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私は、香港の表の顔しか知らない。色とりどりのネオンが飾る街の、さまざまなブランドが並ぶショーウィンドウの、世界で一番おいしい飲茶の店の、明るく陽気で楽しい香港しか知らない。
中国返還、と思っていた。正しく元の国に戻されたもの、だと思っていた。外から見た、それが香港の姿。でも香港に住む香港人たちにとってそれは「回帰」であり、絶望に飲み込まれた未来だったのだ。
近くて遠いその国のことを、あまりにも知らな過ぎた。
日本人にも中国人にもなれない和志の、あざやかではかなくて残酷な初恋の思い出の、本当の姿。
恋人の死の謎。一度は逃げ出したその謎にからめとられ戻ってきた香港。ほどかれていく真実に息ができなくなる。
日本に生まれ日本に育ち日本の歴史さえ正しく知ろうとせずにいる自分の愚かな頬を思いきり殴られた気がする。ページをめくる指先から感じた熱が消えないうちに、誰かに手渡さなければ。
私たちが「自由」は自分の手の中にあると思い込んでいる間に、それはきっと流れ出してしまう。
未来の自由は約束されたものではないのだ。
「これが俺たちの世界だ」と叫ぶのは、明日の私かも知れない。
国が姿を変えるとき、翻弄されるのはそこに住む人々。国が求める街は人々のために存在するわけではない。だからこそ街を作ることによって人々の生活を、命を守るために必要とされるのは「建築」という仕事。自由を守るために闘うこと、そこに必要なのは「志(ウィル)」だ。水のように形を変えあらゆる場所に流れていく「志」だ。
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1997年香港が中国に回帰する直前。日本人の和志がそこで見たもの、感じたもの。貧しさのなかで暮らす恋人との出会いとささやかな日々。その終わり。その当時の香港の政治、市民の声。方向性はそれぞれでもその熱量は大きい。中国の一部になることの恐れ、怒り、諦め。舞台は97年だけれど今の物語のよう。今を、未来を変えようとする強い思い、志(ウィル)が後半になるにつれ大きく膨らんでいく。一人の人間としてどう生きていくのか、どう生きたいのかを問われているような小説。岩井さんの作品は初めて読んだけれど他の作品も必ず読もうと思う。
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瀬戸は日本の大学から香港の大学へ建築を学ぶためやってきた交換留学生。しかし建築だけが理由ではなかった。もっと前、13歳から17歳まで香港にいた。それは香港が中国に返還される激動の時期だった。そしてその時に最愛の女性が死んでいて、その謎を解くために再度やって来たのだった。
登場人物に感情移入させられるだけでなく、香港を含むアジアの近現代史を考えさせられる傑作。
建築をストーリーに絡めるのはやや強引な感じがしたが、それもまたOK。
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激流の香港を生き抜いた彼らの志(ウィル)をどう受け止め読み解くかは、私たちに投げられた課題だ。
返還前、90年代後半の熱量に溢れた香港の街、人々、建築、匂い、食べ物、圧倒的筆力で描かれた景色は、私たち日本人に様々な思慮を与えるに十分足りるし、その流れの速さに負けぬくらいのテンポで進むストーリーに置いて行かれぬよう、拳をにぎりしめながらページを捲らなくては呑み込まれてしまう。
スラムの闇に消えた少女。
ビルの屋上で暮らすボートピープル。
保釣運動をする民主派の学生会幹部。
幽霊屋敷に暮らす活動家。
共産党員の大物建築家。
アイルランドからの留学生。
政治に巻き込まれ政治の中で生きることを、あらためて考える。
日本という国で生まれ育ち、テレビのニュースでシュプレヒコールを聞く毎日を改めて考える。
脆弱な主人公の日本人が未来に向けて意思を示すに至る過程もすばらしい。
そして、なによりエンディングがすばらしい。
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返還前の香港、愛していた少女が目の前でスラムのビルから落ちて死んだ。犯人を目撃した和志は警察に告げた後家庭の事情で帰国する。3年後香港の大学に留学し、彼女の死の真相を調べる。この謎、事故死にされた理由が物語の本筋だが、本当の面白さは香港の人々の風景、空気、難民や本土からの違法入国など共産党支配の影に怯えつつ戦う人々にある。
歴史物としても恋愛友情モノとしてももちろんミステリーとしても読める力作だ。
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最近2.30年たったからなのか
香港返還の頃の書籍が増えてきている気がするが
それはたぶんあの頃の猥雑な、雑然とした香港に
アイロニーを込みで懐かしさを感じているんだと思う
水よ踊れは手のひらで踊らされたとしても
水のように誰にも縛られないで踊れってことなんだと理解した
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1997年7月の中国返還を間近に控えた香港を訪れた1人の日本人留学生。彼は昔、香港に住んでいたことがあり、ある目的を持ってこの地を再訪したのだった。ミステリー仕立ての構成だが、犯人探しが目的の小説ではない。自由の象徴としての香港や、様々な事情で母国を去らねばならなかった人々の思いが交錯し、読む手が止まらない。最終章が理想論になってしまったのは惜しいが、読み応えのある力作だった。
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揺れ動く香港を舞台に、日本からの交換留学生である主人公が、淡い恋心を抱いていた女性の、その謎の死の真相を追う。とともに、イギリスから中国返還と共に強まる共産党による支配の影と、それに対抗する人々の姿も、同時並行的に描かれる。
実に様々な理由で、多くの人が香港に集う。主人公のように、親の束縛を受けながらも、暮らしに困ることのない日本からの留学生もいれば、経済的困窮から故郷を追われ、香港にたどりつき、しかし不法滞在と位置付けられて苦しい生活を送る人々もいる。加えて返還を前にしてクローズアップされる国籍の問題も描かれ、なかなか考えさせられることの多い小説であった。その中で見えてきたのは、“国”がある前に、“人と人とのつながり”がある、ということであった。
フィクションとは言え、自分があまり知る機会の少ない問題に、思考を向き合わせくれたのは大きな収穫。もちろん、物語としても感動をもたらしてくれる、充実したものであった。
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イギリスから中国への変換が目前に迫った香港に帰ってきた主人公瀬戸和志。建築学勉強のための留学という名目だったが、本当の目的は3年前になくした恋人の死因をさぐるためだった。
中国共産党の手により香港から民主主義が消えていく、という社会情勢を縦軸に、和志の成長譚を横軸に、さらには国籍問題や難民問題、貧困層の生活描写なども色濃く反映しつつ、織りなされる物語は、想像していたものと全然違ってよい意味で濃い味つけで読み応えもしっかりしていた。
現実に起こっている香港の状況や事件、台湾や南インド洋における中国の覇権主義。何も中国だけが悪者でもないんだろうが、政治に翻弄される庶民の生活を考えるとたまったものではない。「日本は平和で民主主義で良かったな」と安どするのではなく、ほっておくと暴走して生活を脅かすのが「政治」だということを肝に銘じて、行動する必要がある。
といっても、デモに参加したり署名運動に加わったり、テロを起こせとかそんなことを言っているのではなく、信頼できそうな情報(まだマシそうな報道など)を客観的に分析し、政情がまだましだと思える方向に少しでも傾くように選挙に行こう、投票しよう。ってことだけ。
なんとも頼りなく思えた主人公が、成長し大変貌をとげる最終章に、「得体のしれない政情ってバケモノに対してでも、俺たちにも何かできることはあるはず」って希望を見いだせたのがとてもよかった。
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めちゃくちゃ良い/ 97年の、まだアナログだった時代の猥雑な香港の感じとか学生たちの生活感とか、空気が懐かしくてのめり込んでしまう/ 少年時代の恋人の死の真相を探ろうという大学生の主人公が普通の子で良い/ スーパーマンじゃないし、頭が抜群に切れるわけでもない/ 作品内のあらゆる事象に丁寧な振りがあって好感が持てる/ 主人公の名前ひとつ取っても、しっかり意味が持たせてある/ 後半のタクシー運転手とのやりとりも、大きなオチのフリに使っているわけだ/ かなり計算して色々決めたんだろうと思う/ 細かいところを抜きにしても、同じ屋上に住んだ二人の少女の心中を慮ると本当に切なくて悲しい/ ただ、最後の〝救い〟は賛否あると思う/ あそこで誰を救わなくても現実的な話としては有りだし、自分ならそうするかもしれない/
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香港の情勢や建築からの都市計画等、読み応えがあった。
この本の前に読んだ本が日本のアジア団地にも触れていたので、それもあってもか色々考えることはあった。
最後まで読んで「水よ踊れ」が「Leap like water」であることに成程と思った。
この方はの作品は「矯正医官」「数学者」「建築を学ぶ学生」と物語に添わせる専門の選び方が面白いなと思った。
ただ国家間の話で後ろ盾のない個人がそううまく行くかな、と思うところはほんの少しあった。
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いつも個性的な設定で、悩める主人公を登場させる。
返還前の香港で、過去を問い直す交換留学生(建築学)か。
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08月-20。3.0点。
香港返還前夜の1997年、建築を学ぶために留学していた主人公。数年前香港在住の際、好きになった女性がビルより転落死。留学の目的は、転落死の真相を探ること。。。
うーん。イマイチストーリーに乗れなかった。真相も意外にこじんまりと感じてしまった。
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1996年の香港。
13歳から17歳まで香港で暮らしていた和志は、その時に知り合った彼女の死が忘れられず、大学での交換留学生として香港へ。
そこで、彼女の死の真相を調べる。
これは、政治が絡んだ事件だった。
すべて政治で決まる。
殺人事件をなかったことにするのも…。
とても複雑な流れではあったが、結末を知ると納得できる。
どの時代であっても、すべて政治で、ものごとは決まるというのも世の中の常なのかと思うとやりきれなさを感じた。
読みながら2003年1月に香港へ行ったことを思いだした。
香港のイメージといえば、狭い場所にやたらと高くて細長いビルが建ち並んでいる…窮屈で閉塞感を感じたように思う。
一方で、道を外れるとスラム街ともいえるようなところもあり、もう一度足を踏み入れようとは思えなかった。
今は、あの頃に比べて変化しているのだろうか。
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乗ってくるまでが長かった。
香港語、香港情勢、建築の知識などが多く書かれており、読むことに体力が要った。
「周りは自分の意思に従って、リスクがあったとしても行動を起こしているが、自分は全然大した行動ができていない」というような主人公目線の描写があったが、彼は十分すぎるほど勇敢で、自分の正義に従った行動を起こせてるよ。って言ってあげたくなった。