これまでの脳科学の常識を覆す「新しい脳科学」の一冊です!
2021/05/05 12:42
5人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、マウスの脳活動にヒントを得て、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を目指しているという毛内拡氏による作品です。同書では、「人間らしさ」を生み出す知られざる脳の正体が明らかにされます。「脳のはたらきは、ニューロンが担っている」というのがこれまでの常識とされてきましたが、これが今や覆されようとしていると著者は言います。脳の中には、知られざる「すきま」があり、そこを舞台に、様々な脳活動が繰り広げられているというのです。細胞外スペースに流れる脳脊髄液、その中で拡散する神経修飾物質や細胞外電場、そして、脳細胞の半分を占めるグリア細胞など、私たちの心や知性の源は、ここにあるかもしれないと著者は言います。「神経科学の王道」に挑む、新しい脳科学の一冊です!
ニューロン以外の脳
2023/04/09 06:09
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投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
脳といえばニューロンが張り巡らされ電気信号を伝えるというイメージだったがニューロン以外の細胞と細胞の間の部分が物質の伝播や遠隔地同士の電気信号の伝達など重要な役割を果たしていることがわかり面白かった。
ニューロンだけ見ていても、脳は解明しきれないということ
2021/07/11 16:00
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:y0a - この投稿者のレビュー一覧を見る
前半が脳や神経細胞の基礎知識なので、その手のブルー・バックスを読んでいる人にはちょっと重複気味かも(逆に、親切と思う人もいるだろうけれど)。
だんだん、神経細胞以外の細胞間のスキマが研究されていることや、活動電位以外の電気活動が脳に与える影響など、本のタイトルどおりの話に展開していく。そして、(個人的に読みたかった)グリア細胞の話にも入る。
まだまだこれから研究される分野だということがよくわかった。また、ニューロン至上主義では脳は解明しきれないという話も、説得力があった。
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脳の構造・ニューロンの働き・脳科学の歴史を踏まえた上でニューロン以外の脳の最新研究が紹介されており、たまに脳関連のニュースを見聞きする自分にとっても初見の内容が多々ありました。
時々刻々と、細胞外スペース・細胞間質液・脳脊髄液・アクアポリン 4・アストロサイト(グリア細胞)・広範囲調節系・神経修飾物質など、多くの要素が相互作用している脳内環境。
近年、脳に関連する情報がメディアやネットでも積極的に発信されて「ニューロン」「シナプス」「神経伝達物質(ドーパミンなど)」などの用語を見聞きすることも増え、一素人でもなんとなく脳に対する漠然としたイメージがありましたが、本書を読むと、そんなイメージを軽々と超えてくる脳の果てしない複雑さ、奥深さを再認識させられます。
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脳の神秘はニューロン・ネットワークの中にあると思っていたが、それだけではないことが分かってきた。ニューロン・ネットワークを電子素子で構成して脳を実現するというプロジェクトがあると以前聞いたが、それだけではいけないことが分かった。ニューロン以外にも様々な要素が分かってきた。細胞外スペース、神経修飾物質、拡散性伝達、脳脊髄液、細胞間質液、細胞外電場、アストロサイト、などなど。
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ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン、セロトニンの関係がよくわかった。
セロトニンを増やす方法として、定期的なリズム刺激というのは、役に立つ情報だし、そこここのライフハックでも聞く話で納得。
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これはおもしろい! こんなことが新たに分かってきているのだ。脳はニューロンだけで情報伝達をしているわけではなかった。脳のすき間を埋めている液体中の化学物質やアストロサイトをはじめとするグリア細胞のはたらきも大きいという。そして、このアストロサイトを活性化させるには、新しい刺激のある環境が良いのだとか。すると、やはりふだんと違う教室で受ける特訓授業などが子どもたちの記憶に残りやすいのは、この辺の影響があるわけだ。著者が「おわりに」で書かれているが、特別支援学校にボランティアに行ったのがこういった研究に進むきっかけになったとのこと。アルツハイマーをはじめ、脳の病気に関わる研究をこれからどんどん進めていかれると思うが、ぜひ、発達障害のある子どもたちの脳の状態も調べてみてほしい。何か、大きなことが見つかりそうな予感がする。YouTubeも観てみた。ちょっと速すぎる。読み切れない。でも、なんかすごいことが起こっていそうな気がする。「知能」と「知性」分かる気がする。これをきちんと考えていけば、AIが人間を超えるなんていうことはあり得ないんだろう。
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最新の脳研究を知ることが出来てとても面白い。
なかでも脳信号がワイヤレス送信している?というエファプティック・コミュニケーションの話はすごく興味深い。
脳が電気を蓄える性質を持っているという部分もちょっとハッとさせられました。
脳の話は面白いなあ。
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これまで、ニューロンに着目した書籍は何冊も読んだが、ニューロン以外の脳内の細胞に着目したものは読んだことが無く、新しい知識となった。
具体的には、グリア細胞や間質液などに着目したものである。
ニューロンによる伝達はデジタル回路に近く、グリア細胞の一種であるアストロサイトによる伝達はアナログに近いイメージを持った。デジタル、アナログを併用しているというところに面白みを感じる。
脳科学の本を読むのは、なるべく楽して頭を良くしたいという短絡的な希望があるのだが、そういう意味ではあまり参考にならなかった。
具体的にはこうするとグリア細胞が増えるとかそういうことは記載されていないので。
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間質
体の隙間に存在する網目構造と無色透明の体液
人体最大の器官?
ニューロン(神経細胞)
電気的活動をおこなう脳の神経細胞
軸索=他の細胞への導線 他のニューロンの軸索とつなぐ数万個のシナプス
グリア細胞(神経膠細胞)
アストロサイト(グリア細胞のひとつ)
不活性状態
アクアポリン4で血管に接続 リンパ系システム=グリンファティック システム
脳脊髄液と間液の交換
活性化=目新しい環境でノルアドレナリン放出
頭の良い人
体積は大きいが神経突起の密度が低く枝分かれ少ない
無駄な接続少ない?
脳の細胞群の半分はグリア細胞
アインシュタインのグリア細胞は一般人の2倍
脳のバリア 血液脳関門
アルコール、ニコチン、覚せい剤は通過
免疫 グリア細胞(ミクログリア)の機能
脳脊髄液 リンパ液の代わりに老廃物伝達
細胞内液 カリウムイオン多 ナトリウムイオン少 でアンバランス
→膜興奮によりナトリウムイオンチャンネルが開き+になり、電位を伝達
シナプス前/後細胞でで電位から100種以上の化学物質で伝達 使い分けは不明
受容体 活性化させる作動薬と抑制する阻害薬
全身麻酔薬
どうして効くのかわかっていない
体内の水自体の動きは「標識」なしでは可視化できない
細胞外電場(ワイヤレス伝達)
シナプス伝達以外でのアナログ伝達?
電場がニューロンの感受性に影響 10Hzで最大
人体1Hz以下では金属1000倍の誘電率
発電所や高圧伝送線の人体への影響?
生きているとは?
知性 答えのないことに答えを出そうとする営み
知能 答えがあることへ答える能力
脳のすべての要素が相互作用
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淡蒼球:報酬の量を予測し、やる気をコントロールする
グリア細胞こそが知性を生み出す鍵を握っているのではないか
IQ高い:脳の活動の度合いが低い、効率的にはならかせている。神経突起の密度が少なく枝分かれが少ない。脳内に無駄な接続が少なく、回路が効率的になっている
アストロサイト:グルコース貯蔵、エネルギーをニューロンに与える。アインシュタインはグリア細胞がニューロンに対して多かった
新しい環境でノルアドレナリン放出高まる:注意力、集中力高まる
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脳の重層的な構造を暗示するかのようなタイトルに惹かれて読む。脳の謎を解き明かそうと脳が挑む、その営みの不思議さに謎は深まるばかり。
従来の脳科学が、ニューロンを主体とするネットワークとして取り組んできた研究に、脇役として重視されなかったグリア細胞などのニューロン以外の働きについて着目する。ニューロンによるシナプスでの情報伝達の働き以外に、広範囲に拡散する動きがあることを実験を通して明らかにする。
人間らしさや知性(知能とは違う)は、こうした仕組みに依拠すると推察している。分解すれば化学反応の連鎖に帰着する脳、そのダイナミックなシステムは驚異そのものである。本書で展開される論旨に追従していくには、一気に読み進めることが必要と感じた。
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【はじめに】
『脳を司る「脳」』というタイトルは、脳をニューロンからなるデジタル系システムとすると、それだけではない「脳」の機能が脳活動を支えて制御しているという意味で括弧付きの「脳」という言葉を使っている。
著者は、理化学研究所からお茶の水女子大学に移り、「生体組織機能学研究室」を立ち上げている若手研究者。生理学を脳神経のはたらきによって理解しようとする神経生理学を専門としている。
本書のあとがきの中でもリンクが紹介されているが、以下のYouTube動画が著者の研究や本書で言いたいことを要約しているので、本を読む前に見ておくと内容理解の助けになるだろう。
「Brain BLAST!: 健康な脳のカギを握る脳の中のメタコミュニケーション」
https://www.youtube.com/watch?v=zPDvu4Xlzp8
【概要】
これまで脳の活動と言えば、ニューロン間のシナプスを介した情報交換に注目され、その他の組織についてはニューロンと比べると相対的にはほとんど無視されてきた。しかし、近年グリア細胞を始めとしてニューロン以外の脳の生体組織にも注目が集まっており、それらをまとめて解説したのが本書『脳を司る「脳」』となる。
ここで解説されているニューロン以外の脳生体組織およびその活動として、具体的には、細胞外スペース、神経修飾物質(ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、アセチルコリン)、拡散性伝達、脳脊髄液、細胞間質液、細胞外電場、グリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア)となる。かなり網羅性をもって脳全体の活動要素についてまとめられていると思う。この辺り、ブルーバックスらしいまとめ方で好感が持てる。
例えば、細胞外スペースについての新しい知見として、睡眠時と覚醒時には脳の細胞外スペースの大きさが違っているとらしい。睡眠時にはおそらくノルアドレナリン濃度の影響で細胞外スペースが広がっていて、脳脊髄液の流れがよくなるからだという。睡眠の健康に与える重要性が最近喧伝されることが多いが、生理学的にはこういった脳の代謝に関係しているのかもしれない。
また、「エファプティック(非シナプス的)・コミュニケーション」と呼ばれる近接ニューロン同士のシナプスを介さない情報交換も最近注目されている脳内活動だという。脳組織の低周波数に対する誘電特性が生理的食塩水とは大きく違っており、なぜそうなのかも含めて研究の対象となっている。
関係者の中でも流行中とされている、グリア細胞のアストロサイトが関与して行われている脳内の老廃物代謝のリンパ系的機能である「グリンファティック・システム」が提唱されたのはまだ2012年と最近のことであり、まだまだ脳の生理学的研究は知見を積みあげていくような新しい発見が次々と出てくるフロンティアであるのだと思う。
グリア細胞であるアストロサイトの密度が霊長類になるに従い濃くなっているとか、アインシュタインの脳でニューロンの数には一般的な人と変わりがなかったが、グリア細胞の数が多かったということから、グリア細胞が知性に大きく関わっているのではないかと��言われている。なお、グリア細胞に関しては本書と同じくブルーバックスから出ている『もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」』がとても詳しく勉強になる。
著者は、知能とは答えがあることに答える能力であり、知性とは答えがないことに答えを出そうとする営みだと定義し、ニューロンのデジタルな活動では知能の問題にしか対応できず、アナログ情報も含むニューロン以外の脳活動が人間を特徴付ける知性に関係しているのではないかという。著者は次のように語る。
「脳の中のデジタル伝達とアナログ伝達の非シナプス的相互作用こそが、人間らしさの根源である「知性」の正体であると予想しています」
それが、おそらく著者を含む脳神経生理学の世界が研究者を惹きつける理由なのだろう。
【所感】
脳神経を模擬した多層パーセプトロンによるニューラルネットワークが、画像認識、音声認識などのAIで領域によっては人間を超える能力を達成したことから、一部ではAIが人間を超えるのはいつなのかということを真剣に議論するようになってきた。しかしながら、現状のAI技術の延長でできることは、決して人間の脳ができることを超えることはできないだろう、というのが多くの識者の合意事項にもなっているように思う。著者はその理由としてアナログ情報である神経修飾物質や拡散性伝達、アストロサイトなどの働きを挙げられている。果たして著者が言うように知性の源泉がそこにあるのかはわからないが、そこにAIと人間の脳との違いがあるのは間違いないだろう。
測定技術の進化により、今まで見えなかったことが見えてきたことで、新しい仮説が提案され理論が構築される。原子・分子の世界でも、細胞の世界でも、宇宙科学の世界でもそうだった。脳研究の世界も例外ではなく、これまで優位を高めていたニューロン中心主義からの脱却が必要とされる新しい時代が測定技術の進歩によってやってきたのだろう。著者も言うように脳にはまだまだわからないことが山ほど残っているのである。自分も真剣に学ぶと面白いかもしれないなと思う。
なお著者は、科学者として理研時代からアウトリーチ活動の重要性にも賛同し、いつかブルーバックスで本を出したいと考えていたという。ブルーバックスがそういうポジションになっているというのは素晴らしいことである。いつもながら、ブルーバックスには感謝している。
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『もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」』(R・ダグラス・フィールズ)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4065020549#comment
『つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線』(理化学研究所脳科学総合研究センター)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062579944
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ニューロンの仕組みや脳科学の歴史をおさらいしたところで、触れられることが少ないグリア細胞そして細胞外スペースの解説を行い、ニューロンとそれらの相互作用について考察する。細胞外スペースを拡散する神経修飾物質が気分などのモードに関係しているとかグリア細胞であるアストロサイトがシナプス伝達をの効率を変化させているなの興味深い話が満載、グリア細胞や細胞外スペースの作用を人工知能に組み入れられると面白いかも。
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脳の基本構造や語句の説明など詳しく書かれていた点がまずよかったし、それに基づいて最新のグリア細胞周りの研究の動向が知れたのもよかった。ニューロンの研究が進む一方で、それ以外の部分はやっぱりブラックボックスだなと感じたし、まだまだ未開の分野だなという印象。