- カテゴリ:一般
- 発行年月:2000.3
- 出版社: 岩波書店
- サイズ:20cm/305,43p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-00-001924-4
- 国内送料無料
紙の本
貧困と飢饉
著者 アマルティア・セン (著),黒崎 卓 (訳),山崎 幸治 (訳)
飢饉の原因が一国レベルの食料供給能力不足にあるという通説を否定し、人々の食料に対する「権原」(エンタイトルメント)が損なわれた結果であることを実証する。講演「飢餓撲滅のた...
貧困と飢饉
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商品説明
飢饉の原因が一国レベルの食料供給能力不足にあるという通説を否定し、人々の食料に対する「権原」(エンタイトルメント)が損なわれた結果であることを実証する。講演「飢餓撲滅のための公共行動」を併せて収録。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
アマルティア・セン
- 略歴
- 〈アマルティア・セン〉1933年インド生まれ。ハーバード大学教授などを経て、現在、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ学寮長。98年ノーベル経済学賞受賞。著書に「不平等の再検討」など。
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紙の本
日経ビジネス2000/9/18
2000/11/13 21:15
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投稿者:猪口 邦子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
飢饉は戦争と並んで、古代から現代に至るまで広く見られ、どのような経済学者も発生構造の解明と防止にうまく取り組めないできた。
紀元前436年には数千人もの飢えるローマ人がテベレ川に身投げし、カシミールのヴィタスタ川が屍で覆われて水面が見えなくなるほどの飢饉が記録されている。19世紀半ばのアイルランドのジャガイモ飢饉で全人口の5分の1が餓死し、それに匹敵する数の人々が北米に移民して米国の人的資源の基礎を成したことは有名である。最近でも内戦下のエチオピアやサヘル地域などで、世界経済の発展とは無縁にローマ時代の100倍、1000倍の規模の餓死者が出ている。
飢饉の原因として、凶作による食糧供給量の減少(FAD=Food Avail−ability Decline)や流通の問題を思いつくが、貧困な社会に等しく飢饉が発生し、旱魃に見舞われたどの国でも発生するわけではない。
ノーベル賞経済学者であり、インド出身のセン教授は、飢饉の発生について歴史統計や各地のケースを詳細に研究していくうちに、祖国の事例をヒントに決定的な発見をしている。人口の多いインドでは飢饉が歴史を通じて頻繁に発生していたが、1947年に独立してアジア最初の民主主義国となった時点から、飢饉は発生していない。インドはその後も貧しいままではあったが、飢饉の現象は発生しなかった。
なるほど、経済学者には発見しにくかった根本原因が様々な表面的な原因の奥深くにあった。民主主義である。民主的国家においては、貧困はあっても飢饉は発生しない。独裁者がどのように英明であろうと、民主制下における民衆困窮への政治の敏感性と報道の自由がもたらす早期警戒機能に勝ることはできない。
大英帝国支配下にあった頃、インド民衆の「死活問題が英国政府に無視され」続けた。43年のベンガル飢饉では150万人が餓死したが、この時ベンガルでは歴史上最大量のコメが収穫され、確かにマクロレベルでは問題は見えにくかったかもしれない。投機筋の価格操作や富裕層のパニック的な購入など一般的な経済要因があったとしても、それらが放置された理由も含め、より本質的な原因は非民主主義においてのみ可能な個々の人間の運命と生命の軽視である。
センはこの記念碑的な書物で、人はみな生きるために必要な食糧を入手する本質的権利と資格を等しく有しているというエンタイトルメント(権原)の概念を飢饉の分析に導入し、経済における最も重要な問題は経済学では解けないことを思想的に明らかにした。
(C) ブッククレビュー社 2000