SFをめぐる星、星、星。トンネルを抜けると、そこはショートショートの花咲く町でした。
2010/05/07 18:40
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1001編のショートショートを生み出した星新一の人となりとともに、いかにして星新一という作家がその才能を開花させ、類まれな想像力を羽ばたかせて作品を書いていったか、を記した評伝。文庫本上巻の本書では、星新一晩年の風貌を伝える「序章:帽子」、作家として世に出る前の親一(ペンネームである新一の本名)を綴った「第一章:パッカードと骸骨」から「第四章:空白の六年間」、SF作家として注目され始めた「第五章:円盤と宝石」「第六章:ボッコちゃん」の、大ざっぱに言って、三部から成っています。
巻頭の「序章」では、まず、星新一のショートショートのなかでも特に気に入っている作品「鍵」(『妄想銀行』所収)を取り上げていたところに、おっ!と引きつけられました。しみじみとした余韻が素晴らしいラストの文章がここで引かれているので、名品「鍵」を未読の方は、作品を読んでから本書に向かったほうがいいのではないでしょうか。また、この序章では、星新一直筆の色紙に書かれている<意中生羽翼 筆下起風雲>(意中 羽翼を生じ 筆下 風雲を起こす)の言葉が、ショートショートの名人にふさわしいもの。とてもいいなあと、印象に残りましたね。
作家となる前のことを綴った第四章まで。ここは読んでいて、かなり重苦しい気分になりました。父親の星一(はじめ)が創業した星製薬をまぐる記述などは、特に。でも、評伝では地味な箇所であるこの作家・星新一誕生前の記述が、後になって効いてくるのですね。下巻に来て、「ははあ、あの時の親一の記憶がここにつながってくるのか」と。頁をめくる手は重かったですが、第四章までをじっくりと読んでよかったなと、あとでそう思いました。
そして、1957年1月、レイ・ブラッドベリの名作『火星人記録』(現、『火星年代記』)を読んで<コンナ面白いのはめつたにない>と日記に記し、同年4月、作品のアイデアをいくつも手帳に走り書きするなど、この“昭和三十二年”という年に、作家・星新一が誕生。以後、次々にショートショートを発表していきます。その勢いたるや、開いた窓から飛び出し、花火さながら、一直線に空に駆け上る流星の如し。星新一の才能が作品に発揮され、SFの輝きと軌を一にする様子を活写した「第五章」に入って以降、わくわくしながら頁をめくっていきました。
万華鏡でも覗くように、時々刻々、ちょっとずつ変化する“星新一”の表情を配したカバー装幀は、吉田篤弘・吉田浩美のクラフト・エヴィング商會のコンビ。この上巻では、若かりし日の星さんの表情がいいですね。「星新一と、いいむぅあす」の声が、聞こえた気がしましたよ。
星親一が、作家・星新一として世に出るまで
2019/05/01 22:59
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:さらさばく - この投稿者のレビュー一覧を見る
ショートショートの作家として記憶される星新一の生涯を描いた労作ノンフィクション。上巻は、一代で星製薬を築いた父・星一と家族のこと、学生時代、親友の自死、父の急死によって後継社長となってからの、生前に新一本人が語らなかった6年間のこと、そして日本空飛ぶ円盤研究会に入りSFの同人になったこと、「ボッコちゃん」発表を機に作家として歩みだすまで。星家の親族や星製薬の関係者、新一の同級生などに丹念に取材して、星新一の生い立ちや人柄、時代背景を浮き彫りにしている。
SFがまだ定着していなかった時代の話で、戦後の日本の文壇の状況で初めて知ったことも多く、資料的にも価値がある作品だと思った。
「門のある家」にふれられていて満足
2019/01/30 17:35
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本に、「門のある家」というショートショートのことが書かれてある、筒井康隆氏が「ニューウエィブ指向がいちばん強い作品」だというこの作品は、「その家に入るとその家の住人のように振る舞ってしまうという奇妙な邸宅に、主人公が知らぬ間に巻き込まれ、不意に放り出されるという話だ(最相氏紹介のまま)。この作品は、星氏の作品の中で私が一番好きな作品なのだが、最相氏の伝記を読んでみると、星氏にとっての家とは何だったんだろうか、父や祖父とは、ということまで考えさせられてしまう。いつも飄々とショートショートをこなしているというイメージしかなかった彼が「もう何も思いつかない」と頭をかかえていた晩年があったということは知りたくなかった
投稿元:
レビューを見る
2010/3/29 ジュンク堂住吉シーア店にて購入。
2012/5/7~5/16
中高時代、夢中になって読んだ星新一さんの評伝。子供の頃だったので、星さんの出自などはぼんやりとしか知らなかったが(ショートショートではなかったので、「人民は弱し、官吏は強し」は読んでいなかった)、名家に産まれたお坊ちゃんだったこと、デビュー前に波乱万丈であったことが、最相さんの緻密な取材で浮かび上がってくる。日本のSF界の歴史としても興味深い。下巻も楽しみ。
投稿元:
レビューを見る
僕は小学生の6年くらいから「SFマガジン」を購読、旧「奇想天外」も新「奇想天外」も買っていました。本書で紹介されるいくつかのエピソードは知っていましたが、星さんの生涯にそって、また、SFファン以外の読者を想定して構築しなおされた日本SF創世記の物語は新鮮でした。これもやはり星さんが築きあげた広い層の読者があってのことと思います。
僕も著者と同じようにいつか星さんの本を手に取らなくなり、SFも読まなくなりました。雑誌などで「浸透と拡散」が言われていたのを記憶していますが、確かに今は昔であればSF、ファンタジー小説と呼ばれていたであろうものが書店で普通に並んでおり、映画もSFらしい設定が無いものを探すほうが難しいくらいです。中学の図書館で「SFマガジン」のバックナンバーを読んだ時、宇宙人やUFOを小道具にしたCMが放映されただけでもコラムのネタになっているのに(当時でさえ)びっくりしたものです。
その中で独自の発想をショートショートという形式で、しかもそれをあらゆる世代、後の世代に読まれるよう最後まで苦心されていたという本書の星さんの姿に胸打たれるものがあります。今一度、星さんの本を手に取ろう。そう、思いました。
何十年後、いや、何千年後の未来、ひょっとして違う星で、まったく異なる言語、フォーマットで、星さんの創造した物語が語られることもあり得るのかもしれません。その時、星さんの名前は忘れられているかもしれませんが、物語はずっと生き続けているのです。
投稿元:
レビューを見る
綿密な取材でひもとく故人の履歴。作者の主観表現の多さがきになったが、そういうものかしら。下巻に期待。
投稿元:
レビューを見る
ノンフィクション。
読むのに夢中にはならなかったです。
昔購入した星新一本を実家に探しに行ったが、すべて行方不明。
投稿元:
レビューを見る
星製薬なる会社が、そんなに有名だとは知らなかった。
父親である星一という人物は大変魅力的である。
ぼっちゃん、という人柄なのか。
デビューするまでの軌跡にさほど悲壮感はない。
投稿元:
レビューを見る
ハードカバーで出たのは知っていてずっと読みたいな~と思っておりました。でも文庫になるまで待とう!と思っていたので発売されてすぐに購入しました。
自分と星新一氏のショートショートの出会いは中学生の頃でした。著者は高校時代に星新一氏の作品をむさぼるように読み、殆ど忘れてしまった、と後書きにありました。私も全てを覚えているわけではありませんが何作かはあまりに衝撃を受けたのでいまだにきちんと覚えております。
人間が宇宙に進出して今の人類と同じように発展した惑星にたどり着く。文化レベルも人類のそれと比較してもほぼ同じか上ぐらいなのになぜ宇宙に進出しなかったのか?疑問に思った人類が尋ねるとその惑星の人達は砂漠化を止めたり、災害や飢餓対策をしていたらとても宇宙に進出する余裕はなかった、と答える。
このお話は読んだときから忘れられません。
星新一氏のお父さんが星製薬と言う会社を運営していた、と言う話は以前星氏の著作を読んだ時知りました。それにしても星一と言う方は壮絶な人生を歩まれた方だなと思いました。時代もあるのでしょうがなんというのか明治・大正・昭和初期の頃に生きていた人達は一人一人が一冊ぐらい本になりそうなドラマを持っている気がします。
星新一氏に経営能力があったら今のショートショートは、SFはどうなっていたのでしょう?星氏の作品を熱中して読んだことのある読者はこれだけの作品を残してくれたことを感謝するでしょうが著者ご本人はどう思っていたのか。
それにしても今は直木賞も芥川賞もぽんぽん色々な人にあげているよなあ~、だったら星氏にあげてもよかったじゃない?なんて読み終わった後悔しく思いました。
投稿元:
レビューを見る
数々の賞を受賞した、星新一の評伝。星新一は言わずと知れたショートショートの神様だが、実はこの本を読むまで、彼がかつて日本一の製薬会社だった星製薬の御曹司だとは知らなかった。
前半の星製薬と父 星一に関する記述は、戦前、戦中の雰囲気を伝えて興味深いところがあるものの、概ね冗長。
しかし、上巻の後半、矢野徹がSF大会参加のために渡米し、柴野拓美が「宇宙塵」を創刊するあたりから話は急に面白くなる。戦後日本が若く、やがて大御所となる大作家たちもまだ若く、そして何よりも日本 SF 界自体が若い、否、幼かった時代の物語だ。SF に魅せられた男たちが、一躍スターダムへと昇りつめる星新一とともに、世間の誤解と文壇の無理解に葛藤しながら、ただ「SF が好きだ」という理由だけで、SF の執筆、批評、普及に情熱を傾けている姿には、すべてのものが若いとき特有の、あの熱さがある。
後半は、星新一の、大御所となってしまったが故の苦悩、1001話に向けたプレッシャー、量産に対する批判、「空気から水を絞りだすような」創作の苦しみを描く。あのドライで、現実離れした文章の裏側には、確かに人間「星新一」がいた。25年ぶりくらいに、星新一のショートショートを読み返そうかと思う。
投稿元:
レビューを見る
前に著者の「絶対音感」を読もうと思って探してた時に、この本を見つけて気になっていたが、小飼弾が書評を書いていたので後押しされた。
なぜ気になっていたか。
それは星新一が私の読書の原点の人だから。
つまり、最初に自分で買って最後まで読んだ本が星新一のショートショートだった。
私は読書が嫌いな子供だった。読書感想文も「植物図鑑」を読んで書いたくらいだ。
小学4年生か5年生くらい、当時好きだったNHK少年ドラマシリーズの原作が読みたくなり、眉村卓の小説を買った。
だが、読書習慣がなかったのでどうしても読み進められなかった。
そんな時に出会ったのが星新一だった。
星新一のショートショートは面白く、そして一つの話しが短かった(ショートショートだから当たり前だが)。そして読破できた。
それがきっかけで、その後長編小説が読めるようになったのだ。
そんな訳で、星新一には少し思い入れがある。
彼の本は3冊程度しか読んでいないと思うが、それでも特別な作家だった。
投稿元:
レビューを見る
ショートショートの神様、星新一の評伝。上巻の前半は父星一のお話しが中心。昭和史に名を残す人物が多数登場します。後半は星新一がデビューする辺りまで。
投稿元:
レビューを見る
会社を継いだ二代目の苦労の部分がウェイトを占める前半部。最後の方で作家として脚光を浴びる部分に入る。
投稿元:
レビューを見る
絶賛され文学賞を獲りまくった話題作。文庫化を待って読んだがこれが上下巻なのに止まらない。作家デビュー前の祖父・父の生い立ちから全盛期、作家生活晩年の苦闘、休筆後、そして死。
作家の死後も作品は残るし、再評価される人もいる。我々は星さんを過小評価し過ぎではなかったか。筒井康隆さんも星雲賞を星さんが一度も貰ってないことを嘆いていたよなあ。昨年は小松左京先生も亡くなってしまった…。
投稿元:
レビューを見る
「ボッコちゃん」「マイ国家」など数多のショートショートを生み出し、今なお愛される星新一。森鴎外の血縁にあたり、大企業の御曹司として生まれた少年はいかなる人生を歩んだのか。星製薬社長となった空白の六年間と封印された負の遺産、昭和の借金王と呼ばれた父との関係、作家の片鱗をみせた青年時代、後の盟友たちとの出会い―知られざる小説家以前の姿を浮かび上がらせる。
星新一が森鴎外の血縁であることも大企業の御曹司だったことは知らなかった。
最相さんが遺族協力のもとで膨大な数の資料整理および関係者への取材を行ったことに対しては称賛に値すると思う。徹頭徹尾客観的に述べようとする姿勢にも好感が持てた。
上巻では星新一のデビューまでの話。