紙の本
昔むかしの物語り
2021/03/26 13:25
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投稿者:かずさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史・時代小説の作者が日本の昔話を題材にしオリジナル要素を加えた物語り。
読み始めれば、そういえばこんな昔話を聞いたことがある。テレビで見たよね。誰かに読んでもらっていつのまにか寝ていたよ。はるか遠き時代を思い出しながらも結末は作者のオリジナル。忘れかけてしまった話、忘れてしまった事。でも大切な事を思いだ出せてもらえる。雲上と雲下をつないでいたものそれは読む人の心の奥に残っているもの。末尾の解説も丁寧に作品の核心をとらえているし読者の心をも捉えている。でも解説は最初に読まずに最後に読むべき。しかり。子ぎつねの話への合いの手「あい」「あいあい」に何か穏やかさを感じた。
紙の本
物語は語り続ける事によって生き続ける
2023/09/22 08:40
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投稿者:トマト - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語は語り続ける事によって生き続ける。
どんどん、語られていく物語が減っていくと、その中で生きている登場人物・動物たちも減っていく頃になる。大人から子供へ、語り継がれることによって存在続けることができるのですね。納得。時間だけに追われ、コスパばかりが重要視される社会なんてつまらない。じっくり一つの事に時間をかける贅沢を味わうが如しです。
紙の本
物語はどこからやってくるのか…。
2021/10/20 21:44
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投稿者:ツクヨミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「草どん」は微睡の中にいる。そこへ山姥が怪我をした子ぎつねを連れてくる。子ぎつねがお話しを強請る。仕方なしに「草どん」は「昔あるところに…」と物語を語る…。
中央公論文芸賞を受賞した作品だそうだ。
例えば、私は子ぎつねだ。眠りに落ちる前に物語を聴く…それは終わりの無い物語だ。草どんの語る物語を、子ぎつねと山姥が聞く…。
物語は何処から来るのか?物語を語るということにどんな意味がるのか…それって、小を書く小説家自身の疑問であろう・。
最後のへんの「草どん」の素性の辺りは、もしかしたら無くても問題なかったかな?とおバカな読者は思います。草どんには、草どんでいて欲しかったなと…彼なら私達のようなつまらない者どもの物語をも語ってくれるのかなぁと…。
「草どん」が記憶回復した後は、普通の小説になってしまいますが、それまでの自分を失った「草どん」と子ぎつねや山姥とのやり取りは、私の眠い頭に心地良い刺激でした。物語が生まれることを物語にした、というところが凄いんでですよね。
尻尾の欠けた、ちょっと小生意気で、でも甘えん坊の子供の子狐が、とても可愛くて、美しくて、読者を物語の世界に案内してくれます。
読んで損の無い小説だ、と私は思いました。
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投稿者:イシカミハサミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
難しいことをしたなあ、という印象。
民話×小説。
連載での初出ということで、
ちょっと見切り発車的な感じはまあ仕方ないか。
物語の持つ力を表現したように見えるけれど、
最終的に表現がかなり直截的で、
民話ではないけれど、小説でもなくなったような。
もうちょっと創作的な表現で読みたかったかな。
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草が山姥と狐の子に民話をベースにした物語を語って聞かせる物語、と思いきや最後には神の存在を揺るがす展開に。日本昔ばなしも放送されない今、自分の子どもたちもあんまり民話を知らないのかも、と考えたらものすごくもったいない気がしてきました。
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子狐にせがまれるまま、草どんが語る昔話の数々。
子狐の「あい」という合いの手がほのぼの。
後半からの展開は流石。懐かしくもあり、悲しくもある。
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初めのうち、草どんが子狐にひたすら昔話を語るお話かと思ったんですが…読み終えてみたら、いやはや、雄大というか壮大というか、とても大きくて深いお話でした。確かに今の世の中、おばあちゃんのそのまたおばあちゃんから口伝えで伝わったお話を知ってる人の方が少ないでしょうし、元のお話が持っていた残酷さもきれいに削られて「めでたしめでたし」なお話になっているとも聞きます。こどもの育ちのためには多少の痛みやいやな思い、残酷さや少々の毒気も知っておくべきとは思うのですけどねぇ。神様はいないのではなく、人が信じて初めて存在するのだと改めて思いました。
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「物語が世界から消える?」
昔、むかしのそのまた昔。
「草どん」が子狐や山姥に語る「昔話」
物語が消えてしまう世界はどうなってしまうのか。
「草どん」の本当の姿は。
雲上から雲下へ降りてきた存在は。
壮大で「語る」ことの大切さを感じる1冊
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時代・歴史小説の名手朝井まかてさんが挑むのは、物語の根源に迫る物語。ほのぼのした話かと思いきや、話の構造が露わになってくるとともに、物語の壮大さに驚かされました。
始まりは日本昔話と童話を掛け合わせたような、なんとも可愛らしい出だし。永い時間を生きたらしい草の元にやってくる子狐。その子狐は草のことを「草どん」と呼び、何か話を聞かせてくれるようせがむ。記憶もない様子の「草どん」だったが、なぜか徐々に物語が内側から湧き出てきて……
草どんが語る物語はどこか懐かしい。おむすびころりんや浦島太郎といった日本の昔話を思い起こさせるものがあるのもその理由かと思いますが、お経を読む猫、タニシを産んだ老夫婦など、奇想天外な話も、とぼけ具合や、優しさ、善人や正直者が報われる結末など、そうしたものもまた日本の昔話らしさがあるからかもしれない。
そして草どんの元には、子狐以外にも山姥や、小太郎という子どもが現れ、そして草どんの語る物語は変質し、草どんの世界に交差していく。
草どんたちはいったい何者なのか。そして草どんが語る物語たちは、どこからやってきたのか。そして明らかになるのは、今ここにある物語の危機。民話と伝説が一体となったような不思議なこの『雲上雲下』という小説は、最後の最後に読者のいる現実世界にまで舞い降りて、この世界の危機を明らかにしてしまう。読んでいる時は、超展開にポカーン、としてしまったのだけど、読み終えて時間が経つごとに、この物語の真意なるものが、じわじわと心に迫ってくる気がします。
世の中にあまたある情報は便利で効率がいい反面、空想も想像力も、物語にワクワクする心も、物語の登場人物たちに心を寄せる感動すら奪いつつあるのかもしれない。そうした余裕のない心で、どこまで他人を思いやることが、世界を思いやることができるのか。
物語が脈々と受け継がれた意味、それは人が人の心を伝えるためのものなのかもしれない、人は、そして自分はなぜ物語が好きなのか、それを改めて考えさせられる、作品でもありました。
第13回中央公論文芸賞
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知ってる話や知らない話。昔話を、朝井まかて流に語りなおした作品なんだな……と思って読み進めていったら、やがて、「物語とは何か」という壮大なテーマに流れ着き、満腹になった。ただのほっこり系連作短編集かと思いきや、大満足だった。
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章ノ一・小さき者たち
草どんと、子狐/団子地蔵/粒や/亀の身上がり/猫寺
章ノ二・勇の者たち
通り過ぎる者/お花/湖へ/小太郎
章ノ三・物語の果て
草どんと、子狐と山姥/神々の庭/空の下
長い年月、何をすることもなく目の前の景色を眺めて時を過ごしていた草どん。「お話し」を語り始めれば、次々と想いの底から浮かんでくる。
まさかのファンタジーを楽しく懐かしく読んでいたのに、もう終わってしまった。
世界は少しずつ変わっていくけれど、変わらないものが一つでもあれば、それはとても嬉しいことでした。
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ミヒャエル・エンデさんの
「はてしない物語」の中で、
主人公のセバスチャンが、
ある一冊の「物語」を読んでいくうちに、
その物語の中に入り込んでしまって、
あの愛嬌のあるファルコンと一緒に
旅を続けていく中で、
とてつもない経験と、
とてつもない勇気を
身につけていく…
あのセバスチャンの「奇跡」の感覚が
この「雲上雲下」を読みふけるうちに、
自分自身に起きていることに
感動してしまいました。
なんと面白く
なんと壮大な
なんと身に沁みてくる
おもしろき「物語」でありましょう!
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ゆっくり、いいペースで読んでいたら、
図書館の返却日が近くて返却。
夜に誰かに読んでもらってるかのような
昔話のようでよかった。
南の海に憂鬱が訪れた、とか自分好みの文章だった。
最後まで読みたい。
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「草どん」を語り手とした、皆がよく知る童話をベースの物語かと思いきや、「草どん」が語る現在進行形で、物語が挿し込まれ、さらに「草どん」を主人公とした物語が全てを包み込む、という複雑な構成。そこには、物語の無くした現代人への問題提議が含まれる。もう一度、じっくり読み直そうと思うさ
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子狐が、森の「草」にお話をせがむ。
草といっても、大きな木のような不思議な植物だ。
最初はうるさそうに、短い話をしてやるだけの草。
しかし、なぜか自分の内部から物語がよみがえってくる。
物語内物語が次々と展開する。
贅沢なつくりだ。
これはもう、面白くなるはず。
山姥が、子狐が、最後に「草」が、語る物語を通して、自分が何者であったのかを見つけ出す。
最後はちょっと文明批評のようだった。
物語が、不思議が存在できない現代日本を批判する。
ちょっと『平成狸合戦ぽんぽこ』的な雰囲気を感じたが…。
物語を読む楽しさを思い出させてくれる一冊。