ショートショートの花咲く町を作った男は、人をあっ!と驚かせてみたい、奇想と遊び心に満ちた男でした。この上下巻二冊は、そんな男の心の扉を開くひとつの“鍵”と言えるのではないでしょうか。
2010/05/09 11:04
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を執筆した動機として、著者は「あとがき」でこんなふうに書いています。
<一〇〇一編を一作ずつたどりながら、物語が生み出された背景と理由を、そして作家の人生を書き留めたいと思った。子供のころにあれほど引き込まれた作家のことを自分は何も知らない。引き込まれたのに、物語の内容はまったく忘れている。それでも、心に落ちている小さなかけらがある。そのかけらの正体を見極めてみたかった。> 本文庫下巻 p.420~421
私にとっても星新一のショートショートは、一時期夢中になって読んだ記憶があり、今はそのうちの幾つかを除いてその内容は忘れてしまっているけれど、確かに心の片隅にひっそりとしまわれているという思いがします。ふと振り返ってみればなつかしい気持ちに駆られるたくさんのショートショートを書いた“星新一”という人のことを知りたい、その人となりに触れてみたいと思って本書を手にした訳ですが、その期待に十分こたえてくれる、これは実に読みごたえのある評伝でした。
SF同人誌「宇宙塵(うちゅうじん)」の集まりの席で、レイ・ブラッドベリの短篇「万華鏡」(『刺青の男』所収)のあらすじを、星新一が紹介するのを聞いたみんなが「すごいなあ。すごいなあ」としびれる件り。「宇宙塵」の創刊二十周年の一、二年前に、新一がひょっこり、「宇宙塵」編集長・柴野拓美の家を訪ね、少しだけ話をして、お茶飲んで帰っていく件り。星新一のファンクラブ「エヌ氏の会」で開かれたイベント「星コン」第一回目に参加した新一とファンの交流を記した件り。星新一の葬儀の席上、盟友・筒井康隆が語った追悼の言葉の一節を引いた件り。月のきれいな夜、タモリの別荘で、ドビュッシーの「月の光」をアレンジした冨田勲の音楽を聴きながら、新一が目に涙を浮かべる件り。この下巻では、新一をめぐるそうした印象的な逸話があちこちにあり、目頭が熱くなりました。
<遺品を検証しつつ人の生涯をたどるのは初めての仕事である。ときに情念が乗り移り、作家の怒りや苦しみがまるで自分自身のもののように思え、腹の底からこみあげてきたこともあった。> p.422 「あとがき」にて
と語る著者の言葉にあるように、作家・星新一と人間・星親一の屈折した思い、ショートショートの第一人者たらんとする自負と人知れぬ寂しい気持ちまでもが伝わってくる文庫上下巻、評伝の労作に感謝! 星新一の初期の短篇集を、久しぶりに読み返してみたくなりました。
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2010/3/29 ジュンク堂住吉シーア店にて購入。
2012/5/17~5/29
星新一氏の作品は高校時代を最後に読まなくなってしまい,訃報についても何となく受け入れてしまっていたが,本書を読むと今更ながら夢中になって読んでいた頃が思い出される。自分が読んでいた頃には既に悪戦苦闘しながら作品を生み出していたんだなぁ。
子供が中学生くらいになったら星さんの本を買い直して(実家にまだあるはずだけど),一緒に読むことにしよう。それまで絶版にならないよう願うのみ。
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“SSの神様”星新一の、文字通り「知られざる生涯」を克明に追った一作。特に、第一人者としての地位を築き、その一方でSSが書けなくなった状態から、「1,000篇を書く」と決意し、呻吟しながらその日を迎えた辺りの記述は興味深い。
詳細はこちらに。
http://rene-tennis.blog.so-net.ne.jp/2010-08-17
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作品しか知らなかった星新一。
でも、こんなに苦労して、こんなに鬱屈した思いを抱え、そしてこんなにユニークな人だったんだ、と驚きました。
やはり、唯一無二の存在。
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晩年の葛藤はなんとも嘆かわしい…
まさか、文学賞を欲していたとは。
1001という数字に圧倒されるばかりだが、
なぜその数字なのかを知って、より重みを感じざるをえない。
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星新一の本をもう一度読まなきゃと思った。
星新一の都会的な文章、膨大な量の物語、品質の良さから
それは難なく書かれたものかと思っていた。
星新一はショートショートの神様だから。
でも彼は人間である。
泣いたりもしたのかな、そう思うと、
もう一回、次は大切に、読みたいと思う。
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ショートショートの神様としての苦悩。文壇との確執。下巻は現在も活動しているSF作家が次々登場します。
星新一のショートショートに中学生の頃はまって読んだことは私の拙い読書歴の中で大変幸せなことだったと改めて思いました。著者の膨大な資料の読み込みと長期に渡る取材、そして星新一に対しての思いには感服する。
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「セキストラ」でのデビュー後、ドライでウィットに富んだショートショートは多くの読者を獲得する。膨れ上がる人気の一方で、新しすぎる個性は文壇との間に確執を生んでいた。そして前人未到の作品数を生み出す中、星新一自身にも、マンネリ化への恐怖が襲いかかることに。本人と親交のあった関係者134人への取材と、膨大な遺品からたどる、明かされることのなかった小説家の生涯。
下巻ではデビュー後の星新一のことを書いている。
小中学校の頃までは夢中で星新一の作品を読んでいたのだけれど、いつからか読まなくなった自分に気が付いた。そして結構な作品を読んだにもかかわらず、そのほとんどの内容を覚えていないのにも気が付いた。「星新一」の前に読んだ「スローハイツの神様」にでてくるシノダコーキの作品も大人になるといつの間にか読まれなくなると書いてあり、こういうものかと実感した。
家の本棚をあさって久しぶりに星新一の作品でも読もうかなと思えた。
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読み応えのある評伝だった。
作家の、孤独でかなしい面が浮き彫りになっており、複雑な気持ちにはなる。だが、それを聞いて得心がいった、というようなところがある。手放しに幸せではないかもしれない。数奇と言って良い人生かもしれない。作品が残り続けてほしい、と願うのは、作家の業だが、星新一の場合、その願いは叶っていると言って良い。同時代に評価されずにひっそり世を去る作家は多い。星新一は同時代に評価されなかったわけではないが、あまりに特異な作家であったために、正当な評価を得ていたとは言い難いかもしれない。この評伝を含め、後世の再評価が待たれる作家なのかもしれない。
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伝記分析より読んだ一冊。彼の作品を全て読み終わった後にもう一度読みたい。作品の見方が少し変わったかな。
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帯文(裏表紙):”本人と親交のあった関係者134人への取材と、膨大な遺品からたどる、明かされることのなかった小説家の生涯。”
目次:第7章 バイロン卿の夢、第8章 思索販売業、第9章 あのころの夢、第10章 頭の大きなロボット、第11章 カウントダウン1001編、第12章 東京に原爆を! 終章 鍵、あとがき、文庫版あとがき、参考文献、年譜、人名索引
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数年前の『龍馬伝』で話題になった坂本龍馬は、その二面性が魅力である。善人でもあり悪人でもあるという二面性だ。
そして、星新一はいくつもの二面性を持っている。まず、理系であり、作家である。だからこそSF作家になれた。
そして、自由奔放でありながら、完璧主義である。〆切の前にきっちり原稿を書き上げる完璧主義である。
さらに、家の顔と外の顔が違う。気さくなように見えて、人を信用しなかった。
もともとは金持ちのおぼっちゃんである。将来は星製薬を継ぐ予定だった。
東大大学院の同級生は日本を引っ張るリーダーたちだったろう。同級生たちに負けたくないというプライドもあったのではないか。
完璧主義でプライドの高い星新一は、売れることも賞を取ることも求めた。
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これは、あくまでも人間星新一の評伝であって、作家論ではない。
そして、彼を取り巻く状況、星製薬やSF界のことがたっぷり語られている。作者としてはそこが彼を成り立たせている外せないピースだと考えたのだろう。
個人的には、作品論的な部分がもっと読みたいのだか、それは他の人に任せるしがないのかも。
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う?
む~、大変な生涯だったんだなぁ。
柔軟なようで、拘りがすごい人だったのですね。
改めて星氏の作品が読みたくなりました。
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下巻はSFの旗手としての星新一から、ショートショートの名手星新一となり、やがてショートショートを1001作品書くという呪縛にとりつかれたある一人の男性の姿が現れてくる。
読んでみて、私が産まれた頃にはもうSFは普通に娯楽の一環としてアリだったのだが、SFが市民権を得るまでにはここまでの苦労があったのかと驚いた。
推理小説、かつては探偵小説と呼ばれたジャンルもSFより前にその課程を経ている。
SFの旗手としてもてはやされ、ショートショートと言えば星新一と言われ、子供から大人まで誰にでも読まれる作家となる。場の中心におり、いつも面白いことを言う。けれども彼の心は誰にも開かれておらず、そして表向きの顔を辞めることは出来ない。
同時代に生きていた手塚治虫が一生マンガの第一線に立とうとしたように、星新一は普遍的に楽しまれるショートショートの名手であろうとした。
1アイディアで長編が書けるようなネタをショートショートとして出し続けてきた作家というのは、ものすごい。なんだかこう魂を削って、命を削っているような気がする。
すごかった。
けれども、私が今後星新一のショートショートを読むときに、こんなことは関係なく作品を楽しむような気がする。それはそれですごい。