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電子書籍

日の名残り みんなのレビュー

  • カズオ・イシグロ (著), 土屋政雄 (訳)
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みんなのレビュー21件

みんなの評価4.6

評価内訳

  • 星 5 (14件)
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  • 星 1 (0件)
21 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

日の名残り

紙の本日の名残り

2009/04/27 21:09

土屋政雄氏の歴史的名訳による重厚な一冊。人生について深く考えさせられるブッカー賞受賞作品。

14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る

『エデンの東』(ハヤカワepi文庫)や『月と六ペンス』(光文社古典新訳文庫)、『アンジェラの祈り』(新潮クレストブックス)の名訳で著名な土屋政雄訳。
ブッカー賞受賞作品。

さて、カズオ・イシグロ初挑戦しました。
これはもう素晴らしいの一語に尽きますね。
あまり小説に男性向け・女性向けという形容を施したくないが、この作品は男性向けの作品だと思う。
なぜなら作者は“男の人生”を描いているからだ。
でも女性が共感できないということはありません、逆にこんな男に惚れて欲しいと思ったりします(笑)
あとどうなんだろう、特徴としては作者にとっての母国となるイギリスに対して、ある時は誇り、ある時は辛辣に描いているように見受けれる。
物語の始めに読者は主人が今までの英国人からアメリカ人に変わったことに驚きを隠せずに読み進めたのである。
予想通り全体を支配している重要なことでした。
主人公のスティーブンスは老執事。
説明いらないと思いますが、執事と言っても現在日本で取り立たされているイメージの執事とは全然違い、品格を求められるものです(笑)
物語は主人公の短い旅(6日間)に出るところで始まりそして終わる。
男性一読者の私にとって、主人公はいわば理想の英国人に近く写ったのである。
少しイライラする面もあるが許容範囲。
描かれるのはわずか6日間のあいだだが、まるで長い人生を凝縮したような6日間なのである。
前述したがこれはやはり男性読者の方が理解しやすいと思ったりするのだ。

仕事に対するこだわり、父親に対する尊敬の念、そして女中頭との恋愛。
一生懸命に生き信念を通すということが立派な品格を築き上げるのですね。

少し前半凡庸な気もしないではないが心配無用。
中盤からのミス・ケントンとの恋愛感情を含んだ仕事のやりとり。
これは重厚な作品の中にあって軽妙であり楽しめます。

あと付け加えておきたいことは、やはり時代背景と作者の育った環境ですかね。
本作の描かれている時代は1956年。そして旅行中に回想される時代が1930年代です。
ちょうど第二次世界大戦が終わって10年ぐらいたった時期に旅し、第1次と第2次とのあいだの時期を回想してますね。
当時のイギリスのヨーロッパにおける位置づけの認識はかなり重要です。
そして作者はご存知のように日本生まれで5歳の時に両親と渡英。
生粋のイギリス生まれでないところが見事な“少し不器用だけど紳士的な主人公像”を作り上げている要因となっている気がする。

人生すべてうまくいくとは限らない。でも明日のことを考えて生きていこう。
主人公が終盤ミス・ケントンに背中を押されたのと同様、読者も作者に生きる勇気を与えられた。

本作の原題は"THE REMAINS OF THE DAY"、読者は"THE REMAINS OF THE LIFE"を否応なく考えさせられる名作です。
見事な原作に最高の翻訳、未読の方は是非酔いしれて欲しいですね。

男も泣きたい時がある。最後に主人公が流した涙は男の矜持の象徴と信じて本を閉じた。

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紙の本

日の名残り

紙の本日の名残り

2014/09/16 12:32

ゆったり静かに進行するイギリス叙情映画

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Owl_X - この投稿者のレビュー一覧を見る

極々イギリス的な背景の話だが、日本人の波長に合う。子供の頃からずっとイギリスで育ってきた作者の日系の血ゆえか、あるいはイギリスと日本に共通する感情を描いているからなのか?ドラマティックなストーリーは一切無く、ゆっくり淡々と、回想を入れながら、典型的なイギリス執事の小さな旅が進んでいく。人生を振り返る中に,寂しさと暖かさが醸し出されて、ついつい引き込まれてしまう作品だ。ゆったり静かに進行するイギリス映画を見るようだ。ただし、暗さはない。

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紙の本

日の名残り

紙の本日の名残り

2015/04/04 22:24

人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:wayway - この投稿者のレビュー一覧を見る

著者の作品に共通するものがある。
それは、読んでから暫くは残響のように身体に残っているということだ。
なんとも言えぬ感情であるが、ふつうに持っている(かといって日常に
おいて発芽することがない)筈であるとと思われるものだ。

執事としての仕事における成功?と、もはや取り戻しようのないはずの
元同僚への想い。そのふたつのことが再び成就するのだろうかという
淡い期待。伝統的でありながらも徐々に翳りつつある英国と重ね合わせ
ながらも、独特の展開は我々を著者のみが知る世界へと引き込む。

和訳にも無理がなく、まるで日本語で書かれた小説を読むようだ。
次の台詞なんかは、英語でも日本語でも人の心に浸みいって響き渡る
のではないかと思う。

「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。
脚を伸ばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。
みんなにも尋ねてごらんよ。夕方がいちばんいい時間だって言うよ」

最後に、真面目にジョークの練習に取り組もうとするスティーブンスは、
死ぬまで執事であり続けたことであろう。

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日の名残り

紙の本日の名残り

2011/06/16 18:56

でも人生の夕暮れは哀しいばかりではない

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:チヒロ - この投稿者のレビュー一覧を見る

同業者の父を尊敬し、自らの職務にもプライドを持ち、
執事としての高みを常に目指すスティーブンス。
敬愛するダーリントン卿なきあとの新しい屋敷の所有者ファラディにも、
英国風の対応を心掛けつつも新しい試行の必要も感じている。

そんな折、数日間の休暇を得て、屋敷の元女中頭ミス・ケントンを訪ねて車でひとり旅にでる。
イギリスの牧歌的風景を楽しみ、行く先々の人々との交流の合間に、
昔の栄華を極めたダーリントン・ホールでの出来事や、
自身の完璧な執事ぶりの記憶を楽しむスティーブンス。

そこに特別な思いを呼び起こす、晩年の父の姿。
重要な会合があった夜、重篤な状態で伏していた父が尋ねる。
「わしがよい父親だったならいいが・・・。そうではなかったようだ」
「父さん、いま、すごく忙しいのです。また、朝になったら話にきます」

何回も父は聞いた。いい父親ではなかったかと。
スティーブンスは、父を偉大な執事だと絶賛するも、果たしていい父だったといっていただろうか。
今わの際の最後まで「いい父だった」の一言を言わない彼に少しいらだった。


そして今にして思えば恋の始まりの予感もあったミス・ケントンとの時間。
今回の訪問も、淡い期待がもしかしたらあったかもしれない。

短い再会ののち、ひとり桟橋から見る夕日に、
初めて自分の最も輝いていた時代の終わりを知らされて涙する。

これまでの道を悔いているのではなく、むしろ誇りに思っているのだと思う。
過ぎて行った過去の眩しさと、
その頃の自分よりも劣ってしまったことを知る口惜しさ。
様々なものが落ちていく日の美しさと一緒に、彼の中に押し寄せてきたのではないかと。

スティーブンスはとても有能な執事だった。
でも彼の人生は?彼はしあわせだった?
本当の幸せって何なのか、ふと考えてみる。

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日の名残り

紙の本日の名残り

2017/10/07 00:08

"The Remains of the Day"(『日の名残り』):祝ノーベル文学賞受賞

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:うりぼう - この投稿者のレビュー一覧を見る

昨夜、PCに向かっていたら日経電子版のヘッドラインに<カズオ・イシグロ ノーベル文学賞受賞>とポップが現れ、一瞬、手が止まりました。『日の名残り』を読んで以来、ひそかに愛読していた作家の受賞だったからです。普遍的な文学性と緻密な文体を評価した今年の選考は、とても納得感があります。英国のオッズではケニアの作家が有力視されていたようですが、英語圏の作者の方が日本人にとって触れる機会が多く、受賞を身近に感じることができます。短編の名手アリス・マンローが受賞したとき以来のお気に入り作家の受賞となりました。

映画化もされた”The Remains od the Day”(邦題『日の名残り』)で、一躍、カズオ・イシグロは世界的名声を獲得しました。三作目となるこの作品は英国で最も権威のあるブッカー賞を受賞しています。この作品を読んだとき静かな衝撃に襲われました。貴族邸に忠実に仕える老執事スティーヴンスの回想を綴ったもので、作者の最高傑作といえるのではないでしょうか。ノスタルジックな風景や人々の無垢な記憶を丹念にたどる作風が作品世界の魅力のひとつです。

結末シーンは夕暮れ時の桟橋です。主人公スティーヴンスが年輩男性に"The evening's the best part of the day"(夕方こそ一日でいちばんいい時間だ)と話しかけられるシーンが強く印象に残っています。父の死、女中頭ミス・ケントンへの想い、過去の同僚との友情、政治情勢に対する私見、それらすべてを押し殺して最後まで執事としての職務を全うしたスティーヴンス、老境を迎えた彼の姿は黄昏時の桟橋風景と重なり合います。抑制(の効いた人生)という言葉は彼のためにあるのかも知れません。静かに終幕を迎えるかに見えたスティーヴンスは、人生の残照を眺めながらも、ユーモアを交えた決意を胸に第二の人生に立ち向かいます。胸中をときおり去来するに違いない落胆や失意を、執事としての矜持が堰き止めるそんな生き様に、読者は深い感銘を覚えるのです。

カズオ・イシグロのノーベル賞受賞を機に、1989年に出版された原作を再読してみようと思います。自分も年を重ねて、『日の名残り』の主人公の思いにより共感できるような気がします。35歳のときにこの傑作を完成させてしまうカズオ・イシグロ(の才能)は只者ではなかった。

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日の名残り

紙の本日の名残り

2015/08/25 19:53

カズオ

3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:romi - この投稿者のレビュー一覧を見る

淡々と物語は進んでいき、事件的なことが起こることもないのに面白い。
一気に読んでしまった。

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日の名残り

紙の本日の名残り

2017/11/18 16:29

一番好きな本の一つ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:やもり - この投稿者のレビュー一覧を見る

この何とも哀惜/愛惜に満ちた語りが良い。引き込まれて離れない。

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日の名残り

紙の本日の名残り

2017/11/07 11:49

映画とあわせて読みたい

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:phoebe - この投稿者のレビュー一覧を見る

愛おしい「信頼できない語り手」の記憶

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日の名残り

紙の本日の名残り

2017/10/30 20:49

輝かしい日々への哀愁

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ひまわりまま - この投稿者のレビュー一覧を見る

イギリス貴族の館に身を捧げていた執事スティーブンスは、時代の流れとともにアメリカの金持ちに使えることになる。自我を出すことを自らに厳しく禁じていた執事だったが、自由なアメリカ人の主人に即発されたのか、かつての同志だった元女中頭のミス・ケントンに自ら車を運転して会いに行く…。時代の大きなうねりの中に自らも身を投じていたことと同時に、執事という仕事についてほこりを持っていたスティーブンスが、彼個人の人生を振り返ってみると思いもよらなかった思慕を寄せられていたことに気づく。でもすべては遠い時間のかなたに飛び去ったまま、今はただその事実だけを受け入れている。人生の黄昏時、そこにあるのは充実した思いなのか、あるいははかなさなのか。スティーブンスの一人称で語られる文体はぐいぐいと読むものを引き込み、飽きさせない。執事中の執事を全うした人生なのか、それとも好き好きビームに気付かず鈍感に過ごしたドジなおっさんの話か、読み手にゆだねられる一作。

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日の名残り

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2017/10/28 18:15

祝!ノーベル文学賞受賞。とても品のある話のように思えました。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みなとかずあき - この投稿者のレビュー一覧を見る

世間の騒ぎにはあまり乗りたくない性格をしているのですが、カズオ・イシグロのノーベル賞受賞というのだけはなぜか引っかかるものがあり、これを機会に読んでみることにしました。
1989年にブッカー賞を受賞したという本作が、カズオ・イシグロを知る上で適当な作品かどうかはよくわかりませんが、とりあえず手にした作品としては良かったのではないかと思います。
第二次世界大戦後のイギリスにある邸宅で働く執事スティーブンスが小旅行をする合間合間でのエピソードと過去の思い出の1人語りで綴られている本作は、始めから終わりまで「静かな」印象が漂っている話でした。
旅行中のエピソードはどれも良きイギリス人たちをあらわしているようで、今からわずか60年ほど前の時代であってももう感じることができない人と人との交流が描かれていたように思えます。
その間に語られるスティーブンスの元主人である伯爵が第一次世界大戦後のイギリスでとっていたヨーロッパ政治を舞台とした行動の数々や、スティーブンスの父親とのある種の葛藤、女中頭ミス・ケントンとの職務とプライベートの狭間で揺れるコミュニケーションの数々といった思い出話。こちらの方がこの小説のむしろメインであるのだろうとは思いますし、実際読んでいるとそこには一執事でありながら政治の世界を垣間見ていたり、少し足を突っ込んでいるという緊張感が伝わってきたり、ミス・ケントンとの一見他愛のないようなビジネスライクな会話の中に漂う情緒的な交流が伝わってきて、ついつい読み進めてしまいました。
こうした語り口も含めて、この作品全体に感じられるのは「品格」のように思えます。
この作品中にも何度かこの言葉は出てきますし、スティーブンスや他の人の口を借りて「品格」というのがいかなるものなのかということも語られていますが、そうしたことも含めて「品格」と呼ばれるものが人のありようとして大切なものだと思われていた時代の話なのではないかと思えました。
そして、21世紀の今、この「品格」がどこかへ行ってしまっているのではないかと思えたりもするのです。
ノーベル文学書は作家に与えられるものであり、ある特定の著作に与えられるものではないので、今回カズオ・イシグロがどのように評価されたのかはわかりませんが、少なくともこの作品を読むと何となくどこを評価されたのかわかったような気もしました。
もう少し他の作品も読んでみようと思います。

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2017/10/26 09:09

ジーン

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:HIRO - この投稿者のレビュー一覧を見る

イングランドの美しい光景が目に浮かんでくる。
表現が非常に美しい。

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日の名残り

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2017/10/21 21:46

印象的な作品

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ポッター - この投稿者のレビュー一覧を見る

味わいのある作品。イギリスの執事の目線からの小説でありますが、仕事に対する考え方、又それに連なる生き方は、非常に参考となった。
伝統の重みを感じると共に、だからこその率直な苦悩が見られた。最後も映画のラストのような印象的な場面であった。

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2017/10/19 17:39

品格のある執事の物語

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る

著者がノーベル賞を受賞したと聞き、書店では売り切れが続出したが、電子書籍はこのような時非常に便利と思った。早速読んだが、主人公の語りによって進まれる物語は、品格があり、戦前のイギリスの古きよき時代や思い出が語られていると感じた。日本では明治時代?であろうか。古い郷愁にばかり浸っているのはよくないが、それが似合うのがイギリスであろうか、と感じた。最後になるが訳書で読んでいるので、素晴らしく格調高い訳文だったことも付記しておきたい。

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2016/01/30 20:49

たられば

2人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:満点 - この投稿者のレビュー一覧を見る

人生は一度きり。「たられば」はいかんですね。

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日の名残り

紙の本日の名残り

2001/07/29 14:38

英国らしい洗練

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:OK - この投稿者のレビュー一覧を見る

 初老の執事が過ぎた日々を振り返りながら短い旅をする。という、どう考えても盛り上がりそうもない地味な筋書きの話なのだけれど、洗練された書法で出来の良い小説だった。ただ良くも悪くも、身を削って本気で書いた小説ではなさそうだなとは思うけれど。

 結局のところ小説というのは、1.登場人物の視点に感情移入して読む、2.登場人物を突き放して作者の意図や構成を読む、というふたつの段階をある程度並行しながら読んでいくものだろうけれども、本書はこれら両者のバランスがとてもよくとれている。「執事」の一人称語りは、自己を客観視しきれていないいささかうさんくさい叙述になっており、いわゆる「信頼できない語り手」の領域に足を踏み込んでいる。すばらしい執事とは何かについて彼が熱心に語ったり、冗談をうまく返せなくてまじめに思い悩む箇所なんかは、ほとんどパロディ小説のようなおかしさがある。かといって作者の態度は、執事がみずからの職業に抱く誇りをいたずらに嘲笑しているわけでもない。題名を反映した終盤の展開はしみじみと感動的でさえある。このカズオ・イシグロ自身はもちろん日系人なのだけれど、英国の作家というのは伝統的にこのあたりの案配が特に巧いような気がする。それはたとえば一般的には「現代的」「ポップ」などと評されるだろうニック・ホーンビイやアーヴィン・ウェルシュなんかの小説にも感じるところだ。

 「公/私」を対比させる構図も巧い。執事が体現するのは英国の喪われた栄光と「品格」であり(彼の新たな主人は米国人だ)、彼個人はかつて女中頭とのロマンスの機会を逸してしまったのを心残りに思っている。そして彼の敬愛した主人の英国貴族は、ナチス・ドイツに対する英国政府の「宥和政策」に加担したとして糾弾されたらしいことが示唆される。私的な問題から国家の大事に至るまで、誰にでもそんな失敗や喪失の体験はあるだろうと思う。本書はゆったりとそんな追憶に浸ってみせるけれど、しかし結局過去は決して取り戻せず、前を向いて生きるしかない。

 土屋政雄の訳文はすばらしい。「執事の語り」なんて日本語に存在しないものを、たしかにこんな調子だろうなと思わされてしまう見事な翻訳で、おそらく「ですます調翻訳」や「特殊職業の語り手翻訳」のひとつのお手本といえるのではないか。

http://members.jcom.home.ne.jp/kogiso/

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