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電子書籍

風の陣 みんなのレビュー

  • 高橋克彦
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みんなのレビュー9件

みんなの評価4.4

評価内訳

  • 星 5 (4件)
  • 星 4 (2件)
  • 星 3 (3件)
  • 星 2 (0件)
  • 星 1 (0件)
9 件中 1 件~ 9 件を表示

紙の本風の陣 大望篇

2005/01/11 08:09

主人公の蝦夷が藤原仲麻呂と対決する奈良時代後期の大作

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 前作の立志篇から3年近く待たされてしまったが、ようやく文庫版の続編、大望篇が発刊された。期待に違わぬ出来である。時代は前編の続きである。放浪の聖武天皇が没して、光明皇后との娘であり立太子を済ませていた阿倍内親王が即位し、孝謙女帝となる。女帝を支える内裏は橘諸兄が実権を握るが、没した後の権力は混沌となり、諸兄の息子、橘奈良麻呂と藤原仲麻呂との争いとなるが、丸子(牡鹿)嶋足と坂上苅田麻呂の助成で仲麻呂の天下となった。
 恵美押勝と改称して実権を握った仲麻呂であったが、身内を内裏に引き上げたりで、世は乱れるばかりであった。孝謙女帝は退位して大炊王(淳仁天皇)を即位させたが、押勝は大炊王を自邸に住まわせるなど政を私物化する。
 一方で孝謙女帝は健康を害するが、その平癒に助力した怪僧、弓削道鏡が登場する。押勝に対抗する者として道鏡を選んだ蝦夷一派(物部天鈴、嶋足)であったが、予想外に道鏡が女帝に取り入って力を持つようになってしまった。
 蝦夷を蛮人として扱い、内政が乱れると討伐で目を逸らせる内裏に対抗することを目的に工作を続けてきた天鈴一派であった。しかし、なかなか思い通りにはならない。とにかく、悪政の源である押勝の排除を目先の目標とするほかはなかった。
 首尾よく押勝を計略によって排除し、嶋足と苅田麻呂はともに大出世を果たした。しかし、道鏡も太政大臣禅師となり、天鈴一派の先行きに再び暗雲が立ち込める。
 このシリーズの面白さは、陸奥の蝦夷が内裏工作で自分に都合の良い政権を樹立しようとするが、自分たちが後押しした政権が前よりも悪くなることであろう。そして、蝦夷が陸奥で産出する黄金を武器に政界工作を行い、政変の黒幕になっていることでもあろうか。
 政界工作を担う物部天鈴、官人である嶋足、そしてそれを取り巻く人間模様、さらに、武人として名高い坂上苅田麻呂との絡み、いとも簡単に黄金の力によって貴族の内部にまで工作ができる点などがいかにも小説的で面白い。
 完結編である次の『天命篇』では、歴史上の出来事で見れば称徳女帝が没し、混乱の末誕生した光仁天皇が伊冶公鮮麻呂の乱によって退陣に追い込まれるという陸奥と内裏との係わり合いで言えば最大の事件が持ち上がるわけである。さらに、坂上苅田麻呂の息である坂上田村麻呂も本編に登場するが、失敗続きであった陸奥征伐に征夷大将軍として成功する。さらに、前九年の役、後三年の役と奥州に穏やかな日々が来るのはまだ先である。天命篇ではどこまでが描かれているのか楽しみである。

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紙の本風の陣 風雲篇

2010/10/31 21:35

平安時代の曙と陸奥での騒乱を予感させる展開

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る

本書は蝦夷を中心とするグループが奈良時代を舞台に活躍する物語である。本書が4作目である。単行本の発行から文庫本の発行まで、またしても3年も待たされてしまった。丁度タイミングよく、同じ時期に最終作となる「裂心編」の単行本が発行されたようである。

奈良時代は、政治が安定を欠き、揺れ動いた時期である。特に後半は称徳帝が恵美押勝、道鏡にもたれかかり、その両者ともが失脚するという政変があった。これに対して本書は蝦夷の利益を維持するために画策するグループの動きを小説化したものである。

 史実に沿ったストーリー展開であるが、なにしろ1300年も前の話だけに、史料が何も語っていないところなど、分からないことも多い。作家にはそこをかなりの想像力と文章力で補うことが求められている。高橋克彦はこれまでにも『炎立つ』、『火怨』などを著わし、蝦夷が活躍するストーリー展開には定評がある。

 本書もこれまでの3作同様、会話が主体の進行である。それゆえにあっという間に読み終えてしまった。しかし、従来に比べて登場人物の個性が失われているような気がする。誰の発言なのかは注意していないと分からない。つまり、進行だけが中心になり、発言によって登場人物の個性を鮮明にできていない言ってよい。もっと、個性を出しても良いのではなかったか。

 蝦夷でありながら官人である道嶋嶋足、武人である坂上苅田麻呂、嶋足の同僚である物部天鈴、蝦夷の豪族の長の一人である伊治鮮麻呂など、本来個性豊かなはずである。是非とも会話に個性を出して欲しい。

 しかし、物語は佳境に入ってきた。陸奥の蝦夷と、陸奥守との確執が始まってきたし、蝦夷の中でも考え方の違う豪族の長が現れ始めた。また、先々の動乱を予想させる坂上田村麻呂やアテルイの登場も「裂心編」に興味をつなげる描き方である。

 白壁王(光仁帝)の即位と同時に、陸奥での騒乱の始まりを予期させる描き方は、なかなか巧みである。最近のメディアで高橋は蝦夷物はこれで終わりにしようと思っていたが、また別の蝦夷物の構想が出てきたようで、これで終わりにするのでは読者としても残念である。是非ともまだ明らかになっていない蝦夷の戦いを小説として取り上げてもらいたいものである。

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紙の本風の陣 裂心篇

2012/10/29 00:09

蝦夷の大河ドラマの最終巻、ボリュームに満足する

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る

長い間続いたこのシリーズもついに最終巻となった。当初の主人公は嶋足であり、苅田麻呂であった。孝謙女帝の時代から描かれているので、750年頃からのストーリーで、橘奈良麻呂の変、藤原仲麻呂(恵美押勝)の乱を経て、弓削道鏡の天下取りと歴史上の事件が続々と登場してきた。

 本編はその総仕上げとして、いよいよ陸奥における歴史上の大事件を描いている。それは歴史上、伊治鮮麻呂の乱と呼ばれているものだ。これをクライマックスに持ってくるために、ここまで奈良後期の物語を語ってきたわけだ。奈良後期の騒乱にこの物語のように蝦夷が絡んできたとは思えないが、史実としては陸奥の黄金産出が根拠であろうか。聖武帝の御代に大仏建立があったが、その際に陸奥で黄金産出という吉兆があった。この黄金を資金源として貴族らにばらまき、これをうまく利用して小説としてことは実に面白かった。

 蝦夷対朝廷の騒乱は、このあとのアテルイと田村麻呂、その後の前九年、後三年の役と続く。さらに大河ドラマの原作『炎立つ』で奥州平泉藤原家まで続くのだが、これらについてはすでに作者が小説として世に著している。この古代の歴史についてはまだであった。

 奥州藤原家や前九年、後三年の役に比べれば、この伊治鮮麻呂の乱はほとんど誰も知らない戦いであろう。鮮麻呂が朝廷に立ち向かった後、どうしたかはよく分かっていない。それだけに作者の腕の振るいどころであろうが、あくまで史実に沿った運びが作者の目指すところであったかもしれない。本書でもアテルイは登場する。そこで作者の一連の小説はつながっている。

 作者はまだ蝦夷に関する著作への意欲に燃えているようであるが、次はどこを描くのであろうか。今回は伊治鮮麻呂の相手は陸奥守であった。この後も都から陸奥守の後任が派遣されてくるが、どれもまともではなかったようだ。

 いずれいしても、作者の次の蝦夷モノとは何を意味しているのかを待っているのも楽しみである。是非、期待したいものだ。

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紙の本風の陣 裂心篇

2012/10/01 14:04

風の陣 裂風篇

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:よっしー - この投稿者のレビュー一覧を見る

待望の風の陣の文庫本です。既出版済みの『火怨』に繋がる直前の時代。従来のシリーズは、物部天鈴と道嶋嶋足が主人公であったが、本作は、鮮麻呂。天鈴は要所では活躍するが嶋足は殆ど無し。本の後半までは、風の表題をつけた短いストーリーが小気味良く続く。そして、「風の陣」という表題から一気に様相を一変し合戦様相に。氏の字詰めの合戦シーンが映像に浮かぶ。ただ、『火怨』の冒頭では、嶋足を忌避する文言もあるので、繋げるとすれば、異例の昇進を遂げた故に蝦夷と縁を切る、あるいは、裏切る挙に出て、その恨みから鮮麻呂の決死の覚悟に結びついた。だから、炎の怨恨で火怨と。過去4作とも嶋足が主人公であるがゆえ、本書でもキーマンとして登場して欲しかった。

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紙の本風の陣 天命篇

2007/08/05 21:26

歴史上の人物が生き生きと描かれている奈良時代の大河小説

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 高橋克彦による、奈良時代の蝦夷と都にいる貴族の物語第3弾である。これまでの2巻は面白く、一気に読んでしまった。歴史に登場する人物がまるでこの世に生きているように大活躍する。今までは教科書などに閉じ込められ、名前だけしか縁のなかった人物に命が吹き込まれたかのように生き生きと呼吸をしている。
 第3作目の本書は、前2作に続いており、奈良時代の後半の歴史物語である。時は孝謙女帝の御世である。孝謙女帝といえば、弓削の道鏡という怪僧が付き物である。主人公は蝦夷のホープ、牡鹿嶋足である。この人物は実在していたらしい。その取巻きの蝦夷が多彩である。この筆頭が物部天鈴であるが、これらは架空のようだ。
 嶋足とその取巻きの蝦夷等は、これまでの立志編、大望編で多彩な戦略を練って、今までに恵美押勝や橘奈良麻呂などを退けてきた。押勝を一掃したまではよかったのだが、それまで助成してきた道鏡が当初考えていたように、自分たちのいうことは聞かなくなってきた。
 蝦夷の本拠地では砦の建設が始まり、朝廷の勢力誇示が実地に行われようとしている。本拠地では各部族の取りまとめをしなければならない。嶋足と物部天鈴は多忙である。和気清麻呂が宇佐八幡へ使いに出て、託宣を伺いに行ったところで本編は終わっている。
 当然、流れは歴史のとおりである。登場人物も坂上苅田麻呂や道鏡など歴史上の人物が登場するので、読者をして奈良時代日本史の細部を伺わせるような面白みがある。
 ただし、今回は前2編のように、大きな乱があったわけでもなく、謀反がおきたわけでもないので、やや盛り上がりには欠けている。一方で、蝦夷の本拠地でこれからの動きを予測させるような伏線が張られているので、以降の続編が楽しみとなった。
 本編では貴族の階位が如何に重みがあるかを描いている。事あるごとに階位の説明がなされている。ちなみに主人公の嶋足は、蝦夷出身ながら従四位下であり、陸奥守の適正階位をとうに上回っている。これらの階位は千年以上を経て未だに公務員に叙位されている。
 私はこれでてっきり完結だと思っていたが、続編があるとのことである。どこまで続くのか興味深い大河小説である。

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紙の本風の陣 立志篇

2001/11/12 09:27

蝦夷の大河ドラマ続編になるか

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 著者お得意の陸奥の蝦夷が登場する。大河ドラマになった「炎立つ」のかなり前、奈良時代の孝謙女帝の御代が舞台となる。陸奥で初めて金が産出された頃の話である。
 登場人物は、後に陸奥で乱をおこす伊治鮮麻呂、丸子嶋足、坂上田村麻呂の父である坂上苅田麻呂、橘諸兄の子、奈良麻呂、恵美押勝と称して天下を牛耳った藤原仲麻呂などである。
 蝦夷の丸子嶋足は武人の誉高い坂上苅田麻呂を通じて、奈良麻呂や仲麻呂との間を行きつ戻りつする結果、仲麻呂の勝利に加担する。陸奥守を目指してより上級の官位を画策する嶋足等、蝦夷の活躍が生き生きと描かれている。
 政治的に安定性を欠く孝謙女帝の時代に、暗躍する官人と蝦夷。奈良麻呂の変が落着し、仲麻呂の天下になった後も、後継天皇に恵まれない天下はまだまだ揺れて行く。物語の中では、伊治鮮麻呂はまだ幼く、嶋足もまだ若い。歴史は弓削道鏡の時代を経て桓武天皇の平安時代へと続くが、桓武天皇の大きな課題が陸奥の平定であったことを考えれば、本書のタイトルである「立志編」の続編が準備されていよう。
 著者の既刊「炎立つ」に続く蝦夷の側に立った大河作品になり得る予感を与える書である。歴史上の登場人物はあまり馴染みがないのだが、それぞれ魅力ある人物として描かれているので、知らず知らずに物語に引き込まれて行く。本書はこの時代を背景とした歴史小説が少ない中で、新鮮な読後感を与える希少な存在である。

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紙の本風の陣 風雲篇

2011/04/16 17:45

国家とは?国民とは?政府とは?地方自治とは?こんな風に日本列島を眺める人はいなかった時代のことだ。ここに、あえて近代的国家観を持った男たちを投じ、悪戦苦闘させるのがこの小説の面白さである。けれども東北地方をどうまとめるかとなれば、この時期である、重苦しくなるのは私だけではないだろう。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

「宇佐八幡の託宣を持ち帰った和気清麻呂によって、皇位を狙った道鏡の野望は阻止された。道鏡を寵愛した称徳女帝も重病に臥し、この機に乗じて藤原一族が復権をかけて動き始める。」

だが新たに即位した光仁天皇は藤原一族を牽制した派閥人事を進めようとする。

「奈良朝に、陸奥に、真の平和は来ないのか?権力をめぐる新たな野望と暗闘に、道嶋嶋足、物部天鈴等蝦夷たちと坂上苅田麻呂は………」

中央政権としてはいまだ陸奥経営の展望に確たるものはない。金鉱支配のために統一国家に組み込む必要があるにしても、陸奥は辺境の地であり、せいぜい多賀城に国府を設け、とりあえずの橋頭堡を置いた程度で統治にはいたっていない。権力争いにあけくれ、陸奥にまで勢力を伸ばす余裕がないのだ。

「風雲篇」では嶋足、天鈴、苅田麻呂が一体になって道鏡追放の謀略を進めるが、しかし陸奥という地方政治のあり方では三者の違いが徐々に鮮明になっていく。このプロセスが緊張感を誘い、面白くなってきた。
苅田麻呂は清廉の武人である。彼は賢帝とそれを支える有能な政治家による中央集権の国家構築を第一義とし、国家の平和と繁栄を実現すれば、この統一国家のひとつの行政区域である陸奥も平和と繁栄が享受できると考えている。
しかし託すべきリーダーを見出せないのがこの国の悲劇なのだ。
嶋足も中央政権のあり方は苅田麻呂と同様だが、彼は蝦夷の期待を一身に受けている自覚がある。陸奥が主体となった独自の地方政治を前提にして中央と地方のありかたを模索する思考のように思える。
天鈴は中央政権に対してはアナーキストであり、中央とは武力闘争も辞さず、陸奥を独立国家とする道を選択するようだ。

さらに「風雲篇」では三人が現地に赴き、物語の軸足が陸奥へ傾き始めたところで新展開へ糸口が切られている。陸奥では抑圧されたエネルギーが混沌として燻りつづけ、やがては発火点に達するであろう、危うい事態が各所で勃発している。

蝦夷たちの中央政権との向き合い方も大雑把には三人の思惑の違いに収斂する形で分裂している。
しかし、三人はもっと生々しい現実をみることになる。陸奥は辺境の地だ。中央政権の情報に疎く、疑心暗鬼と風説に振り回されるばかりだ。
また中央の監視が行き届かないために、この地の行政の首長である陸奥守・石川名足はあたかも中央を代表するかのそぶりで保身と蓄財に汲々とする。名足にたいしても、恭順を装い自己の権益拡大を企む者のから、敵対するものと蝦夷たちの対応はさまざまだ。
そして陸奥は広い。習慣、風俗、生活基盤の違う多くの部族がそれぞれに独立した共同体を形成している。中央政治との関わりかたには隔たりがあるのは当たり前のことで、基本形はエゴをむき出しにした部族間の対立の構図である。

現代日本はどうだ。中央と地方のあり方については、現在もなお展望を見出せないままに論議だけは盛り上がっている。いやそれどころではない、一月前から国家存亡の危機だ。目下の深刻な状況では、実際のところ、この小説を読むにはあまりに重苦しすぎるのだ。

同床異夢の三人であるが、それぞれの思いを実現するためには、部族の利害を超えて蝦夷の結束が不可欠だとの共通認識がある。蝦夷部族の結束はなるのか?

さらに彼等は「義」という強い求心力で生涯を結ばれている。ここに小説としての面白さがある。「義」。最近、流行りの愛とか友情とかのゆるい甘さではない。
いつの間にか失われ、いまさら語るには躊躇するような古めかしい概念ではあるが、戦後育ちのわれわれ世代にとっても、人間の値打ちをはかる高次の尺度であったものだ。

まもなく彼等が決別せざるをえない決定的展開があるはずだ。「義」に生きるものたちだからこその、身もだえするような悲劇が待ち受けている。

そのとき、読者は三人それぞれの真情に深い共感を覚えながらこの長編を読み終えることだろう。


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紙の本風の陣 立志篇

2010/11/20 10:40

『風の陣』は1995年に単行本として第1巻が刊行され、最近、「裂心篇」で完結した。『火怨』とおなじ蝦夷の物語で、かなり前から読みたいと期待していた作品である。これを機会に手に取った次第。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

高橋克彦の歴史・時代小説では2000年に読んだ『火怨』 のインパクトは忘れられない。平安遷都(794年)のころ東北制覇を狙う朝廷10万の大軍を迎え撃つ1万5千の蝦夷。その族長、若きアテルイらの活躍と戦闘シーンの連続に興奮し、権力に飲み込まれるものたちの誇りと敵将・征夷大将軍坂上田村麻呂との交誼には忘れがたいものがあった。

蝦夷(エミシ)とはいわゆるエゾやアイヌのことではない。日本古代史上東北日本に住んでいた人々のことで、西日本を統一した朝廷に従わない(まつろわぬ民)未開・野蛮な人たちを意味していた。先進の軍事力を備えた大和朝廷はヤマトタケルの時代より関東圏以東がターゲットではあったが、聖武天皇治世、大仏建立に要する莫大な金の需要によって、大和朝廷の基本戦略として黄金の眠る東北経営は本格化していった。
この物語は『火怨』より半世紀前、749年「奥州より黄金献上」の史実に始まる。『火怨』で一方の主人公であった坂上田村麻呂に代わってその父親・苅田麻呂が登場する時代である。

黄金の山を狙う朝廷の陸奥経営は蝦夷に戦火をもたらすこと必至である。朝廷勢力の侵食を阻止し。蝦夷の独立を堅くする戦略。その要として若者・丸子嶋足と友人の物部天鈴が登場する。嶋足が平城京へ上り、内裏で出世し、やがては陸奥守として帰還、そして蝦夷の平安を守るという稀有壮大な戦略だ。朝廷内の権力闘争につけいって、一方の敵を失墜させ、その功績を勝者側に認めさせ出世を図る、これが戦術だ。このため、あえて政変の火種をつくり、そこに油を注ぐ。

嶋足は無私無欲の武人・坂上苅田麻呂に傾倒、自らも立身出世の野心が薄れる。そして圧倒的な戦闘能力(剣・弓・騎馬の豪快な見せ場は充分に楽しめる)が認められ位は上がるのだが、やがて中央政治の中における「正義」の実現に腐心し、ともすれば蝦夷として与えられた役割を忘れがちになっていく。
一方の天鈴だが、陸奥金山経営を掌握している一族の子であり、金に糸目をつけない。なんとしてでも嶋足に栄達の道を歩ませたい。だから嶋足が二の足を踏むような局面では叱咤し、幾重にも張りめぐらせた計略を冷徹に実行して行く。情理を尽くす質実剛健の嶋足と蝦夷の一念を貫くアナーキーな天鈴。二人の反目と宥和の繰り返しが横糸になって物語が展開する。

第一巻の山場がいわゆる「橘奈良麻呂の変(757年)」である。権勢を振るった橘諸兄の子である奈良麻呂が藤原仲麻呂の台頭を排除しようとして失脚する政変だ。

『火怨』の舞台は蝦夷そのものの地で起こる朝廷との戦陣であったが、これは中央の政権抗争を蝦夷側の視線で描いたところで新鮮さが際立っている。そして橘奈良麻呂の変は蝦夷が企んだ謀略戦だとする、このあからさまな歴史の改変は実に楽しいではないか。「新説」などと歴史研究家きどりにならないところが爽快だ。ぼんやりとしか知らない史実を詳しく学ぶという姿勢で読むのでは、毛頭ない。史実を作者が自在に操り、いきいきとした人間のロマンに仕立て上げる。これでどうやら歴史小説という虚構世界の醍醐味を満喫できそうである。

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紙の本風の陣 天命篇

2010/11/28 18:22

「天命篇」の主役は弓削道鏡である。道鏡といえば巨根伝説を知っている程度であった私はこの栄達プロセスを興味深く読むことはできた。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

恵美押勝討伐の功で破格の昇進を遂げ、勲2等まで授けられた牡鹿嶋足は、しかし実際には閑職に追いやられた。嶋足を陸奥守にして蝦夷の平穏を確保しようとする物部天鈴らの企ては実現しそうもない。朝廷内で高位の官位をえた嶋足は奥州の安定よりも官人としてむしろ中央政権に国家安泰の政治を期待しているのだが、権力抗争に明け暮れる朝廷には天皇皇族にも有力豪族内にも彼が忠節を尽くすべき中心人物が不在である。この悩み多きインテリの嶋足に対して、物部天鈴は奥州支配へのパワーを分散させるためにさらに中央の混乱を激化させようとする。

「天命篇」の主役は弓削道鏡である。天鈴の機略によりに孝謙上皇に接近した道鏡は恵美押勝討伐の役割を果たすが、それだけにとどまらず女帝の寵愛をえてその怪物振りを発揮する。もはや彼らの手に負える相手ではない。法王という未曾有の官位を得て天皇と同じ所得を与えられる。人臣最高の地位まで上り詰めた道鏡の専横と野心はとどまるところを知らない。
道鏡といえば巨根伝説を知っている程度であった私はこの栄達プロセスを興味深く読むことはできた。ただ、孝謙女帝の人間がまったく描かれていない。快癒祈願によって命を救われただけで、ここまで人を信用し政治を任せることができるとは暗愚としか言いようがない。このため文献にある史実をなぞっただけで、肝心な緊張感ある人間ドラマになっていないことに不満をもった。

道鏡攻略作戦では「奈良麻呂の変」、「恵美押勝の乱」のように天鈴得意の複雑な奇手、奇略が展開される。道鏡は天皇の位を承継するため神のお告げをでっち上げようとする。それを欺瞞と暴き、道鏡の失墜を決定的にしたのが「宇佐八幡宮神託事件」であるが、これは天鈴の仕掛けた罠であった。この事件を知らない私としては騙し騙されのスリリングな展開に引き込まれた。

ただし三巻まで読むと、一篇ごとに登場する巨悪に罠を仕掛けるという同工異曲の繰り返しはどこか攻略ゲームに似て、全編通じてあるはずの朝廷対蝦夷の対立ドラマが平板にしか流れていないことが気になり始めた。

奥州藤原氏の時代を描いた『炎立つ』はまだ読んでいないが、『風の陣』『火怨』『炎立つ』この三部作の中で作者の蝦夷に対する思いの熱さが一番に表現されているのは『火怨』だと思われる。
『風の陣』を三巻まで読んで、いささか退屈してきているのは『風の陣』は『火怨』のための前史であり、前座の役割でしかないのではないかと思えてきたためである。

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