やがて満ちてくる光の(新潮文庫)
著者 梨木香歩
作家として、旅行者として、そして生活者として日々を送るなかで、感じ、考えてきたこと――。読書に没頭していた子ども時代。日本や異国を旅して見た忘れがたい風景。物語を創作する...
やがて満ちてくる光の(新潮文庫)
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商品説明
作家として、旅行者として、そして生活者として日々を送るなかで、感じ、考えてきたこと――。読書に没頭していた子ども時代。日本や異国を旅して見た忘れがたい風景。物語を創作するうえでの覚悟。鳥や木々など自然と向き合う喜び。未来を危惧する視点と、透徹した死生観。職業として文章を書き始めた初期の頃から近年までの作品を集めた、その時々の著者の思いが鮮やかに立ちのぼるエッセイ集。(解説・河田桟)
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内面の世界と丁寧に向き合う作業
2023/08/06 16:51
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投稿者:あお - この投稿者のレビュー一覧を見る
筆者の作家活動初期からここ最近に至るまでに投稿したエッセイを集めたのが本書である。自然のこと、生物のこと、人と人との間に生じるエネルギーや、信じるもののこと、個人あるいは集団が積み上げてきた歴史のことなど、トピックは多岐にわたるが、全体を通して自分の中に思い浮かぶ言葉は「霊性」だろうか。
海にも、山にも、鳥にも、ハーブにも、キノコにも、そして家や、人にも、言葉にしにくい何か、引き寄せられるものがあって、それを言葉にしようとするとそうなる。
自分と、それ以外の対象との間には、何かかけがえのないものがそれぞれ独立して、つかず離れずの状態で共存しているような気がする。
それらの間の関係性には必要最低限の手が加わるのみにとどめ、対象をその対象たらしめる「霊性」(ここでは便宜上そういうことにしておこう)同士が何らかの交信を行っている、ようなイメージが何となく浮かび上がってくる。
この清浄な空気感を言葉にするのは難しい。
以下に自分の印象に残った箇所を記しておきたいと思う。
「家の渡り」では集団、組織の中において個を確立しようとする「我と汝」の姿勢についてや、住む人のことを考えた、内装を重視した家づくりについて。また「日常にリアリティーを取り戻す」では、現実と虚構の区別がつかなくなっているような昨今「自分の存在を静かに主張する能力」すなわち「自分と他者との間のボーダーの確認能力」が失われつつあるのではという筆者の危惧が書かれていた。そして最終章には、震災時の「非常時」という言葉に、戦時中の一致団結のような空気感に呑まれることへの不吉さについて。
あとは、「旅にあり続ける時空間――伊勢神宮」では、「旅をすることの一番の魅力は、シンプルな目的があって、それに向かって動くことだけに集中していればいい、そういう精神的な清潔感が持てること」(個人的にこれは一人旅だとなおのこと強く感じることだろうと思う)と述べられている。
これらの言葉を集めて考えていると、つまるところ自分は「個人の内面」へと意識を集中させていくことをある意味渇望しているのかもしれない。
個人主義、ということではなくて、自分の立ち位置とか、自分の足場とかをいつも確認して、そのうえで他者を視る。
そのことをいつも、願っているのかもしれない。
自らに宿る「霊性」をどこかで感じながら。