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美人すぎる乳搾りの悲劇
2021/10/11 07:48
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
19世紀イギリスの農村で生まれた美少女の厳しい運命。運命といっても、すでに産業革命が進行中で、封建制度もなくなっている合理主義の時代に、抗うことのできない不思議な力、神の与えた試練といった説明では、読者も登場人物ももはや納得しない。では誰が悪いのかといえば、やはりそれは分からない。王様や貴族に買われるとか玉の輿とかいうことはないし、農民も土地や生産手段を自分で保有し、経営も多角化していて、経済的にひどい困窮に陥ることはないにしても、貧富の差はやはりある。悲劇の根源を見据えるには、そういう世の中と人々の意識の変化をとらえる必要があるのだが、人物たちの生活や心理の緻密な描写によってそれは成功している。そういう分析や批評のための、20世紀的な技法や文体が先駆的に使われていることによるのだろうか。
少女の悲劇は、彼女を誘惑する身勝手な男と、真の愛情で結ばれる牧師家の息子の間で起きる。青年がブラジルに渡って農場を始める(ひどい目にあって戻ってくる)展開や、農村で働く似たような境遇の少女たちの友情や社会観、自由恋愛を当たり前のことのようにみなす人々も現代的だし、二人の逃亡劇のスリリングさ、その舞台になる森、草原、廃城などの美しさ、荘厳さも素晴らしい。これらも19世紀に現れた様々な文学手法の集大成と言えないだろうか。
大都市間は鉄道ができているが、隣の村へ行くのに馬車や馬が調達できなければまる一日かけて歩くのだが、その時間も、自然と一体になり、故郷を想い、果てし無く思索に耽る時間であり、そういう失われてゆく時間へのノスタルジーも感じるのは、現代人が読むからだろうか。
インフラの近代化が進み、人々の信仰や階級意識も少しづつ変容していく中で、物も人も流動性が高くなり、美人に降りかかる面倒は増大する。これが21世紀になると何でもかんでもネットで拡散されてしまうようになり、リスクはさらに大きくなったわけで、今のわれわれにそれを予感させるような説得力とスピード感もある。時代に追われた二人が、様々な誘惑に抗いながら愛を貫こうとする生き様には、やはり打たれてしまう。あと映画版は未見なのだが、さぞかしいい画が撮れるんだろうなあと思うような話です。