辰巳八景(新潮文庫)
著者 山本一力
手をつないだわけでもない。好き合っていたのかもわからない。それでも祝言を挙げると知ったあの時、涙がどうしても止まらなかった……。遠い日の思い人と再会する女性の迷いと喜びを...
辰巳八景(新潮文庫)
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商品説明
手をつないだわけでもない。好き合っていたのかもわからない。それでも祝言を挙げると知ったあの時、涙がどうしても止まらなかった……。遠い日の思い人と再会する女性の迷いと喜びを描く「やぐら下の夕照」。売れない戯作者がボロ雪駄の縁で一世一代の恋をする「石場の暮雪」。江戸深川の素朴な泣き笑いを、温かで懐かしい筆が八つの物語に写し取る。著者の独擅場、人情の時代短編集!(解説・縄田一男)
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山本作品の魅力に、また驚く。
2008/01/29 10:21
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
山本作品の時代物は、読むたびに新しい驚き・発見がある。
それは色んな感情や好奇心、江戸の風情や文化など。
形は多岐に、渡るのだけれど。
本作品では、文字・文章自体があまりに美しい事に気が付いた。
文字や文章の、調子や居ずまい。それらが物語を超えて既に凛としている。
例えるならまるで、国宝級の舞の摺り足を見ているかのような、
軽やかで凛とした美しさ。そんなものさえ、感じてしまう。
それだけでも相当に凄い事だと思うのだけれど、しかし、だ。
山本作品の魅力は、そこから、なのである。
「臨場感」が、ハンパじゃない。自分が物語のそこに、確かにいる。
長屋の住人の為に、妻の弔慰金で暴れる川に橋を架けると言う、町医者。
その町医者に、「それじゃあ筋が通らない。長屋の賃料さえも
困っているけれど、でも。お願いだから、頼むから、
俺たちにも助けさせてくれ。」と詰め寄る長屋の住人達(佃町の晴嵐)。
金じゃない、心だ。そう言って町医者に詰め寄る住人の中に、
間違いなく自分がいる。こんなに楽しく、胸晴れる事は無いではないか。
他にも、ペンフレンドの悲恋と再会を描く物語(やぐら下の夕照)で、
二人の間を無償で取り持つ飛脚や、値引きした分はご祝儀として手渡す、
何とも粋な酉の市の熊手屋台(石場の暮雪)。
そういうちょっとした所に、ものすごい臨場感を覚えるのだ。
いかな国宝級の舞であっても、自分と同じそのステージに、
観客をあげる事は有り得ないだろう。
他に比類無き江戸文化への臨場感、がここにある。つまり、だ。
江戸の時代の粋に凛、体の芯で感じようと思ったら。
山本作品を手に取るしかないのかも、しれない。
いや山本作品を手に取れば間違いなく、江戸風情を肌で感じる事が出来る。
そしてそれは、奇跡のように。 数百円、なのである。
気持ちの良さが印象に残る八つの情景
2009/11/30 19:13
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
辰巳八景
全八話の短編小説集。
縄田一男氏の解説によると、本書に収録されている八編の物語と題名は長唄『巽(辰巳)八景』に依っているという。
「八景」は、
『永代の帰帆』、『八幡の晩鐘』、『仲町の夜雨』、『佃島の落雁』、『新地の晴嵐』、『洲崎の秋月』、『櫓下の夕照』、『石場の暮雪』
のことで、それぞれ対応する題名は、
『永代橋帰帆』、『永代寺晩鐘』、『仲町の夜雨』、『木場の落雁』、『佃島の晴嵐』、『洲崎の秋月』、『やぐら下の夕照』、『石場の暮雪』
となっている。
本書を読み始めると、さっそく山本氏の作品に欠かせない矜持を持った人物が登場し、山本ワールドが展開される。
しかし読み進めていくにしたがって、矜持、心意気、威勢の良さといったものに少々窮屈さを感じだし、食傷ぎみになってしまった。
そのため少々読み進める速度は遅くなってしまったが、それでも読み続けられたのは、ラスト数ページの部分に描かれている登場人物たちの姿が気持ちのいいものであり、これも山本作品に欠かせない人情で締めくくられていたからである。
『永代の帰帆』
公儀に楯突いた赤穂浪士たちを嫌う大洲屋茂助が見た、わずか十六にして切腹の覚悟をみせる大石主税の心の深淵。
武士の姿を見せる大石主税に垣間見た『十六の若者』の姿に、茂助は己の過ちに気づく。
『永代寺晩鐘』
二家の縁談に心を決められないおじゅん。
脇を駆け抜けていった若者たちの汗の匂いが、本当の思いに気づかせてくれた。
『仲町の夜雨』
子が授からないおこんは政太郎のために、子宝を儲けて欲しいと頼むつもりで妾のおみよの元を訪れた。
そこでおこんは、子を儲ける様子もなく敵意を向けるおみよの、心の奥底にある切ない思いに触れた。
『木場の落雁』
さくらは行儀見習い先のおかみに近づこうと真似をしはじめた。
恋仲の弦太郎にいつもと違う物言いや目つきを咎められたさくらは、川で遊ぶ子供の会話を聞いて、自分の滑稽さに気づくのだった。
『佃島の晴嵐』
新田橋の火事で父を亡くしたかえでが持つ、復興していく町を喜びながらも父の命を奪った傷跡が消える哀惜の思い。
辛い気持ちを抱えるかえでは、黒船橋のたもとで父の記憶を残すものに気づいた。
『洲崎の秋月』
若い芸妓の失態の場を機転を利かせて取り繕った芸妓の厳助は、大店の跡取りから落籍を申し込まれた。
逡巡する厳助は、洲崎検番の太郎の身の上を聞き、己の道を見つける。
『やぐら下の夕照』
手紙のやりとりから知り合った良三と弘衛は、一度会ったきりで会えなくなり、手紙のやりとりもなくなった。
二十七年後に届いた会いたいという手紙に戸惑う弘衛は、想い出のやぐらの壁で、白髪まじりの良三から声をかけられた。
『石場の暮雪』
履物屋の娘に思いを募らせた一清は、毎日同じ内容の飾り気のない手紙を届け始めた。
朴とつだが誠実な人柄に惹かれだした娘は、見合い四日前に届いた手紙に、これまでと違う一文を眼にする。
本作品のほとんどは、矜持、心意気、威勢の良さなどの堅苦しさを描くことで、物語を締めくくる人間臭さをより引き立てているようにも思える。
そのため読み終えると、人間臭さの方が印象に残るようになり、素直に『良かった』と読了感に浸れることができた。
八話のうち、『永代寺晩鐘』、『やぐら下の夕照』、『石場の暮雪』は純愛の色をなし、矜持、心意気など少々堅苦しい雰囲気のなかにあって、本書全体に気持ちのいいさわやかな余韻を残している。
ところで八編のうちのどこかに、本書の解説をしている縄田氏と奥さんのなれそめをモチーフとした作品があるらしい。
二人のなれそめを聞いた山本氏が材としたようだが、どの作品なんだろう。
個人的に『やぐら下の夕照』、『石場の暮雪』のどちらかだと思うのだが。
江戸の時代小説は、その痕跡探しをしながら読むのも楽しい。
2021/02/18 14:54
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸城からみて「辰巳」の方角にある「深川」エリアは、「辰巳」と呼ばれた。今も地名が残るその深川の界隈を舞台にした、短編江戸時代小説集。この作家の時代小説は、物語自体ももちろん味わい深いけれど、この現代に舞台となったあたりに出かけたら、もしかして、かすかにでもその物語の痕跡に遭遇できそうな気がするところが好きだ。たとえば、浮世絵によく描かれる永代橋が上野寛永寺の根本中堂建立に使った丸太の余材で作ったということをこの物語で知ったし、江戸時代の醤油塗りの堅焼きせんべいのことが詳しく描写されているが、それはいまにも伝わる手焼きのせんべいなのかなぁとか。回向院 淡雪まんじゅうが出てくるが、今も回向院の界隈に、それ風のモノが売っていそうだとか。そんな風に読むのが楽しい。
江戸の人情物
2023/04/06 15:10
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
短編集ですが、それぞれにあたたかみとか、世相を映したなんともいえないものが溢れています。中でも、思い人と再会する女性の「やぐら下の夕照」は、ねぇ。それと、売れない作家がボロ雪駄のせいで恋する「石場の暮雪」等。