紙の本
人口を語ることは,文明を語ること。だから小手先ではいけない。
2006/10/12 23:37
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「少子化」だの、「高齢化」だの、いまひとつピンとこない。日本国の将来を憂える向きには罵られるかもしれないが、大して興味がわかない。そんな私でも、子どもが無邪気にしていればかわいくも感じるし、お年寄りが大変そうにしていれば、その人の来し方を想像したくもなる。「人口」を論ずることが面白いのは、「人の生き死に」というのは文字通り個人的なことであるにもかかわらず、それらを集計すると時代、いや「文明」そのものが見えてくることである。それも数十年の短期ではなく百年単位の動向でみていくと、これが俄然面白くなってくる。それが歴史人口学である。日本の来歴の2000年で考えたのが本書である。
実際の歴史人口学は、宗門人別改帳など、同時代のさまざまな資料を丹念に読み解いて推計をくり返すという、地道な作業が土台にある。それゆえにこそ、社会のダイナミズムが見えてくるのである。本書は、この点を手際よく紹介している。親本は1983年の「日本二千年の人口史」で、加筆修正されたうえで文庫化されている。
本書の冒頭では、日本における人口循環の波を4つ指摘している。それぞれ、1)縄文時代中期を頂点とする波、2)弥生時代における増加、3)14、5世紀からはじまる波。そして、4)19世紀以降から現代までとなる。2)と4)は、それぞれ農業の普及と、産業化(近代化)に対応することは容易に理解できよう。この大きな社会的変化が、人口に明瞭に反映されているのである。
では、1)と3)は何か? 前者は「縄文時代」にあたり、後者は、江戸時代前半までにあたる。従来は農業や工業という産業面ばかりに目がいきがちだが、この数十年で、縄文時代や江戸時代の、産業によるものとは異なる独自の「豊かさ」が明らかにされているのは、よく知られていることである。歴史人口学はいち早くこの趨勢を明らかにしたのである。また、これらのことは、農業や工業といった、産業による豊かさとは異なる道があることを示しているのではないか?
文明を語る、というとなんだか大仰な感じがしてしまうが、自分の思考や想像力の範囲を広げるきっかけである、と言い換えると理解してもらいやすいだろう。
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日本の人口のダイナミズムを歴史人口学的に分析し、人々の暮らしの変容を明らかにした書です!
2019/01/28 19:13
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、過去1万年にわたって増え続けてきた日本の人口をダイナミックに歴史人口学という視点から分析し、我が国の人々の生活や考え方の変化、変容を明らかにした画期的な一冊です。同書を読むと、現代の人口転換期とも言われる少子高齢化社会が急速に進む我が国の社会の将来的な在り方が見えてくるようになります。ぜひ、多くの方々に興味をもって読んでいただきたい一冊です。
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日本の人口史
2023/06/21 17:08
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投稿者:かずさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
人口の増減には出生率、死亡率、移民、環境・社会要因があるが島国の日本は移民要因がないため、人口増減が実験室のような環境で行われていた。著者は縄文期には東高西低だったが稲作文化の広がりや東日本の気温低下で変化が生じたと。近世では都市化、経済発展、女性の立場の変化が人口にも影響を与えたと説く。人口増減の面から歴史を考えるのも面白い。
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「ヒトはこうして増えてきた」より面白い。
2015/11/26 08:33
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投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
同じ人口の歴史を扱った大塚柳太郎氏の著作より読みやすく、面白い。こちらの方が刊行が古いし、安いのだから歴史人口論を概観したい場合は断然お得。日本史と考えると、全く別物だが、数字の変化に重点がおかれているので、具体的でよい。
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ぜひ一読を
内容がちょっと専門的ですが、考古学者はこんな風に研究しているのだわかり、結構楽しい。
16P-17Pの日本列島の地域人口:縄文早期~2100年の表だけでも1008円の価値はあります。
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人口の変化というのは、ずっと増加し続けてきたわけでなく、増減があったり停滞していたときがある。その理由にどういった社会情勢が背景にあったかなどを説明している。
近世より前までは、女性は出産で死亡することも多かったため、人口を維持するためには、何人もの子供を産む必要があった。そうなると女性は出産と子育てに追われて生涯を過ごすことになる。
人口という数値の中にそれだけの人数の人生があり、必死に生きていたところを想定すると今の時代、自分はなにのほほんとしているんだろっとふと思ってしまった。
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歴史人口学の成果を紹介。日本の人口は縄文前期の十万人程度から,千倍ほどになった。この間七千年,人口は一貫して増えたわけでなく,増加→頭打ち(減少)という波を四度経験してきた。
縄文中期までの気候の温暖化が最初の人口増加をもたし,30万人程度まで達した。次第に寒冷化し人口は激減するが,弥生時代に入り,水稲農耕が定着するあたりから急激な人口増が見られる。その後,平安時代になって600万人前後で人口成長は鈍化。
さらに14世紀ころから市場経済の展開とともに人口は増えてゆき,江戸時代の18世紀,3000万人で人口は停滞。明治維新による近代化以降,急速な工業化は人口増をもたらし,間に太平洋戦争を挟むも今に至るまで人口は増え続け,1億3000万人に達する。
世界人口も,農業革命と産業革命の二度の文明システムの変更によって,増加→停滞の波が説明できる。日本では,縄文期の温暖な気候,弥生期の稲作,室町以降の経済社会化,明治以降の工業化,に起因して,人口推移に四つの波が見られるというわけ。なるほど。
近代化以降は,人口を把握するのに統計が使えるが,それ以前は推計によるしかない。縄文時代などでは遺跡の数や集落規模を駆使,奈良時代以降は年貢の量や課丁数をもとに人口が推計されている。江戸時代に入ると,「宗門人別改帳」が強力なデータになる。
宗門人別改帳は,町村単位で作成される随時の戸口調査で,全国的に完全に残っているわけではないが,長期間残る藩もあり,人口推計の上で有効な史料である。そのため江戸時代の人口現象については,それ以前よりもかなり多くのことがわかる。本書でもかなり詳しく記述される。
宗門改帳は毎年作成され,世帯員の名前,戸主との続柄,性別,年齢が書かれているので,それを追跡することで,人口の動静が明らかになる。乳児の死亡が反映されないので,乳児死亡率や出生率については注意が必要だ。
江戸時代の結婚,出産,死亡についてはいろいろなことが分かっている。現在は結婚後,短い間に出産を終え,子が独立した後も長い夫婦の余生が残るが,江戸時代には,早く結婚しても40過ぎまで多くの子を生み続け,末子が成人しないうちに親が死に,長兄がその後の面倒を見た。
江戸期の人口現象で興味深いのは人口調節機構。避妊の知識も乏しいため,堕胎や間引が広く行なわれていたが,貧窮のあまりと言うより生活水準を切り下げないため予防的に行なわれた傾向が強い。また,都市は出生率が低く死亡率が高いため,人口を吸い込む「蟻地獄」となっていた。
間引なんかは,当時と言えども奨励されてたわけはなく,『子孫繁昌手引草』のような,間引の非人間性を諭す多くの出版物も出されていた。現在の意識で考えると全然理解できないが,当時としては当時なりに辻褄をつけてやり過ごしていたのだろうな。「トメ」とか「末吉」とか名づければ弟妹が生まれなければいいんだけどね。
まともかく,要はどれだけの人口を支えられるかはやはり利用可能なエネルギーの大小によるんだろう。でもそれは多分比例関係ではなく,高エネルギーになるほど人口維持に割く割合が減る。快適な生活とかに振り向ける分。で���適さは捨てたくないから,使用可能エネルギーがピークを打つと,先進国では自動的に産児制限がかかる。江戸時代ではそれが間引だったのだが。途上国でもタイムラグはあるが同様の推移をたどると思われる。
今後,原子力もアレだし使えるエネルギーが青天井ってことはないから,世界人口も減ってくよね。日本はすでに減少に転じた。世界の人口が,大きな破綻なく徐々に減ってくのは良いことだと思う。20世紀は増えすぎたよ…。
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なんで購入したか失念。なぜか家にあった。
圧巻は、縄文時代からの日本列島のブロック別の人口推計。あたっているかどうかは自分に判断できないが、千人単位で推計している。
例えば、縄文は、東日本が人口が多い、南関東の人口が畿内を抜くのは江戸時代に入ってからなど、当たり前かもしれが、数字で示されると、すごい。
(1)西暦4から7世紀の古墳時代は寒冷期だったが、奈良時代になって温暖化が進み、人口が一気に増えた。(p64)
(2)江戸時代、都市は高い死亡率と低い出生率で、人口減少要因だった。(p104)
(3)江戸時代の平均寿命は30年、50年を越えたのは、戦後の1947年。(p174)
縄文時代からの大きな日本列島の人口の変化をみていると、今直近の人口減少も、生活水準をまもりつつ、うまく、都市も国家経済も縮小している、シナリオがかけそうな気がする。
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宗門人別改帳などをもとに、江戸時代の家族構成、出生率、死亡率などを分析した本。
なかなかよかった。
社会システム面からのアプローチが多かったが、
近世後期の平均寿命の向上に関する原因をぼやかしていたが、
もうすこし踏み込んでも良かったかと。。
ついでにN数が少ないのは気になったが、史料的制約があるからしゃーないか。
江戸時代付近に記述が固まってしまっていたのは残念。
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縄文時代から現代に至るまでの日本人口を研究した歴史人口学の書。
結果に至るまでの研究過程が記載されているので、少々読み辛い面がある。熟読はせず読み飛ばす感じで読了。
≪Memo≫
・日本列島の人口推移
縄文時代 10万~30万人 *1)
奈良時代 450万人
平安時代 550万~680万人 *2)
江戸時代 3000万人 *3)
1890年 4100万人
1920年 5500万人
1950年 8300万人
1975年 1億1000万人
1995年 1億2550万人 *4)
2050年 1億人
2100年 6700万人
・人口推移は、増加停滞の波の繰り返し。
*1)縄文中期の温暖化
*2)弥生時代の水稲農耕
*3)室町以降の経済社会
*4)明治以降の近代化
・江戸時代の幼児死亡率は、20から25%になる事も珍しくない。出生児10人のうち6歳を無事に迎える事ができるのは7人以下。16歳まで生存できるのは5、6人でしかない。
・江戸時代の平均寿命は30歳程度と推察される。50歳を超えたのは第二次世界大戦後。
・17世紀には20代後半-30代、18世紀には30台半ば、19世紀には30台後半の水準を獲得し明治中期の水準に繋がったものと思われる。
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最近、藻谷浩介さんの「デフレの正体」の影響で人口動態にたいへん興味がありますが、この本のテーマもひじょうにユニークなものです。」残念なのは既に絶版になっていること。残念ながら図書館で借りて読みました。
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日本の人口について研究した本。縄文時代の終わりに約8万人だった人口は、弥生時代に60万人、平安時代末期に680万人、江戸時代直前は1200万人、明治時代の初めは3300万人、太平洋戦争後の昭和25年は8400万人と増加してきた。その間にも人口増加の停滞する時期があり、気温のダイナミックな変動が主因だったことに驚かされる。江戸時代の間引きや堕胎についての生々しい記述もあるが、それが日本の明治以降の近代化のスピードが他国よりも速かった理由としているのを受け入れるのは複雑な心境である。現在、日本の人口は減少に転じているが、日本が人口停滞社会を向かえるのはこれが初めてではないことがわかる。
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稲作農耕文化、気候の変化による、人口の変化、江戸時代以降になると資料から、日本の人口の推移を読み解く。
かなり興味深く読んだ。
各種文献・資料に基づいて分析、論述していると思います。
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縄文の人口増加は出生率の高さ、弥生以降の人口増加は稲作、15世紀から17世紀までの人口増加は小作農の自立など小世帯化での婚姻率の向上、明治以降の上昇は工業化。
女性は出産での死亡が高いので、出産適齢期の死亡率が高かった。
七五三は死亡率の高い子どもの頃を越えられたお祝い。
貧しいから人口が増加しないのではなく、豊かになると出生率が低下する。
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縄文時代からの人口の話。
人口は伸び続けてきたわけではない、やはりこの100年が増えすぎているなど、新たな知見が盛りだくさん。
特に最終部分の、慌てて人口減少対策に取り組むのではなく、どういった成熟社会を目指すかという指摘には、とてもとても10年以上前に書かれた本だとは思えないほど感銘を受けた。
江戸時代、貧しくて間引…だと思っていたが、逆に貧しくならないために間引だったとは。どうしても前時代が貧しかったイメージから離れられないけれども、そのイメージを覆すような考察だった。