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新聞のコーナーに寄せられた相談に「乗って」返した言葉と書き下ろしエッセーを載せた一冊。今悩んでいる人が読んでもすぐには役には立たなそうな回答が続くが、それを辛抱して読み進めてからの巻末のエッセーは深い内省を呼び起こす。読み通して再度頭から読み直すとまた違った風に読める。そういう意味でもまさしく二枚腰構成になってると思う。
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ずっと同じ列車の同じ席に並んできたと思っている夫婦が多いが、ほんとうは同じ速度で並行して走っている別の列車にたまたま乗っていて、ずっと車窓の向こうに同じ顔があっただけのことだと言ったフランスの哲学者がいます。たしかにこう考えると、あなたのいら立ちも少しは収まるのではないでしょうか。(p.93)
人格というものは、いろんな人とのつきあいのなかで、もみくちゃになりつつ形成されてゆくものです。そういう関係がいくつも並行しているなかで、それらの束として〈私〉というものが生まれてくる。親との関係というのはたしかに重いものですが、それでもそういう束をかたちづくる一つにすぎません。(p.99)
ひとがだれかとほんとうにじっくり対話できるのは、本を読むときです。本を書いた人は未知の人です。だから距離がとれ、相手の言葉もすなおに受け取ることができる。その言葉で自分を吟味もできる。(p.121)
ウィリアム・ジェイムズという米国の哲学者がかつて勧めた方法ですが、落ち込んだりふさいだりしているときは、胸を張り、顔を上げ、体を開く。そう、調子のよいときの姿勢をとるのです。逆に、何ごとも絶好調なときは、往々にして他人に不愉快な思いをさせるもの。だから、失敗続きでへこんでいるときのように、うつむき、肩を落とし、うなだれた姿勢をとるのです。これは意外に効きますから、いちど試してみてください。(p.159)
別の視点をもつということが大切なのは、あっちにぶれたりこっちにぶれたりsながらついに陥没して、もう「打つ手なし」のふんづまりに落ち込んでしまったという、そういう事態に距離が置けるようになるからです。
二枚腰というのは、まなざしにそういう奥行きを回復し、二段構えで事態を受け止めることができるということなのです。もはや「打つ手なし」の状況から身を剥がして、一歩下がったところからおなじ状況をとらえなおすということです。いってみれば土俵際で体をしならせて俵に踏みとどまり、そして状況を押し返してゆく、そんなねばり強い腰をもつということです。
押されても押されてももちこたえる、そういうためをつくって二枚腰、さらには三枚腰、四枚腰でいられるようになれば、それこそ盤石です。(p.179)
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鷲田先生の人生相談という内容。
ちょっと軽い感じの話かなと思ってよみましたが。
自分自身の状況が、現在岐路にあるということも
あるのかもしれませんが。
ほとんどの内容が心に響き、背中を押してくれる
内容でした。
自分にとっては、いろいろ珠玉の言葉や、お話し。さらに
大切にしておきたい言葉や内容を読ませてもらいました。
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新聞へ投書する悩み相談とその回答が本になったもの。いろんな人生のひとがいろいろな悩みを抱えて生きてるんだなと思えるし、全然立場が違うひとの悩みでも、なんか全部じぶんに通ずるところがあるようにも思える。
悩んでる状態って、とても視野が狭くなって自分のことしか見えなくなってる状態でもあるんだなと思った。いちど深呼吸して、自分から意識を離したり、自分を取り巻く周囲のひとたちの立場で考えてみたり、問題の切口を変えることで見えてくるものがあるのかな。
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"人生にも仕事にも、これをやったら終わりという瀬戸際があります。跨いではならない敷居といってもいいです。小さな過ちをくり返しているうちに、この敷居の意識がだんだんと鈍ってきて、ついにそれを跨ぎ越したことにすら気づかなくなります。" 65ページ
"ずっと同じ列車の同じ席に並んできたと思っている夫婦が多いが、本当は同じ速度で並行して走っている別の列車にたまたま乗っていて、ずっと車窓の向こうに同じ顔があっただけのことだと言ったフランスの哲学者がいます。" 93ページ
"ある感情は別のもっと強い感情でしか押し退けられないものです。" 133ページ
人生相談の回答は直接的には自分と同じ悩みではないのだけれど、大変参考になった。
それのまとめともいうべき最後の「二枚腰のすすめ」は、生きる指針になると思う。まぁなかなかそううまくはいかないのだけれど。頭でわかっていても実践はそう簡単ではない。
「アングルを手前に退く」「自分と自分の置かれた状況を俯瞰する」「別の視点を持つ」「弱さを強さへと裏返す」
こう並べて書いてみると、そう目新しくもないけれど、何度でも確認しておきたい。
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悩む人は気持ちが行き詰っている。ネガティブな思考は硬化する一方で、中々軟らかくならない。ああでもないこうでもない、あちらでもないこちらでもない、と出口へのキッカケさえつかめず堂々巡りの状態に苦しんでいる。
読者としては、気分的に叱咤激励してあげたいところだが、鷲田さんは実にしなやかに言葉をかけておられる。穏やかな筆致なのだが、悩みへの共感の思いは伝わるし、的確な指摘も読み取れる。そっと肩を抱きながらも背中を押しているような、優しさと力強さを感じる。
よく登場するアドバイスの一つに「周りに目を向けなさい」というのがある。自分の頭の中だけで解決しようとすると本来目を向けるべきものに気付かない。自分がやりたい事の何が他人の為になるのかという考えや、自分にストレスを与える存在の立場になってみるとか…考えの角度や方向を変えてみる事で、行動に移せる面はあるかも知れない。
悩みのタネの逆パターンを考えてみるというのも、相談者の目のウロコをはがす手立てになりそうだ。これがいわゆる「二枚腰」の基本的なスタイルだ。物事には二面性があり、相談事の行く末を案じ過ぎて煮詰まっている相談者に別の可能性を披露している。
ひとつの問題の原因をひとつに固定してしまっている相談者には、人生の流れには好不調のリズムがあり、「不運続き」というのは自分がそう思ってしまっているからと仰る。これもまた物事の二面性を語っている。
鷲田さんは、相談への「回答」より相談に「乗る」という姿勢で臨んだ。実は、相談する側も悩み事に「乗る」姿勢が必要ではないかと。自分はどうすべきかに頭が向かい過ぎ、実は悩み事に正対していない、悩み事を深く考察していない場合もある。自ら悩みに「乗る」事が行動に繋がるのではないかと思う。鷲田さんも、「あなたはまだ何もしていない内から悩んでいる」と指摘されている場面もあった。
さて、読んでいて他人事に思えない悩みもあれば、努力すれば案外簡単じゃないかと思うものもある。ドシッと重いものもある。これも考えてみれば私の興味の向く方向や、考察の甘さがもたらすものだろう。全ての悩みには「乗り切れてない」からだろう。
誰しも自分の人生に完璧に乗っている人はいないのではないか。少しでも自分らしく「乗る」為に我々は生きているのだろう。
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鷲田清一『二枚腰のすすめー鷲田清一の人生案内』(世界思想社)は人生相談の質問と回答をまとめた書籍。正直なところ、読み始めた時は抽象的な悩みを抱えている人が多いと感じた。たとえばマンションだまし売り被害者は、切実で具体的な問題に直面している。そのような問題は人生相談に出そうとならないので、本書に出てこないことは当然である。これは悩みを抱えている人に言ってはいけないことであるが、逆に本書のような悩みが最大の悩みならば、それなりに幸せと言えるのではないかという考えも出てきかねない。
社会の人間関係が悩みの原因になっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19; coronavirus disease 2019)対策でStay Homeが推奨された2020年1月から4月までの自殺者数は過去4年間の自殺者数よりも大幅に減少した。これは家にいて職場や学校に行く機会が減り、悩むことが少なかったことが原因と分析されている。非接触の新しい生活様式を推進した方が日本社会の生き辛さは減少するだろう。
一方で同居家族が悩みならば、それだけでは解決しない。逆に家にいる時間が長くなって深刻化する可能性がある。これもSocial Distanceが解決になる。本書も「どちらかが実家やホテルから通勤し、週末に合流」を提案している(103頁)。
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久しぶりの鷲田氏の著作です。本書は読売新聞に連載されている「人生案内」の問答を再録したものを幹に、エッセイ的な小文を加えたつくりです。そもそもが新聞の「読者からの相談投稿」が起点なので、それこそ様々なジャンルの俗事が取り上げられています。
しかし、大変です、人生相談の回答という仕事は。私には絶対無理だと痛感しましたね。
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人生相談回答プラスエッセイ
冒頭よかったが、借りてきた言葉のように明敏なのと、うすぼんやりラストと。救われたい気持ちをどこへ持っていけばいいのか、あなたの華々しいキャリアを列記して終わられましても
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二枚腰というのは面白い考え方だし、如何にも鷲田さんらしい。一つのものの見方があれば、当然反対のものの見方がある。人生の「はずれ」といわれていることも、一つの見方でしかなく、「はずして」見てみるというほかの視点が大事になるということだな。
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読売新聞掲載の人生相談を抜粋したもの。読売新聞は時々ホテルに置いてあるのを読むぐらいだけど、新聞の相談って面白いよね。何やってる人かと思ったら、哲学の先生だった。でもデザインのこととか、いろいろやってきた人だということは最後のを読んで分かった。その最後のやつが面白くて、紹介されてた遠藤さんという障害を持った人の話がとても印象的。「こんな夜中にバナナかよ」と似たような感じだけど、この映画見てみたいなぁ。NHKのロッチと子羊も哲学の番組だけど、私は実は哲学も好きなのだと改めて思う。生きるにあたり、何も考えずに暮らすことはできず、それは哲学なのだ。しかし、自分の弱さをさらけ出して人とつながって生きていくというのは、コミュ障の私にはハードルが高いと思っちゃうけど、生きてるだけで誰かの世話になっているというのは事実なのである。この先私が誰かの役に立つということはあるだろうか。身内以外の人とのつながりができるといいなとは思う。
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著者の豊かな人生経験から出た回答も良かったが、何より最後の章の二枚腰のすすめがこころに響いた。生きること全てに人の助けが必要な遠藤さんを例にして、弱さをさらけ出すことで踏み出すことの出来るものがある。物事を1つの方向からだけでなく、いろいろな方向から見ることで見えてくるものかある。歴史の中で、社会の中で、自分の立ち位置を知り、その中で自分が何をすべきか、何が出来るかを学ぶ、それが学ぶことの意義だと言う。その通りだと気付かされた。
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「相談」への「答え」がどのように出てくるのか、ドキドキしながら読みました。
予想通りの回答もあれば、「その角度から応答されるのか!」と新鮮な驚きに包まれる回答も。
「コンプレックスは強さのしるし」
「まずは応援にきちんと応える」
「苦労は取り除くべきものではなく、分かちあうもの」
など、今の自分に響く言葉との出会いもありました。
読むタイミングによって異なる気づきが得られそうな問答集でした。
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悲しみが皺をつくる。
哲学とは問いの立て方と、考え方の道筋。
二枚腰とは、ひとつ堰が崩れても背後にもうひとつあること。正反対のふたつのことがひとつところにあるということ。ひとは対立するふたつのものに引き裂かれているということを、きちんと認識しておくこと。
ひとは傷ついたひとをみると自分も傷ついた顔する。でも傷ついたひとを見ると、自分のことを後回しにしてでも優しくわらう……。ひとの弱さもろさがそれゆえにつよいのだと知るような本。