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もうひとつの季節(中公文庫)
  • みんなの評価 5つ星のうち 3.7 17件
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  • カテゴリ:一般
  • 発行年月:2002.4
  • 出版社: 中央公論新社
  • レーベル: 中公文庫
  • サイズ:16cm/220p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-12-204001-9
  • 国内送料無料
文庫

紙の本

もうひとつの季節 (中公文庫)

著者 保坂 和志 (著)

もうひとつの季節 (中公文庫)

720(税込)

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みんなのレビュー17件

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評価内訳

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  • 星 1 (0件)

紙の本

“こどもの疑問”をめぐる記憶

2002/05/26 18:23

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 文庫版解説でドナルド・キーンが「世界の文学を広く読んでもクイちゃんほど、面白みをそなえた少年は少ないだろう」と書いている。クイちゃんというのは本編の語り手の「僕」こと「中野さん」の五歳になる息子圭太のことで、著者によるとそのモデルはうちで飼っていた猫なのだそうだ(『アウトブリード』に収められた「『季節の記憶』の記憶とそれ以降」)。

 そういえば「僕」の家から道をはさんで三軒先の松井さんのところに生後半年くらいで迷い込んできた猫の茶々丸とひたすら遊ぶクイちゃんは、たしかに猫を思わせる愛らしさときかん気と臆病さと無邪気さをもっている。そのクイちゃんがおばあちゃんに「僕」がまだ一歳かそこらの時に猫と一緒に写った写真を見せてもらって、「猫はもう死んじゃった」と聞いて腑に落ちない思いをし、「パパにも赤ちゃんだったときがある」はわかるけれど「この赤ちゃんがパパになった」の方がどうしても納得できないところからこの作品ははじまる。

 その後かわされる「僕」と松井さんや美砂ちゃんや蝦乃木との会話──茶々丸のアタマのちっちゃさや人生の一回性、機能と構造、自由律俳句や「世界」と触れ合うこと、言葉がシステムとして閉じられていること、自我と自意識の関係、量子力学にまつわるわかりにくさや混乱は無意識の中で起こっていることを普通に意識しているときの論理や時間性の中で考えようとすることから起こる混乱と似ていること、有機体の複雑さの奥に流れつづけるほとんど無機的といっていいような現象のこと、「世界」や「時間」は「死」の置き換えであること、定義とリアリティと物事の変化をめぐる考察、等々──はすべてこの「子どもの疑問」をめぐる「堂々めぐり」であって、この堂々めぐりが続くかぎり、保坂和志が創造した小説に流れる時間は、クイちゃんにとって「赤ちゃんだったパパ」ともう死んじゃった「猫」がそうであるように、永遠のうちに置き去りにされ、記憶として存在しつづけていくだろう。

 以下は余談だが、『もうひとつの季節』の「物事の変化」をめぐる会話のなかで「頼朝八歳の頭蓋骨」の話が出てくる。養老孟司の『人間科学』にも「頼朝公六歳のみぎりの頭骨」という小咄についての言及が出てきて、いずれも、変化するものと変化しないもの、養老本のキーワードを使えば「実体」と「情報」がクロスする重要な場面転換を担っている。『季節の記憶』(中公文庫)の解説を養老氏が書いている、といった表面的な切り結びを超えて、保坂和志と養老孟司の二人は何かしら深いところでつながっているように思えてならない。

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紙の本

つまらない、というわけではない

2003/10/09 22:17

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る

「季節の記憶」続篇。前回にも登場した人物たちが、今度は新しい猫、「茶々」を迎えて、しかしそれでもいつも通りの生活を続けていく。
今作で通底するモチーフは、語り手中野の、子供の頃の写真で、そこには幼い中野と今はもういない猫が写っているのだが、クイちゃんは写真の中の赤ん坊が「パパ」になったのだということがよくわからず、猫がもう死んでしまったと言うことにもなにか不思議な感触を抱いていると言うことだ。死と生、または現在と過去というモチーフがひとつの写真から流れ出す。
子供という装置によって、見慣れた概念を疑問に付し、思考の可能性を考えていくというスタイルは前作と変わらない。近所に住む松井さんと美沙ちゃんの兄妹たちとの絶え間ないおしゃべり、議論。

しかし、私は本作でちょっと飽きてしまった。
私が飽きたというのは単に主観的な問題で、しかもはっきりしたものではない。
理由はいくつか考えられるだろう。
保坂和志の作品というのは、派手なことが起きない、とか退屈な日常をそのまま書くとか、そういった形容がされるし、それはそれで妥当なのだが、私が感じた退屈というのはそれとは違うことだと思う。
日常をそのまま書いているというのは一見無駄なようだが、おそらくこの小説に無駄な部分というのはないのでは、と思う。というか、すべてに意味が与えられて“しまっている”という気がするのだ。登場人物たちみんながみんなして意味のあることを話し合っている。彼らの会話には無駄な部分がない。すべては何らかの思考の起点になり、そこから派生する話し合いがまた議論を深めもする。すべてに意味があるというのは、すべてが無意味であるというのと似ていないだろうか。退屈さ、窮屈さ、そんなものを感じてしまうのだ。それは単に、私が保坂和志の文体に馴れてしまったというだけのことかも知れないが。
こんなことを始終話し合っている人間はいない。そう批判するのは何か違うかも知れないが、とりあえず、そう書いておく。
日常に見えて、というか、日常を演出しているようでいて、日常でない。何気ない、些細なことに目を向けているというのでもないと思う。言ってみれば、危ういところがない。予想の範囲を出ない。そういう感じだ。

また、前作に比べて、小説の世界が狭くなっている気がする。登場人物たちが固定されて、新しい波を起こす人間がいない。前作には、稲村ヶ崎に戻ってきた女性だけでなく、蛯乃木以外にも、もっと人がいたような気がする。これなら、氏のエッセイの方をもっと読みたいと思ってしまう。

文句を並べても仕方がない。つまらない、といいたいのでもない。
この作品に、なにか手応えを感じることができなかったというだけのことだ。
保坂和志に興味を失ったわけでもなく、やはり他の作品も読んでみようと思っている。
「残響」、「明け方の猫」などは、方向性が変わっていると思うので、またそれを読んでから考えよう。

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2005/02/18 22:03

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