『死刑について』
2022/07/08 19:30
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:百書繚乱 - この投稿者のレビュー一覧を見る
〈なぜ人を殺してはいけないのか〉
芥川賞作家の平野啓一郎が「死刑廃止」を語った好著
ヨーロッパの作家たちとの交流もきっかけに「存置」から「廃止」に考えが変わった平野
自身の体験もふまえ、加害者への「憎しみ」で共感する共同体から、被害者と加害者両者への「優しさ」を持つ共同体への転換を、率直に、わかりやすく訴える
《死刑を存置することで、社会は何を失うのか。》──帯のコピー
2019年12月6日大阪弁護士会主催の講演記録をもとに、2021年10月12日日弁連主催のシンポジウム「死刑廃止の実現を考える日2021」登壇時のコメント等をくわえて全体を再構成、加筆修正して単行本化、2022年6月刊
感情のみで語らず。
2022/10/26 14:18
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投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
死刑制度は是か非か。
著者は自らの経験や法的知識、倫理観から冷静に死刑に対しての疑問を記している。封建時代の過酷な刑罰から、犯罪加害者の人権が鑑みられてきたが、現代、犯罪の被害者とその家族に対する人権保護やケアが見過ごされてきた。
処罰に対する考え方は決して一通りではなく、凶悪犯罪に極刑で臨むばかり正義であり、基本的人権の尊重ではないのでは、と述べられている。
死刑を深く考える
2022/07/08 16:23
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
作家平野啓一郎さんが、死刑についての考えをまとめた一冊。大阪弁護士会での講演が基になっているそうで、語り言葉で書かれており、読みやすい。
若い頃には死刑制度存置派だったという平野さんが、学生時代の考えや感情(死刑廃止を唱える人たちの態度にかえってかたくなになってしまった経験など)を率直につづっており、声高に死刑廃止を訴える本ではない。
死刑と言う制度が「人を殺すような酷いことをした人間は殺されてもよい、仕方ないと言う例外規定を設けている」「司法が逸脱社の存在自体をなかったことにすることで帳消しにするというのは欺瞞」との指摘はその通りだと思った。
世界の状況など、付録も充実しており、大変参考になった。
特に若い世代におすすめしたい。
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正直に言えば、私は同じ死刑廃止論に賛成するものです。他者と議論が始まれば、必ず感情論になり、憂鬱になる話題でした。これまで、私は、自分の考えを、整理することもできず、対する相手に伝える言葉を探し得ないでいましたが、これを読んで、本当に整理された、まさに、そういうことだよ!と思うお話でした。この作家の見識、知識の豊富さ、理論的に展開できる力に感服しました。読んでよかったです。死刑制度に関心を持つ、すべての方にお勧めです。
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個人レベルではいつまでも答えが出ないかもしれない難解なテーマ。平野氏がこうやって勇気を持って書くことで、気づきを得る人が増え、難題をしっかり考える社会に近づいていくのだと思う。
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死刑制度のありかた、社会のありかた、日本のありかた、について、平野氏の考えやそこに辿り着いた道筋がわかりやすく書かれていて、とても深く考えさせられる本。ちなみに、私は死刑制度には反対です。その考えに至る過程や考えに関して、とても共感できるところが多かった。
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難しいテーマかつ、難しい内容。死刑制度を賛成か反対かの択一では議論し尽くせないことがよく分かる。世界、取り分け欧州での考え方の中枢、巻末の一覧は日本の特異さの一端を表すよう。
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被害者の心に寄り添うという場合、その方法は決して一つではない。
という、一節のみを引用しておくことにします。
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最近気になっているのが、犯罪を犯した加害者が自害してしまう事件が多いこと。また、つい最近もあった事件で、刑期を経て「生きているのが嫌になった」と言って再犯をしてしまうケース。
本著の中にある、殺人事件被害者の遺族の言葉が印象的。「罪を犯してしまった人に必要なのは、向き合い、反省、謝罪、更生、そして本来の自分を生きることであり、そのための時間です。「死刑」は、その贖罪の機会を奪ってしまうことになります」という語り。
情報に溢れ、人が生き急ぐ時代には、ある人間の物語を理解するために本来必要な時間の長さに誰も(自分自身さえも)耐えられず、結論を急ぎ、一面的に結論づけてしまう。
筆者は、事件を考える上で、被害者の複雑な心情や考えに対する第三者の我々の想像の限界について、謙虚になるよう警鐘を鳴らす。感情的に扇動し、憎しみのみを単純化して連帯を図ることに対しても。
このような「感情に訴えかけて憎しみを煽り、連帯を図る」という思考の方向は、日常生活の至る所で見られる。戦争もそう、いじめもそう。「とても共感できない人の人権こそを尊重するケース・スタディこそが必要」というのは、まさにその通り。それこそが小説を読むことの体験の意義だと思った。
自分の日常診療に照らし合わせば、アタッチメント形成に問題を抱える子どもが学校で「問題児」とレッテルを貼られるたびに、改めて子どもをアドボケートし、「優しさの共同体」をいかに構築するか、ということに思いを馳せた。
死刑の是非にとどまらず、我々の共同体のあり方を考えさせられる一冊である。
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別のところで読んだ氏の論考だったか、他の論者だったか、そのあたりは曖昧なんだけど、やはり死刑廃止論に触れ、確実にそちらに傾いている自覚がある。一方で、自分事として突き詰めた場合、肯定に揺れる部分は否定できない。相手を許さないけど、死刑は望まない、は理解できる感情だし、納得も出来る。”人を殺してはいけない”大原則に、国家という例外を設ける危険性。それに対する無自覚の方が、もっと危ないと思える。犯罪に対する抑止力にはならないという事実。死刑廃止反対多数の中、それでも廃止に至ったという少なくない先例。そのあたりを入り口に、拙速でない議論を進めていくべき題材だ、という認識を新たにした。
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今、このタイミングだからこそ、落ち着いて読んで、死刑だけでなく、社会全体の在り方について考えることが必要な、そんな一冊だと思います。
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読んでよかった!
平野さんの深みのある考察、被害者の感情を一括りにして決めつけていないか、いや、決めつけていたのではないかと気付かされました。
もちろん被害者の憎しみ、悲しみの感情は汲むべきであり、社会も共感して当然。でも、被害者の感情はもっと複雑で、それは生きていて家族や友人が殺されていない私たちの想像を遥かに超えるものであり、社会は想像力の限界があることをもっと謙虚に受け止めなければならない。
世界で死刑を廃止している国が先進国を中心に多い。
酷い目にあったのだから、加害者も苦しめというだけでは、罪に向き合う時間を奪っていることと同じである。
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平野くんはかつては「死刑制度容認派」だったらしい。やはり、自分が犯罪被害者だったとしたら、(もしも愛する人を無差別殺人などで殺されたとしたら)、当然犯人を「死刑に処してほしいい」と考えるからだ。もちろん、私もそう思っているし、もし司法が死刑にしないのなら絶対に自分の手で復讐する、と考えるだろう。
という考えから、いかに脱却するのかが、示唆されていて、読んでいて胸がいっぱいになった。
私も、著者のように、深く考え、人間の本質、社会の本質を見極め、赦すという心や、復讐心だけでは社会は良くならないということを、魂で理解したいと思う。
今はまだ、私はそこまで至らない。
私は公立学校で社会科を教えているので、刑法や人権について、考えを深めなければならない。国際社会の中で、死刑が存続している日本は「遅れている」と見られても仕方がない状態だ。
今現在やはり私は「死刑制度容認派」だが、平野くんの考えに到達できるように、もう一度考えたい。
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人をなぜ殺してはいけないか、この問いに対して「憲法でそう定められているから」とかかれてあるのを読んだとき、目からうろこの思いがした。このことはとりも直さず、人を殺すことが許される社会が、理論上ありうることを意味する。しかし、我々は人を殺してはいけないとされる社会に生きている。社会がそういう前提である以上、国家も人を殺してはいけないのだとする筆者の論理は、非常に説得的だ。もし、死刑を認めるのならば、私人間での殺人も認められることになるのではないか。本書にはそこまで書かれていないが、突き詰めるとそういうことになるのではないだろうか。
「物事はそう単純に割り切れるものではない」という考えもあるだろう。「私人による殺人は否定するが、国家による死刑は、公正な裁判によって例外的に認められるのだ」と。死刑存置派の人の多くは、そう考えるのだろう。しかしこの考えは絶対に冤罪がないことを前提とする。裁判官も人間であり、そんなことは現実には相当無理がある。そう考えると、やはり死刑は廃止すべきなんだろう。
と、この本を読んで考えさせられた。ちなみに私はこの本を読むまでは死刑存置派だった。
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私には少し難しかったです。ちょうど、秋葉原殺傷事件の犯人の死刑執行(7/26)が行われたタイミングで読みました。読んでいて、国や社会が犯罪者を生み出しているとも言えないのではないか?と思いもしました。どなたかのレビューにもありますが、日本の死刑制度を考えるのには教育制度から考えていかないと思います。凶悪犯罪の加害者の若年化が気になります