紙の本
ネガティブ・ケイパビリティの重要性。
2023/11/23 21:14
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
ネットの普及により常時接続を可能にする諸々のテクノロジーや習慣が、我々を覆いつくしている。
情報の内実や質ではなく人の注目それ自体が価値を持つようになってしまった経済(アテンションエコノミー)や、FOMO(Fear Of Missing Out 見逃す/取り残されることへの恐怖)を駆りたてるSNS。
誰にとっても身近なそれらは、明快でジャンクな刺激や即自的に達成しやすいものばかりを求め、説明がすぐにはつかない事柄に対し即断せず分からないままに留め飲み込まずにとっておく力を奪い続けている。
そうした現代社会に警鐘を鳴らすのが本書だ。
我々が奪われ続けている力の正体とは何なのか、なぜそれが必要なのか、どう取り戻すべきなのかを多様な視点で次々と提示されていく。
様々な小説や漫画、映画といった馴染み深い作品とハンナ・アーレントのような先人の哲学者たちの思考を関連付けて説明してくれるので、私のように哲学に明るくない読者も道に迷うことはない。
むしろ本書をきっかけに哲学に興味関心を抱く読者は多く存在するのではないだろうか。
それほどまでに著者の語り口は敷居の高さを感じさせず、我々読者の足元を常に照らしてくれる。
そんな著者が提示するネガティブ・ケイパビリティの重要性は誰もが知っておくべきだろう。
コスパやタイパといった、チェリーピッキング(都合のいい箇所だけを拾うこと)的価値観が重宝される現代。
しかしチェリーピッキングとは正反対である、自分の中に安易に答えを見つけようとせず把握しきれない謎をそのまま抱え、そこから新しい何かをどこまでも汲み取ろうとする姿勢(ネガティブ・ケイパビリティ)は、今だからこそ必要であると痛感させられた。
また、自分を一枚岩にしてしまう自己啓発文化にも著者は言及していく。
「内なる声に従え」や「本当にやりたいこと」といった文言は、たった一つの真実としてどこかに必ず定まるはずだと前提条件の元成り立っている考えであり、自身の多様性を押し殺し時間的変化の可能性を否定することに繋がるのだと。
加えて、自己啓発の論理はすべてを各人の問題に回収することで、社会や集団のゆがみや問題点を放置することを促す手助けとしても機能する側面を持ちうるのだ。
そこから脱却するためには、孤独を保ち、自己対話をする他ない。
「書く」といった行為を通じて、自身に他者性を持たせること、つまり「書かれた私」と「書き直す私」に自己を分裂することで自ら色々な問いを受け取るのだ。
そうした思考の痕跡を通じて発生する自身との対話、ラリーがどれほど発生したかによって文章の完成度は左右されるという著者の一文に深く共感したのはきっと私だけではないはず。
そう、本書は自身の未熟さ不完全さを受け止め、臆することなく自己対話という一歩を踏み出してみようときっかけを与えてくれるのだ。
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「孤独」とは何か、その向き合い方について書かれており、まさしく常時接続の世界で生きている自分は、耳が痛くはっとさせられました。
世の中に対してこんな見方・考え方を持っている人がいるのかと驚くばかりでした。
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常時接続世界で情報の濁流にいながら、寂しさに振り回されている。自分や他人を理解しきれることはなくネガティブ・ケイパビリティというモヤモヤした状態で抱え続ける能力が必要。SNSでの快楽的なダルさの裂け目から見える退屈は自分の行動を変えるシグナルで、孤独を楽しむ趣味を見つけるのがよい。よく出てきた「ドライブ・マイ・カー」が気になってきた。
17冊目読了。
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「常時接続の世界」において、スマホから得られるインスタントな刺激によって不安や寂しさを埋めようとし、他者への関心を持てずに自分の中に閉じこもる。そうした現代人の特徴を炙り出すとともに、自分のための趣味や楽しみを追求することの重要性を問い直す。読んでいてウッとなるけど、反省とともに光が見える一冊です。
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★自分の感情や感覚を何かで埋めたり押し殺したりせず、適切に理解し位置づけていくためには、自分の心を浸している情緒に目を向ける必要があります★
他者と共有できる感情にはもう既に言葉や意義があると思ってて、言語化されていない領域をどうやったら理解できるんでしょう?“孤独”になろうとする人なんていなくて、急にドン底に突き落とされ堕落していく感じが孤独だと思うな。他者に理解されうる以外の経験は、必要なのか?それでも、この経験がいつか、誰かを救うための肥やしになりますように。そして、できる限りの人を救えるように。
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現代の寂しさと孤独に関する内容だった。すぐに消化できる内容ではないが、面白さは感じた。
【以下、メモ】
•私たちは変化の激しい現代社会を乗り切るために、自己啓発で自分自身のテンションを無理矢理上げるか、インスタントな物事で多忙にし、自分自身と向き合うことを避けている。(寂しさ)
•自己を形成することは、人生という曲の中で、即興で音楽を構築することともいえる。楽しい時も、不協和音が生じる時も、真摯にお互いの音に耳を澄ませていくことが大切。(孤独)
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常に誰かとスマホで繋がることができる今、孤独の意義を考える。孤独との向き合い方を哲学者だけではなくアニメの話などから分かりやすく説明している。私は、接続すべき最大の他人は自分自身であると解釈した。
読了。
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谷川嘉浩『スマホ時代の哲学』読了。
スマホに象徴される常時接続の微温的コミュニケーションに占有されつつある現代において、「真のつながり」とか「自己啓発」的なものに活路を見出すのではなく、寧ろ〈孤独〉や〈寂しさ〉を肯定的に捉え返してそれらとの"共存"を(教え導くというよりは)優しく語りかけるのが印象的。
東浩紀の流れを汲むサブカルというかオタク文化を参照しながら現代思想、現代社会を論じるスタイルは、オタク文化の一般化を経てもはやオタクを特権的に論じる必要もなくなり、地に足ついた感じに着地したななどと。
ぬるいコミュニケーションに埋没することにも、自己啓発&自己責任な新自由主義にも疲弊しているいまの若者にはこういう語りが刺さるのだろうか。
いわゆる自己啓発は批判しているけれど、これもある種の脱力的自己啓発本ではあるよね。年始に今年も気張らずやっていこうや、というノリで読むには内容的にも語り的にもちょうど良い感じ。
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→ https://twitter.com/nobushiromasaki/status/1617306129914269699?s=46&t=fgkMZhukzwHEEogH2u5jmA
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知的好奇心が刺激されまくる1冊。
著者の谷川さん、平易な言葉で多くの示唆を与えてくださる博覧強記な方だなぁ。
本書で引用されていた
『わたしたちの登る丘』
『地に足をつけて生きろ!』
『資本主義リアリズム』
『失われた未来を求めて』
の4冊は早速チェックする。
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すごく勉強にもなったし、思い当たりグサグサ刺さる所もあった。すごくわかりやすく書いてくれていて読みやすいけど、難しい。わかるけど難しい。
スマホを手放せない。ならば、どのようにスマホ(他媒体にも)と付き合うか。「自分」と付き合うか。
色々な本、アニメ、映画を例に書かれていて、読む&見るをまだしていないものは触れたいと思った。
何となくだけど、バランスが大事なのかなぁと考える。まだまだちゃんと読み込めてないところがあるので、ゆっくり、何度も読もう。面白い。
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オルテガ、ニーチェ、パスカル、アーレント、デューイ等を用いて、スマホ時代の世相を斬るというようなテイストで、哲学というよりは社会心理学的というか社会評論的な印象。『暇と退屈の倫理学』に連なる著作のようにも思えるが、消費社会論的なものからコミュニケーション社会論的なものへとシフトしたという感じか。
そして、ネガティブ・ケイパビリティを育てる≒哲学することの重要性を説き、<孤独>や<趣味>を推奨しつつも「自分への配慮」ではなく「他者への配慮」に関心を向けるべきとする。
アニメや映画を題材として語る箇所が興味のない者にとっては頭に入ってこない部分もあるが、現代人がどのような社会に生きており、そこにどのような問題があるのかを確認するという意味では一読の価値はあると思う。
そもそも、こういうところで内容を簡単にまとめたり感想を述べる事に著者は否定的なのかもしれないが。
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行きつけの書店に平積みされていたことと、哲学者についての入門書よりも現代的問題を哲学的に解釈することの必要性を感じていたため購入。また、著者の谷川嘉浩氏が1990年生まれの若手哲学者ということで、『現代思想入門』の著者である千葉雅也氏のように、若い世代特有の新しい視点や価値観に触れられるかもしれないという期待もあった。
本書は、スマホを中心としたスマートデバイスがネットに常時接続されている現代社会を「スマホ時代」と表現し、そのような情報が氾濫する時代に生きる現代人が不確実な社会を生き抜く際の考え方や行動指針を、哲学的見地から平易な言葉で述べられている。
単に「脱スマホ」を説くのではなく、スマホによるネットへの常時接続生活は止められないと認めたうえで、著者がいうところの「ゾンビ映画ですぐ死ぬやつ」のようにならないために、2500年もの間蓄積された哲学の知見を"インストール"するという論調は若手らしく斬新であった。
「これからは不確定な時代だから、他人が言っていることを鵜呑みにせず自分のアタマで考えていかなければ生きてはいけない。だから哲学や歴史などの教養(リベラルアーツ)を学ばなければいけない。」という言説は巷にあふれている。
しなしながら著者は、不確定な時代だからこそ、2500年分の哲学の問題解決に対する知見を取り入れることで、可能な限り自分のアタマ"だけ"で考えずに哲学者の考えを踏まえて問題解決に取り組むことが必要であると逆説的に持論を展開する。
特に、本書の中核概念である「孤独」について、哲学者であるハンナ・アーレントが「一人であること」について提唱した「孤立(isolation)」「孤独(solitude)」「寂しさ(loneliness)」の3つの様式に基づきつつ、読者がイメージしやすいように「燃えよドラゴン」や「新世紀エヴァンゲリオン」のエピソードを用いながら孤独と向き合うことの必要性を説く論調は、若い著者ならではの発想であろう(ただ、個人的にはどちらの作品もあまり観たことがないので、作中の具体的な場面を想起しながら読み進められなかったのが残念だが)。
著者は、ゾンビ映画で死なない生き方を実践するためには、いったんコミュニケーションや刺激の波から距離を取ることで「孤独」を志向し、あえて対話やつながりを目指そうとしないことだとしている。そのことが、かえって適切な対話やつながりをもたらすのではないかというのである。
そして、孤独をつくりだす具体的な手段として、「何かを作ったり育てたりする活動としての趣味」を提示している。終わらない趣味を持つことで初めて、自分との対話が生まれるのだ、と。
ともすると、この論調は「スマホを捨てて独りで趣味に没頭すべし」と読者に捉えられかねないが、趣味とは単なる"気晴らし"のための刹那的で消費するだけの活動ではなく、予測不能な事態や納得できず"モヤモヤ感"が残ることも許容しながら、自分なりに試行錯誤していく活動であるとしているところが本書の特徴であろう。
そして趣味の中で立ち現れる"モヤモヤ感"に対し、結論づけずにそのままの状態で留めておく能力を「ネガティブ���ケイパビリティ」とし、他者を安易に"自分のわかる範囲"に回収することなしに他者の経験を理解したり、未知を学んだりするときに必要な能力であるとしている。
これは言うまでもなくこれからの不確定な時代を生き抜いていくうえでの必要不可欠な能力であろう。
本書は全体を通してプラグマティズム的アプローチを採用しながらも、ニーチェ、パスカル、ルソーなどの古典的哲学者の重くて深い言葉だけでなく映画やアニメのセリフも引用し、時にはスティーブ・ジョブズの名言すら批判するスタイルなので、ある意味軽快で読みやすい。
しかしだからといって内容も軽いというわけではなく、"イイ感じに答えをすぐ教えてくれるAI"との対話が圧倒的に増えていくこれからの時代に、自分自身との対話の時間を確保するという本書の提案は、むしろとてつもなく重く困難に思えてしまう。
ネットやスマホに依存する"繋がり過多"の現代社会を生き、そして人との関わりや働き方など根本から考え直さざるを得なかったコロナ禍を経験したからこそ、本書は"自分自身との関わり合い"について再考するきっかけとなった。
また、「自分の内なる声に従え」「答えは自分の中にある」といったフレーズにみられる自己完結的な思考に陥るリスクについて知ることができたことも、折り返し地点を過ぎた残りの人生を生きていくうえで大きな収穫だったといえる。
あえて時間に追われて多忙な(もしかしたら多忙を自ら作り出しているだけかもしれない)すべてのビジネスパーソンに勧めたいと思える一冊であった。
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哲学はすぐに分かるわけではないし、今の時代のインスタントを好む風潮では慣れ親しむのは難しい。スマホによる弊害はいくらでも叫ばれているがスマホが無くなることはなく、無くならないことを前提に考えなければならない。
孤独は決してダメなものではなく、むしろ孤独な中での自己対話によって自分の気持ちに向き合うことができる。自己対話によって寂しさを理解し得るのだが、その自己対話をしないことで寂しさの発露を外に求め、攻撃する。現代のSNSによる誹謗中傷はこれに通ずるのではないか?
たくさんの気づきがある本だった。
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スマホが手放せない現代人の抱える問題点を、歴史ある哲学の視点からアプローチしつつ、ゾンビ映画、エヴァや、燃えよドラゴンなど、エンタメ系の喩えを引用しながら理解を促している。
孤独、といってもこの本の中での孤独の意味合いは少し異なっているのだが、孤独の必要性、大切さ、自己との対話の重要性を説いている。
やや難解に感じたが、読んで良かった!!と思える読後感。本で提唱されている、こういう問題について考え、向き合うの大事だよね、と思えた一冊でした^ ^