日本が英国の歩んだ諸々の轍を踏まないためにも・・・
2022/05/07 02:15
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投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の2014~2021年の英国在留時評を集めたクロニクル本。時系列の配列であることから彼の国における出来事の変遷がよく理解でき、同時に日英での比較(彼我の違い等)について考えさせられた。彼我同様の観点ということで云えば、評者としては月並みではあるがとにかく、現場の実情(端的には、民情)を知らない(知ろうともしない、勉強もしない、共感もなく他人事に終始する)政治家や官僚が権力(国家・財政の意思決定権)を握るととんでもないことになること、草の根における理性と行動力が存在したとしてもそれにはやはり限界があり、「共助」が破壊され尽くしすべてが商品化されてしまった社会においては、従い「自助」と「公助」のベスト・ミックスをいかに構想し実現するかが最大の肝要事であることを強く認識させられた。
「「全世界のムスリムvsそれ以外の人々(十字軍)」という構図を狂信する彼らは、たとえどんなことが起こっても、それはアラーの祝福であり、すべてが正しい方向に進んでいると信じるそうだ。無敵の楽観主義である。だが、そんな彼らにも弱点はあるらしい。・・・「ISのメンバーたちを悩ませたのはドイツ国民に歓迎される難民の写真だった」と書いてあったからだ。」(153~5頁)
「「ポピュリズム」という言葉は、日本では「大衆迎合主義」と訳されたりして頭ごなしに悪いもののように言われがちだが、Oxford Learner’s Dictionariesのサイトに行くと、「庶民の意見や願いを代表することを標榜する政治のタイプ」とシンプルに書かれている。・・・「ポピュリズムの行き過ぎたものがポピュラリズム」という解釈もあるが、ポピュリズムは大前提として「下側」(イグレシアス風に言えば「アウトサイド」)の政治勢力たらんとすることで、テレビに出ている有名なタレントを選挙に出馬させたりする手法は単なるポピュラリズム(大衆迎合主義)だ。」(197頁)
「慈善はそれが継続的なものであれ、応急処置である。」(209頁)
「英国では失業者たちが孤立していなかったのだと。そして、英国の労働者には「英国人」というアイデンティティ以外に、「組合員」という別のアイデンティティが存在したので、一つの極端な思想だけに凝り固まることがなかったのだという。・・・ 組合、だいじ。」(211頁)
「新自由主義でどんどん政府が小さくなっていくと、社会の末端では政府が存在しないアナーキーな状態になると昔書いたことがある。・・・「我慢」は道徳的に聞こえるが、闘わない言い訳になる。それは緊縮を進めたい勢力に容易に取り込まれ、利用される。」(263頁)
「差別の構造を語るとき、「無知」を「恐れ」で焚きつければ「ヘイト」が抽出されるという比喩が使われる」(368頁)
「「子どものことを考えるなら」「子どもを愛しているのなら」とわたしたちはいつも脅迫される。親も保育士も教員も、子どもへの愛があるなら自己を犠牲にしろと言われるのだ。・・・ だが、本来、愛とセットにされるべき言葉は、犠牲ではなく幸福だろう。幸福な人に育てられた子どもは幸福な社会を志向するようになる。本当に子どものことや国の未来を考えるのなら、愛を値切ってはいけないのだ。」(382~3頁)
「感染症ぐらいでこんなに物事が変わるなら、その気になれば変えられないことはないのではないかと信じ始めたのだ。」(445頁)
なお、本書は誤植が多い。「クレディ・スミス」(188頁、クレディ・スイスじゃないの?)、「ハモンド財務省」(303頁、財務相?)、「新自田主義」(315頁・318頁、この見落としは酷い・・・)。大丈夫か、岩波書店(笑)。
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」で話題になったブレイディみかこ氏
2022/07/15 10:24
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投稿者:リンドウ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」と「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2」がとても面白かったので購入。
今から読むのが楽しみです。
他の方のレビュー、大変参考になります。
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2014年〜2021年にかけての混迷するイギリスの状況を、労働者の生活から鮮明に捉えた鋭い考察と社会批評。
この時期のイギリス国内を表す事柄として、ブレグジットをはじめ、緊縮財政下における広がる格差や子どもの貧困、徹底的な自由市場化で能力主義礼賛による社会の屋台骨を支える労働者の軽視など、日本のメディアではあまり知ることができない現状が、著者のブレディみかこ氏が普段の生活で直面するリアルなものとして書かれている。
もちろんこういった流れはイギリスだけではなく他の先進国でも見られる問題で、日本でも少なからず同じような現象は起こりつつあると思った。
緊縮財政がイギリスの社会にもたらした多くの問題を見ると、自由な市場における競争は格差を助長させるがままとなり、良い方向にはいかないのではないかと考えるようになった。
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著者が小論を語る場所はイギリス、日本と同じく島国だ。でも自分たちの生活やその基盤を担うまつりごとへの眼差し、地べたの活動をあきらめないパワーになんだかちがいを感じてしまった。他の国々により近く囲まれているからだろうか? けれど「自分たちすごい」に頼り、酔って「ガラパゴス化」どころかまつりごとの「良い良いなすがまま」の日本と比べると……とついつい思ってしまう。この差はなんだろうか。とまれ、この小論集では、2014-2021のイギリス(ときに他国)事情が、たっぷり毒も薬もそのまま、「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」のパンクな母ちゃんのしっかりした視線で語られている。ほんとうに必要なのは公助、それは日本も同じだろうな。
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プレイディみかこの本なので、読んでみました。この人の感性や政治的な立地点はとても好感が持てました。塩見七海さんと似ているところがあるのは、外国から見ているからですね。
塩見七海さんの描いている散文は、日本のことが多いけど、プレディみかこさんはイギリスのことが多い。良かったのはイギリスの実際がよくわかること。
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如何に情報を表層的にしか捉えていなかったかと、強く感じさせる。
日本の報道を通して知った事と、イギリスの現地で暮らし体感している事との差は大きい。
そして一般の庶民の目線から感じる格差やBrexit、緊縮財政の影響は、本当に難しい問題だ。
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2014年〜2021年の間に発表されたブレイディみかこさんの社会・政治時評集。ブレグジットに始まりコロナに終わるさまざまな社会的・政治的な問題への短めの評論が多数集められています。基本は反緊縮、反貧困で、英国の現状は日本の未来を予測する上でも役に立ちます。
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2014:
年子どもの貧困とスーパープア
ハラール肉と排外ヒステリア
アンチ・ホームレス建築の非人道性
2015年
政治を変えるのはワーキングクラスの女たち
英国が身代金を払わない理由
フェミニズムとIS問題
2016年
左派はなぜケルンの集団性的暴行について語らないのか
左派に熱狂する欧米のジェネレーションY――日本の若者に飛び火しない理由
地べたから見た英EU離脱――昨日とは違うワーキングクラスの街の風景
2017年
『わたしは、ダニエル・ブレイク』はチャリティ映画じゃない。反緊縮映画だ
組合、だいじ。
レフトの経済
HUMAN(不満)
2018年
もう一つのクリスマス
子どもの権利
バッド・フード
2019年
EU離脱はどうなっとんねん――リバタリアン・ドリームの崩壊
ケチは不道徳
あんたらの国
2020年
もっとしなやかに、もっとしたたかに――英労働党が大敗を喫した日に
不安と軍隊
人か資本か
パニック
2021年
テクノポピュリズムの限界――二一世紀の禍と正面から向き合うことをまだ先送りにするだろうか
乱れる足並み
長期化するコロナ禍
心のワクチン
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今の日本ひどいなぁ、これからどうなってしまうんだろうと思う毎日だが、ここがダメ、みたいなところはイギリスでも似たようなダメさで、元々が階級社会であったり、移民の人たちが多かったりなので、貧困問題もより深刻な感じだ。「ゆりかごから墓場まで」と言われてた時代は遥かに遠い。
グローバル資本主義が続く限りは、どの国でも貧富の差は広がるばかりなのだろう。本当の意味での先進国はもうどこにもないのか。
イギリスの政治問題、社会問題をブレイディみかこさんのおかげで知ることができ、そのことから日本の問題も考えることができる。立ち位置(地べた)というのか考え方というのか共感できるし、書き方も具体的ですごくわかりやすい。他国の政治なんてわかりやすく書いてくれなければ興味など持てない。すごい書き手だと思う。私が偉そうに褒めるのも何だかだが。
日本にもいてくれないか、誰か。日本の問題をこのように書いてくれる人。私が見つけられてないだけか。女性がいいのだが。
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食べ物のトピックが多い印象を受けた。貧しさゆえに朝食を食べられない子どもたち、あるいは貧弱な食生活がもたらす肥満の危険性、などなど。こうした具体的な、目に見えるトピックがマクロな次元での政治や経済と結び付けられて語られる。この手腕こそブレイディみかこの真骨頂であると思う。私自身ブレグジットの騒ぎの時は何がなんだか一ミリも把握できていなかったので、遅まきながらこの本を読んで彼の国そして日本の狂騒を学べたように思う。ひもじい、という切実な感覚を政治と結びつけ、身体をして「生きたい」と言わしめる。ああアナーキー
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2014年~2021年に執筆されたコラムや時評を収録している。冒頭に収録されているのは「子どもの貧困とスーパープア」。IS問題、ギリシャ危機、プレグジット、新型コロナなどの影響、一方でグローバリズム、新自由主義、小さな政府による緊収財政。英国から貧困と分断の拡大が進む様子をレポートしている。日本で最近ニュースで流れているような問題は既に何年も前から存在していた。外地からの情報について自分がいかに「無知」であったか。世界のことを知ることが日本を知ることになると改めて考えさせられた。
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「クロニクル」とは年代記。2014年~2021年、英国より。8年は長いか、短いか?・・国民投票の決着は着いた。ブレグジットが決まった。首相はキャメロンからメイへ、そしてジョンソンに。労働党は衰退し、党首も変わった。コロナショックが起き、ロックダウン。繰り返される波に、ウイズコロナの社会実験。2014年の起点から、様々な変遷があった。・・積極財政への転換は道半ば。人々の心が変わるのは少しずつ。緊縮マインドを脱するには足りなかった。この後起きるウクライナ危機。”もったいない”のは、お金ではなく人の命。
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2014年から2021年まで各種媒体に発表された政治・社会時評をまとめたものだが、まとめて7年分の時事問題を読むと、大きく社会が変わっていることかと思う。そして、自分がどれだけ忘れっぽいか。。
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丹念に日々の出来事を文章化するみかこさんの馬力に驚いた.ブレグジェットの話題は日本では詳しく取り上げられないマターではあるが、当地では多くの人の口に出てくるようで凄いと感じた.我が国で憲法改正などのアイテムが普通の人の話題に上がるような雰囲気がでるのかな.コロナ禍の話題では、英国との違いもあるのが当然ながら庶民の暮らしが垣間見れて、楽しめた.
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当時イギリスに住んでいた身としては「そんなことあったんだ」と言うニュースがちらほらあり、興味深かった。今回も地べたを這う感じの論調で、これぞみかこ節って感じ。