花火 吉村昭後期短篇集
滅しゆく身体の変化。ほのかな生命のゆらぎ。若き日に死線を彷徨った作家は、生涯を通して生と死を見つめ続けた。円熟の晩年を迎え、その静謐な目は何をとらえたか。短篇小説の名手で...
花火 吉村昭後期短篇集
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商品説明
滅しゆく身体の変化。ほのかな生命のゆらぎ。若き日に死線を彷徨った作家は、生涯を通して生と死を見つめ続けた。円熟の晩年を迎え、その静謐な目は何をとらえたか。短篇小説の名手でもあった吉村昭が昭和後期から平成一八年までに著した、遺作「死顔」を含む一六篇。〈編者解説〉池上冬樹
※収録作品
船長泣く
雲母の柵
花曇り
手 鏡
花 火
法師蝉
寒牡丹
桜まつり
観覧車
西 瓜
自 殺――獣医(その一)
心 中――獣医(その二)
遠い幻影
聖 歌
見えない橋
死 顔
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吉村昭の後期短編を堪能しました
2021/07/28 16:08
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は中公文庫による吉村昭の短編集の、「初期1」「初期2」「中期」に続く4冊めにあたる「後期」篇である。
これまでの3冊は、「自選」とあって、吉村が生前自ら編んだ「自選集」からのアンソロジーだったが、後期は吉村の逝去(2006年没)直前までの作品が収められているので「自選」ではない。
純粋に本文庫の解説も執筆している文芸評論家の池上冬樹さんのよる編集となっている。
この「後期」篇には短編11作と掌編5作が収録されている。
そして、今までの短編集の中でももっともバリエーションに富んだ作品群となっている。
吉村の得意とする歴史小説としても読みごたえのある「船長泣く」は大正末期の漁船の漂流を描いたものだし、巻末の「死顔」はいうまでもなく吉村の遺作となった生と死を描いた重厚な短編である。
その一方で原稿用紙10枚ほどの掌編小説群、「観覧車」「西瓜」などは中間小説誌に発表されたもので、堅物と思われがちな吉村がこういう作品も書いていたことに、少々安堵した。
中でも気にいったのは、平成10年に「文學界」に発表された「遠い幻影」で、幼い頃の記憶をたどる話ながら、単にノスタルジックな物語になるのではなく、ノンフィクション作家のごとく厳密に調査する姿勢に感服した。
「死が訪れるまでの間に、曖昧な事柄をすべて明確にしたいという心理」と自ら分析しているが、吉村文学の魅力はそのあたりにあるような気がする。