医師の立場からコロナを語る内容です
2022/02/23 12:24
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投稿者:広島の中日ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
東京でコロナと戦った、現場の医師の立場から自らの行動を、2020年1月から月ごとに振り返る1冊です。
医師の立場から、政府などのコロナ政策への不満を述べる記述が、かなり説得力ありました。また、著者がかなりの読書家で文学好きであることも分かる内容でした。それを証拠に、様々な文学作品の記述が、文面にちりばめられています。
保健所の最前線が体験したコロナ禍の実像
2024/11/19 16:41
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投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
保健所という組織をコロナ禍が拡大する以前は、食中毒などが発生した時に対応する組織といった程度で、それほどその存在を意識しなかった方も多いのではないでしょうか。
ところがコロナ禍の拡大とともに保健所は感染拡大防止の最前線に駆り出され、疲弊する状況となります。本書はコロナ禍の中で、東京都の公衆衛生関係部署の課長と特別区の保健所課長を経験された著者が書き記す、コロナ禍における保健所業務の実態を詳細に記録した1冊です。
2020年の感染第一波から昨年秋の第5波まで、時系列に沿ってその時に”何が大変”であったかを詳しく述べておられます。
当初都の担当部局にはFAXが1台しかなく、感染拡大とともにFAXによる発生届の送受信が滞り情報の共有が遅れた、赴任した保健所では感染者の情報を当初は手書きのホワイトボードで管理していたため癖時で読めない、書き間違いなどが多発し、そのホワイトボードを写真で撮ってデータとして保管するという原始的な手法だった等、のIT化の遅れに関する記述や、宿泊療養の調整においてはペットの存在を理由に頑なに拒む人、脱走しようとする人、療養中留守の間に泥棒に入られたら責任を取れと恫喝する人、などなど「そんな事まで保健所の職員が対応するのか!」と驚きを禁じ得ない内容でした。
本書にも「保健所は行政サービスと医療サービスとの合間にある中途半端な組織である」との記述の通り、それ故にどちらが担当するかグレーな案件を全て保健所が背負い込むことになってしまったのが保健所疲弊の一因のようです。
次の一文は昨年GW前後の状況を述べたものです。「去年からの切れ目ない対応に、いい加減疲れたという不満。オリ・パラ開催開か否か、煮え切らない政府への不満。開催された場合、到来するであろう感染第5波に対する不安。ワクチン接種以外に対策が何もない事に対する不安…。こんなに常識の通用しない、不安定な状況で最前線に立たされ続けている保健所にいる職員にしてみれば、とにかくここから逃げ出して、1,2か月どこかでぼーっと過ごしたいと思うのは自然なことだろう」
保健所がいかに疲弊していたかを物語る一文だと思います。
慢性的な公衆衛生医不足(医師全体のうち、行政機関に勤めるのは1%以下)という事実も含め、今回のコロナ禍の経験を活かし、長期的に続いて来た保健所組織の合理化、縮小化も再考する必要があるように感じました。
保健所の最前線が体験したコロナ禍の実像
2023/12/06 17:51
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投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
保健所という組織をコロナ禍が拡大する以前は、食中毒などが発生した時に対応する組織といった程度で、それほどその存在を意識しなかった方も多いのではないでしょうか。
ところがコロナ禍の拡大とともに保健所は感染拡大防止の最前線に駆り出され、疲弊する状況となります。本書はコロナ禍の中で、東京都の公衆衛生関係部署の課長と特別区の保健所課長を経験された著者が書き記す、コロナ禍における保健所業務の実態を詳細に記録した1冊です。
2020年の感染第一波から昨年秋の第5波まで、時系列に沿ってその時に”何が大変”であったかを詳しく述べておられます。
当初都の担当部局にはFAXが1台しかなく、感染拡大とともにFAXによる発生届の送受信が滞り情報の共有が遅れた、赴任した保健所では感染者の情報を当初は手書きのホワイトボードで管理していたため癖時で読めない、書き間違いなどが多発し、そのホワイトボードを写真で撮ってデータとして保管するという原始的な手法だった等、のIT化の遅れに関する記述や、宿泊療養の調整においてはペットの存在を理由に頑なに拒む人、脱走しようとする人、療養中留守の間に泥棒に入られたら責任を取れと恫喝する人、などなど「そんな事まで保健所の職員が対応するのか!」と驚きを禁じ得ない内容でした。
本書にも「保健所は行政サービスと医療サービスとの合間にある中途半端な組織である」との記述の通り、それ故にどちらが担当するかグレーな案件を全て保健所が背負い込むことになってしまったのが保健所疲弊の一因のようです。
次の一文は昨年GW前後の状況を述べたものです。「去年からの切れ目ない対応に、いい加減疲れたという不満。オリ・パラ開催開か否か、煮え切らない政府への不満。開催された場合、到来するであろう感染第5波に対する不安。ワクチン接種以外に対策が何もない事に対する不安…。こんなに常識の通用しない、不安定な状況で最前線に立たされ続けている保健所にいる職員にしてみれば、とにかくここから逃げ出して、1,2か月どこかでぼーっと過ごしたいと思うのは自然なことだろう」
保健所がいかに疲弊していたかを物語る一文だと思います。
慢性的な公衆衛生医不足(医師全体のうち、行政機関に勤めるのは1%以下)という事実も含め、今回のコロナ禍の経験を活かし、長期的に続いて来た保健所組織の合理化、縮小化も再考する必要があるように感じました。
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途中まで読んだものの半分過ぎでギブアップ。
医療関係者の備忘録のようになっており、専門用語が頻出するため一般人は読んでいても内容が頭に入らないのでは。
大変なのはわかるし発行にも意義があるとは思うけどね…
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第一波から第五派までの医療現場の状況について書かれている。つまり2020年初めから2021年中頃まで
保健所の組織体制
公衆衛生医師が他の業務に追われて専門に集中できない
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イワケンブログから。不通に並んでいても手に取りそうなタイトルだし。このコロナ渦における保健所の過酷さは、想像するに余りあるけど、その実情が生々しく、でも絶妙な脱力加減で綴られる。本書に触れた今現在、桁違いの第6波拡大傾向の真っ最中。5波からの数か月の谷間期間、特に体制が見直されるでなく、おそらく殆ど以前のままに今回を迎えたことになるんだろうけど、本書を機に、可及的速やかに制度の改善が進むことを祈るばかり。
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保健所と東京都庁の感染症対策部門の課長としてCOVID-19(新型コロナ)への対策に立ち向かい、第一線で指揮を執り続けた公衆衛生医師による記録。
第1波などの感染者数のボリュームがあがった時期をひとつの章とし、3月・4月・5月など月単位を節としてすすんでいきます。とはいえ、そういったまとまりには縛られない箇所は多く、その節ではじめて持ちあがった制度やHER-SYS(コロナ陽性者のデータ管理システム)などのシステムが、その後どういった経路をたどっていったか、などがある程度のまとまりとして一挙に記述されていたりします。なので、ああれもこれもと目白押しのように様々な改善や問題が押し寄せてくる中、そのどれもを覚えながらその都度また浮上してきたときに「ああ、あれだったか!」と淡い記憶のなかから引っ張り出さなくてもついていける作りになっています。
それでも複雑といえば複雑に感じる部分はあるのですが、それだけ都庁や保健所での本来の現実の状況が、支離滅裂に近いほどキャパをはるかに越えた極限にあり、追体験的な形式で書いたならばその大変さは伝わるかもしれないですが、脱落してしまう読者がでてくるので、こういった、ある程度まとまった単位の連なりといった体裁になったのかもしれません。
さて。保健所は第1波からもう大変なんです。今振り返ると、第1波の感染者数はそれほどでもなかったような気がしてくるのですが、新型コロナとの出合い頭の時期ですから、まったく楽ではない。新型コロナはそれまでに類のない感染力と症状の強さがあり、何よりどういうウイルスかまるでよくわかっていない。そんな新型コロナへの対応は、前例にならうというよりも(3密回避などはペストの時代が参考になるものではありましたが)、そして同時進行なので他国のやり方を参考にするというよりも、自らでやり方を創造していかないといけなかった。現場担当のやりくりの仕方、それはマスコミ対応に現場を指揮すべき者がとられてしまうなどといった非効率な有り方を変更してもらう働きかけなんかもあるのですが、そういった適材適所的に対応する態勢作りから始まります。しかしながら、他の部署との兼ね合いから改善できなくて苦しい思いをし続ける仕事もしばらく残り続けたりする。なかでも、日勤後の深夜、救急隊からの電話への対応などでの消耗は痛々しい。
また、パンクするほど忙しい、都庁の感染症対策部署や保健所では、その人員で処理できる仕事量をはるかに超える仕事が舞い込むわけです。暴力的な仕事量、とも書かれています。職員のなかにはメンタル不調におちいる者を珍しくないくらいだったそう。そこで、医療の人材派遣会社から看護師が派遣されてくる。そういった医療での民間の余剰戦力みたいなものがあるなんて、知らなかったです。ワクチン接種の時も、引退したり退職したいりした看護師さんが一時的に復帰してやってくれているのか、と思っていましたが、人材派遣会社があったなんて。でも、平時だったら、職に定着できない看護師さんだったりするのだろうか。一般職の人材派遣のように、社会に世知辛さを感じていた人たちだったのかなぁと思いもしました。
ホテル療養者になる人や自宅療養者になる人への対応の箇所など、さまざまなケースがあります。枕が変わると眠れないからという人や、閉所恐怖症でホテルの部屋に入れないという人など、読んでみると現実を思い起こして「そういう人はいるだろうな」と思い当たりもするのです。でも、そういう人たちに出くわしてみるまでは想像がつかないケースだと思うんですよ。職員たちは、そういった人たちとも話を重ねて解決策や妥協案を導き出してちゃんと療養かつ隔離の方向へもっていく。
今回の読書で大雑把にですが、これはほんとうに自分が考えたこともなかった新しい知見だなぁと、ちょっと恥ずかしいのですが気付かされた点があります。それは日本という国のなかに住む人々の層は、なかなかに複雑だということです。極端なところだと、予防策を取らず、アクティブに行動する層があり、そういった層は感染しやすい。また真逆に、予防策を順守する、まず感染しない層がある。具体的には、高齢者の介護施設の層があるし、夜の歓楽街の出入りが激しい人たちやそこで働いている人たちの層があり、反社会的勢力の層があり、そういった層とは無縁の層がある。第○波ごとに、感染のはじまりや広がりに特徴的な層があったみたいです。第1波はセレブだとか、海外を飛び回っているだとかで、第5波はオールエントリーみたいになってきていた。社会って複雑な人流があって、それぞれ棲み分けているのか、っていうイメージは今回もしかするとはじめてはっきりと意識することになりました。
それと、感染症法について、コロナ陽性になったとき、過去14日間の足跡の報告を怠ったり虚偽の報告をした場合、30万円の罰金が科せられ(暴行罪と同じ金額)、入院中に脱走したら50万円の罰金が科せられる(傷害罪と同じ金額)ことは初めて知りました。
現在、第6波が最大の流行をしていますよね。保健所の職員は大丈夫なのだろうか、と本書を読んだ後だと背筋がぞくぞくしてきます。東京都では1日に2万人くらいの陽性者が出て、都民の100人に1人が自宅療養者になっている計算になるとどこかの記事で読みました。これ、対応しきれないのではないかと。非常にまずい状況なのは間違いなく……。
アメリカなんかは、コロナへの対応を緩和しているという話をツイッターで聞いたものですが、これって「コロナにはお手上げ」対応しただけなんじゃないか、と。日本の場合、それをやると、医療も保健所もパンクしてしまう。
いろいろと嫌な想像をしてしまいます。一生コロナに罹らないでいるのは不可能だとWHOの誰かが発言したようですが、弱毒化して風邪くらいになればまだいいです。現在主流のオミクロン株は従来より弱毒化したなどと当初言われましたが、ツイッターを眺めている感じではそんな生易しいものではないみたいで、症状が出るとインフルエンザよりもずっとつらくて特に高齢者や基礎疾患のある人にとっては命の危険があることには変わらないようです。とはいえ、情報もさまざまなものが流れていて、どれを信用しようかよくわからなくもなる(まだまだコロナの正体はわかっていないから錯綜します)。そして陽性者が膨大なので、それだけ分母が大きくなると重症者や死者も増えてきます。医療のひ���迫も相当なものです。
緊急事態宣言や生活面での規制でみんな「もういい加減、いやになってきたな」と飽きあきしてきた今、もしかすると最大に危ないのではないか。このまま集団免疫まで突っ走って一度おさまったとして、またインターバルをおいてから同じような流行が繰り返されたりしないのだろうか(何度も陽性になる人がいますから、そう考えることもできます)。
というように、気持ちが暗がりへ転がっていきそうになるところで、もうやめておきます。こういった厳しい状況でも、人のために粉骨砕身はたらいてくれた人たちの記録、つまり本書から、どんなときでもくじけない強い気持ちを人間は持ち得ることを思い起こしながら。
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保健所からの視点のコロナ記録。
保健所が疲弊しきっていることは
安易に想像できていたけど、
実際のところを知りたかったので
読んでよかった。
使命感、責任感をもって働いている方。
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3月に、コロナ支援業務(ホテル入所調整)に派遣されることになったため、読んでみようと思い購入。結果派遣期間が1週間に短縮されて、読み終えたのは派遣が終わった後ではあったが、コロナ業務に携わったからこそ、わかりみの深い話がたくさんあった。
自分は発生届やHER-SYS IDを基に、LTレコードというカルテのようなものを作成する作業をしており、これのシステムが遅くてイライラしていたのだが、2年前はこのシステムがそもそもなく、FAX1台で対応していたり、システムができても不備だらけだったりと、今とは比べ物にならないくらいひどい状態であることが分かった。
毎日日付を超えてタクシーで帰る人もたくさんいるが、本来医療機関の行うべき医療業務まで保健所や都の窓口が担っているために、こんな業務量過多なのだと本書を読んで知ることができた。医療業務は医療機関、保険は保健所が担うのが本来なのである。
次なる新興感染症が来た際に自分が担当することになるかもしれないし、はたまた災害復興などの分野で、このような戦場を経験することになるかもしれない。そんな時、この本の教訓が活かせたらと思う。
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コロナの流行は続いているにもかかわらず、なんでもなかったかのような空気g広がりつつあって、ご機嫌もよく、お元気な方たちにとって、それはそれで、いいのかもしれませんが、ひょっとして、他人ごとではないのですが、年寄りや貧乏人がひっそりと「淘汰」される社会が幕を開けているのではないかとという、疑いというか不安というかを実感する今日この頃ですが、騒ぎの始まりから今日にいたるまで、無責任なSNSメディアで悪く言われ続けていた「保健所」の中間管理職の方の誠実は現場報告書である本書に出会って、少しホッとしました。
あれこれは「ゴジラ老人シマクマ君の日々」というブログに書きました。お読みいただければ嬉しいです。
https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202204250000/
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コロナ前の保健所は何をしていたのか、コロナ禍の保健所は何をしているのか、戦う相手はウイルスだけではない、など現場では何が起こっていたのかがよく分かった。今後の教訓として大変参考になると思う。
本書は2021年9月までの出来事を記録したものなので、コロナが落ち着いたら第二弾も読みたい。
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保健所所員は24時間勤務体制じゃない。
消防署や病院の病棟は24時間体制だけど。
そこんとこは肝に銘じないと。
この人たちが、枕を高くして寝れる日が来るのだろうか?
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散文的ではあるが、著者の目的が書き残しておくということなので、未整理な感じもまた味かも知れない。かなりオブラートに包んだ表現だなと裏読みできる箇所も多く、リアリティがあった。リソースそのままで仕事を増やす、お役所のやり方の話でゆーと、国民の命が直接的に関わってるだけに、文科省より切実だなあと思った。
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公衆衛生医師として、東京都の区の保健所や都庁に勤務された(されている)著者の実体験を通した貴重な記録。コロナ禍において保健所がどのような使命でどのような対応をしていたのかがリアルによく分かる…とともに著者を始め対応にあたられた職員の方々に頭が下がる。そして、いつも日本はこのような「現場」の人たちの奮闘により支えられているのだと改めて思うとともに、現場力がありすぎるゆえの日本の弱さも垣間見られるように思う。…要はかなりの力作。ゴーストライターではなく基本的にご自身で書いていらっしゃると思われ、文章も上手い。
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〇新書で「コロナ」を読む⑤
関なおみ『保健所の「コロナ戦記」』(光文社新書、2021年)
・分 野:「コロナ」×「保健所」
・目 次:
はじめに――ミッション・インポッシブル(もしくは、闘う公衆衛生医師)――
第1章 第1波 2020年1月から6月まで
第2章 第2波 7月から11月まで
第3章 第3波 12月から2021年3月まで
第4章 第4波・第5波 4月から現在
最終章 残された課題
巻末特別対談 「病院から見たコロナ×保健所から見たコロナ」
あとがき――叶えられた祈り――
・総 評 :
本書は新型コロナウイルス感染症が拡大する中、その拡大を少しでも抑えるために奮闘した保健所の動きをまとめたものである。著者は公衆衛生医師として都内の保健所に勤務しており、コロナ対策にも従事した人物である。
なぜ、コロナを前に保健所は機能不全に追い込まれたのか――実際に現場で戦った著者によれば、そのポイントは以下の3点にまとめられる。
【POINT①】新型コロナウイルスという「新たな感染症」との戦い
従来、都の感染症対策は、数は少ないが影響が重大な感染症を念頭に「水も漏らさぬ対策」を重視してきた。従って、一例ごとの丁寧な相談や対応・調査を得意とする反面、マネジメントやシステム化、デジタル化の推進は苦手であった。そのため、新型コロナという「個別で追い続けるには数が多過ぎる感染症」に対応できなかった。さらに、本来であれば陣頭指揮を執るべき課長級医師も、マスコミ対応や議員対応といった「本来の専門性を活かすべき業務以外」の仕事によって疲弊していたと指摘する。
【POINT②】政治に翻弄される行政の苦悩
例えば、陽性者のデータを管理するシステムは、常に陽性者が多い東京都が国に先駆けてシステムを作った。しかし、その後に国が全国的なシステムを構築し、双方のシステムが統合できない状態となった。その結果、現場では同じデータを複数のシステムに入力しなければならなかった。また保健所の業務が逼迫すると、応援の人員が派遣されたが、受援体制を十分に構築する余裕がない中、派遣された人員を上手く活用できなかったり、かえって人間関係が拗れるなどの問題が発生したりしたと指摘する。
【POINT③】保健所(行政)と病院(医療)の境界をめぐって
本来、感染症対策における保健所の役割は「感染拡大予防」と「感染源対策」であり、陽性者の状況把握や療法方針の決定は「診断を行った医療機関」の役割であった。しかし、実際は、感染症法において「2類相当」と分類されたこともあり、陽性者からの聞き取りや療養方針の決定までも保健所が行わなければならない状況であった。保健所の業務を正常化するには、医療でカバーできるものは医療に回すべきであり、ある程度のところまでは医療側の裁量で判断できるように仕組みを変えるべきだと指摘する。
読書や映画鑑賞を趣味とする著者の筆致は、冷静であり、時にコミカルでもある。だが、その根底にあるのは、保健所に勤める公衆衛生医師としての「(静かな)怒り」である。即ち、コロナ対策に全力を傾けなければならない中、自らの専門性を活かせず、非効率で筋が通らないことが罷り通っていることに対する怒りである。
私たちが(まず)できることは、現状を正しく理解することである。保健所の業務が逼迫しているというニュースを目にした人でも、実際に保健所で行われている業務を詳しく知る人は少ないだろう。そうした人たちにとって、本書は非常に分かりやすい入門書になるはずである。
(1200字)