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投稿者:えんぴつ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「けものたちは故郷をめざす」(新潮文庫)は、1972年の春、大学進学で上京した後、御茶ノ水の書泉ブックマートで購入した。重苦しく、途中で読むのをやめた。ちょっとボロボロになったブックカバーとともにずっと本棚に眠っていた。
その後、安部公房の作品は、「砂の女」はじめかなり読んだが、面白くはあっても共感はできなかった。何を言いたいのだろう・・・と、思った。
50年後、そうだ・・・と思いたち、「けものたちは故郷をめざす」を手にとって一気に読んだ。大陸から帰還した安部公房の原点がそこにあった。18歳の私が読みきれなかった安部公房の青春を感じた。
久三はどうなったのか・・・救いはない。
中国大陸を蹂躙した日本の歴史の底に沈んだ一つの青春。
安部公房が、ぐるぐると出口のないような観念的な小説を書き続けたのは、故郷をめざした救いのない時間をを経て来たゆえかもしれない、そんな気がする。
「解説」替えたら?
2022/06/28 22:26
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投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
作品そのものは岩波文庫版で読了済みなのだが、本新潮文庫版の磯田光一氏「解説」を一応読みたくて購入。ありきたりで面白さと有益さのかけらもないしなびた内容で、がっくり。岩波文庫版のリービ英雄解説の方がずっとよい。
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仮想現実に凍えつつ読了。読んでっと寒くなる程の悲惨な境遇、ロシアの道行き。鼻の内側が吸った空気で凍りむずがゆくなるような感覚!かくして主人公は逃げるわけだけども、結局自分が逃げるところまでが想定内の動きなんであって、逃げることで何も変わらないばかりか寧ろますます相手の思うがままに行動している事になるんではなかろうかと考え始めると止まらなくてもがくようにやはり逃げるんだけどもそれだってつまり・・・・焦燥感にクソ寒さが加わって肌の外側が赤くて痒くてかきむしられるようなのは胸の内だけどもやるせなさが収まる事はまるで無く いつになったら檻の内側に入ることが出来るんだろう・・そう、つまりこの話は檻から外へ出ようと逃げる話ではなく、逃げて逃げてほうほうのていで庇護の檻に通じる入り口を見つけたにもかかわらず、いつまで経っても締め出しを食らわされ続ける少年の物語なのである。
自然は逃亡を阻み、けれど街は侵入を拒む。
そういう話。
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『砂の女』と同じく読んでてひたすら疲れてくる。
―――人間関係と自然観鏡とが、悪意をもって身に迫ってくるとき、既成の社会秩序は意味を失うほかはない。――― 解説より
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ソ連軍が侵攻し、国府・八路軍が跳梁する敗戦前夜の満州、敵か味方か、国籍もわからぬ男とともに、ひたすら南を目指す少年久木久三―(中略)―雪と氷に閉ざされた満州から故国=日本をめざす人間の生の条件を描く長編。
(裏表紙より引用)
中期〜後期の作品とは一味違った安部ワールド。
とてもリアルなストーリーで、じわじわと生への狂気が感じられます。
創作物語といえ、「こんなになっても生きていられるんだな・・・」と思えてきます。
痛いシーンもあり、目を背けたくなる(活字を読んでるのだから、この表現は不適切かも・・・)ことも。
読みながら、不安が広がっていったんだけれど、最終的にその不安が杞憂ではなかったことを確信させられます。
途中、精神的にも身体的にもズタボロになっても、なんとなく希望を感じましたが、いざ故郷を目前にしたときほど恐ろしく絶望した瞬間はありません。
ラスト、若干飢餓同盟に似てるような。
そういえばこの作品、女性がほとんど出てきませんでした。
それがリアルさに拍車をかけていたようです。
安部さんの描かれる女性って、どこか幻想的なので。
色々な作品を読んで気づいたんですけど、刷新前の作品は「基本的に」真知さんが表紙絵を描かれてたんですね。
この作品の表紙、不安を煽るような絵ですごく好きです。
アマゾンで注文しよーかなーと思ったけど絶版ぽいですね・・・(´・ω・`)
中古で入手するか・・・と思って検索かけたら高いwwwww
頑張ります。
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あと一歩なのにっ。自身の満州体験を活かした、大陸を渡る冒険の旅。男たちの無骨さと間抜けさをジリジリくる表現で描き、ラストまで気を許させない。ニュアンスでいう国籍の本質に迫った、絶版の佳作。
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(1973.06.26読了)(1972.12.24購入)
*解説目録より*
ソ連軍が侵攻し、国府・八路軍が跳梁する敗戦前夜の満州―日本という故郷から根を断ち切られて、強力な政治の渦に巻き込まれた人間にとって脅迫のなかの〝自由〟とは何か? 既成の神話は地に墜ち、実在は裸形の姿を露呈する雪と氷に閉ざされた満州から、故国=日本をめざす人間の生の条件を描く長編。
☆関連図書(既読)
「飢餓同盟」安部公房著、新潮文庫、1970.09.25
「第四間氷期」安部公房著、新潮文庫、1970.11.10
「反劇的人間」安部公房・キーン著、中公新書、1973.05.25
「榎本武揚」安部公房著、中公文庫、1973.06.10
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満州時代の経験が生きた佳作。哲学書じみた『終りし道の標べに』に比べると読みやすい。
本作は、生と死の境目を綱渡りする決死の逃避行劇である。安部公房が生涯追い続けた「疎外」「人格の証明」といったテーマが既に表出している点が興味深い。また、夢や幻覚を用いた前衛的な雰囲気や、ひりひりするような現実的レトリックといった、後年の作風と繋がる面があるところも気になる。
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敗戦直下の満州エリアを舞台としているが、今後の安部作品にはないリアリズム文体、語彙の豊富さが新鮮。冒険小説としても最大限おもしろい。おもしろいのだが、ラスト数行が安部印。現在、文庫版が絶版らしいのだか、これが一番好きという人もいるのではないか。
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他人を利用し、利用される。戦時中の不幸な話と片付けられるだろうか。平和な生活をしていても、命のやり取りまではしないというだけで、基底にはそういう精神が伏流水のように存在しているのではないだろうか。私たちもまた、けものなのだろうか。
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ヤマザキマリのオススメ本として紹介されましたので初めての安部公房。終戦直後の満州から日本へ帰国する壮絶な旅。生きることの無条件の渇望に勇気をもらう。
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敗戦直後の満州から一度も見たことのない故郷、日本を目指して久木久三はソ連軍の元を発った。しかし、久三の旅はうまくはいかず、列車で出会った男とともに苦しみながら進んでゆく。
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安部公房の作品にしては非常にわかりやすい。まだ若いときに書いたものだからだろうか。楽しく読めた。これを読んだあとに布団で寝たりものを食べたりするといつもより幸せに感じる。
このときから、閉じ込められていることと自由、荒野、社会から断絶された人間、といった、のちの作品に共通するような要素がある。
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第二次世界大戦敗戦の噂を聞いて、診断書を満州から偽造し、逃げて?きたという公房の、半分くらいの体験記だそうです。
敗戦と共に襲われる屈辱、苦悶、苦痛…そして無政府状態に対する怒りと疑問が、この作品には生きることを諦めないというテーマで描かれています。
元々、公房のなかにある
考えることを諦めなければ、必ず閃きがある
というモットーのなか、主人公はひたすら考え抜いて窮地を渡っていくのですが、このモットーは個人的にも好きで、文学に嵌るきっかけにもなりました。
高の指を切断するシーンは、流石、医学部卒なだけあり生々しいですが、生きることを優先させると…と、ひたすら生に貪欲な内容でした。
人間は、いざとなったら案外、生きることに貪欲になるのだということを教わりました。
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舞台は第二次世界大戦終了直後の満洲である。
主人公の久三は満洲の工場の寮で生まれた。終戦直前、工場の日本人らは皆引き上げていったが、久三は病気の母親とともにこの地に残されてしまう。侵攻してしたソ連兵は、久三が「日本人に騙された」と誤解し、彼を軍の一員として迎え入れるのだった。
しかし、数年後、久三は日本に行きたいという思いを捨てきれず、駐屯地からひっそりと抜け出す・・・
この物語は、久三が日本に行くために極寒の大陸を徒歩で歩いて横断する、その苦しみを事細かに書いたものである。
安部公房の小説「砂の女」のような閉塞感とは正反対の状況だ。
広大な大地。極寒で、人気がなく、食べ物もない。
主人公を閉じ込めるものはなにもないのに、ひどい閉塞感に襲われる。飢餓、シラミ、そして久三と同じルートで移動したと思われる日本人の複数の遺体・・・。
久三は時に気が狂ったようになりながらも、広い中国の大地を歩み続けるのだ。
あとがきをみて初めて知ったが、安部公房は主人公と同じように戦前は満洲で暮らしており、敗戦もそこで迎えたということだ。その時の経験が、この小説に生かされてるのかと思うと、肌に痛みを感じるような冷たい恐怖が現実感を伴って襲いかかってくるような気がした。
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順調に思えた故郷への逃避行は、はじめの一日を頂点に地獄へと急降下していく。
銃撃、衝突、凍傷、飢え、裏切り、ありとあらゆる死の淵に立たされながらも、日本に帰れるという希望が何度もちらつく。が、その希望の光は見えたと思った次の瞬間には消え、暗闇を彷徨い歩いていると再び光り、またすぐに消える。消えるたびに絶望が殴る蹴るの暴行を加えてくる。幻の光であると、どこかで知っていながら、それでもすがりつくものがないよりましだと、裏に絶望が隠された希望という扉の取手を回す。
久三の感情、情景描写、ひとつひとつの表現が、鈍い鐘の音のような重さをもって心臓に響いてくる。
すべてが事実にしか思えないほど残酷なまでに現実的でかつ壮大な冒険活劇でもあった。