。
ラノベ的ドライヴ感が小難しいリアル設定説明のくだりで失速してしまったのかもしれない。