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紙の本
私たちは『源氏物語』の読み方を間違っているかも
2001/01/23 10:30
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投稿者:青月にじむ - この投稿者のレビュー一覧を見る
こういうのを読んで思うのは「ああ、こういう読み方をしていれば面白くてどんどん先へ進めたんじゃないかなあ」ということ。高校のときに原文で読んでみたのだけれど、途中で投げ出してしまったのを思い出していたのだった。大学でもやはり教材に使った講義があったけれど、とてもじゃないけどこんな興味は持てなかったなあ。
どうも源氏物語というと絶世の美男子で高貴な身分の貴公子光源氏が、やはり高貴な美女との自由奔放な恋愛模様を当時、爛熟状態の公家社会を舞台に書ききった傑作、という印象だった。しかし、確かに源氏が相手した中には「なぜこの人が?」と目を疑うような醜女や低い身分の女性も多い。しかも、当時の社会では女性はさぞやか弱く不健康だったのだろう、と思いきや、すらりと背が高い女性が主役のことも多い。何だかんだ言っても色眼鏡をかけて読んだいたんだなあ、と自分でも悲しくなってきた。
本書では、各登場人物の体格と物語(源氏の態度に通じるものがあるだろう)での扱われ方の相関性、そこから読み取れる当時の社会についてなど、非常に読み易い文章で書かれている。
恋する男女は痩せているのが様になる、とか、主たる男性は皆背が高かったとか、源氏の相手でも第一級の扱いを受けるのは背が高い女だとか(これは意外だった)、背が低くなよなよとした女性は主張もできないためか、男たちのいいようにされて終わってしまうとか。結構あからさまな表現が多いので電車で読むのにちょっと気になったのだけれど、慣れてしまうと先に進みたくてそんなことは気にならなかった。
面白いのは、作者の紫式部は、血筋よりも性格や育ち方で体格は決まると考えていた節があること。勿論血筋での影響はあるだろうけれど、今度はそれらが「隠された親子関係(つまり、不義密通密通の子であること)」を指し示す道具となったりするところが非常に興味深い。
受領階級が押しなべて太っていて色が黒く、デリカシーのかけらもない存在として描かれているところも、血筋というよりは育ち、生活が多く影響しているのだろう。実際、元は貴族階級だったものもいるようだし。例外といえば僧の身分にある明石の入道など。修行を積む僧は、ストイックな生き方が良しとされたからだろう。
ただ、受領である彼らは感情がストレートな分貴族階級には無い誠意が感じられ、決して筆者はバカにしているわけではないということは感じ取れる。これには実際紫式部が受領の階級の出身だったことがあるのだろうとこの本にも書かれている。育ってきた受領階級と出仕してから見聞きした貴族階級との比較を、非常に冷静に観察しているのが彼女らしいものの見方だと思う。
「源氏物語」は、これらの階級の恋愛模様や政治、生活を垣間見ると共に、太古から続く母系家族制度の崩壊や没落が進む貴族階級の様子、台頭する仏教(特に浄土思想)の影響などが、明快に説明されている。特に、顔、姿の美醜は仏教の影響が強いというのは驚きだった。前世の行いが悪いと蛙や虫になるように、姿かたちにも影響すると考えられていたらしい。自分に罪も無いところで謂われない差別を受けるだなんて、なんとも不幸な話だよなあ。