ソクラテスと若者たち 新着
著者 三嶋輝夫
「ソクラテス、あなたは善く生きろというが、では ”具体的にどうすれば” 善い人間になれるのか」。本書では3人の若者の人生録を抉り、彼らを苛む疑義の真相を探る。
ソクラテスと若者たち
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ソクラテスに影響された若者たち
2022/04/30 01:38
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投稿者:見張りを見張るのが私の仕事 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ソクラテスが死刑になったその罪状の一つが「ソクラテスは若者を堕落させている」というものであった。では若者の堕落とは何であろうか?誰が堕落させられたのだろうか?本書ではクレイトポン、アルキビアデス、アリスティッポスの三人を取り上げて、彼らの思想とソクラテスの影響について具体的に検討している。
対話篇『クレイトポン』はプラトンの手によるものではないという偽作判定が優勢であるようだが、ソクラテスに対いて徳の教授可能性について疑問を投げかけたことは重要である。つまり、ソクラテスは徳の大切さ、重要さについては語ってくれるが、具体的に徳を身につける方法については教えてくれないばかりか、徳を身につけようと欲する者にとって、ソクラテスのような存在がかえって邪魔になるというものである。私自身の考えとして、これはつまりソクラテスの無知の自覚の問題で、ソクラテス自身も徳について正しくは知らない、ゆえに徳を身につけようとする者はソクラテスのエレンコスの吟味を受けることになりアポリアに行き詰まる。徳が何であるのかも、どうすれば身につけられるのかもよくわからないままの状態にとどめ置かれる、ということに対する不満なのではないかと考えていた。著者はアルキビアデスに引き付けながら、徳に見切りをつけて世俗的な幸福のために邁進しようとしても、既に身につけてしまった徳の価値観がその邪魔になる、という解釈を提示しているところが新鮮であった。
アルキビアデスに対してはプラトンとクセノフォンで評価が違うのが面白い。プラトンはアルキビアデスを何度も対話篇の中に登場させていて、優れた才能を持った若者が現実の政治の中で翻弄されていくのを惜しんでいるようにも受け取れる。一方でクセノフォンは、アルキビアデスは自身の政治的野望の為にソクラテスの論駁術を利用したという評価をしている。クセノフォンの報告からは、ソクラテスのエレンコスが大人たち=伝統的な考えをやりこめているのを一種の娯楽のように楽しんでいる若者の姿が浮かび上がってくる。大人たちにしてみればこれに不満を覚えるのは無理なからぬことであり、告発状の若者の堕落と通ずる部分がある。
快楽主義者として知られるアリスティッポスは哲学者と言うより、こういうふうな考えを持っていれば人生を楽に生きられるだろうな、という人であると感じた。師のソクラテスはポリスの虻を自称して人々の眼を徳へと向けることを重視し、政治に積極的にかかわらなかった。そういうソクラテスの態度がアリスティッポスの政治にコミットしないという選択に影響を与えている面があるとしながらも、そうはいってもソクラテスは遠征以外でアテナイの外へ出ることはなかったので、アリスティッポスのコスモポリタン的側面はポリスを渡り歩いて自身の知を頼りに授業料を取って生活していたソフィストの影響が強いとする。