人にはそれぞれの人生があり、それには優劣はない
2021/12/07 16:07
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「そういえば、そういう奴もいたな」、同窓会などでよく出る会話の場面だ。
だが、そういう目立たない人でも、深い人生があり、社会のいろんな場面で活躍していることもある。
前列で目立つばかりが人生ではない。
後列にいても、「人や組織を支えた人々」がいる。
「人は誰しもこの世界に生存の爪痕を残したいと思うときがある。しかし、生き急ぐ必要はない」と、この本の「はじめに」で著者の清武英利さんは書く。そして、こう続ける。
「良く生きた人生の底には、その人だけの非凡な歴史が残るものだ」と。
この本で紹介されている18人の無名人たち。
その人たちは、少しばかりの縁のつながりはあるが、ほとんど関係はない。ただその人たちの人生を並べると、戦後の日本の歴史につながっていく。
日本軍のテストパイロットだった父はテスト飛行中に殉職。そんな父を持つ息子は戦後「ロケット班長」と呼ばれるほどにロケット開発に携わる。
その関係で登場するロケット博士糸川英夫教授とその晩年をともに生きた女性。
あるいは、無名の相場師の生きざま。
さらには、ベトナム戦争にかかわった写真家。
清武さんの代表作でもある『しんがり 山一証券最後の12人』で知己を得たであろう元山一証券の女性社員の、「四つの生」と章題のついた壮絶な人生。
または、東日本大震災時の原発事故以後に東京電力に入社した男の仕事観。
名もない人たちであっても、「最後まで姿勢を正して生きんといかんな」という言葉の意味は大きい。
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【ひっそりと佇む姿から見える希望】最前列ではなく後ろの列の目立たぬところで人や組織を支えてきた人々の物語。良く生きた人生の底にはその人だけの非凡な歴史がある。
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登場人物達の生きた時代、大変な時代だった。1938年生まれの小生は彼らと時間軸がやや重なるところがある。特に森下氏のけちの話もうひとつ別の本で二人でタクシーに乗った時目的地直前に用があると言って下車した後目的地に歩いて行った逸話を思い出した、タクシー代を相手払いにさせた話を思い出した。
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無名人の戦後史という副題が内容を表している。6章18話だが、各話がすべて独立というわけではなく、関連している話もある。また、後列はいえ、最前列ではないだけで前の方の列と言えるとい思う。
それだけに各々に話になるだけの人生があって、物語になっているのだ。そして、いずれもが一生懸命に生きていることがよく分かる。
こんなに必死なのにこれしか報われないのかと読むか、苦労を超えて一生懸命働くことが立派だと感じるか、読者によって感じるところは様々であろう。
人生いろいろではあり、自分の周囲だけではわからない世界を知ることは意味がある。いろいろな人がいるのは面白いというか価値の大きさを改めて感じた。
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最前列ではなく、後列の目立たぬところにいて、人や組織を支え、しかも一本筋が通った人たち。そんな人たちにスポットライトをあて、残した爪痕や非凡な歴史をあぶり出す。
18編から成り立つが、その主な人物像を列挙しておく。
・戦時下、事故死した戦闘機のテストパイロット
・特攻隊員が散華の前夜に宴を張る旅館で世話をした女将
・トヨタ生産方式を最初に実践することになった第一期養成工
・終戦後、ベトナムに残り戦法や規律を伝え尊敬されながらも、ベトナム戦争に巻き込まれ祖国に帰れなかった残留日本兵
・ベトナム戦争に従軍して戦争報道に身を投じ後に沖縄基地問題を世に訴えた無名の戦場カメラマン
・山一証券自主廃業の裏で真相究明のため最後まで社内に残った「後軍(しんがり)」と呼ばれた社員
・福島原発事故後に東京電力に入社、バッシングを受けながらも矜持を持って働く「ハイデン(配電)」作業員
逆境にもめげず、己の信念を貫き通すたくましさに畏怖の念を抱くと同時に、さりげない記述ながら、さらなる後列で彼らを支えた女性たちの懐の深さも心を打つものがあった。
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最前列ではない日の当たらない、市井の人々の人間模様を描いた傑作。
目立たぬ後列で組織や社会を支える人たち。実はそんな人の方が多いことを中気づく年齢にいつの間になっていた。もちろん自分も含め。
本書は「文藝春秋」に連載されたもの。筆者の十八番のサラリーマンもので多くはバブル崩壊が出てくる。
それぞれの登場人物の仕事と人生に対する矜恃が胸を打つ。そう自分の今の境遇を比較して至誠に悖るところ努力に憾みはないだろうか。
人生に前向きなれる大きなパワーを持った本。
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会社破綻時の山一證券業務管理本部、福島原発事故三週間後入社の配電保守担当作業員さんなどの話が印象に残りました。組織の人とひとくくりに見らることは仕方ないものの、ひとりひとりに焦点を当てれば、組織そのものの名に頼るわけではない上司部下、同僚、取引先、家族などを通じた独自の物語があることに感心し、いつかそう振り返りができるように生きているかなあと、反省し新年に読むには良い本でした。
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最前列ではない人々に焦点があてられているところが、好感を持てた。
戦時下のパイロット、ベトナムでの戦争孤児の人物も懸命に生き、誰からも慕われていることがよく分かる。
中でも、山一證券の面々は、損と分かっていても残り最期を見届けた人たちだ。自分がその立場だとしても、きっと同じことができない。本当に頭が下がる思いだ。
他にも東電社員の話、巻末の土地鑑定士の話も丁寧に書いてあり、自分たちの置かれた状況で勤め上げる矜持を感じた。
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後列かどうかとか言うのは別として。最後の東電の話が一番響いたのは世代が近いからか。かな。なんだろう、時代が違うのはわかるのだけど。感情移入できたのはベトナムに帰って豆腐を作る話くらい。読む時期が悪かったかな。
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著名人の陰で実務に徹したいぶし銀の人々の功績の話、はかりではないのでそういうのを期待するなら間違いだが、文字通り無名の、この本でしか取り上げられないような知られざる人について書かれた読み物で、それなりにおもしろい。著者は後から奥付を見たが元読売新聞だそうで、言われてみればまさしく文章が読売調だなぁとおもった。
糸川英夫と晩年のロケット開発の陰にいたトヨタの赤塚氏、伴侶アンさん。相場師六本木筋こと長谷川陽三と桑名筋こと板崎喜内人(きなんど)の話は興味深かった。
偉い人の一方的な長話を以下のように解釈して飲み込むアイデアは頂きである。
P61 80歳近い老人(糸川博士)が「ちびまる子ちゃん」を見てイノベーションを説いている。なんかすごいなと思っていると、散々しゃべった挙句「じゃ切るわ」【中略】(政府の失敗や日本経済の挫折は三重県津市の小さな工務店主である赤塚には)落ち度もないのに怒られる。反論もできないのでサンドバック状態である。そして一時間ほどして「あなたにこんなこと話してもしょうがないけどね」と電話を切ってしまう。なぜ俺なんだ、と時々思うのだが、大先生の公演は一時間で最低五十万円もするから、五十万円をもらったとあきらめるしかない。
P135 敗れても敗れても相場を張る狂気のうちにこそ、最後の相場師は生きがいを感じるのだ。
P141 三十億五十憶というのは枝葉のことです。自分が使いきれん金をいくら持っとっても同じです。紙切れも一緒です。【中略】玄人と素人の差は利食いをいかに我慢できるかだ。【中略】(経営者とか投資家とか)そんなものではない。相場師だ。
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歴史に名を残すような人ではないものの、日本の社会で生きた無名の人18名にスポットをあて、それぞれの人の人生について取材した本。
どの章も短く読みやすくできている。東京オリンピックの選手村の土地安すぎではないでしょうか?
翻弄される人生の裏に国家や政治、大企業の思惑がある。
それはノモンハンで戦車のキャタピラの犠牲になった日本軍兵士のようである。
ところで清武さんって読売巨人軍元オーナー代行ではありませんか!!
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無名とは言いながら、無名ではない確かな足跡を残した人々。
戦争の神様「ただ、今を生きていこう」の當間元吾さんの人生など本当に大変だったろうと思いました。
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いつもながら読みやすい。市井の人たちの人生に光をあてた本作は読みやすく、著者の温かい目線も感じる。著者の本はいつもながら読んでいて気持ちがよい。大いに楽しみながら読むことができた。