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お礼まいり みんなのレビュー

  • 徳岡孝夫 (著)
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紙の本

紙の本お礼まいり

2010/09/02 00:12

山本夏彦を面と向かって叱る男。

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:和田浦海岸 - この投稿者のレビュー一覧を見る

文春新書の「完本 紳士と淑女 1980~2009」の最後は「紳士と淑女諸君へ」という5ページほどの文でした。そこに悪性リンパ腫(血液性ガン)という診断を受け闘病生活に入るのと前後して『諸君!』の休刊が決まったこと。そこでは第二クール、第三クールの治療を受けている日々に触れておりました。そのおわりで、
「なお、三十年にわたって、ご愛読いただいた『紳士と淑女』の筆者は、徳岡孝夫という者であった。」と最後をしめくくっておりました。

読者である私は薄情なもので、そのままに、すっかり忘れておりました。
すると、最新刊の書評が石井英夫氏によって書かれ。
さっそく、この徳岡孝夫著「お礼まいり」を取り寄せました。
また、徳岡孝夫氏の文が読める。
最後の方にこうありました。

「退院後も抗ガン剤の点滴を受けに通院して三カ月、主治医は『あなたの腫瘍は一つもなくなりました。この写真を持ち帰って、ご家族に見せてください』と、二枚のエックス線写真を渡した。私のガンは完全に治っていた。」(p281)

ちなみに、あとがきには、こうはじまっておりました。

「私は、この本の校正刷りを読んでいた。・・・視力の弱視のため、編集者は全文を思い切り大きい活字にし、読み易くしてくれている。だが何時間も読んでいると、目が霞み神経が疲れる。私は赤鉛筆を放り出し、『今日はこれまで』と呟いて一日の仕事にピリオドを打った。2010年3月11日の午後11時過ぎ・・・」

あとがきの最後のほうには、こうもあります。

「・・私は『運命の率直な子』でありたいと念じ、今日まで頭を下げて運命を受け入れてきた。この本に収めた諸短篇は、そういう弱々しい個性の者が、長年の間に見聞したことの報告である。」


ありがたい。貴重な徳岡孝夫氏の報告が読める。
ということで、本文に触れていきます。

昭和30年代を振り返った、徳岡氏の文があります。
ひと味もふた味も違うのでした。では、印象に残る箇所を引用。

昭和35年、徳岡氏はフルブライト留学生としてアメリカへ。翌年サンフランシスコから船で帰国します。出発と同じ横浜の大桟橋が終着点でした。
そこで船を降りる時のことが語られております。


「私たちのそばに一人、桟橋に向かって懸命に手を振る若い西洋人の女がいた。見ると桟橋側にも彼女に向かって手を振っている男がいる。何か叫んでいる。・・・・
船はゆっくり接岸した。荷物の少ない私は、さっさと入国手続きと通関を済ませ、一年ぶりに横浜の土を踏んだ。一番だろうと思ったら、そうではなかった。税関を出たところに、さっきの女がいた。出迎えた男と抱き合っている。・・・・
小さい輪を作って、それを見物している数人の日本人がいる。服装から見て、ヒマな沖仲仕らしい。半径二メートルほどの綺麗な円を作って、男たちは延々と続く西洋人のキスを眺めている。誰もニヤニヤ笑っていない。オッサンたちの中には腕組みしているのがいる。何か話し合いながら見ているのもいる。男女は、見られているのを全く気にしない。ちょっと離れては抱き合うのを繰り返している。抱き合えばシッカリ接吻する。二人もマジメだが、眺める側もマジメである。犬の交尾を眺める人間か。人間の交尾を見る犬の群れか。冷やかし半分に見ている者は一人もいない。
『見い、よくやるのう』『おお、またやりおるわ』『映画の実演みたいじゃ』『西洋人は、こうやらんと気が済まんのじゃろ』そう話し合っているのが聞こえるようである。・・・
私は顔から火が出た。真昼の抱擁・接吻と純粋な傍観の見物人。寸分のイヤラシサもないから、私はかえって恥ずかしかった。・・・・
西洋史家・会田雄次(1916~97年)の『アーロン収容所』が、全裸で日本兵捕虜の前に出て羞じない英女兵を描いたのは、この大接吻の翌年である。」(p49~50)


うん。この箇所を読んでいると、私はテレビを見ながら、沖仲仕さながら『おお、またやりおるわ』とつぶやいていたりするような気がしてきました。


もうひとつ印象に残るのは、「人生アテスタントの必要」という文でした。
そこにこうあります。


「老境に入った日本の男は、捨て始める。預金を捨てる人は少ないが、最初に狙われるのは本である。私も、死ぬまでにもう読む時間のない本、もはや取り組む力を失ったテーマの関係書を、かなり捨てた。売る手もあったが、未練になるので捨てた。今生(こんじょう)の別れだった。捨てすぎて、必要な本まで無くなったのを知って驚いたが、そのテーマは書かずに死ぬことに決めた。それでもまだ、庵の壁の一つ半は、天井までの書棚である。丸裸で生まれたからといって、丸裸で死ぬのがいかに難しいか、この本の例によっても分かる。」(p167)


「人生は、ひとりで生きただけではダメである。あなたの人生をアテスト(証明)してくれる人がいて、初めて『生きた。人生があった』と分かる。第三者に認証されない人生は、無に等しい。日本の多くの男にとって、その重要なアテスタントは妻である。」(p169)


そうそう、山本夏彦への追悼文に
徳岡孝夫が叱かる場面がありました。詳しくは読んでのお楽しみなのですが、まあ、ちょっと引用しておきます。

「次の酒の席で、誰かが『死ぬの大好き』のタイトルを褒めた。夏彦翁は『徳岡がぼくを叱るんだよ』と答えた。・・・それ以上は翁も私も何も言わず、その話題はそれきりになった。」(p31)

山本夏彦を面と向かって叱る男。
徳岡孝夫氏を、一言で紹介するには、これがいいのかもしれません。

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