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電子書籍

きみの背中で、僕は溺れる みんなのレビュー

  • 著者:沢木 まひろ
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みんなのレビュー1件

みんなの評価4.0

評価内訳

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紙の本

きみの背中で、僕は溺れる

紙の本きみの背中で、僕は溺れる

2010/03/16 10:56

人と出会うということ、愛するということ

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る

彼と彼らのこの物語を、単なるBL(ボーイズラブ)や恋愛モノ、一人の青年の成長物語として どうか片付けないで欲しい。
確かに主人公の祐司は男性しか愛せない性癖で、そのことを親にも大切な姉にすら打ち明けずにいる。
物語はその親友・透の別れ話に祐司が同性の恋人の「役」を演じるシーンから始まるが、透は本当に彼がそういう性癖であることを知らないという、なんともコミカルで微妙で、もしかしたら切ない展開を予想させる始まり方だ。
皮肉にも彼に思いを寄せていた女友達・香奈だけはその秘密を知るところとなったが、それでも祐二を温かく見守っている。
彼ら3人の関係は物語全体としてはサイドストーリーにしかならないが この物語が彼を形造ってきたもの、彼の人生を構成するもの、彼と「縁」あったものである限り、非常に重要なパーツなのだ。
そう、著者が一人の青年を通して描きたかったこと。それはBLとか恋愛とかそういう限定的なものでは語りきれない、人の縁に違いない。

自分から何かをねだったり主張したりすることのない祐司は、卒業を目前にやはり進路も決められずにいる。何も知らずに親友でいる透と、知った上で恋愛感情を押し殺し、なお見守ってくれる香奈たちに包まれて宙ぶらりんなまま生きていた。しかし姉の婚約者・佐伯に一目惚れすることで、そんな求めずの彼は大きく変わる。
「おとなしく見送る手はあった。~だけどぼくは、束の間のカーニバルにも似た鮮烈な記憶の方を選んだ」(P60)
香奈曰く「間違った本物の恋」を選び、姉たちの結婚後もはまり込んでいく祐司だが、彼らの恋には最初から明るい展開は望めない。束の間のカーニバルにも似た鮮烈な記憶。その瞬間は姉に現場を押さえられるという悲惨な結果によって全てに破綻をもたらして終わる。
姉の結婚も、佐伯の計略的な人生も、祐司の恋とほんのわずかな自己主張も。
佐伯が姿を消し、断ち切れない思いと、それでも愛し続けてくれる姉、変わらず見守る親友、・・・そして「恋する前よりは強くなっているはず」の「まだ弱い人間」である僕・祐司が残った。 
ここまでが前半『But Beautiful』で、本来はTheEnd。文庫化するにあたり加筆されたのが後半『What'sNew』なのだが、これはやはり後半あってこその作品だと思う。あのままの宙ぶらりんの終わり方では、現実的な意味で何一つ解決を見ない気がしてしまうからだ。

後半はあれから6年後、イタリアで料理修行をし帰国してパスタ部門を任されるようになった祐司の物語。
いまだ不完全燃焼のまま佐伯への想いに揺らぐ彼は 姉が再婚し親友が社会人として一人立ちし父が他界し・・・と周囲が変化しても相変わらず時が止まったままである。
ジャズバーで知り合ったピアノ弾き神月との出会いは佐伯のときとは違う、言ってみれば「気付かずの一目惚れ」だ。
最初はいらだたしかった存在だった神月だったが、次第に惹かれ祐司は再度恋に落ちる。
が、彼には結婚暦があって子供もいて、その過去は6年前の祐司を彷彿させる苦いものであったことを知り、喧嘩別れとなる。
この後、再び神月のもとへと周囲を省みず飛び出した祐司がどのような関係を築くのか、それは是非読んで確かめて欲しい。

全て読み終えて私の心に一番届いたもの。
それは彼ら彼女ら1人1人の顔と言葉と生き様、選んだ道、その多様さと力強さだ。
著者はきっと登場させた人物一人一人を心からいとおしんでいるにちがいない。それは彼らにも、読者にも伝染するのだ。

誰もが誰かを本気で愛し、大切にしたい、出来ることなら共に幸せでありたいと思っているがその二つの想いの方向と種類が一致することはなかなか難しい。
祐司に思いを告げたった一晩、願いをかなえることで平安な結婚に踏み切った香奈。
そんな彼女を大切に思いながらも応えられず、過ちと知りながらも束の間の本物の恋を選んだ祐司。
同じく女友達と心の平穏を求め結婚し子供が出来て幸せを感じることの出来た神月と、やはり女として愛して欲しいと搾り出すように訴えたという彼の妻。
そうした神月の仕打ちを許せない祐司に、なおもその過去を大切にする神月。
弟との中を知り佐伯に離婚届を叩きつけ、再婚して幸せを見つけ出した祐司の姉。
昔も今も、全てを知った後も変わらずに笑い続けてくれる親友。そして姉。

恋するということ、愛するということ。
言葉にすればどれも同じことなのに、その種類も方向もみながみな違うものを選びそれを必死に守っている。
例えそれがひと時のものであれ、幸福とはいえないものであれ、彼らの誰一人として出会わなければ良かったとは、思っていない。
くさい言い方をするようだけれど、きっとそれが「愛」というもので、人の縁が暖められて深まった結果なのだろう。
ほんのひと時、同じときを過ごしふれあい、愛し合い、向き合った「縁」は多かれ少なかれ人を少しだけ強くさせる。
例えそれがどんな出会いであれ、縁であれ、別れであろうとも、だ。

神月と出会い「あなたがいなかったらきっと、今の俺もいないんだ」と佐伯を思い返す祐司の言葉が心に響く。

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