父と娘の、交差する生きざまを描いて
2023/03/07 15:53
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
どんな人にも、当たり前だが、
生まれた時には父も母もいる。
しかも、その子にとっては唯一無二の父と母だ。
そして、その親子の関係性もまた誰とも交換できないものといえる。
梯久美子さんの『この父ありて 娘たちの歳月』は、
9人の「書く女」たちの、父と娘の関係をひも解きながら、
その時代もまた描いたノンフィクション作品である。
9人の「書く女」。
収録順に書き留めておくと、
渡辺和子(随筆集『置かれた場所で咲きなさい』で知られる修道女で、彼女の父は二・二六事件で殺害された渡辺錠太郎)、
齋藤史(歌人)、
島尾ミホ(作家島尾敏雄の妻)、
石垣りん(詩人)、
茨木のり子(詩人)、
田辺聖子(作家)、
辺見じゅん(作家、角川書店創業者角川源義の娘)、
萩原葉子(作家、詩人萩原朔太郎の娘)、
石牟礼道子(作家)。
9人の娘たちの父はさまざまだ。
りっぱな人生を全うした父もいれば、なんとも悲惨な生活を送った父もいる。
ましてや、彼女たちが生きた時代は戦争とその終わりの生きにくい時代であったから、
父もまた思い通りには生きることがなかったと思える。
そんな父のそばにいて、性の異なる娘たちはどう見ていたのか。
梯さんはこの本の「あとがきにかえて」という文章に
こう書いている。
「この九人は、父という存在を通して、ひとつの時代精神を描き出した人たちだったといえるだろう。」
そして、この本の別の魅力は、
9人の「書く女」たちが残した作品のブックガイドにもなっている点だ。
この本を読めば、読みたい本が何冊も見つかるだろう。
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【父を憎み、父を愛し、娘たちは書いた】戦中・戦後の激動の時代、“書く”という困難な道を選んだ女性たちの、しなやかで力強い生き様を描いた、梯久美子の“父娘”論。
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いい本を読んだ。
梯久美子さんが選んだ9人がまず、いい。
著者が、この人たち、と選んだ9人は、父との距離が程よく遠く、家父長的でなく、それでいて愛情がある。
距離が程よく、関係性がウエットにならずにすんだのは、おそらく彼女たちが「書く人」になったからだろう。
作られたと感じる泣かせる話は何一つない。
どの親子のエピソードも覚えておきたくなるが、いかんせん、新聞連載なら覚えられたかもしれないが、こんなに面白い書籍になっては、覚える暇もなく読み終わってしまう。
目の前で父を惨殺された渡辺和子
投獄された父を「おかしな男です」と天皇に話した斎藤史
娘は幸せな結婚をしたと信じて死んだ島尾ミホの父
4人目の妻に甘えて暮らす父への嫌悪を抱えた石垣りん
父という存在があったからこそ、夫や異性の友人に恵まれた茨木のり子
口ばっかりで弱かった田辺聖子の父
家に帰ってこない父を「好きだったから」という母が愛した男と捉える辺見じゅん
母に浮気をするよう仕掛けた父、自分を顧みなかった父を描き続けて家族を最後まで面倒を見た萩原葉子
辛苦の中で自前の哲学を生み出した市井の人であった石牟礼道子の父
どの父も、父より大きい娘の慈愛の目によってその生き方が肯定される。
この娘たちが、本当にすばらしい。
梯さんの著作を読んでみたくなった。この人が書くなら間違いなさそうだ。
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日経の連載の頃から毎週楽しみにしてました。
事前にある程度知っていないと週間連載でここまで書けませんよね。
あとがきにも書いてありましたが、元々好きな作家達とのこと。そりゃそーだろうよ。
どの父親もスゴいけど萩原朔太郎のグズっぷりには光るものがありますね。戦前のブンガクシャはこうじゃなくっちゃ!!
父と娘たちの残した言葉も素晴らしいですが、梯久美子さんの筆致そのものが、前者に負けず劣らず素晴らしいです。
好きな作家達であれば、好きが溢れたりするものなんですけどね、冷静に見てますね。
各章でも読みたい本が山積みなのに、梯久美子さんの過去の作品も読みたくなります。
2022年、ノンフィクションを代表する良作です。
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石牟礼道子論が読みたくてだったが、どれもこれも優れた日本近代文学史だった。この人の評伝はやはりいい。
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時代を生きた女性作家9人を、それぞれがそれぞれに多大な影響を受けた父親の存在とともに描いたノンフィンクション。
濃かった。もちろん境遇は違えど、著名な女性作家たちが揃いも揃って、ここまで父親との壮絶な物語があるとは。だからすんごく面白かったのだが。憎み、恨み、苦しみ、悲しんだ彼女たちがこれまた共通しているのは、それらを「書くこと」によって整理したことだ。浄化したわけじゃない、決して。悩み、考え抜いたことを言葉に、文章にして、常人には到底たどりつかない答えを自分なりに出している。だからこれもまたすんごく面白い。
規模はちがえど、父娘関係の難しさをそれなりに体験しているからこそ、1人1人の物語が響いたかと思うと、父娘関係がそんなに良くないことも悪くないな、とすら思う。そうなのか?
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たいてい本の後ろに書いてある著者の紹介では知ることができない、戦中、戦後を生きた家族の話でした。石垣りん、茨木のり子、石牟礼道子さんは教科書に登場という風に切り取られて理解してきたことを反省しました。
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9人の女性作家と家族、特に父親との関係に焦点を当てて書いてあるが、読みごたえがある。
成長と家族との関係が、筆を動かす。
2.26事件で父を惨殺された修道女の渡辺和子、ベストセラーの置かれた場所で咲きなさいは読んで、心動かされた。
同じ事件で投獄され、その死後、歌会始に招かれ、天皇に声をかけられる齊藤史、なんとも凄い。
死の棘の島尾ミホ奄美大島で立派な養父母に育てられたこと。
9人の歴史が痛かった。
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書く女9人とその父の壮絶な関係を綴った良書。この父あって、この娘あり。その後の人生に想いを馳せると、いろいろ考えさせられた。
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読み応え充分。
中でも二・二六事件で自分の眼の前で銃殺された渡辺錠太郎の娘、渡辺和子(置かれた場所で咲きなさいの著者)
島尾ミホ、石垣りん、茨木のり子、田辺聖子、石牟礼道子。
島尾ミホの父親が実父では(養父母に育てられたらしい)ないもののほんとの娘のように慈しみ愛情を持ってミホを育てたとのこと。この養父を捨てて(不便な疎開先に追いやった)まで敏夫を一緒になった故、浮気された時はそんな心中もあったのだろうか。
お聖さんも大好きな父親だっだのに、戦後まもなく亡くなった父に「やさしい言葉の一つもかけることなく、父を死なせてしまった」と。
石牟礼道子のご両親も、また立派な人格者。
ガリガリに痩せてしらみだらけの身元不明の少女を嫌な顔ひとつせず一ヶ月以上も世話をしていたなんて、家族だけでも食べていくのが大変な時に。
無償の愛の精神が道子にも流れていたんだろう。
母親と娘の関係もそうだけど、父親と娘の関係も異性だけに
一筋縄だはいかないものがそれぞれにあってしみじみと読了。
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9人の女性作家とその父親との関係思いへの考察。
書き手となった娘たちが、立派で尊敬し愛する父である場合はもちろん、そうでない場合も、この父ゆえに作家となったことが伝わってくる。
石牟礼道子の父親の亀太郎氏が興味深かった。
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衝撃、慟哭、天を仰ぐ内容がずらりと並ぶ内容ばかりだった。
あえて、そういった方々ばかりちょすしたのかと思うほどに。
それが陽のサイド,陰のサイド的には、こういった日本人が日本を作り上げてきたともいうべき感慨。
良くも悪くも。
最もすべての日本人は言うまでもなく、女性作家すべてがこのように父親の血、空気もろもろを受け継ぎ、懊悩し、自らの生き方を決めていったとも思えないが。
昭和、平成、令和と日本は変容していっている・・良くも悪くも。
しかし渡辺和子氏の父☆
~戦犯の一人一人の物語の重さを殆ど含有しているような番館迫る、胸のつぶれるような内容だった。
しかし、戦犯とならないで成功し、ぬるっと絹板男たちがいることも事実。
石垣りん★
オスとしての父の姿に思う娘・・【家に一つのキンカクシ、その下に匂う】の分がザクッと胸に刺さった。
血の絆は頸木にほかならぬという文も痛く 目に焼き付いた。
事物を言葉に変えるという魔法 血縁を生きるとは何か 家とは 家族とは 障害と居続けた彼女
時代は流れ手もいまだに、それの持つ意味の重さ、苦悩、時には人を苦しめ地獄に突き落とすことすらある。
一方で人を救い、安らかな旅立ちへいざなうこともある。
萩原葉子★
戦前、最高の美男子作家(いまでも そのように称されている)父親、そして実母がもたらした子供への傷 養母との宿痾
そこをどこまでも掘り下げ、運命として徹底的に身をひさぐ職業としてまでも貫いたのは凄絶。
かといって別の選択肢もあったのにとまで思わされた…実母の最期を引き取り、看取っている。
石垣りん★
祖父も実父もある意味、当時には多かったであろうが、とりわけ特筆されるような人間だと思えた。
リンガ引き受けた血の書き綴りが表面的に世間で受け止められていった気すら覚える。しかし、晩年の彼女の筆致には、ほかの8人の女性作家同様、悟りといえるような澄み切ったものを感じさせられた。
梯さんの所論は面白いとは言わず、理と血を同居させたものを感じる、
たまに読むのは面白いが、狭い視野に陥って、「その人」の事象を特別視しそうな感覚にならないとも言えない。
NHK放送の【ファミリーヒストリー】的と言えなくもない。
表に出てこない逸話が世の中の人生にあふれている。
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日経新聞土曜版に連載されていたときから注目して読んできましたが、改めて一冊となり、じっくりと時間をかけて読みました。梯久美子の文章には、なんとも言えない説得力があり、時間をかけての咀嚼にふさわしい。
「この父ありて」この娘あり、なのでしょうが、渡辺和子、齋藤史、島尾ミホ、石垣りん、茨木のり子、田辺聖子、辺見じゅん、萩原葉子、石牟礼道子と、「書いた」娘たちの生涯に光を当てる著者の視線は実にあたたかい。
いずれも素晴らしいですが、最初の渡辺和子、そして、最後の石牟礼道子がやはり圧巻でした。
渡辺和子といえば、吉行あぐりさん(吉行淳之介、吉行和子の母)のエッセイ「梅桃が実るとき」に、二・二六事件のことが出てきていて、当時も世間が狭かったんだなと思ったのを思い出しました。
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なんと重いテーマの父娘の物語か。
父も、娘も、更に、母も、夫も、それぞれの葛藤を抱えている。 それが故なのか、九人の娘たちは、" 書く人 " となる。
書かざるおえない何かを深読みする力は、私にはないが、重く影をさすあの時代・戦争について考えさせられた。
そして、改めて、茨木のり子が好き、と想う。
彼女の夫は、『茨木の父と同様、開明的な人物で、家庭に妻を家庭に閉じ込めることをしなかった。』と、ある。 夫も父も、よき理解者であったよう。
気が滅入るような壮絶な人生を歩む娘たちが多いなか、読んでいて、心が和む。
そして、我が身を想う。
頑固で短気だった我が父も、齢を重ね、耳も遠く、食も細くなり、小さくなった。 そして、言葉の足りない父の柔らかな眼差しに気づいたのは、わたしも子を持つ身となってやっとだった。
父も娘(わたし)も、不器用だったのだろう。笑いたくなるが、父に似て、わたしも短気で頑固なのだと、今更ながら想う。 だか、それも悪くない。
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読み応えあった。少しずつ読んで楽しめた。
「書く女」の文章を通り抜けているからか本当に生きていた人の生々しさが昇華されていて、切ないものを見ているみたいだった。
ずーっと前から何の気なしに目にしていた角川文庫の発刊のことばの背景を初めて知って、胸がじんとした。