暑い夏をふっとばす熱量を持ったノンフィクション
2025/07/31 17:14
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
やはり地球温暖化の影響だろうか、今年(2025年)の夏も暑い。
こう暑いと、読書意欲も低下する。
こういう時こそ、暑さを凌ぐほどの熱量を持った作品を読みたい。
そう思っている人に。窪田新之助さんの『対馬の海に沈む』はオススメ。
第22回開高健ノンフィクション賞受賞作だ。
窪田さんが追いかけたのは、人口わずか3万人の長崎県の離島対馬で起こった
かつ抜群の営業成績から「JAの神様」とまでいわれた44歳のJA職員の転落死。
彼の死後発覚した22億円を超える横領事件。
彼はどのようにして横領を繰り返したのか、そしてそれは彼ひとりの犯行だったのか。
事件が発覚したのは2019年。
金額が大きい事件ではあるが、まったく記憶にない。
記憶がないのは、類似の事件が次から次へと出てくるからだろうか。
窪田さんはかつてJAグループの機関紙「日本農業新聞」で勤務していたこともあり、
退社後フリーのジャーナリストになってからも農業をテーマに追いかけていて。
このあまりに巨額の不正事件の謎に迫ることになる。
窪田さんはこの横領事件を転落死した元JAの職員ひとりのせいにはしない。
彼が起こした事件ではあるが、その背景を探っていく過程で「ノルマ」という枷や
達成したことで手にする「報酬」といった、
多かれ少なかれ組織が持っている影にたどり着いていく。
開高健ノンフィクション賞の選考委員の一人、姜尚中さんは
「取材の執拗なほどの粘着さと緻密さ、読む者を引き込む力の点で抜きん出ていた」と評価している。
人間の欲望は時に誰かひとりを葬り去ることで日常に溶け込むのだろうか。
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投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
金融機関、保険や共済を営む団体の悪い部分が煮詰まっている。便宜を図ると言うと聞こえはいいし、それで職員の成績も上がっているのなら、となるかもしれないが、結局組織は得していない。
開高健ノンフィクション賞
2025/05/10 17:21
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投稿者:はぐらうり - この投稿者のレビュー一覧を見る
開高健ノンフィクション賞。
JAで長年起こっていた不正を暴き、人間の悲しさも描かれている。まったく記憶にない事件だけれど、巨大組織の闇は相当深かった。
取材の量がもの凄い。ノンフィクション作家じゃなくて農業専門ライターのような方だったのがまた凄い。
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圧巻の取材力。普段はこうしたノンフィクションを読む度、どこかしらに不完全燃焼感があるが、こちらは一切ない。「オススメの本はなに?」と尋ねられたら、即この本を挙げたいレベルに良きです。
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全く知らない事件でした。
農家なので普段からJAは身近な存在。農業だけに関わらず銀行を始め多岐にわたる業務内容で田舎には特に欠かせない。ノルマの話は知っていてうちも共済など利用しているけど感じたことはありませんでした。
私も組合員で島の人と同じ立場になった時にどういう判断をするだろうか、同じように共犯者にならないと言い切れない…深く考えてしまいました。
もう一度読み直したくなりました。
最近、銀行での横領が話題になりましたがこちらの事件のほうが寒気がする、もっと深い問題として取り上げられてもおかしくないと感じました。
作者の徹底的な取材に感銘を受けました。
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人口3万人余の小さな島である対馬で、その1割以上から契約を取り付けスーパーライフアドバイザー、「LAの神様」と呼ばれていた西山義治が車で海に転落し死亡した。
彼は、借名口座や借用口座を作り、建物共済を契約、建物の被害を捏造、多額の共済金を振り込ませていた。
これを単なる不祥事件として片付けることへの違和感から著者は関係者などに徹底した取材を行う。
そこから見えてきたのは、西山が小さな単位農協職員を苦しめるノルマを逆手に取り、組織での求心力や影響を伸ばしていたという事実だった。彼は共済だけでなく、信用や経済事業でも実績を挙げていた。そして、彼に救われた職員、組織の上層部、さらには県の共済連までもが、彼の行動を見て見ぬふりをしていた。
彼の不正に協力、加担した職員は多く、彼に反発したり、告発しようとした職員や上司は左遷や排除の憂き目にあった。
著者の取材は、それだけにとどまらなかった。西山のことを悪くいう住民がいないという事実の裏には、住民と西山の間の持ちつ持たれつの関係があり、いわば「共犯者」がいたのである。
著者は、この事件の背景には、巨大組織であるJAグループにはびこる過重なノルマ、内部告発を黙殺しようとする土壌、親族や地縁を中心とする人間関係や場の雰囲気を大事にする日本の風土があると考える。
一個人による不正事件の裏に潜む構造的な闇に光を当てた渾身のルポルタージュである。
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p11 農協 総合農協と専門農協
総合農協ー経済事業、信用事業、共済事業
専門農協 信用事業は行わない
信用事業 農林中金
共済事業 JA共済連
経済事業 JA全農
農業に関する経済事業は赤字 その穴埋めをしているのが、共済事業と信用事業、あわせて金融事業
p139 全国のJA職員を苦しめてきた共済商品の営業に関する過大なノルマの弊害、とくに自爆営業が横行してきたことである
p248 日本農業新聞 家の光 地上 ちゃぐりん
p223 それなのに、西山が不正をしえいると不正によって大きな損害が生まれているという2つの事案を、JA共済長崎が認識したうえでその被害を黙認してきたのは、彼らがノルマを課せられているからだと考えるのが妥当である。これはJA対馬だけでなくJA共済連の他県の関係者にも取材しての結論である
p224 JAグループがあつかう、ひといえくるまという三種類の共済のそれぞれで高い実績を上げなければならない
p229 一般に日本の組織は、閉鎖的で同僚圧力が強く、年長者や有力者が頂点に立つピラミッド型をなす。そこに所属する個人は、考え方から行動に至るまで組織の影響を受ける。また、個人同士組織内での付き合いを深め、結果的に公私の別が希薄になりやすい
こうした日本的なムラ社会の構造は、まさにJAでこそ強固に築かれているように思える。というのもJAでは縁故採用が基本である。職員や組合員の子弟をはじめ、彼らの学校の後輩や近所の顔なじみといった人たちが就職してくる。とりわけ小世帯のJAであればあるほど、採用する地域が限定され、それまでに付き合いがあった人ばかりが集まりやすい。全国のjAで、ノルマを達成するために、私有財産を投げ出したりすることが日常的かつ一般的に起きていることは、こうした人間関係の濃密さが一因となっているのではないか
p262 農協法では、組合員以外がその事業を享受できる割合については一定の規制を設けいている。この員外利用規制は、各事業の総利用量の20%までである
p274 これだけ正当な告発があっても、その後10年近くにわたって不正が発覚しなかった理由は、JA対馬の役職員や共済連などがその隠蔽に加担してきたことだけではなかった。小宮が被害者がいないと記している通り、西山と島民たちとの共犯関係があったからこそ、問題にすらされなかったのだ。
p294
文化人類学者ルース・ベネディクトが著書「菊と刀 日本文化の型」で喝破したように、欧米が罪の文化ナノに対して、日本は恥の文化である
個人主義が発達した欧米では、自らの行動や感情を自らの基準に照らし合わせて評価する。かたや日本では、親族や地縁を中心とする人間関係や場の雰囲気こそが大事であり、身の周りの人達からどう見られているかをひどく気にする。逆に言えば、同じ集団の仲間から悪く見られなければ、どこかの中古車販売店のように保険金を水増し請求しようが街路樹に除草剤をまこうが、問題なしということになる
付け加えれば、日本のように共同体の秩序が支配する社会で成功するには、それに同調しながら生きていくことが欠かせない。仲間同士は監視し、もし秩序を乱すものがいれば排除する。共同体のはんえいにつながる機会が訪れれば、なんとかしてそれをモノにしようとする。
西山が不正絡みで取ってきた数々の行動は、どれも日本の社会でありがちなものである。
こうして少し引いた場所から眺めてみると、JA対馬を舞台にした不祥事件は、この国では決して特殊でないといえる。西山と彼に関係する人たちがはまった陥穽は、きっとわたしたちの社会の至る所で待ち構えているに違いない
p312 彼女は正職員にならないかという打診をたいたび受けていたものの、これを固辞している
理由は、それこそ正職員になるとノルマが課されるからだ。臨時職員にはそれがない。ノルマに追われて、やがて不正に手を染めざるを得なくなることをよしとしなかった。
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事実は小説よりも奇なり とはよく言うが
実に興味深かった
長崎出身だが対馬でこのようなことが起きてたとは知らなかった。
JA対馬に日本一の営業マンいた。しかも何年も2位にダントツの差をつけて。
しかし、犯罪ともいえる行為で契約を獲得していた。 最終的に彼は対馬の海に車ごと突っ込みなき人となる。
この行為は彼自身がやってきたことなのか?
真実は闇だが著者の調査で、JA自体の隠蔽体質や契約者自身も加担した結果による事件だったのではということが濃厚となっている。
数十人の同僚も加担していたようだが、ノルマの厳しいとされる中、自分も同じように巻き込まれかねないなぁと感慨深くなった。
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社会の嫌なところをまざまざを見せつけられる悲しい事件。そもそもこの規模の事件なのに聞き覚えがなくて、それ自体に違和感を覚える。
田舎出身の私からすると、いつ自分の身に降りかかってもおかしくないと思った。例えば自分の親が甘い蜜を吸っていたら、それを知った子どもは止められるだろうか。しかもそれが生活に直結する仕事に関わっているとしたら。
閉鎖的な田舎は存在する、今も。極論かもしれないけど、こういう同調圧力に嫌気がした若者も多いわけで、是正しないと人口流出は避けられないだろう。
感想を書けば書くほど私自身もヒートアップして、小宮さんの気持ち分かるなと思った。人に欲がある限りなくならない気もするが、正義が正義であり続けられる社会になることを祈っている。
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対馬で起こった実際の事件の調査をもとに語られている。著者の調査資料は多分物凄いものがあると感じながら読み終えた!犯人に対しても思い遣りを感じられて好感を持った。JAの総てがそうだとは思わないが書中の様な体質のところもあるかもな。
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JA職員の横領、そして発覚前に自殺。
死人に口なしの言葉そのままに何もかもをただ1人に背負わせる。
年末にとんでもない本がきた!
面白すぎる〜
彼が自殺したところから始まって、JAの基本情報、そして著者の取材が始まって、もう最初からアクセル全開で不正の数々を一から百まで読ませてくれます。楽しい!
田舎のヤンキーっぽく、ワンピースが大好き、味方には優しい、そんな彼の最後の日々が正反対で寂しい。
ただやっぱり不正を見過ごさない人たちはいた。
告発した小宮さんが彼のことを親身に考えてくれていたことが悲しい。
こんな大事件になりそうな不正なのにぜんぜん知らなかった。作中にある発表会で人気タレントを呼んだり、CMとかもバンバンしてるから
凄い圧力かかったのかな。
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面白かった。
しかし、地方の営業所で営業職として働いたことのある人間ならば多かれ少なかれ顧客との共犯関係の構築による信頼関係を築くことや実績を上げるためにコンプライアンスのグレーゾーンを行き来することは業界は違えど見聞きしたことはあるので、この著者の驚きや意外性みたいなものにはそこまで共感できなかった部分はある。
とはいえ、この保険金分配システム?は島内の人脈ネットワークとそこに書類上生まれる「リスクの商品化」を利用したある種の島内の「産業」のような状況になっているとも思えたし、その調査、取材力でここまで状況を解き明かすのはすごい。
自分は「〈賄賂〉のある暮らし 市場経済化後のカザフスタン」を読んだ時のことを思い出した。この本では、公的な機関のポストや許認可権を商品化し、売買しているカザフスタンの状況を描いている。自分には公職の腐敗を拠り所にした「産業」のようになっているカザフスタンの状況が重なって思い出された。
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JA共済のトップ営業マンが、その裏で22億円に登る横領を重ね、社内調査の当日に車で海に突っ込み自死した。不正の手口と死の真相を巡る事件ノンフィクション。無謀な営業ノルマと杜撰過ぎる企業コンプライアンス。責任を個人に押し付けて、腐敗していく組織と人間の業。深い闇と人間の脆さが露呈していく。最大の「共犯者」にこの国の姿を見た。
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農協といえば、主に農業や農家のための仕事をしていると思われがちであるが、実はその売上げ・利益の大半は金融事業によって賄われており、とくに保険関係の共済事業は総資産約60兆円と国内最大手である。
対馬―日本海に浮かぶ人口3万人の離島に、この共済事業で全国トップの実績を誇るLA(ライフアドバイザー)がいた。西山義治は毎年数億円もの共済商品を販売し、10年以上全国大会で表彰される成果を出していた。西山氏は2019年2月に帰らぬ人となった。その死後、彼が約22億円もの資金を不正に流用していた疑惑が発覚したのだった。
どうして小さな島で全国トップレベルの営業成績を収めることができたのか。また何十億円もの不正蓄財を可能にした手口とはいかなるものだったのか。西山氏個人だけの問題なのか、はたまた組織的な犯行だったのか。調査が進むに連れて西山氏とJA対馬を取り巻く異様な状況が浮かび上がってくる。
JA共済のLAに課せられる厳しいノルマの飴と鞭、田舎ならではのヤンキー的な内輪意識と敵愾心、契約や共済金払い戻し等のプロセスの杜撰さ等々、様々な要因が西山氏のモラルを破壊していく。そして多かれ少なかれ、中央組織と地域の末端におけるヒエラルキー構造の下では起こり得る事件なのだと、公務員や大企業まで含めた組織に内在するリスクとして他山の石とすべき内容となっている。
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2019年2月25日、一台の「アトレーワゴン」がカーブを曲がらずに大きく逸れ、車止めにぶつかり、そのまま海に飛び込んだ。この事故で亡くなったのは対馬農業協同組合(JA対馬)の職員。
死因は「溺死」。出勤日なのに、彼は上下ともにジャージだった。基準値を超えるアルコールが検知された彼の死は、自殺と判断された。共済事業で高い実績をあげ、何度も表彰され、「神様」のように崇められた男は死後、不正に共済金を横領していたことが発覚する。
ということで本書は、JAの職員の死をひとりのジャーナリストが調査し、取材することで企業自体の問題、そして社会やコミュニティが持つ問題までもが浮き彫りになっていくノンフィクションになっています。善悪や論理、倫理感といったものとも向き合いながらも、それとは別に、そこに生きた人間、社会、心が立ち上がってくる。そんな作者のまなざしに強い信頼感を抱きたくなる一冊でした。