紙の本
路上観察の太祖
2001/11/02 16:51
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投稿者:TGW - この投稿者のレビュー一覧を見る
路上観察学会の面々よりもはるか以前に、似たような事をしていた人がいました。それがこの今和次郎、という人。考古学に対して考現学ということを唱えた人で、当時の民俗を採集して歩いた人なのですが、採集の仕方がちょっと特異で、それがあまりにまじめに几帳面にスケッチされているだけに可笑しいという、不思議な魅力を持つ人です。
多くの著作の中から一部を、路上観察学会員にして建築探偵の藤森氏が編集しました。でも、少しまじめな採り方ですね。
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●構成
(略)
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考古学は古いもの――化石であったり土器や石器であったり住居跡であったり様々である――を研究対象にし、方法としてはモノ自体を実測しスケッチすることで対象に対する考察の一助とする。しかし著者は、考古学の方法を「現在」のモノや風俗に対して用いる。ひたすら執拗に徹底的に、観察し計測し数え上げて、対象を「採集」する。これを著者は「考現学」と名付けた。
本書の大部分は、大正時代後期の日本で、こうして採集された数々のモノや風俗の披瀝と考察である。採集対象は実に多彩であり、田舎の炉縁やかかしや障子の引き手や、火の見やぐらや垣根や欠けてひびが入った茶碗の数々や、銀座を道行く人々の服装とか髪型とか髭の形や、学生の住む部屋にある所持品全てや若夫婦の住居(三部屋)にある全てのモノや、とにかくあらゆるモノや風俗が興味の範囲である。シンプルな描線でのスケッチが、逆に対象物への想像や興味をかきたてる。
考現学は社会学や文化人類学や民俗学や歴史学の近接領域であり、しかしいずれとも完全には重ならない、独特の位置を占める。ただ集めて開陳するだけでなく、他領域の研究のための資料としても用いられる。そうした下支えの学問でも有り、しかしその出発点は素朴な興味なのである。
蛇足ながら、考現学の後継者としての成果が、妹尾河童の『河童が覗いた~』シリーズであり、また花輪和一の『刑務所の中』であるといえよう。
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修士論文の参考になります。移ろいゆく物事の表層から大衆の思想や考えを汲み取ろうとする研究法は面白いと思う。今和次郎の思想は描写に重きを置くという「方法」からも分かるように「ありのままの姿を、ありのままにみようとする」所から出発した。彼が提唱した「考現学」は「方法の学から対象の学へ」といった表現がよく用いられるがこのことは、スケッチ、採集といった方法論を確立していく動きの中に「対象をよく知り、抽象する」といった認識のプロセス、方向性を内包している、ということを意味しているのではないだろうか。
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「地方に見える屋根の形」だとか「玄関の様子」だとか、最初の方はまだ民俗学らしいことをしているが、読んでる内に著者の執念がどんどん得体の知れない方向へ行く。考現学とは考古学の逆で、要するに現代を考える学問であるらしい。考古学者が遺跡を検分するように、著者は1925年の銀座を見、そこを歩く女たちの髪型を細かく分類して一人一人を当て嵌めて統計をとり、或いは男たちの髪型を、或いは着物の柄を、或いは履物を・・・・とやっていく内に対象は大衆から個人へ、銀座から一戸の家へ、「本所深川の店に見られる品物と値段」から「男子学生の制服で傷み易い箇所一覧」になって行くのだから人の好奇心というものはなかなか計り知れないものである。中でも圧巻なのは「馴染みの定食屋があまりにも酷い茶碗ばかり出すので腹が立った」ため始めたという「欠け茶碗一覧」。通う度にこれは、と思う欠け具合の茶碗が出されると、こっそりとスケッチブックに書き付けた。というのだから恐ろしい。その他、「井の頭公園自殺場所分布図」や「レビューの踊り子オーディションルポ」などを個人的に楽しく読んだ。
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いきなり上下巻はきつい…という方には、この一冊だけでもお奨め!たんぽぽハウスを建てた、路上観察学会会員の藤森照信編です。
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データの分析方法は陳腐だが、観察者としての視点とデータ収集の方法には感銘を受けた。
環境を研究しデータを集めるための方法には、このようなアプローチもあるのだと感心させられた。
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今和次郎は、「今現在」を記録する考現学を提唱した方です。大正時代は理解されず、民俗学とも相容れない学問でしたが、現在となっては、当時を知る貴重な資料を残しています。考現学入門には大正末期のワークスが多数収録されています。また、今氏の著作は改訂の度に資料が追加削除されていたりするので、今和次郎全集「考現学」も参照してみた方がいいかもしれません。
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物、そしてその物を使う人々に対する鋭く温かい視線が、文章や絵で伝わってきます。
表やグラフが手描きで、最近の整然としたものとは違った味があります。それだけでも一見の価値あり かも。
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内容(「BOOK」データベースより)
震災後の東京の町を歩き、バラックのスケッチから始まった〈考現学〉。その創始者・今和次郎は、これを機に柳田民俗学と袂をわかち、新しく都市風俗の観察の学問をはじめた。ここから〈生活学〉〈風俗学〉そして〈路上観察学〉が次々と生まれていった。本書には、「考現学とは何か」をわかりやすく綴ったもの、面白く、資料性も高い調査報告を中心に収録した。
目次
ブリキ屋の仕事
路傍採集
焼トタンの家
東京銀座街風俗記録
本所深川貧民窟付近風俗採集
郊外風俗雑景
下宿住み学生持物調べ
新家庭の品物調査
井の頭公園春のピクニック
井の頭公園自殺場所分布図
郊外住居工芸
宿屋の室内・食事一切調べ二つ
カケ茶碗多数
洋服の破れる個所
露店大道商人の人寄せ人だかり
女の頭
学生ハイカラ調べ
住居内の交通図
机面の研究
レビュー試験場はさまざまである
物品交換所調べ
考現学とは何か
考現学総論
「考現学」が破門のもと
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[ 内容 ]
震災後の東京の町を歩き、バラックのスケッチから始まった〈考現学〉。
その創始者・今和次郎は、これを機に柳田民俗学と袂をわかち、新しく都市風俗の観察の学問をはじめた。
ここから〈生活学〉〈風俗学〉そして〈路上観察学〉が次々と生まれていった。
本書には、「考現学とは何か」をわかりやすく綴ったもの、面白く、資料性も高い調査報告を中心に収録した。
[ 目次 ]
ブリキ屋の仕事
路傍採集
焼トタンの家
東京銀座街風俗記録
本所深川貧民窟付近風俗採集
郊外風俗雑景
下宿住み学生持物調べ
新家庭の品物調査
井の頭公園春のピクニック
井の頭公園自殺場所分布図
郊外住居工芸
宿屋の室内・食事一切調べ二つ
カケ茶碗多数
洋服の破れる個所
露店大道商人の人寄せ人だかり
女の頭
学生ハイカラ調べ
住居内の交通図
机面の研究
レビュー試験場はさまざまである
物品交換所調べ
考現学とは何か
考現学総論
「考現学」が破門のもと
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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目のつけどころと細かい記録(スケッチ)が面白い! でも全部じっくり読むのは大変だったので、気になったところだけ飛ばし読みしました。
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民俗学の大家と言える今和次郎氏の著作。鋭くも温かい観察眼、味のある手書きの絵や図、やわらかい語り口で、アカデミックな本とは思えないほど読みやすく、面白い。散歩好き、街好きは必見の書。
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2020.10.31市立図書館 →2020.12.4購入
路上観察学会の始祖というべき民俗学者によって100年前に提唱された「考現学」のはじまりの一冊。これによって師匠の柳田國男からは破門されたという曰く付き。
銀座を行き交う人間観察や地方へ行ったときの道具や意匠の観察など実に興味深い。観察するのがほんとうに楽しくてたまらない気持ちが伝わってくる。
今和次郎独自のことばづかい「ほっちゃらかす」も興味深い。
二週間ではとてもぜんぶは読みきれなかったので、けっきょく購入。
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今和次郎『考現学入門』(と『ワンピース』1から50巻まで)読破。今和次郎が柳田邦男翁のところを破門されていたとは知らなんだ。
でもComparative Ethnographyってこの頃から使われているのね。今読んでるのは恥ずかしながら『考現学入門』。学生時代あまりに赤瀬川源平に熱狂している男子が多くて読むに至らなかった経緯あり。聞きかじり読みかじりの予測可能範囲ですが面白い。
あと今和次郎の『性分によるのだろうが、ものを考えたり書いたりする仕事場はガラクタだらけの場の方が私には似つかわしいようなのだ』っていうのは絶賛言い訳として使用したい。
(ついったから拾い上げ)
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ずっと手をつけていなかった路上観察の聖書
興味に沿った観察記録をまとめた感じの一冊だが、100年近く前にいま都市関係で注目のアクティビティリサーチやインフォグラフィックスがすでに体現されているのは驚き。