紙の本
扇の裏と表 都の光と影
2011/01/01 11:14
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
オンブリアという名の都で、若く美しい大公の愛妾リディアが、大公の幼君に語って聞かせるのは、この世で一番、きれいな都」「この世で一番、力のある都」「この世で一番、豊かな都」-オンブリアの物語。オンブリアを語りながら、リディアが広げるのは、表に絵、裏に切り絵細工がされた扇。表と裏が一体になっていても、それぞれは別のもの。そのありさまは、影の都をもう一つ持っているという、オンブリアそのものの姿と重なる。そして
裏表のある人そのもののありようにも…。
非力ながら大公を献身的に支えようとするリディア。摂政という権力を手にしてもなお、策謀を巡らせる大公の叔母ドミナ=パール。画家で庶子ゆえに権力の外側にいられた甥デュコン。大公の死により、一気に「表の都」の人間関係が動き出し、更に「裏の都」の住人達が関わってゆくことで、別々だった二つの世界が交錯し始める。
「美しい都」という表側と、貴族たちの権力争いという「裏側」。本心を隠すデュコンと、正体を隠すリディア。至る所に表と裏、本心と見せかけというキーワードが複雑にくみこまれ、シェイクスピアの『マクベス』の一節【良いは悪いで悪いは良い】を想起させた。
幻想的な都や、儚げな女性という作品のイメージを体現させたカバーイラストもぴったり。
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世界で一番古い都の歴史が堆積した「影の都」
2010/05/08 15:14
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YO-SHI - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は「妖女サイベルの呼び声」で1975年に世界幻想文学大賞を受賞し、30年近く後の2003年に本書で再び同賞を受賞している。作家は一生の仕事だと思えば、30年という年月は驚くことはないかもしれない。しかし、息の長い作家だということはできるだろう。
どちらも大賞受賞作ということで、どうしても比較してしまう。良し悪しは言えないが、私は「妖女サイベルの呼び声」より本書の方が好きだ。本書の方が設定やストーリーがファンタジーのスタンダードに近いから、楽しみ易かったのだと思う。
もちろん、スタンダードとは言えありきたりの物語ではない。著者の持ち味であろう不思議で淡い独特な雰囲気は健在だし、何よりもしっかり性格付けされた登場人物たちが魅力的だ。
舞台はオンブリアという名の都。王が亡くなり幼い王子が即位する。その王を支えるはずの摂政は魔女で邪な野望を持っている。前王の妾妃や甥など幼王を支えようとする人々との攻防が物語のタテ糸。
そして、世界で一番古いと言われるオンブリアには、その地下に影の都が存在する。「影のオンブリア」は、オンブリアの長い歴史が堆積したもので、そこにはあらゆる時代の記憶や人々が今も存在している。
その影のオンブリアの住人である魔女やその僕の少女が、現実のオンブリアの争いに関与し、前王の妾妃や甥も含めたそれぞれの生い立ちや事情がヨコ糸となって、物語の織物を重層的に織りだしていく。ファンタジーファンなら一読をおススメする。
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世界で一番古く一番豊かで一番美しい都のお話し
2006/06/01 19:47
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界で、一番古く、美しい都その名もオンブリア、
そのオンブリアの大公が崩御します。
幼い御世継ぎの摂政として実験を握ったのは、通称<黒真珠>のドミナ・パール。
果たして、その後、この都オンブリアは、、、と、いうお話しです。
異世界での、剣を使っての冒険活劇という概念からは、
ちょっとかけ離れたファンタジーになっています。
登場するのは、父親が不明な庶子の若き画家に
亡くなった大公の元愛妾、そしてこのオンブリアの地下都市に住む、
魔法使いに、人形と呼ばれるその召使い、そして、敵役に、ドミナ・パールとなっています。
併し、欧米人の描く、ファンタジーは、我々東洋人の描くものと違い一味も二味も深いです。
描かれている背景の描写等、本当にイメージ豊かで正にそこにそれらがあるみたい。
今回特に気がついたのが、明かりに使われる、獣脂蝋の匂い。
どんな匂いなのだろう??。
又、このオンブリアという架空の都市の設定も大変面白くて
勿論、宮廷のある内城から、外側にも庶民の住む町は、広がっているのですが、(港もあるみたい)
なんと、下にも街は広がっていて、歴史を経るごとに、上へ上へ
発展していったみたいなのです、
つまり、三次元的に、このオンブリアは、大きくなっていったというわけです。
そして、その地下の街に住むのが上記した魔法使いなのです。
イメージ豊かな言葉で紡ぎだされる、オンブリアの世界に
くらくらしてください。と言った感じの一冊です。
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世界最古の都オンブリア。
その宮殿には、忘れ去られた秘密の通路や部屋が無数にあり、
そして、都の地下には、沈んでいった過去の都と時間が地層のようになった影が存在していた。
大公ロイス・クリーヴが死んだとき、
大伯母ドミナ・パールがオンブリアを我がものにしようと動き始めた。
ロイスの愛妾リディアは宮殿から追いやられ、
大公を継いだ幼いカイエルはドミナの前で何もできない。
庶子だが、大公にかわいがられていたデュコンは、絵ばかり描いていて何を考えているのかわからない。
一方、影の都にいる魔法使いフェイの助手マグは、
陰謀渦巻く宮殿の同行を見極めようと、主人に内緒で探るが……
プラチナファンタジィの新刊にして、
20年近くぶりに出たマキリップの翻訳。
正直言って、プラチナファンタジィじゃなかったら新刊で買わなかったんだけど、
これがかなりの当たり。
主人公が複数いる形になっていて、キャラクターがそれぞれ立っている。
耐えるカイエル、彼を守ろうと頑張るリディア、様々な陰謀に狙われるデュコン、
醜悪なドミナ、謎めいたフェイ、そして狂言回しにして影の主役とも言えるマグ。
ストーリーは、ドミナの陰謀からカイエルとオンブリアの支配を守れるか、と言うのが軸。
そこに、
ドミナの正体とは?
影のオンブリアの真実とは?
デュコンの父親は誰なのか?
と言う謎が横糸。
派手な場面は特にないんだけど、どっしりとしたファンタジー世界に浸れる。
海外の、ヨーロッパ風ファンタジー宮殿に付き物の、
忘れ去られた部屋、地下世界って好きなんだよねぇ。
『グローリアーナ』と被るけど、個人的にはこちらの方が面白かった(と言うか、読みやすかった)
それにしても、海外のファンタジーって、扉を抜けると、そこには秘密の世界、ていうの多いね。
昔話とか考えても、日本はないよなぁ。
ドアと引き戸でそんなに違うものなのかなぁ。
西洋のファンタジーがすぐ横に違う世界があるのに対して、
日本だと、山の向こうで、全く別の世界なんだよね。
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2003年度世界幻想文学大賞受賞作
この世で一番美しく力のある古き都オンブリアは、影の都と混じり合って存在していた。今、国王が死に瀕しているとき、彼の寵妃リディアと世継ぎの少年カイエルは、正体不明の老婆ドミナ・パールの陰におびえていた。リディアは生まれ育った酒場へと追い出され、残された少年王の頼りは叔父のデュコンだけ。父なし子の彼は、オンブリアの最も暗いところも平気で歩き回る豪胆さを持った、不可思議な男だった。
一方、オンブリアの過去の積み重なった地下では、フェイと言う名の魔女と手伝い娘のマグが住んでいた。地下と地上を自由に行き来するマグは、街をさ迷ううリディアを助け、デュコンを見守ろうとする。陰謀渦巻く宮廷では、誰かが誰かを殺そうとしフェイに毒薬を注文した・・・
地上にある現実の都オンブリアを支配するドミナ・パールと、その地下に広がる魔法と幻想の街の魔女フェイ。この二人を軸に、陰影深い物語が繰り広げられます。
自らの出自を求めるマグとデュコンが折りなす内なる物語が、絡み合い、静かにたゆとう。
何のためか自分でも判らないまま、オンブリアをさ迷いその街の扉を描き続けるデュコンが、最後にそのわけを知るラスト近く見た鏡の中の真実がとても美しく、心を捉えられました。
派手な魔法合戦も正邪の戦いもないファンタジーでしたが、みやびやかで静かな魅力に満ち溢れていました。
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ファンタジー。けぶるような、透かし模様のような、埃が光に透けて舞っているような、上手く言えないけれど不思議な空気感です。そして、それがすごくいい感じ。粗筋をじっくり追う、というよりも 空気やにおいや気配を楽しむ本だと思います。読めば読むほど、とりこになる…。
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マキリップは日本ではあまり翻訳されてはいませんが、その代わり翻訳されている本はどれを取っても読み終えるのが惜しくなる本ばかりです。読み始めたらきっとオンブリアという国にぐいぐい引き込まれること受け合い。
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マキリップ最新作。
背後からひたひたと忍び寄るような闇の雰囲気がよい。
私の大好きな世界終焉物だが、イマイチぶっ壊れてくれなかったのが残念。
しかし、古い街の描写や蝋人形の少女などには心躍らされた。久々に読んだ幻想文学だった。
なんどなく日本語と英語と言う言語感覚の違いをしみじみと感じた一冊。
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薄ものを一枚ずつ捲り、その下のものを確認するような。
不思議な透明感、そして浮遊感。(2007/07/25)
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05/10に読了。
井辻さんの訳に対する苦手感をマキリップの魅力が十分カバーしてくれました。
かつては繁栄していた都のよどみとも言うべき地下世界。夜の都の描写がなんとも隠微でグロテスク。
マキリップの語る人物は映画の中の人のように私には声と量感を持って感じられる。
今回はその人物達以外に世界の描写がよかった。一度きらめく金糸銀糸を織り込み天然色で染め上げたものが、長い時間を経ていい具合に色落ちした古い布のような、なんとも味わいのある色彩が感じられます。
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本屋にいったら、
「強い物語。」ハヤカワ文庫の100冊。
ってフェアーをやっていて、この本が鎮座ましましていたので、思わず購入してきました。(笑)
他にも、数冊購入。最近ハヤカワ文庫にふらふら呼ばれるなぁ(笑)
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2008年6月15日読了。
途中まで面白かったんです。面白かったんですが、ラストの意味がよくわからなかった・・・。
そして、なんだかとても中途半端な終わり方。
結局「黒真珠」って何者だったの????とか疑問が残りすぎです。
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2003年度の世界幻想文学大賞を受賞している作品。
二つの世界が絡み合ってるお話。もっと絡み合っても面白いと思ったけど、十分楽しかったです。
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大公の愛妾のリディアが、大公が亡くなったために宮廷を追われることになる、というところから始まる、いきなりシビアなお話です。
お話は堅実というのか、この作家らしいリアルさなのですが、そのリアルさとファンタジー的なもの(魔法、影の都、フェイやマグ)との混じり合いが私は好きです。
いきなり不思議な出来事や下の都の出来事が混じりこんでくるので、何が何かときどき曖昧になるのですが、そこに慣れれば楽しめると思います。
2010/9/29 読了
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世界で一番美しく、豊かな古都オンブリア。現実と影のふたつの世界が重なる都で、大公のロイス・グリーヴが亡くなり、愛妾であったリディアも、ロイスの大伯母ドミナ(黒真珠)によって宮廷を追いやられる。しかしそれは絶対的な権力を渇望する黒真珠の陰謀の序章にすぎず…。
新大公とは名ばかりの、幼いカイエル、彼を守るオンブリア大公家庶子のデュコン、地下の世界に住まう女魔法使いフェイ、フェイに育てられた蝋人形マグ、都に埋もれた歴史の真実を追い求める家庭教師…。幻想的なオンブリアを舞台に、それぞれの思惑が複雑に絡みあいます。権謀術数の行方やオンブリアの秘密に、後半はページをめくる手が止まりませんでした。世界幻想文学大賞受賞作。