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われは幻に棲む (徳間文庫)
われは幻に棲む
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紙の本
夜の街にガオー
2007/09/22 18:56
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
東京に怪盗が現れる。追われるとビルの壁を登り、空を飛んで逃げるという。超人か、それとも集団幻覚か。その上に今度は、飼犬を殺して回るという事件では、若い女が目撃され、鬼女と呼ばれる。これらの怪事件が連続するのは、偶然なのか、それとも何かの陰謀が秘かに進行しているのか。警察も国民も疑心暗鬼となる。そんな折り、長野県の白犬神社で、かつて日本武尊の前に現われた悪霊を封じ込めたと言われる、白い犬の像が打ち壊されたという事件が報じられる。鬼女はそこから甦って報復を始めたものなのか?
というような妖しくも緊迫した状況で始まるのだけど、事件を追う退職刑事が白犬神社で犯人の痕跡を見つけるところから、話がハートウォーミングな方向へ。とりあえずこの刑事はカコイイので◎。現役時代には「黒猫の目を持つ男」と呼ばれ、独特の勘があると言われた。播州赤穂に伝わる九鬼神流の杖術を使う。怪盗と鬼女との宿縁により、この手で彼らを殺すべく対決に向かう。鬼女達の本当の狙いは何か、彼らはいったいどこから来たのか、元刑事との接点とは。そして彼らは少しづつ追い詰められていく。この世の孤独を、あり得るべく極限の孤独を抱えて。行き場の無い復讐の念を抱えて、行為はより凄惨さを帯びる。
その闇のルーツは、戦後の混乱期の中に繋がっていることを元刑事は突き止める。その闇から彼らを救い出し、人の心を取り戻させることはできるのか、それとも死をもって消え去るしか道は無いのか。
そんなわけで、新聞(日刊ゲンダイ)連載小説ということで、構成に多少ブレがあるのは大目に見ていただくよりないのだが、各場面は迫力に溢れ、鬼女の風のようにスピーディーな動きがおぞましくも美しい。高度成長期から、ドルショック、オイルショックを経て、かすかな陰りを憶え始めた人々に、日々暮らす世界と隣り合って存在する不安を引きずり出して見せてくれたような作品と思う。