研ぎ師太吉(新潮文庫)
著者 山本一力
深川黒江町の長屋で、刃物の研ぎを生業とする太吉、ひとり者。ある夏の日、裏店にひとりの若い女が訪ねて来る。料理人だった父親の形見である出刃庖丁を、供養として研いでほしいとい...
研ぎ師太吉(新潮文庫)
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商品説明
深川黒江町の長屋で、刃物の研ぎを生業とする太吉、ひとり者。ある夏の日、裏店にひとりの若い女が訪ねて来る。料理人だった父親の形見である出刃庖丁を、供養として研いでほしいという。快く引き受けた太吉に、かおりと名乗るその娘は、妙なことを口走る。「おとっつあんは、殺されたんです」――。一本の庖丁が暴いていく、切ない事件の真相とは。切れ味抜群の深川人情推理帖!(解説・末國善己)
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みかん色の帯
2011/08/10 10:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
まず最初に、作品中の一文を紹介させて頂きたい。主人公の太吉の元に、近所の一善飯屋の娘おすみが訪ねてきた下り。
― 店のお仕着せではなく、朝顔が描かれた浴衣に、みかん色の帯を締めている。履物は黒い塗り下駄で、鼻緒は帯に色味を合わせたような藤色だった。おすみが歩くと、下駄がカタカタッと音を立てる。太吉の姿を見つけたおすみは、下駄を鳴らして駆け寄ってきた。「よかった、太吉さんがいてくれて」―
・・・山本作品の大好きな所に、こういう何とも日本人DNAを揺さぶってくれる表現がある。「みかん色」なんて、なんて素敵な色の名前だろうか。これが「オレンジ色」と書かれていては、何の感懐もわかない。のっぺりとした、赤黄色っぽい色しか浮かばない。 ところが「みかん色」と書かれた途端、帯の皺がよった部分の、色味が少し濃くなったような、そんな部分までが目に浮かぶようだ。さらに藤色の鼻緒の黒塗り下駄で、朝顔の浴衣なんて。これほど日本人女性を美しく見せてくれる衣服があるだろうか。もうDNAレベルで胸が震えるというか踊るというか「ああ、いいなぁ・・・」と思わされてしまう。でも現代に生きる日本人で、「みかん色」なんて言葉を使う人はどれだけいるだろう。美しい日本を、日本語を。もう一度思い出させてくれる。それが山本作品の大きな魅力の一つだと思う。本作品でも、その魅力を大いに感じさせてくれた。大満足である。
さて毎度色んな職業目線から、江戸の風情を折込みつつ物語を編み出してくれる山本作品だが。今回の職業は作品名からも分かる通り「研ぎ師」。もちろん刃物を研ぐ職人の話だ。江戸時代で刃物と来れば、やはり刃傷沙汰。物語はいくつかの殺人事件と冤罪とを絡めて、展開していく。そのミステリー具合も非常に面白く読める。これがまた江戸時代ならではの展開と解決方法で、非常に興味深い上に読後感もスッキリ。誰でも楽しく読める事請け合いの一作。
そしてこの作品で再三謳われるのが、コミニュケーションのあり方。相手と顔を合わせて目を見て、その所作言動を見て感じて飲食を共にして、そこからその人間を推し量る事。それがどれほど大事かという事だ。今でこそ安直に情報を交換できるけれども、本当に大事な本来あるべきコミニュケーションの形とは、こういう事なのだと痛感させられ、考えさせられた。
人も街も清廉で美しかった江戸時代。一力作品を読んで想像を思いきり膨らませ、せめて夢の中だけででも、当時の街をそぞろ歩いてみたいものだ。