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紙の本
大事なものに気付く旅
2003/06/13 21:26
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:PNU - この投稿者のレビュー一覧を見る
両親を急に亡くした主人公・コリンが、全てを捨てた者しか出来ないハードな旅に出発する、ファンタジー仕立ての物語。全てを捨てたと思った自分が失ったものと、失っていないものに気付く旅は、テンポの良さとキャラクターの魅力で説教臭くなるのをギリギリで防いでいる。いろいろな世界の描写が興味深く、精神的ガリバー旅行記の風情が楽しめる。
主人公の苦難と試練はよくあるパターンだが、コリンが美少女チャーミアンから受ける仕打ちなど、男性の方々はハッと胸をつかれるのではないか。この辺はリアリティありすぎなくらいだ。
なんだか続編あるの?というような、いきなりのラストなのだけれど、終着点が目的地ではなく、精神的なものであった、というわけなんだろうか。私は物語を無責任に消費するのは得意だが、そこから教訓を読み取るのは苦手なのでよくわからない。
紙の本
おばちゃまシリーズの作者による寓話
2002/02/28 23:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キイスミアキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
疫病によって突然に両親を亡くした少年コリン。自分だけがどうしてこんな目に遭ってしまうのか──、やり場の無い怒りを身体のうちに秘め、彼は胸の激しい痛みに耐えていた。父親が生前に話していた賢者たちの住む修道院を思いだしたコリンは、愛馬にまたがってブラザー・ジョンという修道士に会いに行く。ブラザー・ジョンの話によると、山奥の古城に住む魔術師に出会い、彼の案内してくれる扉を抜ければいいというのだが……。
生きる道はこれしかないと、迷路へと続く扉に飛び込んだ失意の少年。果たして彼は、無事に生還することができるのか。
両親に先立たれ、過去の愉しかった思い出に触れるたびに、身体の中で沸き上がる怒りや憎しみの感情を抑えることに苦しむコリン。彼は、すべてを失ってしまったと考え、魔術師の手引きによって扉の向こうにある、未知の国へ突き進もうとする。その旅は、彼が失っていなかったもの、怒りや憎しみなどをそぎ落とす、厳しいものだった。
少年は、見知らぬものに立ち入ることを余儀なくされる。石から逃れるために砂に飛び降り、火から逃れるために水に飛び込む。未知の世界を冒険する点は、スイフトのガリヴァー旅行記とも通じる面白さがあるが、決定的に違うことがある。ガリヴァー旅行記が、社会全体、その構成員である個人を批判するメッセージが込められたものであるとすれば、本作は、自己を省みることを勧める寓話なのだ。
コリンの旅は、失ったものを取り戻したいという一念からはじめられたものだった。だが、旅の目的とは逆に、すべてを失うための厳しい旅路となってしまう。失ったものを認める、すべてを失ってから新たにはじめることができる、というドロシー・ギルマン一流のメッセージが込められている。
きっと、著者の精神が持つ均衡が、このような作品を書くことを可能としたのだろう。
16歳の少年が、様々な困難と出会いながらも、目的地を目指して旅を続けるファンタジー。随所に示唆に富んだセリフがあり、読みごたえがある。
読了後の余韻が素晴らしい。結末によっては、それまでの物語に存在した思い出が消し去れることもある。ただ、物語を台無しにしたかったのではないかと思われるような、作者による安易な死ではないかと不快に思ってしまう結末も多い。この作品では、そのような心配は無用。印象深いそれぞれの思い出が、確実に残るようなラスト・シーンとなっている。