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バディ・ボールデンを覚えているか
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  • カテゴリ:一般
  • 発行年月:2000.2
  • 出版社: 新潮社
  • サイズ:20cm/230p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-10-532802-6
  • 国内送料無料

紙の本

バディ・ボールデンを覚えているか

著者 マイケル・オンダーチェ (著),畑中 佳樹 (訳)

ジャズはこの男から始まった。愛と狂気に引き裂かれた天才コルネット奏者の生涯を、挿話やインタビュー、詩的断章などによって再現。伝説と史実をコラージュしたドキュメントノベル。...

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バディ・ボールデンを覚えているか

1,944(税込)

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商品説明

ジャズはこの男から始まった。愛と狂気に引き裂かれた天才コルネット奏者の生涯を、挿話やインタビュー、詩的断章などによって再現。伝説と史実をコラージュしたドキュメントノベル。【「TRC MARC」の商品解説】

著者紹介

マイケル・オンダーチェ

略歴
〈オンダーチェ〉1943年セイロン生まれ。ロンドン、カナダと移り住む。文学・演劇・映画などに幅広く活動している。「イギリスの患者」でブッカー賞受賞。他に「ビリー・ザ・キッド全仕事」など。

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みんなのレビュー4件

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評価内訳

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紙の本

録音もないミュージシャンの空白部分を「憑依の手法」で浮かび上がらせる奇妙な味

2000/07/09 17:17

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:安原顕 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 映画化もされた『イギリス人の患者』の作者マイケル・オンダーチェの小説『バディ・ボールデンを覚えているか』(76年。原題は『COMING THROUGH SLAUGHTER』)が出た。オンダーチェはオランダ人など複数の民族の混血の家系に1943年、スリランカで生まれる。英国で教育を受け、現在はカナダに住み、詩や小説を書いている。訳者は「あとがき」で、「本書は小説なのか詩なのか、フィクションなのかノンフィクションなのか」判定困難と書いているが、それはオンダーチェが年代記風には綴らず、あるシーンを頭に思い浮かべ、それらをすこぶる詩的な文章でコラージュしているからだ。バディ・ボールデンは実在の人物、伝記的部分はしっかり押さえているので、半分はノンフィクションだが、フィクション部分の想像力、それもボールデン自身が「取り憑いたよう」に描いた筆致が秀逸なのである。チャールズ・“バディ”・ボールデンは1877年、米国ニューオリンズ生まれのコルネット奏者である。10代の終わりに、他の楽団でのプレイヤーをしながら自己のグループを結成、1900年頃までニューオリンズ中のダンス・ホール、キャバレーで絶賛を博していた。しかし、次第にキング・オリヴァー(1885〜1938)ら若手に人気を奪われ、酒に溺れる。籍は入れ ていなかったが売れっ子娼婦ノーラ・バースとの間にバーナディアン(娘)、もう一人の女ハティとの間には息子チャールズ・ボールデン・ジュニアをもうける。ボールデンにコルネットを教えたのは、母親と同棲中の男マニュエル・ホールだった。ボールデンは床屋で働いていたこともある。何度か出てくる床屋でのシーンにも感心した。そして1907年4月(31歳の時)、バンドで演奏中、突然発狂、精神病院に入れられる。診断は早発性痴呆、パラノイド型だった。後に東ルイジアナ州立病院へ移動、1931年11月4日、55歳で他界する。本書には「物語」らしきものもある。ノーラ・バースと住んでいた頃、ボールデンが失踪、彼の親友、3歳年上の警官見習いウェッブが探し回る話だ。途中、せむしの写真屋、後に、みずから火をつけて自殺するベロクの逸話もいい! 「写真」は1枚しか残っておらず、録音もないミュージシャンの空白部分を「憑依の手法」で浮かび上がらせたこの小説、奇妙な味だが面白い。

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2005/02/20 23:10

投稿元:ブクログ

天才コルネット奏者バディ・ボールデンの生涯を描きだす力強い言葉の断片。詩と小説の中間にあるような言葉です。

2010/04/17 16:44

投稿元:ブクログ

『太陽があらゆるものを漂泊していた。コーラの看板はほとんどピンク。残っているペンキは枯草のような色。午後の二時の陽光。ここには彼の完全な不在がある』

マイケル・オンダーチェの小説が不思議な感覚を呼び覚ますことには、少しは慣れたつもりでいたのだが、この本はそんな勝手な思い込みを心地よく打ち砕く。何とも似ていない、そんな小説がこの「バディ・ボールデンを覚えているか」である。"Coming Through Slaughter"。原題のslaughterは、大文字で始まる通りの名であり、小文字で始まる「殺戮、屠殺」であり、ひょっとすると「消滅」というニュアンスさえも抱え込んだ言葉だろう。その多面性が、この小説の何よりの特徴である。

オンダーチェの他の小説と、ある意味では、共通するように、ここにあるのは、相変わらずの断片ばかりである。しかし「イギリス人の患者」や「ディビサデロ通り」とは少し異なり、断片の間には一つの共通のたくらみがある。これらの断片にはある一つの核心の周りをぐるぐると取り囲み、徐々に中心に迫ろうとするベクトルが存在するように感じる。そのベクトルが核心にあるものを少しずつ明らかにする。そのことが、ナイフのような鋭利なものによる行為であることは、否応なく了解させられる。

時に薄く掛かるベールを切り裂くように、時に不透明の革の膜をザックリと切り開くように。しかしそうやってたどり着いた場所には、何かがある訳ではなく、そして奇妙なことではあるけれど、全ての理由があるようにも思える。そこにあるもの、それこそがslaughterでなくて、なんだろう。

謎の中心であるはずのバディ・ボールデンは、実はどこへも消え失せていない。しかし物語(? 果たしてこれを物語と呼んでしまってよいのだろうか、という疑問は強く湧くけれど)の核心にあるもの、あるべきものは、最初から最後まで不在であり続ける。じっとりとした汗、ぬるりとした血、むき出しのままのナイフ。そういった頭よりも先に肌の表面が意味を知ってしまうようなものは、幾らでもそこにあり強烈な存在感を示すのに、それらの元の所有者(それは特定の誰かということですらない)は、不在でありつづける。いや、身体は残っていないが、その輪郭と深い苦悩は、今もそこに、ソファの上に、塊となって、まるで幽霊のように座り続けているのだが。その堂々巡りとも思える先が辿りつくのがスローター通りの先の施設。

まるで知らない物語である筈なのに、しつこく襲ってくる既視感。それはオンダーチェの文章がいつの間にか脳の記憶領域に浸透し、内側から何かを訴えてくるからに他ならない。例えば、一度だけ訪れたことのあるニューオーリンズの街路が、ミシシッピ川の匂いが、フラッシュバックしてくるようにも思うけれど、それはひょっとすると「ペリカン文書」の映像の記憶かも知れず、はたたまオンダーチェの描写から脳が勝手に作り上げた虚構かも知れないのだが、もはやその区別を付けることの意味を問えなくなってしまっている。

そうしてオンダーチェの小説を読んだ後にいつも感じるように、記憶の断片の間のつながりの余りの無力さに愕然とするのである。

2015/02/19 11:56

投稿元:ブクログ

ジェフ・ダイヤーが『バット・ビューティフル』の「あとがき」で誉めていたので、どんな本だろうと思って読んでみた。何人ものジャズ・ミュージシャンの人生の一場面を「想像的批評」という方法で活写した本の書き手が称揚するだけに、かろうじて写真一枚を残すだけで、演奏の録音すらないジャズ史に残る伝説的なコルネット奏者の数奇な半生を、短い断章を駆使したコラージュ風のタッチで鮮やかに切り取ってみせる。書いたのは、映画『イングリッシュ・ペイシェント』(イギリス人の患者)の原作者マイケル・オンダーチェ。惹句にはドキュメント・ノヴェルなどという耳慣れない言葉が使われているが、実在の人物を素材にしたこれは、紛れもない小説である。

バディ・ボールデンは1877年生まれ。19世紀末から20世紀初頭にかけてニューオリーンズ・ジャズの最高のコルネット奏者として君臨。ジャズというスタイルの創出に重要な役割をはたしたが、三十歳のときに精神に異常をきたし、後半生を精神病院で送る、と「訳者あとがき」にある。とてつもなく大きな音が出せたという伝説が残っている。唇が傷むのもかまわず高音を吹き続けたとも。エキセントリックなミュージシャンだったのだろう。

ダイヤーがミュージシャンのポートレートを見た印象からストーリーを紡いで見せたように、現地を訪れたマイケル・オンダーチェは、知人にインタビューし、残されたわずかな資料を探して歩くうち、人物が「憑依」するのに気づく。探偵がその日の捜査で得た結果を手帳にメモするように、短い断章形式で書きとめた記述の合間合間に、バディ・ボールデン本人が立ち現われてくる。無論、作家の想像である。小説だというのはその意味だ。作家的資質の持ち主にかかれば、いくら事実をもとにして書かれようが、書かれた物は限りなく虚構に近づいていくのは避けられない。むしろ読者にとっては、その方がありがたいくらいのものだ。

昼間は床屋で働きながら、耳に入ってくる醜聞をネタにしたゴシップ新聞を発行し、夜はクラブでコルネットを吹いていた。彼を贔屓にする顔役が毎日届けてよこすアルコールが回ってくると狂気を帯びた剃刀が怖くて顔見知りは午後には髭を剃らせなかったなどという話も、後半生を知る者にはうなづける挿話だ。娼婦上がりのノーラを妻にしたのはいいが、妻は町一番の色男と手が切れない。バディの方もミュージシャン仲間の妻に魅かれ、二つの頂点が重なる三角関係が生じる。挙句が刃傷沙汰に次ぐ失踪事件だ。

何も知らずに手にとった読者なら、この本は探偵小説だと思うだろう。今は警官をやっているウェッブが、失踪した旧い友人のバディを捜し歩くという体裁をとっているからだ。作家はウェッブの眼を借りて、ニューオリーンズの街をバディを捜して歩く。性病に侵され、娼館を追い出された娼婦たちが商売道具のマットレスを背に川べりに立つあたりは、まるで夜鷹のそれを見るようだ。用心棒に見つかると踝を棒で叩かれ潰される。ジャズの本だと思って読んでいると、とんだまちがいだ。酒と娼婦と音楽がまだ混沌としていた時代のニューオリーンズにいつのまにか迷い込んでしまっている。

伝説となった��ャズ・ミュージシャンの末路はいつも何故か嘘寂しい。バディに憑依した作家が描き出す荒涼とした精神病院の風景、密閉された空間でおおっぴらに行われるレイプは論外だが、精神を病んだバディが見つめる自分とそれを取り巻く世界の描写がリアルで背筋が寒くなる。人が毀れてしまうには、それなりの理由があるのだろうが、当事者にとって納得できる何ものもそこにはない。よくできたハード・ボイルド小説を読んだ後のような、空しさと静かな余韻がいつまでも残る。

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