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一度声を上げてしまえば、それまでの生活には戻れないかもしれない。被害にあった側が時を経て告発に至るには、とてもとても高いハードルがあるのだなと。
当たり前みたいに性加害をしてきたボーイズクラブの仕草や反抗が似てるってことは、それが彼らのやり方としてある種共有されてたのだろうなと思って気が遠くなる。
「被害にあった側が」「恐怖を乗り越え」「真実であることを厳密に証明する」まで信じないことを“冷静で論理的で正しい”かのように認識してしまっている社会はやっぱおかしいよと思ったし、性加害の話題をネタにできると思ってる我が国のアーティストが「アップデートしてやり直します」っていうのは随分呑気なもんだなと思った。
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誤訳問題に関してはわからないことも多いのでノーコメント
立場も何もかも違う様々な女性たちの連帯
トラウマが永遠に残す傷
事実を暴くための慎重な戦いをやりぬいたジャーナリスト
グロテスクで言葉を失う加害男性とその背景にある男性中心主義社会
最も衝撃的でもある、一部の弁護士たちの卑怯さ
Me Tooという運動がなんであったのか、改めて捉え直すことは今の日本社会を捉え直す上でも重要でしょう。
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BURRN!の書評で目にして以来読みたかった本で、文庫化を機に、宇都宮の来らっせの待ち時間に購入。
娘を持つ親としてやるせない想いになる。
売名のため権力者の男性に近づく女性もいないことはないだろうが、権力を利用する男性の方が圧倒的に多いのが実態だろう。
そして、未だ男性中心の世の中では声を上げても、すぐに風化してしまう気がする。特に日本では。
そう思うと、能力云々を言い訳にせず、数だけでも男女同等にするというクオータ制から始めることも意味がある。
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ハーヴェイ・ワインスタイン。この事件が公になる前には映画界以外ではその名前はそれほど有名ではなかったかもしれない。彼は、『イングリッシュ・ペイシェント』、『グッド・ウィル・ハンティング』『恋におちたシェイクスピア』『英国王のスピーチ』など、作品名を聞けばたいていの人がわかる、少しお洒落でかつ売れる映画を、所属していたミラマックスや自身が設立したワインスタイン・カンパニーを通して数多く世に出してきた。しかし、その裏では女優や女性社員に強烈な性的嫌がらせ行為を続けていた。本書は、その所業をニューヨーク・タイムズ誌でスクープとして明るみに出したジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの二人の記者自身によることの顛末をつづったものだ。
明らかにされたワインスタインの行為は、ひどく醜く、度を越している。しかしながら着目すべきはその行為が完全に隠されて行われていたわけではないということだ。ワインスタインがセクハラを行うとき、それを知りながら女性にホテルの部屋に行くように指示をした秘書がいた。いくつかのトラブルを収めるために秘密契約を交わすための弁護士が雇われていた。彼のセクハラに何かしら与した人の心の内では、どこか最後まで行かなければレイプではないし(実際にはレイプもしていたが、本人は合意の上と思っていたかもしれない)、重大な犯罪ではない、脅迫・強制ではなく、個人の選択の自由の上での配役の取引のためであることとの線引きは言ってみればグレーであるとも言えるのではないか。多かれ少なかれそういうことはこの世界にはあることだ、そう思われていたのではないか。何よりこの世界で力を持つワインスタインが大丈夫だと言っている。そして、片棒を担ぐ人たちにとって、そう思うことができることが重要であり、まさにそうであったからこそ多くの人が関わりながら、このときまで公にならなかったのだろう。長年ワインスタインを弁護してきたボイーズが、過去を振り返ってその行為を後悔していない、と言うのはある意味では正直な気持ちとしての典型的な例で、もし同じ状況に立ったとしても同じことをしたであろうということなのだろう。
また、もうひとつ着目すべきは、性的嫌がらせ行為の告発が、決して女性側に有利に働くことがないという認識が共有されていたこともある。そういう場面になったのはあなたの方にも軽率さやもしかしたら交渉の期待があったのではないかといわれるのではないかというものだ。そういった環境の中で、被害者から証言を行ってもらうことがいかに大変であったことがこの本からも窺い知れる。
ワインスタイン問題は、この報道の後に#MeToo運動にもつながった。日本でもようやく映画界での性的嫌がらせが公に問題視されている。園子温監督の告発などはその具体的な流れだろう。今まで大目に見られてきたことが、そうではなくなった。そういう言い方をすると以前も悪いことでなかったわけではないというように言われそうだ。しかしこの変化は、社会においてジェンダーに関わる概念が大きく変わったことにもよるものだ、ということができるのではないだろうか。
その観点にお���ても、本書の後半で取り上げられているカバノー氏の最高裁判事の件は、今でもこの結末がよかったのかどうか異論はあるだろう。ことの発端は、最高裁判事候補の指名を受けたというニュースを聞いたフォード氏が10代のころカバノー氏から受けたレイプ未遂事件を告発したのだ。何人かが彼女に続いて同様の告発をしたもののカバノー氏は公聴会で否定し、最終的には最高裁判事に就任した。
共和党系保守強硬派で知られるカバノー氏が最高裁判事に加わることで、最高裁の判例が一気に保守主義に傾くのではないかと党派や保守リベラルの間での大きな論争にもなっていたことで、政争の具にもされた形になった。ワインスタイン報道の後に、この件にも関係することとなった著者らは、慎重にことを進めたことを丁寧に書いている。それでも、それがもう何十年も前のことであることも含めて、性的嫌がらせの概念での訴追することが理に適っていたのだろうかというのは議論として残るのだろうと思った。そういうこともフェアに議論ができるべきだと思う。その観点でカバノー氏が行為を否定し、そして多くの人が事実やったのだろうなと思いながらも、公には本人も否定をしていることもあって指名受諾に至ったという経緯はこの論争の結果として残念だったと言うべきだろう。
なお、ほぼ同時期に同じくワインスタインの告発報道を巡る本である『キャッチ・アンド・キル』が出版されている。こちらはニューヨーク・タイムズ誌に遅れること数日後にザ・ニューヨーカー誌に記事掲載されることになったファロー氏の著作である。ファローの告発も、本著者らの告発記事掲載があったからそのタイミングで出されたと言えるだろう。その分、世の中の評価としても、やはりまず第一報として抜いた彼女たちの記事の方が賞賛され認識されているのかもしれない。
しかし、『キャッチ・アンド・キル』では、タイムズ誌の記者たちより早く情報をつかんで追い込みながら、TV媒体での発表をNBCの上層部に握りつぶされた経緯が書かれていて、読み物やメディアの告発としてよりスリリングだ。この件に興味がある人は、是非『キャッチ・アンド・キル』も読むべきだと思う。ことの顛末を比較すると、あらためて、ニューヨーク・タイムズ誌の健全さが引き立ち、メディアの闇の深さを感じることだろう。
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『キャッチ・アンド・キル』(ローナン・ファロー)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4163915265
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映画界に強大な権力を持つ人間の問題行為。口止めや様々な圧力、有名な弁護士などによって守られた、もうどうしようもないように見える状況をどうやってくぐり抜けて取材をし、裏を取り、発表まで持っていくか。「え、その人はそっち側の人なの?!」といったような展開もあり、なかなかスリリングに面白い。途中、第二部的に別の人の話になりますが、最後には合流するのでご安心を。日本でも取材不能に見えるいろんな事案があるけど、アメリカの人だってこんなにがんばって取材しているんだから、日本人にもできないことはないよなぁ…と思ったり。
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すべての勇気ある方々に賞賛を送りたいし、今まで不愉快な思いをしてきた方々の傷が言えればと思いながら読んだ。
私自身は女性として生まれ、性自認も女性であるが、今までただの1度もハラスメントや痴漢にあったことがない。
10年以上首都圏の満員電車に乗り通勤をしているがそのような経験がない事は非常にありがたいと感じている。
なので実際に経験をした事はなく当事者の気持ちを実感する事はなかなか難しいが想像するだけでもおぞましい気持ちになる。
権力を持つ者がその権力を振りかざすことなく、正しい状態にある社会や世界になればと願う。
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ジャンル:産業・業界 グローバル トレンド
出版社:新潮社
定価:1,045円(税込)
出版日:2022年05月01日
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ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイー
ともに「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道記者。
カンターは職場問題、その中でも特に女性の待遇について重点をおくとともに、2度の大統領選挙の取材に従事。著書に『The Obamas』がある。
トゥーイーは女性や子供の問題に焦点をあて、ロイターニュース記者時代の2014年にピュリッツァー賞調査報道部門の最終候補者になる。
カンターとトゥーイーは本作の基となったハーヴェイ・ワインスタインについての調査報道で多くの賞を受賞し、ジャーナリズムの分野で最高の名誉とされるジョージ・ポルク賞や、「ニューヨーク・タイムズ」としてピュリッツァー賞公益部門を受賞している。
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flier要約
https://www.flierinc.com/summary/2335
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Me Too運動のきっかけになったNY Timesのスクープの話。アメリカのジャーナリズムの力を思い知らされるほどのクォリティ。徹底的にジャーナリズムの作法が貫かれた取材とそのための努力は感動的。後段の最高裁判事候補者の話は最初はなぜ書かれているのか疑問だったが、最後の女性達の話し合いで合点。話もしても秀逸。
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映画を見る前に読んでおこうと思い手に取った。
ミステリー小説を読んでいる感覚で一気読み。
告発記事はいかに緻密に裏を取っていかないと公表に辿り着けないか、その苦労が描かれている。
しんどい作業だ。よく粘り強く調べてくれたなと感謝の気持ちが湧き上がる。
この開けた正義への純粋な信念、何だろう、そういうとこ、アメリカ社会の良さでもある。
同時に、アメリカ社会の闇もこのノンフィクションでよくわかる。特に、企業を守るためのヒエラルキーの上のものへの服従。ザ、資本主義社会。
それから自由を謳歌する若者たちのパーティーという密室で行われるレイプ。この社会で思春期を乗り越えるのは大変そう。
日本でも同じようなことはもちろんあるだろうが。なんか規模が、いい意味でも悪い意味でもアメリカはデカい。
ワインスタインの性癖は、まさしく、性依存症の様相。本人はこの性癖に振り回され、それはそれで辛かろうと思う。妻が最後まで出てこないが、家族も辛かろうと思う。治療やカウンセリングで治るものなのか?
この本の趣旨とは違ってくるが、読みながら人間ってしんどいなと思った。
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最後の言葉がすごく響いた。
何でこんな当たり前のことがわがままって捉えられる世の中なんだろうって思った。
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ハリウッドの大物プロデューサーにして、製作・配給会社ミラマックスの設立者の1人だったハーヴェイ・ワインスタインが、長年にわたり複数の女性に性的虐待を行っていた。この事件を長期間取材し報道した、ニューヨーク・タイムズの女性記者2人による息詰まるノンフィクションが本書だ。
被害者は大物女優や自社の社員など見境がなく、手口は常に同じというから笑うしかない。こんな奴が“神”扱いされていた映画界って何なんだ? この報道後、口を閉ざしていた被害者たちが続々と名乗りを上げ、#MeToo運動がさらに広がった。
残念なのは別件のトランプや最高裁判事候補は逃げ切ってしまったことだ。こちらこそ激しく追及されるべきだったと思う。
なお、映画化作品が1月13日に公開される。観に行く予定なので、その前に読了できてよかった。
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2017年10月、「ニューヨーク・タイムズ」紙が「ハリウッドの大物プロデューサーによる性的暴行」を報道した。これをきっかけに、性暴力の告発運動である「#MeToo」が巻き起こり、アメリカに留まらず世界的ムーブメントへと発展した。女性たちはソーシャル・メディアに#MeTooタグを付け、次々と過去に受けた性被害を告白していった。「#MeToo」運動は「自分が発言することが(誰かの)行動に繋がる」という、価値観の転換を促した。
ハリウッドの敏腕プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン。「人を出世させる力」を持つワインスタインは、グウィネス・パルトロー、マット・デイモンなど数々の若手俳優をスターダムに押し上げ、『セックスと嘘とビデオテープ』『クライング・ゲーム』ほか多くの独立系映画を大ヒットさせてきた。アカデミー賞をはじめ数えきれないほどの賞も獲得している。ハリウッドにおいて、「ハーヴェイ」の名は権力と同義語であった。
しかし、その裏でワインスタインは「女性への扱いがひどい」と囁かれていた。2016年、女優のローズ・マッゴーワンは匿名のプロデューサーにレイプされたと訴えていたが、噂ではワインスタインのことだと言われていた。彼女は「ハリウッドやマスコミの間では公然の秘密」と、#WhyWomenDontReport(どうして女性たちは声を上げないのか)というハッシュタグを追加してツイッターに投稿した。同年5月、「ニューヨーク・タイムズ」紙(以下、「タイムズ」)の記者ジョディ・カーターは、ワインスタインの調査をするためマッゴーワンに連絡を取った。マッゴーワンはオフレコ(非公開前提)を条件に、彼女が受けた恐ろしい体験を打ち明けた。
1997年、マッゴーワンは注目すべき新人女優の1人としてサンダンス映画祭に参加していた。独立系映画の一大発信地だったこの映画祭で、ワインスタインは「統治者」として君臨していた。ワインスタインは「話し合いをしよう」と言って彼女を自分の宿泊するホテルへ誘った。彼の部屋でひとしきり映画の話をして帰ろうとした瞬間、マッゴーワンは浴槽のある部屋に引きずり込まれた。ワインスタインは彼女を裸にし、股のあいだに自分の顔を強引に押しつけた。数日後、彼女の自宅の電話に、「ほかの大女優たちはぼくの“特別な友だち”で、その仲間にきみも入れるよ」という、身の毛がよだつ内容の伝言が入った。彼女はマネージャーに事情を打ち明け弁護士を雇い、ワインスタインから10万ドルの示談金をもらって一件落着となった。示談金の授受は「ワインスタインの悪行を公言しない」ことが条件であった。マッゴーワンはジョディに、「ワインスタイン単独の問題ではなく、ハリウッドは女性への虐待を組織的に行なっている」と訴えた。
ジョディは、先輩編集者の勧めで同僚のミーガン・トゥーイー記者に連絡を取った。ミーガンは「タイムズ」に比較的最近入社した記者だが、これまで10年以上、性犯罪や性的違法行為を暴く記事を書いてきたスペシャリストだった。当時大統領候補であったトランプの女性への犯罪行為も取材していた。
ジョディは、ワインスタインがかかわった映画に出演した女優たちから直接話を聞くために、彼女���ちの個人的な連絡先を調べ、少しずつ連絡を取っていった。多くの女優たちが「ハリウッドは性暴力の蔓延に悩まされている」と言った。しかし、それが明るみに出ることまでは望んでいなかった。何かを恐れ、どうやって助けを求めたらいいかわからない。彼女たちは世界的なスターであったが、この問題については「変化をもたらすことはできない」と考えていた。
女優のアシュレイ・ジャッドはかつて、勇気を持って声を上げたことがあった。彼女が20代後半の頃、ワインスタインから複数回ホテルのスイートルームに呼ばれ、あからさまに性的な要求をしつこくされていた。ほかの女優からも同様の経験談を聞いていた。女性が団結して攻撃的な男性を追い払うためには「勇気ある一歩を踏み出すこと」が必要だと考えた彼女は、2015年、エンタメ雑誌にワインスタインの名前を伏せて告白した。それによってほかの女優たちも告発することを期待したが、結果的に何も起こらなかった。声を上げたことで大きな代償も払った彼女は、慎重になっていた。
2017年6月、ジョディは女優のグウィネス・パルトローが話したがっていると人づてに聞いた。彼女はワインスタインの寵児であり、ふたりは「にこやかな父娘」といった構図で何度も写真に収まっている。しかしその彼女こそ、ど真ん中の情報提供者だったのだ。二人の関係について、誰も知らない話を打ち明けてくれた。22歳の駆け出し女優だったパルトローにワインスタインは自信を与え、2本の映画への出演を依頼した。ある日ワインスタインは彼女をホテルの部屋に誘い、仕事の話のあとに“お馴染みの要求”をした。親戚のおじさんのように思っていたワインスタインが自分に性的な関心を抱いていたことに対し、吐き気をもよおした。パルトローは、オンレコ(報道を前提)では話せないとしつつ、ワインスタインの被害者のリストをつくるのに協力してくれた。
ジョディとミーガンは、ほかの取材対象を追う記者と情報交換しながら取材を進めるなかで、ワインスタインは人に知られていない女性たちにも性的虐待をしていたのではないかと疑い始めた。
ジョディは、ゼルダ・パーキンズという女性に会った。彼女は若い頃、ワインスタインが設立した映画会社「ミラマックス」のロンドン支社でアシスタントをしていた。1995年に働き始めた初日から、虐待を受けていたという。毎朝、裸同然のワインスタインを起こすことが彼女たちアシスタントの仕事だった。そのままベッドに引き込もうとしたこともあったという。意志の強い彼女はワインスタインに屈することはなかったが、自分より年若いアシスタントから、ワインスタインに性的暴行を受けたことで助けを求められた。パーキンズはワインスタインを糾弾し、後輩を守るため一緒に会社を辞めた。
彼女たちは弁護士を雇い刑事裁判を起こそうとしたが、弁護士は物的証拠がないことなどを理由に、こうした事件の典型的な解決法として示談を勧めてきた。パーキンズたちは憤慨したが、逆にワインスタインの弁護士から訴え返され、巨額の示談金とともに尋常ではない制約を受け入れることとなった。メディアに話すことを禁じられただけでなく、「真実が公表された場合でもその真実を隠蔽する」ことなど、常識に唾する内容であった。
事件から20年近く経った今、ワインスタインとの秘密保持契約書を無視してパーキンズは声を上げようとしていた。女性たちが自身の権利を放棄するために、理不尽な示談書にサインさせられる事態を変えたかったのだ。
2017年7月、「タイムズ」の編集長ディーン・バケットは、この件に関わる記者や編集者を呼び集め、「用心しろ」と伝えた。調査を止めさせるため、すでにワインスタインと顧問弁護士は、「タイムズ」にオフレコの話し合いを求めて電話をよこしていた。ワインスタインは自分の評判を守るため、長い間私立探偵、つまりプロのスパイ集団を雇ってきた。彼らを使って記者を見張り、ときにはゴミ箱をあさって証拠を探し出させた。ワインスタインの顧問弁護士たちは彼らとタッグを組み、組織的にワインスタインを守ってきた。彼らは「タイムズ」記者たちの動向を監視し、SNSのアクセス状況を調べ、身上調書をまとめていた。そこには、ツイッターでフォローした相手の名前も入念にリストアップされ、中には重要情報の提供者もいた。ワインスタインは強力なチームを後ろ盾に、戦争を仕掛けようとしていた。ジョディたちは調査を重ねていったが、記事にできるものはわずかしかなかった。
ワインスタインの行動をつぶさに見てきた人物に、弟のボブ・ワインスタインがいる。ワインスタイン兄弟はミラマックス社を二人三脚で事業運営してきた。しかし次第に自身の名声に執着し始めた兄を、不安に思うようになっていった。それに、ボブ自身も兄が女性に脅迫する現場を目にしていた。ゼルダ・パーキンズの件で、彼女たちに小切手を切ったのはボブであった。2015年頃、ワインスタインはイタリア人モデルから性的暴行で訴えられた。ボブは兄の問題はセックス依存にあると考え、責任を持って専門家の治療を受けるよう求める手紙を送った。
ほかの重役にも、このままでは経営に悪影響を与えると感じる者はいた。会社の副社長、アーウィン・ライターもその一人である。ジョディはライターに会いに行った。ライターは、尊敬されていた下級管理職であったローレン・オコナーが書いたメモを撮影した写真を持っていた。そこには、ワインスタインが女性従業員たちに行なってきた性的虐待の様子が、冷静かつ詳細に記されていた。ライターはそのメモが添付されたメールを開いた状態で、携帯電話をジョディに渡してトイレへ立った。ジョディはそれを、コピーしろというメッセージだと受け取った。オコナーのメモは、それまでの取材でつなぎ合わせてきたワインスタインの犯罪パターンを裏打ちする、貴重な証拠だった。
2017年9月29日、バケット編集長は記者たちに「書け!」と指示を出した。記事には、名前、日付、法的かつ金銭的やりとりの情報、オンレコの証言、証拠文書が必要だった。ジョディとミーガンは、原稿を書きながらさらに裏付け調査を進めていった。女優のマッゴーワンは、示談書のコピーを入手していた。報復を恐れて沈黙していた元従業員の発言も、少ないながら加わった。アシュレイ・ジャッドはオンレコで情報提供をすることを承諾した。ワインスタインは「タイムズ」に電話や直接の訪問で脅しをかけてきたが、10月5日午後2時5分、ついに記事公開のボタンが押された。
記事公開の翌日、ジョディとミーガンのもとには、ワインスタイ���の話がしたいという大勢の女性から連絡が届いた。アンジェリーナ・ジョリーなど有名女優たちも名乗り出た。グウィネス・パルトローは、続報記事の原稿に約束通り登場した。
「タイムズ」の記事は、性被害に蔓延する秘密主義を打ち砕き、同じような辛い経験をした世界中の女性たちに、声を上げるよう背中を押した。「性的嫌がらせや虐待について声を上げることは、恥ずべきことではなく、賞賛に値すること」であり、「ワインスタインの行為は明らかに犯罪である」という、新しい合意へとつながった。記事公開から数週間のうちに、国内外から大量の情報が「タイムズ」だけでなく他の報道媒体にもなだれ込んできた。これらの性的被害に関する調査は、ジャーナリズム界全体を巻き込む一大プロジェクトに発展した。
ソーシャル・メディアではあらゆる年齢層の女性たちが、「#MeToo」というハッシュタグを付けて自分の経験を投稿するようになった。「自分の経験を話すことが行動に繋がる」という自信を得られたのだ。ビジネス界から政界に至るまで、あらゆる場で性的暴力、ハラスメントについての実態調査が行なわれ、揺るぎない権力者と思われていた男性たちが次々と地位を剥奪された。
記事公開から7カ月後、ワインスタインはマンハッタンの法廷にいた。彼は強姦、犯罪的性行為、性的虐待の罪で訴追されていた。その日を最後に、ワインスタインはGPS監視も義務づけられることとなった。
ハリウッドで、ハーヴェイ・ワインスタインが女優や秘書などに仕事の昇進や役柄のオファーと引き換えにセクハラをしてる噂はあったが、なかなか告発されなかった。
何故なら、ワインスタイン兄弟はクエンティン・タランティーノ監督などのインディーズ映画を買い付けヒットさせてきたので、ハリウッドで新進気鋭の映画プロデューサーとして力をつけていたから。
仕事を奪われたくない干されたくないため、ハーヴェイ・ワインスタインの言いなりにならざるを得ず、示談書には秘密保持義務の要項があり被害者が告発出来ないようになっていた。
ハーヴェイの弟ボブは、兄ハーヴェイが女優などにセクハラしていたことを知り、ハーヴェイのセクハラがミラマックスに悪影響を与えることを恐れて、ハーヴェイにセクハラを止めるように忠告したが、ハーヴェイは聞き入れなかった。
ハーヴェイ・ワインスタインのような社会的地位の高い人からのセクハラを告発するためには、証言だけでは「やった、やっていない」の水掛け論になるため、示談した時の会話を録画したテープや示談書の原本かコピーや具体的な事柄の流れを詳細に書いた証言記録などが必要。
ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラの告発には、アシュレイ・ジャッドなど被害者の女優の名前を出しての証言やローズ・マッゴーワンが手に入れた示談書のコピー、ハーヴェイ・ワインスタインの補佐役をしていたアーウィン・ライターがハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ疑惑を追跡調査していたジュディ・カーターに渡したハーヴェイのセクハラ被害者が書いた具体的な被害の詳細が書かれたメモが効果的だった。
ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ告発により、欧米の企業では被害者の言い分をちゃんと聞くなど被害者を保護しセクハラを決して許さないコンプライアンスが出来つつある。
ソーシャルメディアでは、#MeTooのハッシュタグで過去の性被害を告発するムーブメントが起こった。
だが日本では、セクハラや性犯罪の被害者に対する風当たりが強く、被害者に対する誹謗中傷が激しい。
ただ性犯罪の刑法の改正のための法務省の会議が開催中で、ソーシャルメディアでの誹謗中傷に対する対策が進む今だからこそ、#MeToo運動のきっかけになったハーヴェイ・ワインスタインセクハラ告発を改めて知るきっかけになって欲しいノンフィクション。
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同名映画の原作本。映画では描き切れなかったであろう取材の経緯や事件の詳細を知りたくなり、帰り掛けに購入。登場人物が多く、時系列が時折前後するので少々分かり難い部分もあったが、映画を観ていたおかげで十分理解出来た。逆に、映画を観ていなければ読み進めるのに苦戦しただろう。映画では描かれなかった取材記事が掲載された後の世論の動きやMeToo運動の発展を知れたのが良かった。オンレコに同意した女性二人の勇気に只々頭が下がるばかり。しっかりした意味を持つ原題に対し、この邦題はピントを外しているような気がしてならない。
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ハリウッドと政治を絡めて、抑圧についてかかれている。
文章より映画の方からが、ビジュアルもありわかりやすい。
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LGBTQ+の本棚から
第265回 その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い
【映画評】「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」…ハリウッドの大物による性的暴行を暴いた連帯
読売新聞オンライン 2023/01/20 11:00
https://www.yomiuri.co.jp/culture/cinema/20230119-OYT1T50187/
2023年04月10日
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ハリウッドの有名プロデューサーであるワインスタインが、女優やスタッフに対して数々のセクハラ行為を行っていた。ニューヨーク・タイムズの記者たちがそれを告発する記事を発表するまでの経緯が語られるノンフィクション小説。強大な権力に怯みながら声を上げるべきか悩む女性たち。ワインスタインが雇った一流弁護士からの妨害に対して誠実に着実に前進を続けるジャーナリスト。まるでハリウッドの映画のようで一気に読み通した。
作品として面白いのは加害者側との丁々発止のやり取りなのだが、私が一番印象的だったのは終章の「集まり」。様々な出自や立場の女性たちが某所に集まり、声を上げたことでどうなったのか、自分たちはいまどう考えているのかを語り合う。個別に被害を受けた被害者たちがお互いを知り、構造的な欠陥を客観的に見通すことができ、連帯することで強くなれる様子が感じられた。
社会は今でも女性に対して差別的であるようにも思えるし、「#MeToo」運動などもあって徐々に変わって来たようにも思える。私自身は「下駄を履かせてもらっていた」男性の一人だが、過ちに気付いたときには素直にそれを認めて、反省して謝り、残りの人生では少しでも良い未来が訪れるように出来ることをやっていきたいと思う。巻末の「謝辞」で、主人公の一人であるミーガン記者が書いた言葉:
❝わたしたちの娘たち、そしてみなさんのお嬢さんたちへ。
あなたがたが職場やそのほかの場で、必ずや敬意を払われますように。❞
(p.594)