痛ましいところからの視点
2021/04/17 08:44
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第164回芥川賞候補作。
実の父親からの性的虐待を受けた少女を描いた、著者初めての中編小説となったこの作品で第44回すばる文学賞を受賞し、その後芥川賞の候補となるも惜しくも受賞には至らなかった。
それでも、題材が悲痛で、芥川賞の選考委員の一人吉田修一氏も「とにかく内容がつらい」と記している。
一方で、すばる文学賞を受賞した際の、こちらの選考委員である川上未映子氏は「子どもの、女性の、人間の、あるサバイブを描いた傑作」とし、そのラストは「詩も散文も含め言葉が描くことのできる、最良の場面のひとつ」と大絶賛している。
タイトルである「コンジュジ」はポルトガル語で「配偶者」という意味だが、まずこのタイトルが作者の中には一つの灯りのようにあったようだが、結末は決してそうなっていない。
それもまた書くという行為の、いい意味での産物だろう。
主人公の少女せれなは母の家出、父の自殺未遂、そして違う国籍の新しい母とつらい日々を送っている。彼女の唯一の救いが伝説のロックスターへの想いだった。
彼の伝記を読みながら、せれなは彼の空想の恋人となっていく。
そんな彼女に父親の性的虐待が始まっていく。
そして、空想の恋人であったロックスターへの幻想も破れ、せれなは行き場所を失っていく。
この作品では架空のロックスターの伝記が巧みに使われている。
芥川賞選考委員の山田詠美氏はそれを「ステレオタイプ」としていたし、確かに以前大ヒットしたロック映画を観ているような既視感があったが、あまりにも巧みで実際に存在したと思いながら読んでいたことを書いておきたい。
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芥川賞候補作。推し燃ゆより、正直面白かった。構成とか、ストーリー性もあって読みやすく、のめり込んだ。
次回作も是非とも読んでみたい。
読めて良かった。
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決して読んでいて気分の上がる物語ではありませんが、作者の真摯な姿勢を文章から感じます。
文章ひとつひとつから、「虐待は現実にある」「それを作品にする」という作者の葛藤、覚悟のようなものを感じました。
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川上未映子がツイートで絶賛してたから読みました。帯にも書かれていたとおりラストシーンが胸を打ち、読後2日経ってもまだ棺のなかに横たわるリアンとその隣に滑り込んでいくせれなの悲しくも美しい真っ白な光みたいな場面が頭の片隅にずっとある。父からの性的虐待が扱われているのは知って読んだし描写はことごとく胸くそ悪かったけどこのラストシーンのおかげで「どんな話?」と聞かれても「光」とか言っちゃいそう。
読みながら思い返したのはビリーミリガンで、別人格に変わるごとく憧れの亡きロックスター・リアンの恋人という自分を召喚して主人公は被虐待をサバイブしていったのだなと読んだ。とくに性行為を強要されている場面でせれなはリアンと輝かしい時間を過ごしていたことが終盤で明かされ、とあるレビューではあれは説明しすぎとかあったがわたしはあの説明がなかったら妄想デート場面が被虐待時間の暗喩だと気づかなかった……クソ死ねみたいな悪態モノローグが雑に感じたのと、その終盤の説明的な部分が芥川賞の選考でダメ出しくらったところなのかなと個人的には思ってるけどどうなんだろう。また追って知りたい。
野間文の候補になったようなので結果楽しみです。上記の点は気になったしそもそも主人公が被虐待とか摂食障害みたいな話好きじゃないしとりわけ光る文章表現も見当たらなかったしカタカナワールド苦手だけどラストシーンで足先から頭までひたにたに感動したので読んでよかった。木崎みつ子さん、なんでこの話書いたのか知りたいし次回作も読みます。追います。
上から目線レビューになってしまった。
追記。
木崎さんは性的虐待の問題に関心をもってほしいという問題意識をもって書かれたらしいです。頭が下がります。
ひとつ、終盤で初めて父に迫られたとき驚きのあまり顔が引き攣った、あれが笑ったように見えて合意に思われたのではないか、嫌だと言わなかったことが……という箇所が衝撃だったことを思い出した。自分のせいだと思っている。父の死後もなお虐待の要因が自分にあると思っている苦しみが、ほんとうに、読んでいて伝わってきた。苦しかったです。
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悲しい、ずっと悲しい。
せれなとリアンの恋も、裏側にあったせれなの現実も、サバイブしたせれなのこれからの人生も、何を思っても苦しい。
最後に待つ、瞼に浮かぶエンドはこれ以上なく美しい光景なのにどうしてこんなに悲しいのか、わたしはまだ自分の言葉で噛み砕くことができない。
なぜ悲しいのかな、とずっと考えていたけれど、母が家を出て行ってからずっと、それは敵である父親に一度ブチ切れたときでさえ、そしてそこからサバイブしてからさえ、せれなは自分の人生を「耐えて」いたからなのだと思う。
彼女の中で何も終わらないまま進んでいく彼女の人生が無責任にも悲しかったんだ。
せれなには怒りも悲しみも最早無いように思われて、ただ自分の半生を安全な場所から文章で追いかけているわたしに「なぜ」と問いかけている気がした。
なぜ私はここにいて、なぜあなたはそこで私を見ているのか。
応答できないまま、せれなは一人で行ってしまう。信じられないほど悲しくて美しい結末に。
とにかく帯で川上未映子が絶賛していたように、エンドが破滅的に美しい小説だというのは間違いない。
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『呪文を唱えるように呟くと、体が風船のように膨らみ、小鳥と一緒に青空を飛べそうなほどの幸福感に包まれた』
『愛は苦しいものだ』
『心臓も金色に輝き出しているはずだ』
『絶対に思い出さない方がいいことを言われた気がする。蓋をしている記憶がたくさんある』
第44回すばる文学賞受賞作
第164回芥川賞候補作(惜しくも受賞にはいたらず)
コンジュジ、ポルトガル語で配偶者の意。
過酷な現実とそれから逃れる為の妄想の中を生きる少女せれな。
ロックスターの彼氏との妄想に助けられて現実逃避するも、妄想と現実が交わり決別。
だが死んだ彼氏にせれなは生かされる。
『棺の蓋を閉めた。中は真っ暗で何も見えない。これで安心して眠りにつける』
川上未映子さんの帯書き『とんでもない才能』に釣られて読んでみました。
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初めて『蛇にピアス』を読んだ時のような衝撃。ただただ果てしなく続く現実と解離状態に陥っている主人公。無事に生きれるといいな。死んでもいいけれど幸せな気持ちでいて欲しい。
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選考委員・川上未映子さん大絶賛のすばる文学賞受賞作&芥川賞候補作。
自殺未遂を繰り返す父親と、男と消えた母親の代わりにやってきた父親の恋人のベラさんに育てられるセレナが、救いのない日常の中で出会い恋に落ちたのは故ロックスターのリアンだった。
父親から性的虐待を受けるという残虐さを描きながらもどこかコミカルな表現には、現実を見まいと逃避する女の子の必死かつ健気な悲しさを感じさせられるよう。
耐えがたい時間とセレナ自身は、現実も妄想もぐちゃぐちゃに混ざって融合する。セレナにとってひたすらにリアンを愛することが自己救済のための唯一の手段なのだと思うと苦しさで胸がつぶれる思いがした。どんな在り方であれ、どうかその光が闇にのまれてしまうことのないようにと願う。
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実の娘を犯し続けて娘に訴えられた父親が無実になった判決を思い出した。届けたい言葉があり、思いがある。彼女の削り取られ、止まった時間を思うが、それでも生きているから、と思った。
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重く辛い内容ですが
現実と幻想をミックスさせ
柔らかい文章で仕上げられていて
この様なテーマの小説にしては
ひどい嫌悪感は感じられなかった
こう言う傷を負った子どもは
一生この傷を背負って行くのだろうな
助けてあげる事は
未然に防ぐ事しかない様に思う
現実から逃避する為に妄想や幻想の中で
生きるなんて辛すぎる
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なんとも奇妙で過酷な話である。The Cupsというイギリスのバンドのメインボーカル・リアンに恋をする少女・せれな。『推し、燃ゆ』的な話なのかと想像し、架空だがリアルなバンドの描写を楽しみながらページをめくる。だんだんとおかしな展開になり、危惧は現実のものとなる。そこからは狂気をはらみながら物語は進み、最後の文まで目を離せなかった。本作がデビュー作というのは驚きだ。第44回すばる文学賞受賞&第164回芥川賞候補作。
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必死に幸せな幻想を思い抱くことで現実逃避するせれな。最後まで読み終えるのが辛かった。作中とはいえ大人の無関心さに怒りと違和感を覚えた。
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フォローさせてもらっている、つづきさんの感想を見て読んでみました。
せれなが父親の性的虐待から必死で生き残っていく話。
こんなに読むのが悲しくて辛い本はなかった。読み進めれば進むほど辛い。
現実が厳しすぎるのでリアンとの幻想に避難して、必死で心を守っていたのに、その幻想が解けていき父親が死んでからも苦しむせれな。
父親からの性的虐待が子供に及ぼす影響が破壊的である事を思い知った。
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〇 2021.03.21 読了
ホテルを解雇されて、父は手首を切った。
新たな男を連れた母に家を出ていかれて、また、父は手首を切った。
外国人の女と無様な姿で帰宅した父は、この人が新たな母親だとせりなに紹介する。ベラと名乗る 金髪で青い瞳を持つ無口な女性は 以前スナックで働いていたらしい。
いつもの様に家で留守番をしていると、テレビが普段とは異なる雰囲気を醸し出していた。いざ画面に映し出されたのは、当時から約20年前頃に活躍していた、バンド「The Cups」でボーカル・ピアノを担当していた リアンの追悼番組『特集 リアン・ノートン』。その番組を目にしたせりなの脳内で鐘が鳴った。
せりなにとってリアンという存在は、現在の“リアコ”と化していた。
ベラの妊娠が発覚した頃、せりなは身も心も成長途中だった。家族3人で過ごす中、せりなの父の奥底に潜む醜悪な欲が片鱗をのぞかせる。
*
The Cups(ザ・カップス)
Vo / Pf. リアン・ノートン
Gt. マックス・フーパー
Ba. ジム・ノートン
Dr. オリバー・ハミルトン
.
注意:性描写・暴力
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著者の木崎さんは、
なんとなんと、本作がデビュー作。
90年生まれでこの構成とは、末恐ろしい…
前半…というか、総合的に見ても胸糞悪いお話なのだけど、適度にジョークが差し込まれるおかげで、極端に落ち込むことはなかった(それが事の悲惨さを際立たせる一因にもなっていましたが)。
本作でせりなの心の支えとなる、70年代に活躍したバンド「The Cups」は架空のバンドであるが、実在するのでは…?と勘ぐってしまうほどの緻密さに驚かされた。
冒頭で言及したとおり、木崎さんは本作がデビュー作でありながら、すばる賞受賞・芥川賞候補という素晴らしい成果を収めている。
私が色眼鏡で見てしまっているところもあるのだろうが、この方は、将来 日本文学界を牽引する人材であると思う。
父親から性的暴行を受けた経験のある女性が主人公、と聞いて、初見で「読みたい!」となる人は少ないかもしれないし、また、題材が題材なので人に気軽に薦められないけども、それでも、絶対に生きているうちには読んでほしい。
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▷https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771742-6
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あっという間に読み終わってしまった…。
不思議で所々に人間の狂気も感じるけど、でも何だろう、惹かれてしまうものもあって複雑な気持ち。
空想だけで人はここまで生きていけるのか。
なんか改めて、世界中の人たちがこの人しかいないって思える相手と幸せになれたら、ここはどれだけ幸せな世界になるんだろうって考えさせられた。