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商品説明
寛政元年「棄捐令」は江戸の金融崩壊を意味した。苦難に耐え、誠実に生きようとする札差・市三郎。金と権勢にまみれ、腐敗した武家を捨てた綾乃。会うはずのない二人が出会ったとき、恐ろしい運命の歯車が回り始める。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
千野 隆司
- 略歴
- 〈千野隆司〉1951年東京都生まれ。国学院大学文学部卒業。中学校教員のかたわら、時代小説を執筆。「夜の道行」で第12回小説推理新人賞を受賞。他の著作に「逃亡者」「北辰の剣」など。
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紙の本
乙川優三郎だけじゃないぞ。オモシロ時代小説みつけた。
2000/07/10 20:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:桜井哲夫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
藤沢周平亡きあと、時代小説をあまり読まなくなっていますが、まぎれもなく彼を継ぐと言っていい乙川優三郎だけは例外なのです。最新作の『蔓の端々』(講談社、4月発行)もお家騒動に巻き込まれた剣の達人の悲哀を描いて実に見事な出来でした。未読の方にはぜひおすすめしておきます。
さて、今回は、全く知らなかった作家を新発見しました。著者紹介によれば、すでに何冊も発表しているらしいのですが、私はこれまで一冊も読んできませんでした。ところが、この本は、6月21日に偶然、三省堂書店で手に取ってパラパラ読んだところ、気になってすぐに購入したのです。
いや、実に見事な手練れでした。時代小説は文章が下手ではどうにもならないのですが、もちろんうまい。しかも、経済小説でありながら、理屈っぽくなっていない。ともすると江戸の経済を扱う時代小説は、知識をひけらかそうとして、読みにくくなるものです。
この小説は、江戸の金融業者「札差」上総屋の市三郎を主人公にしています。しかし、別に経済上の知識を必要とはしません。
寛政元年(1789年)、幕府は、借金で困窮している幕臣を救うため、棄損令(旗本・御家人が蔵米を担保に金融業者から借りている借金の棒引き)を出しました。領地を持たない下級の旗本や御家人が幕府からもらう年俸(禄)としての蔵米をお金に換える仕事をしている札差88店の損失は、合わせて118万7800両あまりに
達して、つぶれた店も出ました。
以後、札差は、債権棒引きを恐れて、貸し渋りをするようになりました。このへんがバブル崩壊後の日本の金融機関の行動によく似ていますね。上総屋も、棄損令で1万両の損失を負っています。
13歳でこの破局に父とともに立ち向かった市三郎は、何とかその苦境を乗り越えて、商売を営んできました。しかし、苦境を乗り越えるべく仕事に打ち込んでいたときに、愛妻のお夕を病で亡くします。市三郎はそれを自分の責任だと感じているのです。そして、このような市三郎が、追っ手に追われていた綾乃を助けたのです。
綾乃は、禄120俵の御家人の娘ですが、父が亡くなり、母が病に倒れために、高利貸しにたよらざるを得なかったのです。ために、彼女は、身売りのようにして、5千石の旗本の側室にされてしまいます。しかし、そのうち、家を継いだ弟が恨みをかって惨殺され、家は断絶となってしまうのです。彼女には、耐えるための理由はなくなり、そこで板東家から脱出をはかり、市三郎に救われたのです。こうして、二人の運命は交差するのですが、怒り狂った板東志摩守の魔の手が上総屋に伸び始めます。かくして、綾乃も中西一刀流の名手である父から手ほどきを受けた剣の腕を用いながら、市三郎と共に戦い始めます。この逸品をぜひ一読あれ。 (bk1ブックナビゲーター:桜井哲夫/東京経済大学教授 2000.7.11)