- 販売開始日: 2023/06/30
- 出版社: マガジンハウス
- ISBN:978-4-8387-0613-6
棒がいっぽん
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逸品集
2005/12/18 17:45
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ユー・リーダーズ・アット・ホーム! - この投稿者のレビュー一覧を見る
寡作な、本当に寡作な高野文子さんの1995年出版のこの作品集には、’87年から’94年のあいだに、大切に、ていねいに描かれた作品が6本収録されています。帯には「昭和43年6月6日のお昼ごはん、覚えていますか?」という文章が書かれていましたが、これは、最後に収められた「奥村さんのお茄子」という、ものすごく(!!)おもしろい作品に関係していることばです。とにかく、やさしくて、ほのかにせつない物語あり、楽しくわらえるものあり、雑誌に連載されていた4コマあり、というヴァラエティに富んだ内容の上に、そのどれもが傑作という素晴らしさです。
とにかくどれをとってもすごいんだけれど、この作品集の中では1番最近作の「奥村さんのお茄子」の完成された世界。上からも下からも右からも左からも、近くからも遠くからも眺めることのできるひとつの宇宙が描かれているようです。絵も構成も、3Dのように自由自在で、かなりかなりダイナミックかつ自由奔放な展開も、素晴らしく自然にたんたんと流れていきます。高野文子さんにしか描くことのできない、特別な世界です。どの物語を読みおわってもなんだか思いが残ります。そして、こういう描き方があり、それが実現されてここにあるという誇らしさ。
だから、高野文子を読みたくなるんだ。
2006/05/04 21:35
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
高野文子さんの漫画について、すでに多くの人が語られていることでしょう。寡作にもかかわらず、これだけの人に支持され続けるという人も珍しいのではないでしょうか。そのシンプルかつ完成された構図、独特の雰囲気をもつストーリーなどなど、その魅力もいろいろあげられているようです。
私の場合、「小さいところにも手を抜かない」という部分を見つけては喜んでいます。たとえば、「るきさん」が読む本のカバーが、「文鳥堂」のそれのパロディになっているところなど、読み返す楽しみがあります。なにせ、武者小路の「よく味はう者の血とならん」が「よく噛んで食べよう」になっているのですから。きちんと漫画になっています。
そして「小ささ」といえば、この作品集の「東京コロボックル」。佐藤さとるの「誰も知らない小さな国」や「木かげの家の小人たち」に親しんだことのある人なら、とても身近な存在でしょう(本作品でも参考文献としてあげられています)。そんなかれらが、平成の東京でどのような日常生活を営んでいるのか、を解説してくれます。ちゃっかり電化生活をおくっていたり、エコロジーに走ったりする人もいます。どうやら通販まであるようです。
そういえば先の二作品は、戦争をはさんだ時代設定でした。今となってはだいぶ昔の話になるのですから、それくらいの変化があってもいいのでしょうね。
引き算のよさ。
2020/04/04 21:11
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:なまねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
細部まで描きこまれた漫画、たとえば「乙嫁語り」のような作品も好きだけれど、高野さんのようなあっさりした線で描かれた漫画もいい。
あっさりといっても手間を省いた感じは一切なく、むしろ必要な余白だからこそ白いまま残してあるのだろう。
1987年(昭和62年)から1994年(平成6年)までの短編6作が収められているが、恐ろしいほど古びていない漫画。
「奥村さんのお茄子」もいいけれど、「美しき町」「病気になったトモコさん」の映画のような終わりのシーンも印象的。
おすすめ!
2016/01/31 23:58
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:onew - この投稿者のレビュー一覧を見る
構成やカメラワークがどの話も秀逸なんだけど、特に「奥村さんのお茄子」が好き。「奥村さんのお茄子」が好きな方は、ユリイカ2002年7月号も読むことをお勧めします。雑誌掲載版が載っています。
小柄な投手の完全試合を見るようなすごさ
2001/11/26 17:03
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:coma - この投稿者のレビュー一覧を見る
漫画がここまでの深みと娯楽性を両立しうるということにショックを受けた。しかもこんなシンプルな絵で、こんな短いページ数で。
一作目の「美しき町」から、画力、構成、テーマ、娯楽性のどれをとってもアラの見当たらない完成度。もうカットの一つ一つに圧倒された。どうしてこんな少ない線でこんなに動いてる絵が描けるのか、どうしてこんな少ない線でこんな生きてる表情が描けるのか、どうやったらこんな普通なのにかっこいい構図を描けるのか、ただただため息。
ある事柄を表現するのに、百万言の言葉を費やして文芸大作を作る道と、たかだか17文字の俳句を読む道があるとして、実は天才にしか出来ないのが後者の道だと考えるが、漫画でそれをしているのが高野文子だと思う。
なんだか不思議なSF
2001/01/18 02:52
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:emis - この投稿者のレビュー一覧を見る
「棒がいっぽん」、これは「SF」と言ってしまっていいのかしら?
と思うほど、見たこと無いタイプのSF作品です。
なんと言うか、奇妙きてれつな夢を見ているような…
「えっ、そう来たか…」と虚を突かれました。
しかし見せ方がさすがに高野文子さんで、思わずワクワクしてしまいます。
とても妙な、だけどやっぱりちょっとノスタルジックな香りがする不思議な作品でした。
<よき記憶>を持つ者は幸いなり
2006/05/05 07:21
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
「黄色い本」(講談社)の迫力に気圧されて、同じ作者の別の作品にも触れてみたいと考えて手にした一冊です。
87年から94年に発表された6作品が収録されています。一言では形容しづらい不可思議な手触りを感じさせる作品がほとんどです。
私が最も気に入ったのは次の二編です。
「奥村さんのお茄子」
1968年6月6日のお昼に何を食べたのか思い出してほしいと若い女性に懇願された奥村さん。突然の奇妙な願い事に戸惑いながらも30年前のお昼ご飯を思い出そうとする。そしてそんな質問を投げかけた女性というのが、そもそも奇妙奇天烈な素性の訪問者だった。
想像力の針が振り切れてしまうほど特異な状況設定が大変魅力的で、バカバカしさと切なさがないまぜになった感覚が心に広がる、味わい深い物語です。
「美しき町」
高度成長期の日本のとある町。新婚のサナエさんとノブオさんがアパートへ越してくる。隣近所の住人がすべて同じ工場に勤める労働者一家というそのアパートで、二人は決して豊かではないけれど濃密な時間を過ごしていく。
長い人生において日々起きる出来事はそのどれもが劇的だったりロマンチックだったりするわけではありません。昨日と変わらぬ今日や明日が続くのが当たり前です。
この物語の最後でサナエさんとノブオさんは思わぬ共同作業の末に朝まで一緒に過ごすことになりますが、それとて二人の人生を大きく変えるような出来事とはいえないようなものです。
ですがそれでも、若い二人は30年後にもこの夜のことを必ずや思い出すことでしょう。二人だけのかけがえのない時間として。そしてそうした時間をともに過ごした<記憶>が、きっと二人をこの先も温かく包み続けるはずです。
<よき記憶>こそが、病める時や貧しき時などギリギリにある人間を支えることができる。そう信じる私にとって、<記憶>をめぐるこの二編はとても心打つ作品なのです。
1987〜.1994年発表作品
2023/10/15 20:42
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
発表はかなり古いのですが、令和の今、読んでもそんなに時代を感じませんでした。個人的にはどれもいいです。中でも奥村さんのお茄子 、1968年6月6日の昼食を思い出してと女性に懇願された奥村さん。30年前のお昼ご飯なんてねえ
よくわからない
2017/09/19 21:48
2人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:pope - この投稿者のレビュー一覧を見る
ネタバレあり。
なんかどれもハマらなかったなー。
美しき町は他人のパンツを家に置いたままってのが気持ち悪い。
どうしたんどろう、あれ。 黙ってポストにでも入れてくりゃいいじゃないか。
ふしぎなふしぎな
2001/03/31 02:07
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:平川哲生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
不安だったり、なにかがとても気になるとき、頭のなかである映像が勝手にくり返されることがある。その映像はたいてい不安定で危険なもので、たとえば走っているバイクが道路の石につまづいて転倒する場面が、エンドレスで頭のなかを駆けめぐる。リピートされたとき、石があぶないなと事前にわかっても、バイクはまた転倒してしまう。そのくり返し。映像とともにだんだん不安は増し、気になることは更に精神を痛める。
そんな人間の心境を描かせたら、高野文子さんはぴかいちだと思う。ふだんの何気ない暮らしに満ちた、日常と狂気のすれすれのラインを、物語や絵からあふれる詩情でもって、まるで気軽にドライブでもするようにあと腐れなく描ききる。
これは、高野さんの87年から94年までの作品をまとめた短編集。初期の作品にくらべると、実験的な手法はやや少なめで、どちらかというとエンターテインメントした作品が多いように感じる。
タイトルにもなっている「棒がいっぽん」は、主人公の男性が二十年前に食べたナスをめぐる、ウエイトレス姿のとぼけた土瓶との不思議な物語。この妙な雰囲気と面白さは、実際に漫画を読まないと伝えられません。