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紙の本
僕らの知っている破滅
2007/11/11 21:38
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品集では、過去、現在(1948年時点)、未来における様々な形の戦争が描かれている。トロイア戦争から、いつのどことも知れぬものまで。しかしそれらが表しているのはもちろん第二次世界大戦、ドイツ第三帝国が崩壊したその戦争。中でも特に作者の意識を占めているのは、連合軍によるハンブルクへの無差別爆撃。ドレスデンやヒロシマ・ナガサキが象徴的に語られることが多いが、1943年の夏にハンブルクに対して行われたそれが連合軍による最初であったといい、徹底的な破壊の規模と悲惨さを著者は「破滅」と呼ぶ。無論そうだ。それを経験した人々にとっては「破滅」以外の何物でもなかったろう。著者はそれを生き延びはしたが、その作家人生はこの体験に支配されただろう。少なくとも体験時からこれらの作品が執筆される1948年までの間、出来事の意味を考え続けただけの重みがあるように感じる。
恐怖、衝撃、喪失、悲しみ、麻痺、没落。終わり、次に知る真実、それから寒い冬。ドイツの冬は寒そうだ。雨風をしのぎ、食料を調達し、それから、それから、それから。
日本でも戦争、空襲を題材にした作品はたくさんあり、僕自身も親や先生からたくさんの体験談を聞いた。彼らとは同様の体験を共有できており、西と東の距離を越えて手を繋がなくてはならない。まずその大切さを感じた。対比で言えば、日本とドイツの違いという単純な比較でなく、その背景として長く培われた哲学や歴史、自己表現手法などによるのだろうか、結局はそれらも含めた作者の個性なのだろうか。どこまでも自己抑制的なのは、自分たちが単純に被害者であるだけではないことを意識した上でとも思える。体験における感情を表現しているというより、分析している。その分析の過程が物語となる。
「破滅」は文字通りに体験を綴ったもの。そこに現れる死者達の運命への洞察は、そのものズバリな題名の「死神とのインタヴュー」で、マザコン気味な「彼」とのやり取りで深化されている。戦争の英雄であるオデュセウスやアガメムノン王を描いた「カサンドラ」もまた、「遂行」した者の意識と死者の間にあるものを見つめている。作者自身は運良く生き延びたが、思索の多くは死者達に向けられていたのだろうか。そして被災者でありながら、同時に戦争を遂行した者の立場にも同時に身を置き、いたずらに糾弾したり諦めを装ったりすることなく、その内面にも坦々と向き合う。死者を悼み、戦災者を救う、そこからさらに一歩踏み出そうとする精神の強靭さを学びたい。