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虐殺器官 みんなのレビュー

  • 伊藤計劃 (著)
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みんなのレビュー21件

みんなの評価4.4

評価内訳

  • 星 5 (15件)
  • 星 4 (5件)
  • 星 3 (1件)
  • 星 2 (0件)
  • 星 1 (0件)
15 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本虐殺器官

2011/02/20 22:46

いま、ここにある地獄

20人中、19人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:yjisan - この投稿者のレビュー一覧を見る

 イスラム原理主義テロリストの手作り核爆弾によってサラエボがクレーターと化した近未来。先進諸国ではテロ防止を理由に、人や物の流れをITによって徹底的に管理・追跡する監視体制が構築されていた。今やピザを注文するにも、指紋による個人認証が必要なのだ。その甲斐あってか、先進国ではテロが一掃されたが、その一方で途上国においては、内戦や民族浄化による大規模虐殺が激増していた。

 覇権国家たるアメリカ合衆国は、世界で頻発する大量殺戮に対処すべく、虐殺を指揮している武装勢力の指導者たちを暗殺するための部隊を設立した。それが情報軍特殊検索群i分遣隊だ。彼等は特殊なテクノロジーとカウンセリングのおかげで、感情に左右されることなく冷静に任務を遂行することができる、殺しのプロフェッショナルだ。

 この組織に属するクラヴィス・シェパード大尉は、任務のために世界各地の紛争地域に潜入するうちに、それら全ての虐殺に、謎のアメリカ人、ジョン・ポールが関わっていることを知る。彼はどのようにして虐殺を引き起こしているのか? そして彼の目的はいったい何か? シェパードは虐殺の連鎖を終わらせるため、ジョン・ポールの暗殺に向かう・・・・・・


 現実逃避的なファンタジー作品が氾濫する当今、ここまで徹底して「いま、ここ」に拘った硬質なSFも珍しい。

 作者自らが語ったように「ちょっとだけ未来」を緻密に構築しており、その迫真性は類を見ない。グローバル経済、国際テロリズム、監視社会、特殊部隊、民間軍事会社、国際PR会社、少年兵、新植民地主義・・・・・・本作で描かれる悪夢の近未来世界は、私たちの世界の延長線上に、極めてリアルに存在しているのである。
 それでいて現在の世界情勢を表面的になぞった単なる国際軍事サスペンスではなく、これらの事象を素材に、進化心理学など現代の科学的知見をスパイスとして加え、「自我」や「良心」「実存」といった哲学的な領域にまで主題を掘り下げている。


 戦争小説であるにもかかわらず、一人称のナイーヴな語りという叙述形式を採った点は斬新。作中世界では「戦闘適応感情調整」という〈画期的な〉テクノロジーが生み出されており、作戦行動用にこの調整を施された主人公は、任務のためなら子供であっても何ら躊躇うことなく撃ち殺すことができる。任務終了後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされることもない。
 自己の責任の下に人を殺したという実感を持たない(持てない)主人公は、「罪と罰」を引き受けないが故に、決して成熟しない。内省的でありながら、どこか他人事のような主人公の淡々とした語り口は、悪魔的なテクノロジーの産物なのだ。スペクタクル的な爽快感もなく、悲劇を殊更に強調する反戦色もない、一見無機質で理知的で、それでいて恐怖と緊張と狂気に溢れた、奇妙な戦争アクションである。

 内容と文体とのギャップは作者が最初から意図したものであるという。この巧妙な構成によって、世界の不条理がより露わになったと思う。本作の異質性に違和感を抱くとしたら、それはそのまま、私たちの世界に対する違和感なのである。

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紙の本虐殺器官

2010/08/08 18:41

読了直後、言葉が出ないほどの衝動を受けた。作者の夭折が惜しまれる傑作。

14人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る


 米軍大尉クラヴィス・シェパードはある男の暗殺を命じられていた。インドやアフリカといった内戦地域で大規模虐殺の種子を蒔いている米国人ジョン・ポールだ。当該地域の人々に憎悪と殺戮の念を植えつける上でポールが利用するのは、人間が持つ“虐殺器官”であった…。

 
 緻密に構築した近未来の世界を舞台に著者が描くのは、人間社会を大きく突き動かしていく力を持った言語の姿です。
 作者はサピア=ウォーフの法則や、チョムスキーの生成変形文法を模したかのような「脳に刻まれた言語フォーマットのなかに隠された混沌を示す文法」などの言語学風言辞を駆使しながら、人類を戦争へと駆り立てる駆動力を言語の中に見出そうとしています。
 思えばオーウェルの「1984年」もニュースピークなる綿密に操作された言語が近未来の人間の思考の筋肉を弛緩させていく様をグロテスクに描いていましたし、事実ナチスドイツがいかに言語を緊縛しながら国民を戦争に駆り立てていったかについてはヴィクトール クレムペラーが「第三帝国の言語「LTI」―ある言語学者のノート」で明らかにしています。
 私は「虐殺器官」を、オーウェル的な言語と戦争の系譜を新しい形で受け継いだ小説として大変興味深く読みました。

 しかしこうした戦争を生む力を孕む言語はまた一方で、だからこそ戦争を抑止する力もあわせ持つはず。そんな希望に満ちた信念が作者・伊藤計劃の脳裏にはあったと私は感じるのです。

 「文明は、良心は、殺したり犯したり盗んだり裏切ったりする本能と争いながらも、それでもより他愛的に、より利他的になるよう進んでいるのだろう」(382頁)。

 シェパードの胸に灯るこの希望を支えるのが言葉であり、畏敬の念をもってその言葉と対峙することが出来るとき人は真に平和を実現できるのではないか。
 テロの時代に生きる私たちにとって、この小説が提示する理念に心震える思いがしたのです。

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紙の本虐殺器官

2010/03/22 17:57

平和の礎となるものを直視せよ

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る

 9・11後の先進国では、テロへの抑止・防止のために、全ての人・物にトレーサビリティが要求されるようになった。カウンターテロのための暗殺という禁じ手は秘密裏に解禁され、世界の平和を守るという名目で行使される。アメリカ情報軍大尉クラヴィス・シェパードは、途上国で自国民を虐殺する大臣の暗殺命令を受け、現地へ向かう。だが、同時暗殺対象であるアメリカ人ジョン・ポールは既に去った後だった。
 訪れる国々で必ず虐殺が起きるという経歴を持つジョン・ポール。幾度もの暗殺命令にも拘らず、彼がターゲットスコープに入ることはない。かすかな痕跡を辿り、クラヴィスはプラハを訪れる。そこから明らかにされる、人類に組み込まれた虐殺器官の正体とは?

 クラヴィスは文学的素養にあふれた軍人で、会話の教養レベルが高い。物語の骨格に関連するためもあるが、特に、プラハで出会うジョンの昔の女で言語学者のルツィア・シュクロウプとの会話は面白い。
 作品中では多くの種類の死が描かれているが、病死の様な意図せざる死は基本的にない。全ての死は、誰かが何かの目的を持って引き起こした結果に伴って生じる死だ。この様に死の描写が多いのだけれど、しかし、本当の物語の核のひとつは、"わたし"という主体に括られる範囲の、人による違いではないかと思う。
 自分たちに何らかの危害が加えられるかもしれない事象があるとする。そのときに、どこまでを保護しようと思うか。自分だけという人もいれば、家族までという人もいる。友人や知人までという人もいれば、たまたま近くにいる人、見ず知らずの人も全てという人もいるかもしれない。そのときに守ろうと思う範囲、そしてそれ以外はどうなっても良いと(無意識に)思う範囲が、ここでいう"わたし"という主体に括られるそれだ。

 クラヴィス、同僚のウィリアム、アメリカ軍上層部、ジョン、ルツィアと、それぞれ守ろうと思う範囲が全く異なる。そこにあるのは、範囲内における寛容である。だから、野生のクジラやイルカは保護の対象なのに、類似する人工育成のそれらは利用の対象にしかならない。自分の子供は世の中のきたないものに触れないようにしようとするけれど、銃を持って立ち向かってくる他国の子供たちは容赦なく撃ち殺す。
 この範囲の他者と重なる部分に平和が生まれ、境界線上に争いが生まれる。

 本書中に散りばめられた様々な専門用語は、ややもすると生きた言葉ではない、単なる知識としての言葉になってしまいがちだが、その辺はギリギリで回避されている気がする。
 また、他作品のパロディなども散りばめられていて、特に物語に入り込むまでの閾値を下げる役割を果たしてくれている気がする。

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紙の本虐殺器官

2012/01/27 04:30

一つ段階をすっ飛ばした、現代の戦争の行く末。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:muneyuki - この投稿者のレビュー一覧を見る

戦争における、合理性、そして誰かの都合が優先される、という状況が進行して行ったらこうなっちゃう、という世界が『虐殺器官』の世界。

「戦争」が描かれるのですが、それはあくまで主人公、クラヴィス・シェパード大尉の一人称で描かれます。クラヴィスは何度も戦闘を経験し、人の死に触れ、己の死を身近に感じながらも、「死」に慣れない。「死」に引っ張られ続けます。
それはテクノロジーの発達が、「死」と「思い」を分けてしまった世界だから。

「オルタナ」というコンタクトレンズ状のコンピュータを角膜に貼り付けて、
麻酔技術の一種である「痛覚マスキング」によって痛覚を認識しつつも「痛い」と思わない状態を創り上げ、
薬品と洗脳を使って戦闘用に感情を調整し、
クジラやイルカの筋肉を流用した兵器が使用される。

言ってしまえば「僕の考えた最強の兵隊」のような状況が表わされる訳ですが、
戦争の方向はどんどんそうしたマンガチックな所へ流れていく、それが現状。

『虐殺器官』の中では戦争をする為に必要な素材、食料や戦場・作戦データ、使われる兵器の輸送、兵士の調整等、全て民間の手が入っています。
効率化を図ることこそが、「民間」が軍に勝る点です。

非常に「ファンタジック」な筈なのに、それを本気でやろうとしているヤツらが居ることを感じさせられてしまうのが、怖い。
行く行くは、こういう在り方も有り得るんだろうな、と。

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紙の本虐殺器官

2011/01/03 20:36

背景や細部がよく書き込まれている

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 背景や細部がよく書き込まれている。言語学、大脳生理学、文学に関する部分、社会問題や心理問題、および地理や町並みの風景などである。そのようなところまで注意が行き届き丁寧に描かれているくらいであるから、話のすじだてや展開も十分練られて構成されている。日本のSF小説の賞を総嘗めにしたこともうなずける。
 内容や粗筋の紹介は避けるが、主人公は暗殺を専門にする米国特殊部隊の大尉である。日本人は一人も登場しない。戦闘や活劇の場面が多く、ハードかつワイルドである。

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紙の本虐殺器官

2013/02/04 17:34

著者のベスト作品だと思う。

4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る

個人的には『ハーモニー』よりも好き。著者のアイデアの根幹はどの作品でも重複しているように思えるが、この作品での調理の仕方が一番スマートだったと思う。

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紙の本虐殺器官

2020/01/16 20:27

SFファン以外の人にもぜひ。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:なまねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る

主人公の米軍大尉クラヴィスが各地での内戦や虐殺の影にちらつくジョン・ポールという謎の男を追う、というのが大まかなストーリー。よい物語は要約が短いというのは本当かもしれない。SFという言葉で縛ってしまうのがもったいない、現在や未来の有り様を考えずにはいられない物語。残酷な描写もあるけれど、幅広い世代に読んでほしい。

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電子書籍虐殺器官

2019/04/30 02:45

没後10年

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:あられ - この投稿者のレビュー一覧を見る

2009年に伊藤計劃さんがわずか34歳で亡くなってから、今年で10年になりました。この10年間で、現実はますます、伊藤さんが想像した「2001年9月11日以降の世界」のようになりつつある面も多くあります。今、2007年に発表されたこの『虐殺機関』を電子書籍で、あるいは店舗で電子マネーで購入している私(たち)は、おそらく「計数されざる者」には入れません。そもそもスマホを持っている時点でダメですね。完全追跡を嫌ってスマホ決済は利用せず、ポイントカードはお餅ではなく、日常の買い物は現金で……ということをしていても。そういえばこの小説は英訳されていますが、それをエドワード・スノーデン氏は読んでいるでしょうか。氏は仕事で日本にいたこともあり、日本語も少しできますよね。スノーデン氏の「暴露」がなされたとき、伊藤計劃さんと対談できていたらどんなに刺激的な結果になっただろうと思ったものです。伊藤さんがいなくなってから10年、最初に読んだときには正直「すごい小説だけど、世の中の変化によって、案外早く古びてしまうのではないか」と思っていたのですが、全然そんなことはなかったですね。

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電子書籍虐殺器官

2016/06/26 22:01

映画化の前に。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ちぃ - この投稿者のレビュー一覧を見る

読み始めたら止まらず、他の読みかけ本全部すっ飛ばしてあっという間に読了。SFだけど、すごく真実味もある。戦闘シーンのなんとも言えない生々しい描写。クラヴィスがだんだんバランスを崩していって、最後に転身を遂げる様とか、ポールとクラヴィスそれぞれの覚悟と決断の重みは筆舌に尽くしがたい。正義って何だろうね。私たちは直接手は下してなくっても、やっぱり命を天秤にかけているんじゃないか?

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電子書籍虐殺器官

2018/11/09 19:46

ありそうな近未来

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る

お気楽なファンタジーSFではなく、「ありそうな近未来」を緻密に描き出し背筋をぞっとさせる。独特の文体も「ハーモニー」ほど凝っていないのでいくらか読みやすい。

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紙の本虐殺器官

2016/02/14 18:33

もっと読みたかった。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ニャンとす - この投稿者のレビュー一覧を見る

後進国で繰り広げられる目も向けられない虐殺…
ISによるテロや破壊行為に対するメディアの態度そのものでしたね。彼が現在生きていたとしたら、今度はどんな作品を書いたのだろうと想像してしまいます。

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電子書籍虐殺器官

2015/09/30 22:06

ゲーム感覚

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:バケツの中のひと - この投稿者のレビュー一覧を見る

伊藤計劃作品が映像化される機に読みました
今までもSFジャンルの書籍は好んで読んできましたが虐殺器官は特にエンタメ性が強く楽しめます
ウィットに富んだ言い回し、哲学的な問いかけ、スピーディーな展開、ミリタリー要素を始めとした世界観の演出とSF入門の方にはお勧めしたい一作。映像化はまさに英断、増して期待値が高まります
洋画の映像を文章で読む、くらいの感覚で読めば楽しめるかと

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紙の本虐殺器官

2015/09/13 18:57

大いなる嘘

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Tucker - この投稿者のレビュー一覧を見る

若くして亡くなった作家、伊藤計劃(いとうけいかく)のデビュー作。

著者の作品は、かなり高く評価されているので、前から気になっていた。
ただし、タイトルの「器官」の部分が「機関」だったら、あまり読む気にならなかっただろう。

ストーリーは「テロとの戦い」のため、先進諸国は徹底的な管理体制に移行した近未来。
発展途上国では、内戦や大量虐殺が急激に増加していた。
しかも、一旦、混乱が収まり、これから正常に発展していけそうになった途端、なぜか内戦や大量虐殺が発生している。
どうやら、その陰には、ジョン・ポールという1人の人物が関わっているらしい。
米軍特殊部隊隊員である主人公、クラヴィス・シェパードは、軍の命令で、ジョン・ポールを追う・・・。

主人公は「特殊部隊隊員」という設定ながら、
「ぼくは言葉が、人を規定し、人を拘束する実体として見えていた」
と思ったりするような性格で、まるで文学青年。
これでよく特殊部隊の隊員として務まったな、とツッコミを入れたくなる。

印象に残ったのは、クライマックスでのワンシーン。
先進諸国の人々が信じている「ある事」は、実は「大いなる嘘」というのが判明してしまう。
皆が望んで始まった事が、実は全く意味がない。
が、その「仕組み」は、あまりにも巨大なモノになり、いまさら止める事などできない。

「嘘っぱちだろうが、なんだろうが、既に走り始めたモノは、紛れもない本物だ」
という主人公の同僚のセリフにドキッとした。

とある自然災害で、バレた「嘘」を連想させるから・・・。
(ちなみに本作は「とある自然災害」が発生するより前の2007年に発表されている。)

ところで、ジョン・ポールの方も単純な「悪役」ではない。
「狂人」でもなく、「悪の天才」でもなく、考え方だけなら、むしろ主人公に近い、と言えるかもしれない。

特に大量虐殺に関わる動機を語るシーンでは、哀しい人物に見えてきた。
人は何かを為す時には、必ず「犠牲」が必要なのだろうか・・・。

本作を読んで、伊藤計劃の他の作品にも、俄然、興味が出てきた。
作品数自体が少ないのが、残念だが。

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紙の本虐殺器官

2015/05/04 00:41

ゼロ年代SFの最高傑作です

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る

本作は米軍大尉クラヴィス・シェパードが「虐殺器官」の真相を突き止める過程を描いた作品です。色々な方がレビューを書いていて、著名な評論家が様々な評価をくだしていますが、まずは読んでみてください。

背景知識の有無やレトリックな言い回しが本作の醍醐味ではなく、この作品の結末に待っている衝撃的な世界観や、この作品のメッセージ性の強さこそが魅力だと思います。本作の持つ魅力にハマった方は「ハーモニー」と「屍者の帝国」を併せて読むことをおすすめします。

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紙の本虐殺器官

2012/09/06 23:23

この911以降の世界の聖杯探求

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る

虐殺とか、怖いでしょう。それは人類の性だとでも。
それは世界中で繰り返し起きているには違いない。
ある虐殺を起こした将軍は「なぜこんなことになったんだ」「俺はなんで殺してきた」と問う。
平和と自由を訴えた人々が、いつしか虐殺の指揮官に変身しているのはどういうわけか。
戦争があり、テロがあり、紛争と虐殺。どれかを封じようとすれば別のものが吹き出す、悪魔の連鎖。
主人公はアメリカの特殊部隊の一員として、虐殺の起きた地域に必ず出没するという男を暗殺するというミッションのために、世界各地に追跡する。そして地域の現実を目の当りにする。政府トップ、軍トップ、そういう人々の目には決して触れない現実の矛盾がある。目に触れたとしても敢えて無視している矛盾がある。テロと虐殺を生む矛盾、封じ込め行為自体の矛盾、その結果生み出される矛盾。
それらは一兵士に過ぎない青年には耐えられないはずの現実だ。しかし彼自身は私生活においても、技術革新と生命倫理に挟まれて、身動きの取れない破綻を抱えている。矛盾と矛盾の相殺でかろうじて麻痺している。その彼が、虐殺の伝道師を追いつめていく。というよりもむしろ、共振して引かれ合っていくというのに近いかもしれない。
必要なのは、世界に溢れた憎悪を一つ一つ解きほぐしていくことでしかない。しかし政治や軍と行った巨大化し過ぎたシステムは、一時的な対症療法に過ぎない封じ込めさえも目的化してしまうほどに硬直してしまっている。
一つの破局が必ず別の破局とのトレードオフであるのは、だからこの現代世界のシステムの必然なのかもしれない。チョムスキーの生成文法のように、(実は都市伝説い過ぎないらしいが)レミングの大量自殺のように、破局に向かうのもまた人間に刷り込まれた機能なのかもしれない。
だが少年たちがAK47を手にし、テロリストが核を手にするこの現実世界において、きれいごとだけの理念を振りかざすのは有効な手法だろうか。
この小説は、如何ともならないように見える世界の矛盾に対して、個人の抱える矛盾がシンクロしてしまった男たち、あるいは女たちの物語だ。それはこのゼロ年代に求められる文学の形を体現した、つまり僕らの中に沈滞したもどかしさを満たすことができる物語なのだと思う。

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