ヴァンダル画廊街の奇跡 みんなのレビュー
- 著者:美奈川 護, イラスト:望月 朔
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評価内訳
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2010/02/06 22:28
世界を変える一枚の絵
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
思想の多様化が対立を生み戦争を起こす。ゆえに争いの元となる思想を、そしてそれを表現する芸術を規制すべし。このような理念の下に世界政府が制定したプロパガンダ撤廃令により、過去の偉大な芸術家が生み出した音楽や絵画のほとんどが、人々の目に触れることは無くなった。
そんな世界において、「芸術に、その自由を!」という言葉と共に、規制対象の絵画の模写を建物をキャンバスに描くアート・テロリストがいる。ヴァンダルと呼ばれる彼らは、誰の心にもある一枚の絵をひとつずつ世界に取り戻していく。
世界中の各都市と、そこにある美術館に封印されている絵画、そしてそれを大切に思い生きている誰か、そこに秘められた物語をひも解きながら、とある目的を果たすために活動する少女とAI、半サイボーグの活躍を描く短編連作。
一話一話がしっとりとした雰囲気のやさしい作品でありながら、その裏面では平和に潜む矛盾という命題を突きつけつつ、物語は進んでいく。絵を大切に思う気持ちが感じられる作品。
2010/05/08 22:07
胎動
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
大切なものを権力に奪われた時にどうするか。涙を飲んで諦めるか、代わりのものを見つけて慰めとするか、はたまた、取り戻そうと行動するか。これは取り戻そうと行動する人たちの物語。ただし、取り戻そうとするものや取り戻すための手段の選び方は、それぞれ少しずつ異なっている。
世界政府のお膝元、スイス・ベルンで時を止めようとしていた時計塔と、新たに時を刻み始める時計に関するエピソードの第一章から始まり、オークションにかけられる一台のピアノとハルクの関係が詳らかにされることによって一人の女性の止まった時間が動き出す第二章。そして、第三章からはDESTに関係する人々が登場する。
養父から刺青の技術と一枚の絵を引き継いだ赤羽慶太、DESTの旧指導者UMAを名乗る赤い目の少年。彼らが受け継いだ4枚の絵が、DESTの今後の行動を指し示す。
今回は、ヴァンダル自身の行動よりも、彼らに対抗するように動く周囲の人々が物語の中心にいる。今後は、今回登場した人々がそれぞれ干渉し合いながら、世界のあるべき姿を求めて行動していくのだろう。
2010/11/20 01:18
母への憧憬が作り出す未来
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投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界政府がレナード・ウィンズベルを処刑した理由と反政府団体DESTの指導者UMA暗殺の関係が分かり、エナ・ウィンズベルの母で行方不明となっているイソラ・ウィンズベル/川澄伊空と、新たに名乗りを上げたUMA/アンノウンとの関係が新たな謎として残った。その謎を明らかにするため、エナやハルク、ネーヴォは、イソラの研究内容を知るため、世界政府が管轄する図書館への潜入を試みる。
一方、国際刑事警察機構ヴァンダル班のサムソン・ゲティスバーグとカッツェ・シュミットは、文化制定局局長アナベル・カーライトの指揮の下、情報に自由にアクセスできる立場を生かして、アンノウンの正体に迫っていた。
アンノウンの正体とは、そしてイソラの目指したものとは何だったのか?エナの原初の記憶がそれを解き明かす。
自分の考えを他者へと完璧に伝えることは難しい。特に言葉、文章でそれを伝えようとすることは困難だ。これは、例えば、メールで解釈の余地のある文章を送ってしまい、ミスコミュニケーションが起きた経験などを思い起こせばよいかも知れない。
絵画は文章に比べれば、情報がまぎれる余地は大分少ない。何せ、イメージを共有するために開発されたツールだからだ。そこには言葉には乗せきれない情報も載せることが出来る。しかしそれでも、見た者の解釈を許すことは確かだ。
だが、その余地を極限まで減らせるテーマがある。それは人類普遍の命題、例えば神の奇跡や、母の無償の愛という様なものだ。本巻では宗教画が多く登場する。ボクは宗教に造詣が深いわけではないが、少し考えて見たい。
旧約の時代、神と人間には直接的な関わりがあった。しかし新約の時代に入り、神はその代理人たる天使や、聖母を介して生まれたイエスを通じてしか関わりを持とうとしなくなった。自然、神は人間から遠くなったが、代わりに人間が神を産む、あるいは神になるというシステムが存在することが示された。しかし、こうして生まれた神は無限の存在にはなり得ない。人という枷を背負った以上、死も切り離せないものとなった。
母が子に示す無償の愛は、神が人を照らす慈悲に似ている。母から生まれたものは、母なる大地へと還る。そして新たな生命の糧となる。人は無限の命を失った代わりに、母という存在を通じて無限の循環を得た。この循環による進歩が人間に許される神の慈悲なのかも知れない。
母への憧憬という要素を上手く組み上げて、綺麗に物語は完結したように思う。
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