書とはどういう芸術か　増補版　筆蝕の美学

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「筆蝕」の美学: 書を単なる文字の美的表現としてではなく、筆と墨と紙、そして書き手の身体性によって生み出される線の動き、力の痕跡、墨の濃淡など、書字行為そのものの痕跡として捉える。
言語表現としての書: 書は文字の芸術であると同時に、言語の芸術でもあり、言葉の意味と音、そして筆蝕の美が融合して成立する表現である。
書史の再考: 中国と日本の書史を、筆蝕の視点から再解釈し、従来の書論や書道教育の問題点を指摘する。
重要なパート:

序論:
著者の執筆動機と、本書における問題意識の提示: 既存の書道論では説明できない書の核心に迫る。
「書」とは何か:
書道に対する一般的なイメージへの疑問: 習字、掛け軸、揮毫といった枠を超えた、書の芸術性への問いかけ。
現代における書への関心の高まりと、評価基準の不明確さへの危機感。
従来の書論への批判:
王羲之や顔真卿の書の習字化、古典至上主義への批判。
「書は美術ならず」論と「書は文字の美的工夫」論の紹介と、その問題点。
「線 の美」論、「書は人なり」論など、書道論の言いたい放題状態への警鐘。
「筆蝕」の美学:
書の核心は「筆蝕」にあるという主張: 書は単なる文字図形ではなく、言語が書かれた痕跡、言葉の運動の痕跡である。
漫画の描線を例にした筆蝕の分析: 線に込められた作者の意志や感情の表現。
書における二次元的な広がりと四次元的な速度の表現: 時間と空間の複合芸術としての書。
深さと速度の表現:
石碑の文字の「深さ」と筆蝕の関係: 刻字の痕跡としての筆跡。
褚遂良の「雁塔聖教序」を例にした考察: 肉筆と刻字の融合による楷書体の成立。
筆蝕のダイナミズム:
字画の中の強勢と弱勢、「間」の表現: リズムと勢いを感じさせる筆の動き。
白髪一雄の絵画やクビエスの版画との比較: 動きが見える絵画と筆蝕の共通性。
比田井天来の書とその分析:
前衛書道家たちの師・比田井天来の書を批判的に分析: 字画筆蝕から乖離した筆触表現への変化。
戦後の書道の変容:
字画筆蝕の軽視、筆触表現の多様化、そして、その問題点: 文字を記号のように扱う傾向への警鐘。
字画の深さと速度の統合:
空間性と時間性の統合体としての字画: 深さ、速度、そして重力との関係。
中国と日本の書の比較: 社会的な重力の有無が書表現に影響を与える。
筆蝕と構成:
筆蝕が構成を決定づけるという主張: 起筆、送筆、終筆の力加減、字画の配列、筆脈など。
「多宝塔碑」と「雁塔聖教序」を例にした考察: 筆法と言語の関係。
刻蝕と筆蝕:
古代における「刻む」ことと「書く」ことの意味合い: 毛筆の抽象性、筆を発見すること。
初心者が陥る誤り: 毛筆を画材のように扱うことの問題点。
隷書体の成立:
隷書の特徴と、隷書体の筆蝕の発見: 筆触の発見が書表現の幅を広げた。
唐代の書:
初唐の三大家の書を分析: 筆蝕の六要素が完全に備わるに至るまでの過程。
紙の発見:
表現空間としての「紙」の発見: 白紙が生み出す抽象的な表現世界の可能性���
抽象的な筆記具としての毛筆:
毛筆の特性: 他の筆記具とは異なる、抽象的な表現を可能にする道具。
臨書の意味:
王羲之の書を例にした考察: 複製を通した、書表現の学習、紙という場の拡張。
褚遂良の「雁塔聖教序」の意義: 刻蝕と筆蝕の融合。
手書きの複雑性:
オートマチック車とマニュアル車の比較: 簡便さの背後にある複雑さへの認識。
習字教育の問題点: 「トン・スー・トン」という筆使いに象徴される、手書きの複雑さ。
紙碑の出現:
紙の発明と石碑の表現の変化: 紙が石の表現形式を取り込み、楷書体を確立した。
「永字八法」の成立:
楷書体の完成と「永字八法」の意味: 点画の規範、字形の美しさ。
筆蝕の読み解き:
王羲之「喪乱帖」を例にした、具体的な筆蝕の分析: 一つの字画の中の複雑な筆の動き。
文字論の混乱:
西欧言語学の文字論への批判: 表語文字、表音文字の区別をめぐる混乱。
書字言語と音声言語の乖離:
日本語の特殊性: 漢字語と平仮名語の二重構造。
言語と書字の乖離がもたらす問題: 言葉の意味が失われる危機感。
書とカリグラフィーの違い:
日本の書と西欧のカリグラフィーの比較: 文字（形や型）と声、文字と言葉。
日本における書の展開:
和様書道の成立とその特徴: 優美な料紙、散らし書き、分かち書き、返し書き。
書における白紙（背景）の意味:
白紙とは、創造の前の広がりである: 書の歴史が充満する空間。
書は文学である:
書は文字を書くのではなく、言語を書くという主張: 筆蝕は言語を引き出す力。
高村光太郎の書論への批判: 深化しきれなかった考察への補足。
筆蝕と言語:
肉筆原稿を例にした考察: 筆蝕が文体を作り出す力。
デジタルな文体への警鐘: アナログな筆蝕の重要性。
筆蝕と 言語の関係: 言語の肉体としての筆蝕、一体不可分な関係。
書は人格である:
高村光太郎の書論への展開: 書体は文体、人格の表れである。
戦後前衛書道の展開とその問題点:
多様な試みと、筆蝕史との断絶: 書であるか否かという問いかけ。
武田桑鳳らの書への批判: 非書、非抽象絵画と化す危険性。
現代における書の岐路:
武田桑鳳らの臨書展への批判: 中途半端さの露呈。
近代詩文書の登場とその問題点:
口語文、自由詩、短歌、俳句、翻訳詩などの表現素材への可能性。
金子鷗亭の書論への批判: 「表現の素材」という捉え方の問題点。
書の本質への回帰:
書は筆蝕の表現であるという原点: その探求こそが重要である。
青山杉雨の書への批判: 絵画的な筆触表現への傾倒。
現代書道界の現状:
若い世代への失望: 戦後前衛書道の継承の放棄、拡散する表現。
美術評論の水準低下、習字教育の荒廃: 未来への危機感。
書の再生への道:
江戸時代の和様書道を評価: しかし、明治維新期に基盤を失う。
明治維新期の書を考察: 山県有朋の書に可能性を見出す。
現代における文字の劣化への警鐘: 形式的な引用に堕す危険性。
書の本質と表現の多様性の統合: 言語と筆蝕の融合。
これからの書:
当たり前の語句を美しく書くことの提案: そこから生まれる、新���な書の可能性。
書論の変遷: 二分される現代、書の未来への展望。
終わりに:
増補版の刊行を喜ぶ著者の言葉: 光晴氏への感謝。
本書の目的:

従来の書道論を批判的に検証し、新たな視点から書の核心に迫る。
「筆蝕の美学」という独自の理論を構築し、書の本質を解き明かす。
書道史、美学、言語学など、多角的な視点から書を論じる。
現代における書のあり方を問い、未来への提言を行う。

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