紙の本
胸やけのような不安
2015/12/30 13:32
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投稿者:しろくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
作家は、主題を特異な切り口で表現しています。例えば、「ウナギ」を見たことのない人に「ウナギ」を説明する際に、うなぎをガッと掴んで「これがウナギです」と説明するよりも、うなぎを掴めずに「ヌルヌルしてつかめないよう…」と漏らしたほうが、「ウナギ」をしっかりとつかんでいるように思える。そんな感覚に似ています。
目くるめく場面の展開、破綻…。読者は以後、この痛さはないが、むかむかする胸やけのような不安を、しばらく感じながら生活することになるのでしょう。
紙の本
私小説のときだけアホになります(僕が)
2008/08/02 20:48
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんか変な人の変な話である。主人公はもう大きな子供もいるおっさんだが、妙にずれたおっさんだ。何がずれてるかと考えると、その話す言葉や態度が、置かれている状況や話し相手の言葉からずれているのだ。誰でもいつでもそんなに噛み合ってるとは限らないが、このおっさんは必ずずれてる。どうしてそうなのかと考えてみると、(1)彼は外部からの刺激への反応において、常に表層的でなく、よりいっそう深い内面で処理する人物なため、相手も所も構わずに強い自我が発動されてしまう (2)私小説というぐらいだから、作者は当時の状況を回想しながら、自分がこれまで暖めていた思想を細切れに吐き出している、ゆえに状況と会話が合わない (3)家庭における父親というのは、昼は汚職・談合・階級闘争を生きながら、夜は家族に人の道を説くという引き裂かれた存在である、それを主人公のちぐはぐさは表そうとしている。さらに違和感は、この夫婦は愛し合っていないとは言わないが、それは妻の個性をというよりは、家庭を支える一つの要素としてという意図を濃厚に映す言葉が重ねられているところだ。たしかに主人公の結婚した時期を考えると、それは産めよ増やせよ日本の母がもてはやされていて、結婚なんてできる時に(戦死する前に)してしまえという時代だっただろうし、敗戦の経験によって国家と言う自我の拠り所を失った代償を家庭に強く求めるのだろうかとも想像できる。相当リベラルな教育を受けて育ったと見られる妻の方にも同じ要素は感じられ、これはこれでバランスの取れた夫婦像としてあり得ることだ。
その家庭に、妻の浮気、家の新築、妻の病気といった、ありふれた出来事の波が訪れるが、それらがいかに平凡なことであっても思う通りに100点満点の対応ができる人はいないだろう。なおさらこの変なお父さんなものだから、周囲とは分かり合えないわ、自分の思った通りには行動できないわで、そのドタバタぶりは痛々しいほどだ。それでも家庭崩壊とならないのは、この時代に存在した家族の求心力のたまもので、家族もその周囲の人々もその力に引かれているのだが、主人公だけは時代には無頓着に、ひたすら自分の内面と現象の間で戸惑い続ける。そうして結局この家族は、主人公の思いとは裏腹に、少しずつ形を変え、人を替えて永続していく中で、主人公だけが疎外感を強めていく。
主人公が悩み、対峙している現象は間違いなく時代そのものであるが、時代を越えて人々を支えているのは家族という不変さでもある。盲目的に家族の絆を信じて時代の壁に惑乱する主人公と、その意思とは裏腹だが強固に存在し続ける家族という実体のすれ違いを綿々と綴った作品なのかというと、すごく自信が無いし、こんな人にさえ気づかぬうちに訪れる福音のことかと言えばそうかもしれない。
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せっかく建てた自宅のつくりを他人にアレコレといちゃもんつけられる気持ちは想像しただけでブルーでアングリーだった。すごい作品だと思うし、『小説』という形で一歩降りてきてくれた作者に感謝!!!
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すごい小説でした。。。小島信夫はすごい。。。なんとなく、途中から何かが破綻している(精神か、あるいはストーリー自体か)ような感じがするのだけど、小説自体は破綻のその先を行っている。こんな小説、これまで読んだことない。。。(06/6/15)
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最近亡くなりました、小島信夫です。じりじりと迫ってくる力強さが大好きです。家を通して、日本の家族が変わっていく様が面白い。
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この文体を使ってできることの最高のものではないような。適度な距離感なのか、微妙なのか。時子視点の排除を徹底したほうが面白い?2007.1.2
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家族に異文化が介入し 妻が病気になり崩壊していく家族の姿。日本とアメリカというものの比較を取り入れながら、酷なお話のようでいて、その会話術のすごさはもう、すごいすごい、と。夫婦の会話のやり取りがちぐはぐで 小笑いの連続。そして感動も。
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執筆された1965年周辺において、エポックメイキングになった作品。
大沢真幸氏の本に紹介されていたので読んでみました。
戦後、日本人家庭にやってきたアメリカ人と一夜をともにしてしまう妻。そこから、家族の崩壊が徐々に進んで行き、結局は全てが崩壊の道筋を辿ってしまっていっているような印象でした。
様々な媒体で採り上げられている本書なので、当然ながら「戦後日本とアメリカ」という視点からの通読でした。
非常に解釈が難しい内容だとは思うのですが、日本人としてのアイデンティティの危機、そしてアメリカという存在の大きさ・強さ。作中において、登場する日本人の誰よりも、アメリカ人ジョージが最も「優位」になっているように感じてしまうのは、僕だけではないと思います。
著者があとがきでも書いているように、書かれた当時と今では、当然解釈も違うし、今読めば今に生きる意味がある。
この本は、当時の「日本」と「アメリカ」の関係を、そのまま恐ろしいまでに擬人化したものなのではないでしょうか。この作品を通して、当時の日本とアメリカの関係が、とても明解に見えてくるような気がします。
日本人としてのアイデンティティを考える上では、欠かせない一冊になるのではないでしょうか。
「“あいつ”は日本人の身体を軽蔑したのではないか。情のうすい時子の身体に失望し、馬鹿を見たと思ったのではないか」(p137)
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はじめのあたりは外国人とねんごろになった妻に右往左往する夫の姿に焦点が絞られていて、奔放な女に対する嫌悪感や情けない男への苛立ちを感じつつ読み進める。このあたりは『痴人の愛』なんかと似た感触かもしれない。その後夫婦の問題は一旦回復、「夫婦がプールで泳いでたわむれている。それから芝生の上で抱擁しながら倒れる。しばらく横になっている。彼女の贅肉の一つ一つにじかに感じているのだが、空想の中では、俊介も妻も贅肉をおとしてずっと若々しい。…それから寝室、自分は彼女を子供のように抱いていたい。…何か睦言をしよう。騒々しいのはごめんだ。静かなおしゃべりなら大歓迎だ。将来の話は淋しすぎるし、ずっと二人が知り合う前の過去の話か、よその家が上手くいっていないことについての噂話。しかし、それでも楽しいではないか」という限りなく理想的夫婦像、ハッピーな中年の生活が描かれる。その直後、乳がんの発見、入院、死という目まぐるしく展開する過程の中で問題は家族全体にシフトしていき、江藤淳が「「父」の喪失」と表現した作品全体の空気がクリアになっていく。
江藤の言う家父長制度に支えられた戦後日本の核家族像の崩壊というこの本のとりあえずのところの主旨は、建築的話題としても面白く、ネタとして「使えそう」な箇所を引用しておく。
*(妻を亡くした後、俊介の思考)
誰か他人がいなければ、他人がいなければ、…
*(母を亡くした後、一人で寝ることできずに俊介と同室で寝ていた娘=ノリ子の科白)
「お父さん、私はお父さんから離れて、自分ひとり生きることを考えないといけないと思うわよ。自分で自分が分からなくなるんだ。お父さんの言いそうなことを言ってるんだ」
「お前が鍵をかけたのは、そのためなの」
「そう、このごろ不安なのは、そのことなの。お母さんがいないこともあるけど、大分忘れたんだ。今はお父さんがのぞきに来られると、つらいんだ。お父さんだって、早く独立しなさい、と言ったでしょ。確かにそうよ」
俊介は愕然とした。
*(妻=母の時子の死後)
良一(息子)と木崎(息子の友達)は昼間、リビングルームの椅子の上にひっくり返っている。この二人は日本間からここへ出てくるのである。良一が寝ていると、俊介はかっとなる。木崎が寝ていると、ノリ子はこの部屋に来ることが出来なくなる。
…リビング・ルームに集まるように出来ている家だからだ。
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3度目か4度目の再読、は再読とは言わないか。
何度読んでも少しも減らない、この凄さと面白さはなんだ。
読んでいる時間は自分の時間なのに、
その流れも変えてしまうような不思議な時間感覚が生まれる。
小島信夫は天才なの?
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なんじゃこりゃあ!
ドロドロどろどろの修羅場満載。
ジョージ登場から、この家族は一気に崩れおちていってる。
不倫したと思ったら、死ぬって!妻!いきなりすぎだよ!
そして新しい妻を探すのも早すぎだろ!夫!
子どもたちはグレる。
結局崩壊ーどーん。
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▼この本が980円っていう人生はすばらしいね! ▼うちは両親が不仲なのだけど、身につまされた。確かにこんな感じ。仲たがいなんだけど、若干おかしみがあるところがよく書けていると思う。寝取られた妻が病気で亡くなる話なんだけど、しょっぱいのに暗すぎない。子どもが出て行く悲劇的なのに、三流ドラマみたいになってない。そして、リアリティがある。▼家族というあやふやなものを、何か物に託したいっていう主人公の気持ちが、わかるだけに哀しかった。「塀を作りたい」とか、私だってもし夫なら言うかもしれない。
▼あと、作家案内と解説がかっちりしているのにも好感が持てたりして。(10/3/4 読了)
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妻の情事に端を発し壊れていく家庭を、喜劇的に描く悲劇。
読んでいて不愉快になる。
情事の相手に、いやに勝気で頑迷な妻に、差し出がましい家政婦に、口だけで役に立たない息子に、いやに母親に似てくる娘に・・・・そして、その間で読者と同じく不愉快になりながらも、何とか修復を図り、しかも結局家庭の崩壊を止める事の出来ない、主人公俊介に。
でも面白い。
この本は悲劇だが、登場人物は喜劇的。どこか、ロシア文学っぽい雰囲気を感じさせる(解説もゴーゴリにふれていた。)。
結局この本が面白いのは、そして読者をここまでリアリティある不愉快な気持ちにさせるのは、それだけの普遍性を持っているからなのだと思う。
続編といわれる『うるわしき日々』も読みたくなった。
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読んでいてこんなに不愉快になる本はないかもしれない。感情と行動がちぐはぐで、それは周りとのコミュニケーションも同様、噛み合わない。
人生なんてこんなものかも。他人からみたら滑稽なのだ。
この不愉快さはリアルだ。
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「キャラ(=類型)」がない小説、つまり徹底的に「他者」しかいない小説。この小説での「他者」とは、言葉が通じない、何をやっても通じ合えない、付き合ってると「あんなことが起こったり、こんなことが起こったりするう!」めんどくさい人のことであり、そいつとの間では予定調和な会話やセックスなどない、例えば、妻であり、子供であり、アメリカ人であり、時には自分自身でもある人のことである。キャラ萌えする小説なんか糞喰らえ、こういう小説がもっと読みたい、そう思わせる傑作。