紙の本
凝った造りで、さすがに読ませる有吉小説
2008/10/19 21:51
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
早いもので有吉佐和子が亡くなってから四半世紀が経過する。私は有吉の作品は初めて読む。最後の書き下ろし小説となったのが本書である。本書は、舞台芸能界の裏側をえぐるもので、大物俳優の稽古振り、俳優を取り囲む多種多様なな人々、舞台人の日々の生活など、われわれ一般人とは生活ぶりがかなり異なるだけに、興味が注がれる。
もちろん、単なる舞台芸能界の一部を読者に開陳するだけではない。そこに殺人事件を絡ませて、娯楽性を高めているところに、サービス精神旺盛な有吉の真骨頂があるのではないかと思う。作品もそういう点を目指しているような気がする。
登場人物はベテランの大物女優とこれもベテランの歌舞伎俳優である。どちらも70歳台であるが、俳優同士の主導権争い、そして付き人、興行会社相互の確執など、劇場に行って観劇する立場のわれわれにはうかがい知ることができない諸事情が露わにされている。
もちろん、それが本当がどうかは分からないが、真偽などはどうでもよいのである。いかにもそれらしいことが書かれており、事情を知らない読者は納得してしまうのである。
本書の主人公は渡紳一郎という作家で演出家である。冒頭から役者と脚本家が衝突して、脚本家が降りてしまった。慌てた興行会社が主人公に助けを求めてきたというところから始まる。この辺りも如何にもありそうな話しで、冒頭から読者を巧みに誘い込む。
戦中に中国で活躍した男装の麗人「川島芳子」の生涯を舞台化したという設定である。ストーリーがかなり詳細に語られている。そこまで書かなくともよいのにと思ったのだが、実は違っていた。台詞がそのまま書かれている箇所も結構ある。これは不作為でそうしたものではなく、必要だったのだ。つまり、読者を舞台を観劇に来た観客として位置づけるためにだ。そうすることによって、小説にどっぷりとのめりこませるという効果が出てくるのである。
すなわち、ストーリーとは直接結び付かない舞台の内容が読者の頭に入ってしまうのである。読者はまるで舞台を見ている観客である。殺人事件の解決に力が入れられているようにも見えるので、推理小説としても楽しめるし、楽屋裏の人間模様を垣間見ることもできるという楽しみもある。才能ある作家であることを改めて感じさせる作品であった。
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なんで私がいいと思った本は画像がノー・イメージなのかしら・・・ マイナーな本が好きなのかな? サスペンスです。舞台の上も、裏も、面白かった。
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中盤までは面白くてぐいぐいひきこまれたものの、個人的には事件の真相が明かされるあたりはそれほどにはひきこまれなかった。三人称で進んでいたストーリーが、急に登場人物の独白仕立てになるのがその一因。
この話が書かれたのは昭和59年、おそらくはバブル前夜あたり。話の舞台となっている劇場、芝居の舞台に関する描写は知らないことが多くて興味深く読むことができたけれど、合間に描写される演出家の生活については、惹かれるものがなにもなかった。
それは作者の力量ではなく、個人的な嗜好の問題だとは思うのだけど、西洋の文化をありがたるばかりのあの頃の空気は、やはり薄っぺらい感情しか与えてはくれない。
この前に読んでいたのが「木瓜の花」、昭和30年代後半の話、それもその頃ですら古いものになっていた生活様式や花柳界の様子を描いたものだったので、余計にバブル前夜の生活を薄っぺらなものに感じてしまったんだと思う。
私にとってのこの作家の魅力は、やっぱり、圧倒的な筆力で描かれる人間の感情と、今では多くの家庭で失われてしまった昭和の家庭の生活美に関する描写なんだな、と思った。
「悪女について」のほうが「謎」を読み解く要素は強いかもしれない。
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「二億円用意しろ。さもなくば大詰めで女優を殺す」一本の電話が劇場関係者に激震を起こした―
折しも劇場では話題作がかかり、満員の観客が詰めかけていた。
主演女優は文化勲章受賞が発表されたばかりの八重垣光子、相手役もまた演劇界の至宝・中村勘十郎。
舞台と同時進行するバックステージの緊迫の駆け引き、人間ドラマ。
愛憎渦巻くミステリー長編。
怪しい人物がたくさんいて、誰と誰が繋がってるのかと思えば…外部だったがっかり感-
殺された観客はとばっちりもイイトコロ…
これもまた、現代では起こり得ない(簡単に阻止されると思うけどどうだろう?)この時代だから、な事件だと。
後進を潰すような扱いはどうなの、との思いと、そこを乗り越える才能と運が無いとスタアにはなれないよね-とも。
八重垣光子は計算高いのか天然なのか…“女優”であるのは間違いないけど。
別れた元夫婦のふたりの微妙な仲も面白かった-
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演劇の世界にいると死んでしまうと思って、演出家を辞めて現在推理小説家になってた渡紳一郎。
彼は、不眠症で、いつも決まった時間に薬を飲み眠りにつくのだが、その日は睡眠前に電話がかかってきた。
別れた妻・脚本家の小野寺ハルからの電話だった。
その内容は、公演を目前に突然の降板を宣言した有名劇作家の代役として、脚本を書くと言い出したのだ。
そして、彼女の出した条件は演出家は、紳一郎にすることだった。
翌朝・・紳一郎の家の前には、東竹演劇の重鎮達が顔を揃えて待っていた。知らない仲ではなく、必死にお願いをする姿をみて渋々承諾をする。
主演は、歌舞伎役者・中村勘十郎と大女優・八重垣光子と決まっていた。
70歳を越えた二人。
そして演じるのは、男装の麗人・川島芳子(愛親覚羅明清)若くしてなくなった舞台だったのだ。
舞台稽古も色々とあったのだが、なんとか公演となった。
公演は、補助席を出すほどの大盛況だった。
ある日、一本の電話が劇場にかかってきた。
「二億円を用意しろ、さもなくば大詰めで八重垣を殺す。」
舞台の裏で絡み合う人間模様。
華やかに見える舞台の裏では・・。
そして、公演中にかかってきた脅迫の電話。
事件の開幕のベルは華やかに幕を開ける・・・。
これは、なかなか面白かったです。
テンポもよく読みやすかったですね
興味のある人は手をとってはいかがですか?
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八重垣光子と中村勘十郎のスター2人の帝劇の特別公演。その公演中に2億円と引換に八重垣光子を殺すという脅迫電話が。
うーんおもしろかった。ミステリー的な要素もだけど、演劇の裏で繰り広げられるドラマがおもしろい。登場人物のそれぞれの人物像がしっかりとしているし、うまい!!って感じ。
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おもしろかったー
文章がなんか包容力というか豪胆というか、そういう雰囲気があって好き。なんでも受容しそうな感じがする。
女優こわい。
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開幕ベルは華やかに
●あらすじ●
上演目前に劇作家兼演出家の有名作家が降りてしまったという舞台の演出を引き受けることになった渡紳一郎。元妻の小野寺ハルの頼みで、無茶なスケジュールとわかっていつつも断ることができなかったのでした。
土壇場で作り上げた舞台がようやく上演にこぎつけた初日、劇場に一本の怪電話が…。「二億円用意しろ、さもなくば、大詰めで女優を殺す」!
●感想●
これはねー、これは…!
普通、ミステリって、一度読んだらなかなか二度目は読まないですよね。
だって犯人わかっちゃいますからね。
でも、これは、犯人もトリックもわかっているけれど、何度でも読みたい!と思わせてもらえる作品でした。
何がすごいって、主演女優の八重垣光子が。すごい?すさまじい?
小説を読んでぞくぞくしたのは久しぶりだなぁ!
もちろんミステリなんですけど、人間ドラマと呼びたい、素晴らしい作品でした。
再版してくださった出版社さま、ありがとうございました!
●ちなみに●
有吉佐和子さんは、印象深い作家さんでもあります。
私がまだうら若き高校生だったころ、図書館の司書さんに「恍惚の人」を薦められたのです。当時も面白かったんですが、大人になってから再読したら、その面白さにびっくりして、続けて有吉佐和子さんばかり読んだことがありました。
当時、わたしが一人では手にとらなかった作家さんに巡り合わせてくれた、あの司書さん。
あのころはずいぶん大人の女性に見えましたが、もしかしたら、今のわたしと同じくらいだったのかな?
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books A to Zの書評を聞いて、借りてきました。
1982年に出ている本なので、古いという印象は拭えないですが、そこは有吉さん。
なんというか、話し言葉が自然というのか、特に勘十郎さんとか定年した刑事さんとか蟹夫とか、男性がそう思えて、読みやすかったです。
八重垣光子さんの話し方は、実際にやってみたらどんな感じなのかしら…。
イライラして聞いてらんないな。
犯人はなんとなく想像がつきましたが、共犯者が、突然ポーンと現れた、という感じがしました。
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安心して選ぶことができる作家の一人。
読ませ方がうまい。分厚い本だけれども気がついたらラストになっている。もちろん書かれたのは今から27年も前なので、時代を感じることはあるけれど、それでも現在の作家に決して負けていない。
話の本題に入るまでに時間がかかっている気がするけど、そのかかった時間にうまくバックボーンを書き込んでいるので感情移入しながら読める。
有吉佐和子、好きです。
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自分が、日中戦争の頃の歴史に疎いのが残念。多少なりとも知識があればより楽しめただろう。
それでも、こんなすばらしい推理小説(ミステリー?)に出会えてよかった。
というか、有吉佐和子さんに出会えてよかった。
奇しくも、私が生まれた年にお亡くなりになったのも何かの縁じゃないかと思いたいくらいに。
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今まで読んだ有吉作品とはちょっと違うかな。一応?殺人事件が起きてミステリー仕立てというか、最後に犯人がわかるストーリーなので。開幕直前の舞台作品を途中から任された脚本家、演出家、舞台女優、歌舞伎役者、裏方の人間などなど演劇世界の舞台裏を書きまくってる感じがしました。個人的にはもうひとつ、、、。芝桜とか木瓜の花の世界のほうが好きです。
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これは有吉佐和子さんの本にしてはかなり異色だという印象です。
作中、殺人事件が起きるなんて、もしかして初めてかも知れない。
主人公の作家、渡紳一郎は元妻で今は脚本家の小野寺ハルからある劇の演出を依頼する電話を受ける。
その劇とは、男装の麗人、川島芳子の半生を描いた劇で、大物脚本家の加藤梅三が突然降りた事により、ハルに脚本依頼の話が舞い込んだという。
公演初日までほとんど日にちがなく、話を受けるのを渋る渡だったが、ハルの熱意に押され引き受けることに。
劇の主演は八重垣光子と中村勘十郎という70代の大物役者。
急仕上げで作られた脚本に、やっつけ稽古で開いた舞台の幕。
70代の主演二人はセリフを一行も覚えず舞台に上がり、全てはセリフ出しのプロムプターに頼る。
それでもベテラン役者の二人はアドリブ多発で乗り切り、10代の若者の役を見事に演じきる。
その後、トラブルがありながらも何とか初演は幕を閉じた。
その後、八重垣光子が文化勲章を受賞し、劇の方も連日大入満員。
そんな浮かれた雰囲気の中、1本の電話が舞台を上演している帝国劇場にかかってきた。
電話の相手は、
「二億円用意しろ。でないと大詰めで八重垣光子を殺す」
と言ってきた。
そして最初の殺人事件が起きた-。
最初は舞台を中心に、それを作り上げる人々について描いた話になるのだろうと思っていました。
脅迫電話がかかってきてすら、それは話の中心ではないだろう、と思いました。
でも中盤あたりから話の雰囲気がサスペンス調になり、とうとう殺人事件が起きた時点でやっと、あれ?これはいつもと違うかも・・・となりました。
終盤では誰が犯人だったのか?謎解きも主人公の渡によってなされます。
それで知る犯行動機は切なく哀れさを感じるものでした。
それほど驚くようなものではなく、細部をきちんと読む人なら途中で気づくようなものですが、それに至るまでに読者を勘違いさせる伏線もちゃんと張られています。
でも事件を盛り込むことで、いつもの有吉佐和子さんの本に比べると人物描写や関係性などの書き込みが浅く、それが少し残念でした。