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紙の本
古代の道路行政
2010/12/07 07:51
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
古代日本には全国を貫き連絡する道路網が整備されていた。本書は古代道路について解説するとともにその探究方法についても教えてくれている。
古代の道路は大きく2つに分けられるそうである。1つは駅路といって今の国道にあたる道路で、もう一つは伝馬路、伝路という今の地方道にあたる道である。さらに古代の道路政策は8世紀末から9世紀初めを画期として前後に分けることが可能で、遺跡で見つかる道路がその相違をはっきりと示してくれるとのこと。
前期は、道路幅12mにもなる大規模道路を、地形を無視して直線的に延ばしていた。これは駅路にあたる。筆者は現代の高速道路一車線分がおおよそ3mということを示して、前期駅路の巨大さを教えてくれた。さらに地方網とも言える伝馬路、伝路が地形に則しながら整備された。
後期には大転換が図られる。駅路の幅は6mほどに減じ、地形に則して延びるように改善が加えられたのである。前期の伝馬路、伝路を基軸とした道路整備が実施されたという。
上記のような、一見すると国家の道路行政の推進力が減退したという印象に捉われそうな変化について、筆者は国家の成熟による変化と解釈した。つまり、前期段階には大規模で直線的な国道を整備して、そこを民に通らせることで「権力や統合を宣伝する即物的な舞台装置」(209頁)としての機能を果たさせていたが、国家が“ハコモノ”に頼らない成熟度を達成したことで実用主義の道路に転換したと筆者は主張する。すぐに“ハコモノ”を建てて嬉しそうにテープカットする政治家たちは、自らの未成熟さを堂々と披露しているのかも知れない。古代の道路行政ではあるが、現代人が学ぶべきところは大きいと言えよう。
さらに本書の重要な特徴は、古代道路の探究方法に関する解説が詳細に掲載されていることであろう。古代道路の探究は、まず文献史料のチェックから始まる。さらに地図を広げて地名や地形の確認を行う。地形の確認には縮尺の大きい地図も使う必要があるという。さらに空中写真を広げて、地図には記されない情報の収集に努める。そして、フィールドワークである。最終的には発掘調査によらなければ確かなことは言えないものの、自分の住む地域の歴史を探究するという目的でもフィールドワークまでの作業は多くの知見を与えてくれよう。生涯学習を実践するための1つの教科書としても本書をぜひお薦めしたい。