紙の本
快作!時勢に呼ばれた男たち
2003/03/23 22:47
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投稿者:コアラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉田松陰、高杉晋作、長州藩。この三者を主題にして、やがては明治維新にまで繋がる長州革命を、生々しく描いた物語。純粋に思想を究める吉田松陰。イリュージョン的な活躍をつづけた高杉晋作。そして時代の風向きに吹かれるまま迷走する長州藩。みな、時代が求めた必然であったとしか思えない。歴史のプロセスが持つ奇蹟性に感嘆します。
「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し…」-高杉晋作の墓碑に伊藤博文が刻んだように、高杉の活動は電撃性を帯びていた。28歳に足らない短い生涯を、まさに雷電のように、そして風雨のように走り抜けた。時代の寵児という言葉が、これほど当てはまる男もいないだろう。時勢は彼を優遇し、活躍の場を用意していたと言える。ただし、優遇措置と引き換えに、役割を早々と終わらせ、命の幕を降ろさせた。そうとしか思えないほどの、激烈な生涯を送った。
変わって、吉田松陰。尊王攘夷の種を蒔いた男。高杉より一足早く生を受けたために、「猛の行動」を求道した彼の短い人生は、思想家として終わった。ならば、彼は時代に呼ばれた男ではなかったのだろうか。答えは否。彼もまた、時代が求めた必然であったと思う。彼が10年早く生まれていれば、その思想は別な形になっていたかもしれない。尊王攘夷思想の確立は、外圧による社会環境の変化と、彼の若々しい壮年の感性が、化学変化を起こした結果と言える。もし5年遅く生まれていれば、まだ未熟で、藩の狂騒に呑み込まれていただろう。そして何よりも、高杉晋作と出会わなかったのではないか。そう推察すると、やはり松陰もまた、時代に呼ばれていたとしか思えなくなる。
人の運命の不思議さについて、精一杯の愛情を以って語られています。臨場感いっぱいの描写により、まるで幕末の激動期に立ち会わせてもらっているような錯覚を覚えました。登場人物の人物像だけでなく、時代背景、街並み、そして町人たちの日日の営みまでもが、色鮮やかに伝わり感動します。ときにはユーモラスに、そして、ときには息が詰りそうなくらいに重厚な筆致による快作です。
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世に棲む日日
2001/11/16 02:57
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投稿者:LR45 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「世に棲む日日」という響きは松蔭、晋作という二人の人生を見るに、韻を残すような、うってつけの題名だと思う。
晋作が死んだ後、伊藤博文が跡を継ぐ。革命が三段階目に入ったということだ。革命というのは三段階で行われることが多いらしい。松蔭により、理論的な革命思想が生まれ、それを実行すべく、第二世代たる晋作が実力を持って革命を成功させ、そして、仕上げの第三世代が、本来の革命思想を逸した、現実と妥協した安定な政権を作り上げる、という三段階である。
織田豊臣徳川でも似たようなところがあるかもしれない。閉塞した時代には、その時代を打破するためだけに生まれてきたというような人間が存在するものだなと思った。
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激動のドラマの序章へ
2002/01/26 09:19
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投稿者:フォックス - この投稿者のレビュー一覧を見る
高杉晋作、(のちの)井上馨、山県有朋、伊藤博文が中心となり、ときには策を巡らし、ときには正面から武力を行使して長州藩を動かしていく。高杉の天才肌の行動は凡人には想像もつかないほど奇抜である。妾の「おうの」と大阪、四国を逃避行する様子はスリリングで読者を引き付ける。
高杉は、革命のドラマの序章をこじ開けただけで惜しくも若くして死んでしまうのであるが、辞世の句「おもしろき ことも無き世を おもしろく」のとおり、痛快に面白く時代を駆け抜けた天才なのである。その天才に惚れ込んだ司馬遼太郎が、丁寧に描いた高杉の生涯を十分堪能してほしい。
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明治維新の功績者といふと誰を思ひ出すだらうか。
私の場合は、薩摩の西郷隆盛、土佐の坂本龍馬、長州の桂小五郎、そして幕府では勝海舟といつたところか。
この作品では、吉田松陰とその弟子の一人高杉晉作の人生が描かれてゐる。
吉田松陰は「松下村塾」で維新の志士を育てた人物だし、高杉晉作は長州で奇兵隊といふ身分を問はぬ軍隊を作つた人物だ。
私はその程度の認識しか持つてゐなかつた。
吉田松陰は思想家である。
その思想とは、簡單に云つてしまへば、日本の國は天皇が治めるべきだといふことだ。
つまり倒幕派の思想的バックボーンである。
この當時、勤皇派はすなはち攘夷派であつた。
これは當然のことながら幕府の方針とは相いれない。
それゆゑ吉田松陰はいはゆる「安政の大獄」で處刑された。
そして、大老・井伊直弼は、幕府が天皇の意向に逆つてまで開國した爲に、攘夷派の志士達に殺されたのである。
その弟子はたくさんゐる。
そのなかで、最も思想的に松陰を受け繼いだのが久坂玄瑞であり、それを行動に昇華させたのが高杉晉作であつた。
長州はその當時、急進派と穩健派との間で搖れ動いてゐた。
高杉晉作の功績は、その長州に革命を起こしたことだ。
世界の中における日本といふ視點からものを考へ、日本を變革させる手段として長州を變革させた。
彼がいなければ長州は倒幕に團結することもなく、したがつて明治維新が實現したかどうかもわからない。
彼は、時代がその存在を求めた、一世一代の風雲兒であつた。
もし彼が結核で亡くなることがなく、明治政府のなかで重要な位置を占めてゐたら、日本はどのやうになつたのだらう。
そんなことを想像させられた。
高杉晉作に較べれば、桂小五郎(のちの木戸孝允)や伊藤博文は人物がひとまわり小さい。
山縣有朋にしても高杉のカリスマ性に較べれば小さい、小さい。
でも、もしかすると西郷隆盛のやうに政治からは彈き出されてゐたかもしれない。
さういふことまで想像すると、高杉晉作とは時代が與へた役割を果して、そのまま舞臺から退いたのだと云へるだらう。
辭世は、
「おもしろき こともなき世を おもしろく」で、
わづかに27歳8ヶ月の生涯であつた。
2004年12月21日讀了
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功山寺決起のくだりが身震いするほどかっこいいんだ・・・!興奮する。珍しく山県の見せ場があってなかなかかっこよく書かれていた。
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幕末列伝、長州物語第4巻。高杉晋作の活躍と最期。
日中戦争、太平洋戦争から100年くらいたとうとしているのですけれど、まだ6、70年ぐらいですが、おそらくあっという間に100年がたつのですけど、そうすると幕末から100年くらいに生まれた僕らと同じような感覚時期に世代ができるということになります。明治以前の時代というのは、感覚としてものすごく前、昔のような気がしていたのですが、さすがに最近は本を読むようになって、以前ほどには古いハナシでなないことに気がつかされたのですけれども、ほんの100年から150年前の時代のことが、ほんの数十年後には、昭和の戦争史も同じ立場になるのだと思うと、ちょいとした感慨にふけります。
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晋作が死ぬまでの激情…劇場。
最高の演出家だ。カッコイイ。そして偉い。今まで知らなかったのが恥ずかしいほど、高杉晋作は偉人なのだと思った一作。
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Kodama's review
「おもしろき こともなき世を
おもしろく
(すみなすものは 心なりけり)」
(06.10.27)
お勧め度
★★★★★
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この本読み終えたのが、27歳8ヶ月。高杉晋作が現世を去ったのと同じ齢。「私の人生これから」って思っててもリスクをとらず動かないでいることは人生の浪費だと感じた本。
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幕末の長州藩の物語。吉田松陰から始まった革命も、ついに高杉晋作が成功させる。そして晋作は27歳で死を迎える。人は何かを成すために生まれてくるのではないか、そしてそれを見い出し、実行するために、精一杯生きなければならないのではないかと感じた。おもしろき こともなき世を おもしろく
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人間というのは艱難は共にできる。しかし高貴は共にできない。
まさにその通り。
人は我欲のかたまりらしいですからね。
それにしても、「かんなん」って難しい字ですね。
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新しいことを起こす、権力を握らない、他藩士と交わらない、藩から重役に置かれてもお金がない、城下町一の美人と結婚しながらもほとんど家にいない、海戦の素人にも関わらずいきなり夜戦を決行する、節目節目で詩を読む、折りたたみ三味線を持ち歩く、ことあるごとに芸者と飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ、妾と逃亡、ロックンローラーかと思いきや、ロックンローラー以上の天才
高杉晋作
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「戦いは1日早ければ1日の利益になる。まず飛び出すことだ。思案はそれからでいい」(P266) なるほど、胸に響く。「おれには天がついている」(P176)言い切って大胆な行動に出よう。
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4巻は戦場のシーンが多くて読むのに苦労した。維新は町人、殊に大商人無しにはなり得なかったんだと改めて感じた。歴史に名を残す幕末に志士も商人の財力に後押しされたからこそ志しを遂げられたんだろう。
高杉晋作は非情に面白い人ではあるけれど、こんな人が身内にいたらさぞや手に負えない事だろう。それでも端で眺めてるぶんには漫画やアクション映画を見ているようで、悪いけどこの人の人生そのものがまるで享楽。
司馬遼太郎さんの本は初めて読んだけど、人物に対する作者の目線がとても温かい。
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同じタイミングで読んでいた藤沢作品と比較すると、どうしても自分の好みの問題もあるが、小説としての冗長さが目に余り★評価は相当に辛目。
まぁこの冗長さこそがこの作家の特徴であるから、これを受容するか否かという単純な話ではあるとは思うんですが。
それにしても山県有朋に対する徹底的・粘着的な低評価など、直接見たんかい?と突っ込みも入れたくなる面多々あり、要するに司馬遼節炸裂の作品ではあり、好きな人には堪えられんのではないでしょうかね。