ゴリラ裁判の日

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夫を銃殺されたゴリラが動物園を相手に訴訟を起こす。一瞬SF？と思うが、極めて現実的な話だと私は思っている。

ゴリラが手話を覚え、手話に対応したグローブを手に嵌めることにより、手話を読み取った機械音声が発せられる。ゴリラが人間のように発話することができるなんて、素敵な話だ。

人間側としては、ゴリラとの会話はただただ楽しいと感じるが、ゴリラ側からはどうだろうか。
ローズは人間の友達との会話を楽しんでいてくれたようだが、人間の影響で一夫多妻制を受け入れ難くなったりもしている。(そのせいでなかなか恋人ができない)
ローズの生活は大きく変わって行ったし、それがローズにとって良いことだったのかどうかは分からない。
それでもローズには人間と話ができることを良かったと思ってもらいたい。利己的だが。

自分の発言に非があれば素直に認め、雄にもモテるローズ。誰もが友達になりたいと願うに違いない。

どうやって動物園側の有利を覆すのか気になって、終盤は一気読みだった。
それにしても、判決はローズの暖かな性格によるところが大きいと思う。そうでなかったらと考えると、残念だがゴリラの権利獲得はまだまだ遠い。

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動物を通して人間の中身に触れるドラマのような作品だった。
ゴリラが言葉を得ただけでなく人間に近い感性を持って自分とは何者なのか、を描いている。

タイトルのインパクトが強いのに、裁判が始まるまでの前置きが長い気もした。

得た言葉で自分の世界を変えることが出来たが、上手くいくことばかりではない。
人間は当たり前のように言葉を話すが、言葉は良くも悪くも自在で鋭くもなる。

そう言った悩みは人間の中では当たり前であり、この作品で再認識するきっかけとなった。

ここまで到達すると人間とゴリラは何が違うのか？
尊重されるべき対象をはっきりさせることが出来るのか？と考えさせられる。

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手話を覚え会話ができるようになったゴリラのローズ。動物園で夫を射殺され、人間相手に裁判を起こす…
あらすじを書けばファンタジーのよう。

でも！

ジャングルで育ったローズがアメリカにきて裁判を起こすまでの物語はむしろめちゃくちゃリアルで、リアルすぎて、考えもしなかったような問題に次々とぶち当たる。
たしかに、人間とは違った生態の動物が言葉を得ればこうなるかも…。
言葉によって人間が得たもの、失ったものが浮き彫りになる。

基本的人権について、私自身の生活においてはあまり意識していなかったけれど、読み終えて考えてみれば、社会的弱者を責める思想は普通に存在している。
ローズが人間社会に合わせようとする様子から、弱者は初めから弱者なのではなく、人間が作り上げた現代社会の枠組みに収まれない特徴を持った人を「弱者」にしてしまっていることがみえてくる。
初めは、人権というものがすべての人に認められてはいなかった時代のことを思って読んでいたけれど、過去に留まるのではなく、未来へ向けて考えていくべき作品のような気がしてきた…

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これぞメフィスト賞と言える作品。言語を理解し対話が出来るゴリラ、ローズが起こした夫ゴリラの銃殺を巡る裁判。と聞くとかなりの色物に思われるが本質は人権を問う倫理×リーガルミステリー。冒頭でローズが起こした裁判の結果が示され、何故彼女が裁判を起こしたかが過去に遡って語られる。素晴らしいのはアメリカに来てからの第2部。予想だにしなかった展開でひっくり返った。倫理観を問う固い小説からこんなにも胸アツ展開が待っていようとは。しかも前半に振りがあるので突飛になっていなくて見事。デビュー作でこれは凄い。

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実際に起きた事件をモデルにしていてテーマもシリアスな一方で、設定や展開が荒唐無稽であることや、主人公のゴリラ、ローズの素直でおちゃめなキャラクターによって、全体的にコメディタッチで描かれている。
人間の命と動物の命の重みの差の話だけでなく、人種問題、ジェンダー論、恋愛観、銃規制問題、アイデンティティ、宗教、AIに対する恐怖など、人類が抱える答えの出ていない様々なテーマに斬り込む、とまではいかないが、少しずつ触れている。だから、人によって考えさせられる部分が違うかもしれない。
裁判の行方はもちろん、ローズの人生 ( あえての人生 ) がどうなってゆくのか気になって、読み進めるのが楽しい作品だった。
著者も巻末で述べているが、ローズの知能や認知能力の高さは現実に反している。こんなゴリラが増えていったら、人類の脅威となる可能性はAIの比ではないはず。

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人間が作った人間のための常識の中で、私たちはいつも利己的に生きているのだと痛感した。
裁判のシーンは舞台のようですごく引き込まれた。

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手話を使って意思疎通できるゴリラのローズ。人間か？ゴリラか？人間の定義とは何かを裁判を通じて問い直す。
「ザリガニの鳴くところ」の差別的裁判。
「エヴァが目覚めるとき」の人間の定義。
足して2で割って、エンターテイメント成分をミックス。目の付け所は斬新であるが、文章からゴリラということを忘れてしまう。ローズが人間として描かれていていいことではあるのだろうが…。

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「メフィスト 2022 WINTER Special Issue」で読みました。
さすがメフィスト賞！本当に面白かった！
1月に読んだので、記憶が薄れてますが、これはもうローズというメスゴリラの人（ゴリラ）生記録です。恋をするゴリラ。おしゃれするゴリラ。プロレスラーに転身するゴリラ。脱糞しちゃうゴリラ。ゴリラの習性もよく分かります。
いつの日がゴリラと共存する日が来るかも？

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賢いゴリラが人間相手に裁判を起こす。シンプルに言えばそれだけのコメディのような設定だが、読み進めるほどにリアリティが深まっていく。賢いが故にゴリラと人間の狭間で揺れ動く主人公(主ゴリラ公？)ローズ、彼女の言動は人間以上に人間らしいかもしれない。

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もうハチャメチャ！褒めてます！こんな読書体験初めてです！書名の「ゴリラ裁判の日」にあるようにゴリラが自分の伴侶のゴリラを人命優先で射殺した動物園を訴える、って設定だけでも相当なもんですが、そこに留まらず、さらにムチャクチャな展開をします。最初の裁判の後の彼女の選択では、もう声を上げて笑ってしまいました。その先のイベントでもクレージーな論理展開が待っています。しかし、それだけ振り回されても、必ず現実の問題にもどってくるのです。いのちの重さについて、人間とそれ以外の境目について、神の存在について、知性の定義について…あれ、こんな気分になったこと近々出会ったな？と考えたらギャレス・エドワーズの「ザ・クリエイター」を見た時の心持ちでした。でも、それよりずっと洗練されたファンタジーです。今はすっかり子供時代に読むべきものになっている「ガリバー旅行記」ですが、発表当時はこんな存在だったのかもしれません。ということは、この小説のジャンルは風刺小説？それとも自我の成長の物語、ビルディングスロマン？21世紀の「三四郎」かもしれません。あるいは自然の驚異が都会を蹂躙し、また帰っていく「キングコング」の21世紀版？いや「ゴジラ」か…そうそうある書評ではリーガル・サスペンスと呼んでいました。いやはや、まったくジャンル分け出来ないすごい小説でした。