連作各編の布石を二度読みで納得する楽しみ
2023/07/07 21:23
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:スマートクリエイティブ - この投稿者のレビュー一覧を見る
連作時代小説。藩邸差配役の里村が、藩の若君のわがまま、賄賂が横行する札入れの不正、藩邸雇いの女中への横恋慕による刺傷騒ぎ、藩主の奥方の飼い猫の失踪などの事件を解決する。藩の主導権争いに巻き込まれて、次女を人質にとられ若君の白湯に毒を入れるよう脅されるが、すんでのところで落着。各編に散りばめられた謎が、最後で納得させられる。二度読み必須。
漢字ばかりのタイトルは苦手ですが
2023/05/24 16:35
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
砂原浩太朗さんは、2021年に発表した『高瀬庄左衛門御留書』で高い評価を得、
翌年には『黛家の兄弟』で第35回山本周五郎賞を受賞した、
今もっとも注目されている時代小説作家といっていい。
砂原さんの魅力はその抑制された文章と静謐な世界観にあるといっていい。
まだ作品数が多くないので、これから先どのような作品をものにするのか、
期待値も大きい。
そんな砂原さんが2021年の終わりから雑誌「オール讀物」に不定期連載したのが、
この『藩邸差配役日日控』である。
評判となった『高瀬庄左衛門御留書』が漢字のみを連ねたタイトルだったから、
その験担ぎということもあったのだろうか、
今回も漢字だけを連ねたタイトルになっている。
5つの短編で出来上がっているから、連作集ではあるが、 、
やはり大きな線が一本つながっているので、長編として読んでもいい。
主人公の里村五郎兵衛は、神宮寺藩の江戸藩邸の差配役の頭である。
差配役というのは、
藩邸の管理を中心に殿の身辺から邸の雑役に至るまで目を配る要の役目で、
現代でいえば会社の総務・秘書室みたいな役目だろうか。
里村には二人の娘がいるが、妻を若くして亡くしている。
作品の大きな線というのは、里村の家族に関係することだが、
それは最後の作品「秋江賦」で明らかになる。
砂原さんへの期待が大きいせいだが、
この作品はどちらかといえば平凡に見えるかもしれない。
あるいは、作品の尺が足りないせいかもしれない。
主人公を取り巻く人たちへの踏み込みが足りなくて、
それが作品を平凡にしているように思える。
もっとも、まだ期待の作家であることには違いないが。
最後には、最大のサプライズが!
2023/05/26 20:01
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:こばとん - この投稿者のレビュー一覧を見る
先行する二作『高瀬庄左衛門御留書』、『黛家の兄弟』は架空の神山藩を舞台とした作品だったが、本作は東北が本領の神宮寺藩七万石の江戸藩邸の差配役である里村五郎兵衛が主人公で、連作集という点でも前二作とは異なっている。
藩侯の10歳の世子が行方知らずになる「拐(かどわか)し」、入札の不正を疑う「黒い札」、藩邸で新しく雇った女中は怪しげな魅力を放ち、男同士がいさかいを起こす「滝夜叉」、藩侯の正室の愛猫が行方知らずとなる「猫不知(ねこしらず)」、江戸藩邸の2人の実力者の角逐に巻き込まれる「秋江賦(しゅうこうふ)」の5篇から成る。
前二作同様「あっ!」と思わせるサプライズが各所に織り込まれている。特に最後の最後には、最大のサプライズが待ち構えている。
投稿元:
レビューを見る
【注目の時代小説作家によるニューヒーロー、登場】江戸の総務部総務課――藩邸差配役には日々、大小さまざまな厄介事が持ち込まれる。ある日、「若殿が消えた」との報が……。
投稿元:
レビューを見る
久しぶりの砂原浩太朗。
5編の短編からなる連作小説
砂原浩太朗は正統な藤沢周平の後継者と思っているが
今回の作品にはすこし違和感を感じた。
一つは無理に使用しているように感じたいくつかの熟語。砂原浩太朗はしっとりとした滑らかな文章を書くがそれらの良さをあまり使われないような熟語が異物のように邪魔をしている。
また、理不尽な選択を余儀なくされ結局それに従うのが武家物のありようだと思うが
その選択肢があまりに現代的で武家社会では考える余地がないはずの要求だった。
もうすこし違った展開がなかったかと残念に思う。
とはいえ、ほかの小説ではほとんどしないぐらい1行1行を丁寧によみ、時には戻りながら読書できるのはいま砂原浩太朗だけだ。次の作品を楽しみに待ちたい。
神宮寺藩と聡明すぎる若君の今後も期待したい。
投稿元:
レビューを見る
神宮寺藩差配役、里村五郎兵衛、差配役というのは企業で言えば総務部長といったところであろうか。若様のお世話から猫のお世話まで、果てはお家騒動まで、五郎兵衛の活躍と心労を描く。
投稿元:
レビューを見る
七万石を所領する神宮寺藩江戸藩邸にて、差配役の頭として取りまとめをしている里村五郎兵衛。藩邸の雑務全般をする藩邸の運営には無くてはならない潤滑剤のような役目。しかし陰では〈なんでも屋〉とも揶揄される。
現代社会で言うところの総務婦庶務課帳といったところか。
五郎兵衛の元には、藩邸内のあらゆる揉め事が持ち込まれる。上役の家老等からの命令に従い、配下の武士が何故こんなことまでやらなくてはならないのかと憤ることもしばしば。
そんなときに五郎兵衛は「勤めというのは、おしなべて誰かが喜ぶようにできておると」と冷静に諭す。
揉め事にも真摯に取り組む姿勢、上にも下にも気を配るデキる中間管理職の鏡。
5作の連作短編だが、それぞれがゆるく繋がり、最後には読者を唸らせる内容。
季節を感じさせる情景描写、舌舐めずりしそうな江戸の食、そして上手い構成。上質の時代小説だ。
投稿元:
レビューを見る
ずーとこの作者の話は、別の人の小説で読んだことがあるような話だと思ってた。なので面白いけどいまいち意外性がないというか、時代小説って歌舞伎のように様式美の世界から出ないものだったっけって思ってた。
今回の本は、別の作者のシリーズものに内容が似てる気もしたけど結構面白かった。
続編希望です。
投稿元:
レビューを見る
評価:4にしたのは砂原作品だからこそ。前2作の「高瀬庄左衛門御留書」「黛家の兄弟」が素晴らしすぎて、その比較の意味でほんの少しだけ落ちるかなと。いつもながらの筆致に酔いしれつつも、今回のプロットは結構手前でわかってしまったのも少し落とした理由。とはいえ、ミステリーが主のお話ではないのでそこは些末事。3作品とも傑作で多くの読者に読んでほしいのは変わらず。。
投稿元:
レビューを見る
神宮寺藩江戸藩邸。江戸家老と留守居役の派閥争いに巻き込まれた差配役・里村五郎兵衛の物語。
主人公はもちろん脇役たちの造形が見事です。英邁な若君、活発な末娘、おろおろする部下の野田、奥の取りまとめ役の峰尾、端役に至るまでくっきり立ち上がっています。もっとも、どこか茫洋とした味わいの若手・安西はもう少し活躍させたかった気もしますが。合間合間に季節の移ろいを示す花や鳥があしらわれ、時代小説らしい雰囲気を出しています。
謎めいた仕掛けが2重に掛かっていて、それが最後の短編で一気に解き明かされます。なるほどそう来ましたか。
だた、最初に仕掛けたミスリードはやり過ぎかな。最後の短編の主人公の行動も、少々疑問が残ります。
とは言え、一気に読み切らせる力を持った良い作品ですした。
砂原作品としては軽快なエンタメ路線の時代小説です。シリーズ化も良さそうですね。
投稿元:
レビューを見る
柔らかな春の日差しに包まれて、縁側でネコ抱きながらまったりと本に向き合っている心地。小鳥の囀りに、ふと顔を上げると芳しい春の気配をはらんだ風が吹き抜ける…相変わらず色、音、香、五感すべてに語りかけてくる文章。一幅の絵巻物眺めているような心地良さ。
投稿元:
レビューを見る
いやはや、今作も読後感が清々しいったらありゃしない。「高瀬庄左衛門御留書」や「黛家の兄弟」よりもいくぶんライトな、というか通底する不穏ぶりがいくぶん比重薄めなという意味だが、五篇の各章ごとに物語が完結しつつ、全体通じた不穏さの種が少しずつ撒かれていって、というそのバランスが絶妙で、なんとも読みやすい。
主人公の“左配役”、里村五郎兵衛のまじめだが、現実的で柔軟な対処もできる上役が、日々様々起こる問題に振り回されるのもクスリとさせられる(なんとなく中井貴一が一時期よくやってた役みたいなイメージといったらいいだろうか)。
情景描写の素晴らしさも相変わらずで、季節や空気がすっと伝わって来る格調の高い文章は、読むだけで癒される。まさに読書ヒーリングだ。
なにやら続編も期待できそうな内容なので、じっくり待つことにします。
投稿元:
レビューを見る
藩の政治対立を主題とした時代物でよくある設定ではあったが、差配役という藩内の「何でも屋」を主役に置いたことと短編をまとめた形で最終章までは日常の謎解き物の柔らかい雰囲気が醸し出されていて心地よかった。
短編でいくと「滝夜叉」が特にお気に入り。長身と美貌という今だと誰もが憧れる女性像も江戸時代は異形のものとして嫉妬と争いの種になり安穏と過ごせない時代に五郎兵衛は武士としてできる範囲の解決策を授けてあげる。作者の各作品の主役はいつも血が通っていて深く彼らの感情に没入できるのが良い。このシーンも非常に誇らしい気分になれた。
肝の最終章は淡々と終結し、物足りなさは感じられた。ただ、最後の次女の澪の出生の秘密と藩主世子・亀千代の恋心に対する五郎兵衛の誠実な対応には驚きと安堵、幸せな気持ちになる終わりだった。
安西主税という若者が何か鍵を握っているかと思ったが、ただ剣術に長けた「今時の」若者だったのは少し拍子抜けだった。
投稿元:
レビューを見る
一捻りもふた捻りもしてある著書であった。さらにもう一つ草木や魚の名前随所に出てくる虫の名前の多いことが瞼の裏に素敵な情景を浮かばせてくれました。それぞれの短編も続いて展開があり最後にはニヤリとする実に楽しい小説でした。
投稿元:
レビューを見る
最後のどんでん返しはビックリ。それぞれの短編で引っかかりを感じていたのですが、「そうきたか」と。
何故直木賞の選考スタッフはこれを無視したのだろう?