洪庵のくすり箱 みんなのレビュー
- 著:米田該典
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紙の本洪庵のくすり箱
2001/07/08 11:34
薬の歴史について初めて考えてみました
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投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
先日、大阪の北浜にある「旧緒方洪庵住宅」というところを訪ねた。ビジネス街の中にポツンと残る江戸時代からの町屋建築で、中に入ると、ここだけが時間が過ぎるのをストップしてしまったような錯覚に陥った。
緒方洪庵という人は、幕末に活躍した蘭学者で医学者。そして教育者でもあり、この住宅は緒方洪庵の住まいであることには違いないが、同時に「適塾」という塾でもあった。「適塾」では多くの若者が医学を学んだ。門下生の中には、医学者や蘭学者にとどまらず、明治維新の担い手の一人となった、橋本左内や大村益次郎、慶応義塾の創設者 福沢諭吉など大物も出た。
前置きが長くなってしまったが、「適塾」を見学して、緒方洪庵に少なからず興味をもつようになった。洪庵関連で楽しめそうな本を探して読んでみることにした。
本書は、洪庵が残した「くすり箱」から当時の薬事情を解明してみようという試みのもの。当時、「くすり箱」は医者にとっての七つ道具を入れおく、なくてはならない物だったようだ。時代劇などを見ていても、医者が病人を診にやってくる時は「くすり箱」を携えている。そして、時にはその場で薬の調合などを行なう場面も出てきたりする。それにしても、たいがい医者の髪型がポニーテールなのはどうしてだろうか? 本書には医者の髪型についての記述は残念ながらなかった。
蘭方医の薬箱が、漢方医のものと比べて特徴的なのは、ガラス瓶の多さにある。洪庵は蘭方医なのでガラス瓶も多く残されている。しかし、蘭方薬はなかなか手に入れるのは困難であったようで、漢方薬を代用(併用)する事が多かったようだ。
薬箱の引き出しには、多種の薬袋がきっちりと収められており、摂綿、将軍、桂枝、甘草など薬名の記載がある。それぞれの薬袋は遮光が完璧になされており、湿気を防ぐ工夫もある。機能性抜群で且つ芸術性もある薬箱に魅せられる。
本書の著者、米田該典は大阪大学大学院薬学研究科の助教授である。第3章では「幕末頃の薬事情」についてもいくつか教えてもらえる。中でも私が一番おもしろく感じたのが、1822年に日本で大流行したコレラに対する薬の登場だ。この薬は、「虎頭雄黄殺鬼円(ことうゆうおうさつきえん)」と呼ばれる丸薬だったそうだ。名前からして、「コレラをやっつけてやるぞ!」って気持ちがうかがえて、当時の大変さを思いながらも笑ってしまった。
また、その使用法にも笑ってしまった。「…紅絹袋に入、男は左、女は右のはだ(肌)に附置べし」と、まずは身につけるように言っている。そして、病魔が家に侵入してきた時には、これを燻べよとしており、いよいよ病魔が体に侵入したら、これを砕いて飲みなさいとなっている。まさに「常々懐中して百邪を除くこと如神」である。
頭が痛い時は頭痛薬、風邪をひいたら風邪薬。薬とのお付き合いは長いし、これからもずっと続いていくものなのに、「薬」について深く考えたことはなかったように思う。だから本書を読むことによって、貴重な体験ができたと思う。
いつもと同じ頭痛薬を手の平に乗せて、「この一粒の裏には、先人達の血のにじむような努力が…」と想像をたくましくしながら、一気に飲みこんだ。すると、たちまちにして頭痛は消え去り、まさに「神の如し」であった。
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